統合失調症ってどんな病気?統合失調症のよくある「陰性症状」

統合失調症ってどんな病気?統合失調症のよくある「陰性症状」


統合失調症は、心や思考がまとまりにくくなる精神疾患です。
前編では、統合失調症の「陽性症状」について詳しく説明しましたが、今回は感情や社交性が失われ、日常生活に支障をきたす「陰性症状」に焦点を当ててご説明します。
(参考:統合失調症 | 新宿うるおいこころのクリニック )

統合失調症ってどんな病気?統合失調症のよくある「陽性症状」

陰性症状とは

統合失調症の陰性症状は、単独で見ると「統合失調症」の症状だとすぐには判断できないことがあります。
さらに、陰性症状は、服薬を始めても長期間続くことがあるため、治療が進んでいても症状が残ることがあります。
また、統合失調症の陽性症状が現れる前に、陰性症状が先に現れることがあるため、早期に気づいて適切な対応をすることが重要です。

1.陰性症状の特徴

統合失調症の陰性症状は、主に抑うつ状態や不安感が強く現れることが特徴です。最初は「ひきこもり」のような形で現れることが多く、外出や社会活動を避けるようになります。
具体的な症状としては、以下のようなものが挙げられます。

・憂うつ感
・不安感
・不眠
・自己評価の低下
・食欲やエネルギーの低下

陰性症状は、統合失調症の最も初期の段階に現れることが多いです。また、服薬によって陽性症状が落ち着いた後にも、陰性症状が目立つようになることがあります。

2.代表的な陰性症状

統合失調症の初期段階では、陰性症状と同時に、神経過敏な状態が現れることがあります。
もし、陰性症状と同時にこうした神経過敏が見られる場合、統合失調症の可能性を考慮する必要があります。
(参考:統合失調症とは?|国立国際医療研究センター病院 )
それでは、具体的な症状をみてみましょう。

①感情の平板化

感情表現が乏しくなり、喜び、悲しみ、怒りなどの感情がうまく表現できなくなる状態を指します。具体的には、以下のような症状が見られます。
・表情が変わらない
・声の抑揚がなくなる
・興味や喜びがあまりなくなる
実際には、感情をまったく感じていないわけではありませんが、感情を表現することが難しくなります。臨床現場では、「毎日がつまらない」といった言葉がよく聞かれることもあります。

②発語の乏しさ

統合失調症の陰性症状が強い場合、発語が少なくなることがよくあります。もともと無口だったわけではなく、統合失調症の発症後に無口になったというケースが多いです。
当事者の方に話を聞いてみると、次のようなことを訴えることがあります。
・頭の回転が遅くなった気がする
・言葉がうまく出てこない

③意欲の減退

統合失調症の陰性症状の一つに「意欲の減退」があります。
この症状では、何もする気が起きず、何をするにもおっくうに感じてしまいます。
例えば、以前は一生懸命に勉強していた人が、突然勉強に手がつかなくなり、全くやる気を出せなくなることがあります。日常生活においても、次第に意欲が低下し、次のような状況が見られることもあります。
・食事を取る気力がない
・お風呂に入ることすら面倒になる
・寝たきりの状態になることもある

④社会的ひきこもり

社会的ひきこもりとは、長期間にわたり社会活動や対人関係を避け、自宅や自室に閉じこもる状態を指します。
次のような具体的な兆候が現れることがあります。
・学校や職場に行けなくなる
・友人や家族との接触がほとんどなくなる
・昼夜逆転する(夜に活動し、昼間は寝ていることが多く、生活リズムが乱れる。)
このような状態が見られる場合、陰性症状がかなり進行している可能性があります。

⑤認知機能の低下

統合失調症における認知機能の低下は、主に注意力、記憶力、計画能力、実行機能などの認知能力が低下する状態を指します。
具体的には、以下のような症状が見られることが多いです。
・集中力が続かない
・短期記憶がうまく働かない
・計画を立てるのが難しい
・タスクを完了するのに時間がかかる
・判断力が低下する
(参考:日常生活に困難をもたらすことがある「認知機能障害」とは? | 統合失調症の症状 | 統合失調症を知る | 統合失調症ナビ )
実際に、高学歴の人でも、統合失調症を発症すると、知能検査で認知機能の低下が見られることがあり、特定の能力が低下することがあります。

陰性症状の事例

<事例1>
10代男性。Q男さん 統合失調症と診断される

Q男さんは、中学校の頃から不登校で、中学校には1日も登校していません。

クラスメートの子たちも、Q男さんが普段何をしているのか、知っている人は誰もいません。
部屋のカーテンは常に閉められ、外からは中の様子が全く見えません。

その後、高校生になっても、高校受験はせず、引きこもり生活が続きました。

外に出ないため髪が伸びっぱなしで、服もめったに着替えず、ただベッドに横になってテレビを眺めるだけの生活が続いていました。

たまに独り言を言うことがありましたが、それ以外にはほとんど他者との会話もなく、笑い声も聞こえませんでした。

家族は部屋から締め出され、食事を廊下に置くなどのやり取りが続きました。

ある時、部屋から異臭がしてきたため、家族は保健師と一緒に部屋を訪問。その際、「引きこもりだけではなく、何か異常がある」と感じ、すぐに病院に連れて行きました。その後、Q男さんは入院し、統合失調症と診断されました。

本人も、自分自身が何もできない状態に苦しんでいたようです。

治療が始まり、Q男さんは独り言を言うことが少なくなり、落ち着いてきました。しばらく入院して治療を続けた後、退院しましたが、陰性症状はまだ残っていました。

退院後は、身の回りのことができるようになり、少しずつ自立していくために、精神障害者デイケアを利用し、徐々に外の世界に出てくるよう促されています。

このように、陰性症状がメインで長期化している事例については、「ひきこもり」と見なされがちなケースが多いですが、実はその背景に統合失調症があることもあります。
それでは次に、統合失調症の治療法についてお話しします。

