家族のケアに追われる若者「ヤングケアラー」とは?

家族のケアに追われる若者「ヤングケアラー」とは?


皆さんは日常的に家族の介護や世話を過度に行っている子供の存在を知っていますか?
彼らは「ヤングケアラー」と呼ばれ、家族の健康や生活を支えるために自分の時間や学校生活までも犠牲にしています。
この記事では、ヤングケアラーの実態と抱える課題について詳しく解説していきます。
これを機にヤングケアラーの状況を知り、社会全体での支援の重要性を考えてみましょう。

ヤングケアラーとは?

ヤングケアラーとは家族の世話や家事、感情面のサポートなど本来大人が担うべきケアを行っている18歳未満の子供を指します。
病気や障害を持った家族、または高齢の祖父母の介護をしなければならないことが多く、家族のために多大な時間と労力を費やしています。

勉強や部活に励んだり、友達と遊んだり、ひとりの時間など、本来なら与えられているはずの「こどもの時間」を犠牲に、家事や家族の世話をしています。
この影響で、学業や友人関係はもちろん、将来の夢や希望に影響が出てしまうこともあります。

このような役割は一般に大人が担うものとされていますが、家庭の状況によっては子供がその責任を負わざるを得ない場合があります。
【参考】ヤングケアラーとその家族の支援

サポ―トの対象となる家族

ヤングケアラーが世話をする家族には、様々な健康問題や生活状況が影響しています。

たとえば親や祖父母、兄弟が身体的な障害を抱えていたり、精神的な疾患を持っている場合、当然日常生活の補助や感情的な支えが必要になります。

ヤングケアラーを必要とする家族は、以下のような問題を抱えています。

・身体的な障害
身体的な障害により、家族が自分で日常生活を送ることが困難な場合。

・精神的な疾患
うつ病や双極性障害、統合失調症など、精神的な疾患を持つ家族のサポートが必要になる場合。

・依存症
アルコール依存症や薬物依存症など、家族が依存症を抱えている場合。

・高齢による介護
高齢化に伴い、家族が身体的に衰えて介護が必要になる場合。

・ひとり親家庭
親が1人で家事や他の兄弟姉妹の世話をするのが困難な場合。

介護に関しては、介護施設やヘルパーに頼む選択肢もありますが、世話を頼むなら誰だって身近な人に世話をしてもらいたいと思います。
金銭的にも精神的にも一番頼みやすいのは家族です。

しかし、その対象が子供であることが問題になっています。
まだ体も心も未熟な子供の成長の時間を奪ってしまうことは、日常生活のストレスや将来への選択肢を奪ってしまうことにも繋がってしまいます。

ヤングケアラーの数

実は日本では約18万人のヤングケアラーが存在すると推計されています。

令和2年度と3年度に厚生労働省が行ったヤングケアラーの調査結果を以下にまとめました。

「家族の世話をしている」と回答した生徒の割合
小学6年生 6.5%
中学2年生 5.7%
高校2年生 4.1%
大学3年生 6.2%

【出典】ヤングケアラーに関する調査研究について

こうしたデータからも分かるように、ヤングケアラーは決して珍しい存在ではなく、私たちの身近なところにいることがわかります。

ヤングケアラーの存在は徐々に社会に認識され始めていますが、その認知度はまだ低いと言えます。
なぜ認知度が低いのか。
それは当事者自身がヤングケアラーであることを自覚していないことが背景にあります。

自身がヤングケアラーであると自覚している子供はわずか2%と低い現状です。
幼少期から介護が日常の一部となっている為、自覚のないまま世話をしている子供が多く存在していることが分かります。

近年、メディアや行政がヤングケアラーの問題に注目するようになり、徐々に認知度が上がってきていますが、まだまだ課題が多く残されています。
【参考】中高生ヤングケアラー、自覚あるのは2割未満…多くが自らの境遇の問題点に気付けず

直面している問題

ヤングケアラーは、家族のケアを担う中で多くの困難に直面しています。
これらの困難は彼らの日常生活や将来に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

以下に、特に問題視されているポイントを3つまとめました。

1.教育への影響

ヤングケアラーは家族の世話を優先するあまり、学校を欠席することが多くなります。
勉強の時間を確保できず、学業成績が下がることも少なくありません。

以下の表は、ヤングケアラーの学校状況をまとめたものになります。

欠席日数 平均より2倍
学業成績 学年平均より10%低下
進学希望の現象 大学進学希望者が20%減少

【出典】ヤングケアラーの実態に関する調査研究

欠席が続くことで孤立感を深めてしまい、居場所の少ないヤングケアラーのストレスが増大することも問題として挙げられます。

このような状況が続くと、子供の将来の選択肢は大きく制限されます。
また、教育の機会を制限されることで経済的な安定を得ることが難しくなり、負の連鎖が続く場合があります。

