今、徐々に注目され始めている農福連携。中でも重要な存在が「農業版ジョブコーチ」です。
2019年6月、政府は農福連携等推進会議において「農福連携推進ビジョン」を策定。全国共通の枠組みとして農業版ジョブコーチの構築、そして農業版ジョブコーチの人材育成を促進していくと宣言しています。
農業と障害者雇用のマッチングをバックアップするのが農業版ジョブコーチ。農業版ジョブコーチという言葉を初めて聞いたという方もいらっしゃるでしょう。今回は農福連携推進ビジョンの内容を基に農業版ジョブコーチとは何かを解説します。
農水省の農福連携等推進ビジョン「農業版ジョブコーチ」とは?
農業版ジョブコーチとは、事業主と障害者の雇用について支援を行う「職場適応援助者(ジョブコーチ)」の農業版です。アグリジョブコーチとも呼ばれており、農業の現場で懸念される人手不足の解消と障害者の社会参加を実現するために重要な存在と位置付けられています。
そもそもジョブコーチとは、厚生労働省が創設した「職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業」における障害者の職場適応を支援する制度。支援対象となるのは障害者だけでなく、企業と家族への助言やフォローも行います。
【出典】厚生労働省 職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業について
支援期間は1~8か月であり、2~4か月が目安期間となります。元々ジョブコーチ制度は、一般企業と障害者の雇用をマッチングさせ、さらに職場定着を促進するというビジョンでした。
しかし、農業分野において障害者雇用や就労支援施設による農業参入のケースが増えたことから、農業でも職場適応の支援を行おうというのが農業版ジョブコーチなのです。
農林水産省が農福連携を推進する理由
実は昨今、農林水産省では「農福連携」を推進する動きが活発化しています。農福連携とは障害者に農業分野で活躍してもらい、社会参加を促進する取り組みです。
農林水産省が農福連携を推す理由は、農業分野における障害者の活躍が大きく期待されているためです。もちろん国が一方的に期待しているわけではなく、農家と障害者に対して行われたアンケートでは非常に好印象な結果もあります。
【農福連携を行う農家へのアンケート】
農家に対して行われたアンケートでは、大半の農家が障害者の受け入れによる良い効果があったと回答。更に農福連携を行う農家の農地面積も5年間で約25%も増加しているという事実もあります。
つまり、農福連携を行う農家は事業が拡大している状況なのです。農業分野における障害者は、貴重な人材、戦力と言っても過言ではありません。
では、実際に農業分野で働く障害者の意見も見てみましょう。
【農業分野で働く障害者へのアンケート】
アンケートに回答した90%の障害者が、仕事を「楽しい」と答えています。また、「色んな人と話せるようになった」「賃金が上がった」「体調がよくなった」というポジティブな回答も多く、農福連携は農家と障害者にWin-Winの結果をもたらしていることがよく分かります。
【出典】一般社団法人 日本基金
「農業版ジョブコーチ育成・派遣支援事業」の具体的な内容
では、農業版ジョブコーチでは具体的にどのような援助を行うのでしょうか。農林水産省では農福連携における障害者雇用を概ね3ステップで区分しており、ジョブコーチはステップ2の「試行雇用」の段階から介入することが想定されています。
試行雇用において障害者と農家に対するジョブコーチ支援が行われ、農業法人の経営者や支援機関の担当者、そしてジョブコーチらが障害者の就労状況に対する適応応力や課題、採用の可否を検討します。
その後ステップ3では、作業状況や通勤・休憩など職場生活について、そして障害者の家族への連絡といった職場定着支援を実行。その際にもジョブコーチが助言・援助を行います。最終的に支援を徐々に減少させていき、障害者を独り立ちさせるのが農福連携におけるジョブコーチの役割です。
農業版ジョブコーチ・アグリジョブコーチの人材育成を促進する施策
農福連携における農業版ジョブコーチですが、現時点ではこれから農業版ジョブコーチの人材を育成していこうという段階です。既に障害者の受け入れを行って成功している農家もありますが、国は農業分野における障害者雇用を促進するため、より専門的なジョブコーチ人材を増やす必要があると考えています。
そのため農林水産省では、農福連携人材育成支援事業による「農業版ジョブコーチ育成・派遣支援事業」の公募を開始。同事業に応募した事業者を都道府県の農政局長等が選定し、「農山漁村振興交付金」を交付する事業を始めました。農業版ジョブコーチの人材を育成する事業者に対し、交付金による助成を行おうという施策です。
- 【農福連携人材育成支援事業の応募対象事業者】
- ・民間企業
・一般社団法人
・特定非営利活動法人
・一般財団法人
・公益社団法人
・社会福祉法人
・公益財団法人
など
農業版ジョブコーチ育成・派遣支援事業の公募で選定された事業者は、事業にかかった経費について交付金が支給されます。対象となる主な経費は以下の通りです。
・賃金
・旅費
・消耗品、燃料、印刷の費用など
・通信費、筆耕士費、翻訳や広告料など
・コンサルタント料
・各種賃借料
・備品購入費
・共済費
2019年度の農福連携人材育成支援事業は10月まで募集されていました。平成29年から定期的に公募されているものの応募が殺到しているという状況ではないため、2020年も農福連携人材育成支援事業の公募はあるのではないかと考えられます。
実際に農福連携を行う農家については、以下記事にてご紹介しています。
今後、農業版ジョブコーチの活躍により、高齢化と人手不足が深刻化する日本の農業が活気づくことに期待せずにはいられません。
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