統合失調症の治療


統合失調症の治療にはいくつかの方法がありますが、まずは薬物療法が重要です。
病識がない陰性症状がメインの患者を病院に連れて行くことは、陽性症状がメインの患者に比べて難易度が高い場合が多いです。
その場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

1.病院へつなげるには

統合失調症の患者は、自分が病気だと認識できないことがほとんどです。
特に陰性症状が強い統合失調症の場合、本人も家族も病院に行くことを考えないことが多いかもしれません。
まず最初に行うべきことは、本人が抱えている状態に対して、その苦しさに共感を示すことです。例えば、「その状態はつらいね」といった言葉をかけて、理解を示しましょう。
そのうえで、「苦しさを取り除くために、誰かに話を聴いてもらおうよ」と受診を促すことが効果的です。
陰性症状が強い場合、例えば「微妙な音が気になる」「においが気になる」「光がまぶしくてカーテンも開けられない」といった訴えがある場合には、その症状に対処するために受診を勧めると良いでしょう。また、食欲が明らかに減少している場合にも、楽になれるよう受診を勧めるのも一つの方法です。
以下の点がポイントです

・本人が何らかの症状で苦しんでいること
・食欲減退や不衛生など、本人の生命に危険が及ぶ恐れがあること
このような状態が見られた場合、すぐに受診を促すことが大切です。
事例にもあったように、家族だけで受診を促すのが難しい場合は、地域の保健師や支援機関に相談し、一緒に受診を促してもらうことが有効です。

2.早期発見・早期治療の重要性

陰性症状が悪化しないようにするためには、早期発見と早期治療が非常に重要です。
発見が遅れるほど、陰性症状が悪化し、回復に時間がかかる可能性があります。陰性症状はすぐに社会的なトラブルを引き起こすことは少ないものの、特に家族がいなくなった場合、一人で生活していくことが困難になることが予想されます。
服薬を始めた後でも、陰性症状が残ることがありますが、その際には時期を見てリハビリテーションを行うことで、少しずつ社会参加ができるようになります。
また、服薬を中断すると症状が再発するリスクがあります。再発を防ぐためにも、医師の指示に従い、きちんと服薬を続けることが大切です。

3.陰性症状を改善するために

統合失調症の治療には薬物療法が重要ですが、従来の抗精神病薬は主に陽性症状に効果があります。しかし、第3世代の薬、例えば「アリピプラゾール(商品名:エビリファイ)」は、陰性症状にも一定の効果があると言われています。それでも、陰性症状に対して薬物だけで十分な効果を得るのは難しいため、薬物療法に加えて他の方法を組み合わせることが重要です。
陰性症状をさらに改善するためには、次のようなサポートが必要です。
・心理療法
・社会的支援
・リハビリテーション
これらの方法を組み合わせて、統合失調症の症状を改善し、患者ができるだけ自立した生活を送る手助けをしていきます。
(参考:統合失調症|こころの情報サイト )

①心理療法

陰性症状がメインになってきた場合、まず大切なのは、本人が抱える心の傷に耳を傾けることです。
また、統合失調症の患者さんは認知が歪んでいる場合が多く、そのため思考が現実とは異なる方向に進むことがあります。
心理療法を通じて、自分の病気との向き合い方をより建設的に考え、心の回復を促進することができます。

②社会的支援

統合失調症の症状が軽減しても、ストレスがかかると再発するリスクがあります。
家族や友人、職場での理解とサポートは非常に重要です。
症状が再度悪化した場合、速やかに通院を促すことが必要です。
経済的な自立が難しい場合や、生活面での支援が必要な場合には、福祉的な支援が不可欠です。障害者手帳や障害年金を取得するためのサポートも必要で、これにより生活の安定が図られ、治療にも専念しやすくなります。
特に経済的な困難がある場合、福祉サービスを活用して、持続的なサポートを受けることが重要です。

③リハビリテーション

陰性症状が強い場合、精神障害者デイケアや地域活動支援センターなど、専門職員がサポートを行う場に定期的に通い、リハビリテーションを行うことが非常に有効です。
特に、長年外出していない、または趣味や活動がないという場合は、運動や余暇活動、料理、心理学をテーマにしたプログラムなどに参加することで、体力をつけるとともに、日常生活のスキルや自己管理能力を少しずつ養うことができます。これにより、より充実した生活を送るための基盤が作られます。
病気を抱えながらも、現在の能力を最大限に活用して日々を送るためには、リハビリが欠かせません。
また、就労を目指せる人には、就労移行支援事業所の利用を検討することができます。
一般就労が難しい場合でも、就労継続支援を利用することで、少しでも収入を得て自立を目指すことができます。
リハビリテーションの過程で、自信を取り戻し、少しずつ社会活動に参加することが、病気を持ちながらも充実した生活を送るための大きな助けになります。

まとめ

今回は、統合失調症におけるよく見られる陰性症状5つと、それに対する改善方法をご紹介しました。
統合失調症の陰性症状は、薬物療法に加えて、心理療法、社会的支援、リハビリテーションなどの多角的なアプローチによって改善していくことが可能です。
統合失調症は、本人が病識を持っていなくても、本人にとっては非常に辛い症状を伴います。
また、長期にわたる闘病生活が続くことが多いため、周囲の理解とサポートが欠かせません。
もしも周囲の人が本人の様子に違和感を感じた場合は、まずその気持ちに共感し、無理なく医療機関に繋げるようにサポートしてあげることが大切です。

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