学校側の理解とサポートが重要であり、ヤングケアラーが安心して学業に専念できる環境を整える支援が求められます。

2.精神的・身体的な負担

長時間にわたる介護や家事は、肉体的な疲れを引き起こすだけではなく、心にも重いストレスを与えます。
これが積み重なると、気持ちが落ち込んだり、イライラしたりすることが増えます。
最悪の場合、うつ病や不安障害といった精神的な問題を抱えてしまうこともあります。

特に、子供が自分の時間を十分に確保できないことで、友達と遊んだり、リラックスする時間が減ってしまいます。
その結果、疲れが溜まるばかりではなく、将来的に健康を損なうリスクが高まるのです。

3.社会的孤立の危険

ヤングケアラーは、家族のケアに多くの時間とエネルギーを費やすため、友人との交流や遊びの時間が制限されがちです。
この結果、同世代とのつながりが希薄になり、孤立感を深めることがあります。
例えば、放課後の部活動や友達との外出を諦めることが増え、学校でも話題についていけなくなることがあります。

また、自分の状況を周囲に理解してもらえないと感じることも、孤独感をますます強める要因となります。
「自分だけが特別な責任を抱えている」と感じることで、心の負担が増して更に孤立を招く悪循環に繋がってしまうことも少なくありません。

このような社会的孤立は、精神的健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
孤独感や疎外感が続くと、自己肯定感の低下やうつ症状のリスクが高まります。

ヤングケアラーを支援するために

ヤングケアラーが家庭内で行う支援は、家族以外の人には見えづらいものです。
そのため社会的に認識されにくく、支援の手が届かないことが多いです。
ヤングケアラーが直面する多くの問題に対して、社会全体で支援を広げることが重要になってきます。
彼らが安心して生活し、将来への希望を持てるようにするため、国や自治体、学校や地域コミュニティがさまざまな取り組みを進めています。

・国や自治体の取り組み
日本では、ヤングケアラーを支援するための政策が徐々に整備されています。

厚生労働省はケアラー支援のための相談窓口を設置し、ヤングケアラーやその家族が困った時に相談できる場所を提供しています。

【参考】こども家庭庁 相談窓口

さらに一部の自治体では、ヤングケアラーが学校生活を無理なく続けられるように、学費の補助や学校でのサポート体制の強化が行われています。
これにより、ケアの負担を軽減し、教育の機会を確保するための支援が広がりつつあります。

また、ヤングケアラー向けのカウンセリングやメンタルヘルス支援も重要な施策の一環として実施されています。

・学校でのサポート
スクールカウンセラーや養護教諭が中心となり、ヤングケアラーが抱える悩みを聞き、学業と家庭のバランスを取れるようサポートする取り組みが行われています。

いくつかの学校では、ヤングケアラー同士が情報交換や励ましあいが出来るグループを作り、孤立を防ぐための活動が展開されています。
こうした活動は、ケアを担う学生たちにとっても心の支えとなり、学校生活を続ける上で大きな助けになります。

・地域コミュニティやNPO支援

地域のボランティア団体やNPO法人も、ヤングケアラーを支援するための様々な活動を行っています。
例えば「ふうせんの会」は、ヤングケアラーにリフレッシュの機会を提供するイベントを開催し、彼らが心身ともに休息できる場所を提供しています。
【参考】ふうせんの会

また、地域の相談窓口ではヤングケアラーやその家族が直面する問題に対するアドバイスや情報提供を行っており、必要に応じて専門機関へのつなぎ役も果たしています。
さらに、NPOが運営する支援グループでは、ヤングケアラーが互いに交流し、経験を共有する場が提供され、彼らが孤独を感じることなく前向きに生活を送れるようサポートしています。

まとめ

ヤングケアラーの認知度が進んでいるとはいえ、この記事を読む前には「ヤングケアラー」という言葉すら聞いたことがなかった方も多いのではないでしょうか?
ヤングケアラーは家族を支えるために、自分の時間や学校生活を犠牲にしている子供たちです。
今後の課題として、まずはヤングケアラーの存在をより多くの人に知ってもらうことが大切です。
また、国や自治体、地域コミュニティが一体となって具体的な支援策を強化していくことが急務です。
もしこの記事を読んでいるあなたがヤングケアラーであれば、どうか1人で抱え込まずに周りの大人や友人に助けを求めてください。
そして、ヤングケアラーのことを初めて知った方は、ぜひこの問題を周りの人とも共有してみてください。
それがヤングケアラーを支えるための第一歩となるはずです。

執筆者プロフィール

TOPへ