障害者雇用について、各自治体でも独自の助成金や雇用促進の取り組みがあることをご存知でしょうか。
障害者雇用と言えば、厚生労働省や高齢・障害・求職者雇用支援機構の情報ばかり見てしまいがちですが、実は東京都では障害者雇用に関する独自の助成金や障害者雇用を促進させる取り組みなども充実しています。
今回は、東京都における障害者の雇用状況と精神障害者の雇用状況、そして助成金や障害者雇用を促進するための取り組みについてご紹介したいと思います。
東京都の障害者雇用状況
最初に東京都の障害者雇用の状況を見てみましょう。下記データは、厚生労働省東京労働局が公表している「平成29年の障害者雇用状況の集計結果」による、民間企業の雇用者数と雇用率の推移です。
年 | 雇用者数 | 雇用率 |
---|---|---|
2008年 | 11万9837人 | 1.51% |
2009年 | 12万4147人 | 1.56% |
2010年 | 12万6903人 | 1.63% |
2011年 | 13万5469人 | 1.61% |
2012年 | 14万1453人 | 1.66% |
2013年 | 14万9245人 | 1.72% |
2014年 | 15万7884人 | 1.77% |
2015年 | 16万5978人 | 1.81% |
2016年 | 17万3570人 | 1.84% |
2017年 | 18万965人 | 1.88% |
【出典】厚生労働省東京労働局「平成29年の障害者雇用状況の集計結果」
過去10年の推移を見ると、障害者の雇用数は確実に伸びてきたことが分かります。2011年に雇用率だけが減少していますが、これは雇用率の算定に含む障害者が増えなかったためであり、実際に雇用された障害者数は増えています。
更に同資料では産業別による雇用者数のデータもあります。こちらも厚生労働省東京労働局の「平成29年の障害者雇用状況の集計結果」によるものですが、分かりやすくするため、雇用率の高い順に並べ替えています。
業種 | 障害者雇用数 | 雇用率 |
---|---|---|
運輸・郵便業 | 11,456人 | 2.09% |
電気・ガス・熱供給・水道業 | 1,429人 | 2.08% |
医療・福祉 | 8,758人 | 2.04% |
金融・保険業 | 13,680人 | 2.02% |
製造業 | 43,242人 | 2% |
鉱業・採石・砂利採取業 | 97人 | 1.95% |
宿泊・飲食サービス業 | 7,190人 | 1.9% |
サービス業 | 30,848人 | 1.88% |
複合サービス業 | 386人 | 1.86% |
建設業 | 5,824人 | 1.79% |
専門・技術サービス業 | 8,411人 | 1.77% |
生活関連サービス・娯楽業 | 2,719人 | 1.76% |
卸売・小売業 | 24,347人 | 1.74% |
農・林・漁業 | 97人 | 1.67% |
情報通信業 | 16,550人 | 1.67% |
不動産・物品賃貸業 | 3,412人 | 1.64% |
教育・学習支援業 | 2,513人 | 1.62% |
【出典】厚生労働省東京労働局「平成29年の障害者雇用状況の集計結果」
最も雇用率が高いのが「運輸・郵便業」ですが、続く「電気・ガス・熱供給・水道業」から「製造業」に関しても、平成29年の時点で雇用率2%を超えていますので障害者雇用率の高い業界と言えそうです。
精神障害者の産業別就職件数
次に、今回のテーマである精神障害者の雇用状況を見てみましょう。先ほどのデータにあった2017年の障害者雇用数18万965人のうち、障害別の雇用者数の内訳は以下のようになっています。
知的障害者:3万3996人
精神障害者:1万9400人
精神障害者の雇用数が圧倒的に少ないのは、障害者雇用促進法の改正前までは法定雇用率の算定に含まれなかったためと考えられます。
この結果に対し、1万9400人の精神障害者の方が実際にどんな業界で雇用されているのか雇用者数の多い業種順に見てみましょう。
業種 | 雇用者数 |
---|---|
サービス業 | 4782人 |
卸売・小売業 | 3343人 |
製造業 | 2690人 |
情報通信業 | 2282人 |
医療・福祉 | 1042人 |
金融・保険業 | 997人 |
運輸・郵便業 | 923人 |
専門・技術サービス業 | 912人 |
宿泊・飲食サービス業 | 704人 |
建設業 | 534人 |
不動産・物品賃貸業 | 403人 |
生活関連サービス・娯楽業 | 360人 |
教育・学習支援業 | 316人 |
電気・ガス・熱供給・水道業 | 70人 |
複合サービス業 | 33人 |
農・林・漁業 | 9人 |
鉱業・採石・砂利採取業 | 3人 |
【出典】厚生労働省東京労働局「平成29年の障害者雇用状況の集計結果」
精神障害者の方は同時に複数の作業を行うマルチタスクが苦手とされていますので、サービス業が最も多いというのは少々意外な気がします。
しかし、また別のデータを見てみると、就職した先で与えられた仕事は、必ずしもその業界のイメージから連想される業務ではないようです。
下のデータは東京労働局の平成29年度における障害者の職業紹介状況等というデータから抜粋したものです。障害者の方が実際に何の職種で雇用されたかということが分かります。
職種 | 就職数 | 構成比率 |
---|---|---|
事務的職業 | 1,491人 | 45.6% |
運搬・清掃・包装等の職業 | 907人 | 27.7% |
サービスの職業 | 243人 | 7.4% |
専門的・技術的職業 | 223人 | 6.8% |
生産工程の職業 | 165人 | 5% |
販売の職業 | 128人 | 3.9% |
輸送・機械運転の職業 | 45人 | 1.4% |
保安の職業 | 27人 | 0.8% |
建設・採掘の職業 | 27人 | 0.8% |
農林漁業の職業 | 10人 | 0.3% |
管理的職業 | 6人 | 0.2% |
合計:3272人 |
事務の仕事が最も多く、続いて運搬や清掃といった職種が多くなっています。しかし、顧客サービスに直接関わる販売などの仕事や専門性・難易度が高い職業になるほど割合は減っていきます。
2018年4月以降から法定雇用率が2.2%に引き上げられましたが、これらの雇用数や雇用率がどのように変化していくか、次回発表されるデータが気になるところです。
東京都の障害者雇用に関する助成金
さて、ここからは障害者雇用を行う企業にとって大事な「助成金」について、東京都が独自に行う障害者雇用に関わる助成金をご紹介します。
障害者雇用に関連する助成金は、国から支給されるものと障害者雇用納付金制度により支給される調整金で分かれており、それぞれに様々な助成金があります。さらに、各自治体で独自に支給している助成金もあります。
東京都障害者安定雇用奨励金
障害者の安定的な雇用と処遇改善に取り組む企業に対する奨励金。雇用方法が「雇入れ」と「転換」によって、要件が分けられています。
支給要件
- (1)障害者を「正規雇用や無期雇用で雇入れた」場合
-
・「1週間の所定労働時間が20時間以上の無期雇用労働者」として雇用していること
・支払われる賃金が、「雇用後も継続して常に最低賃金の5%以上の額」であること
・「昇給」「賞与」「通院または病気の有給休暇」「テレワーク」のうち、2つ以上の制度を設けていること
・「雇用後6か月間の仕事の評価を行って育成方針を策定」すること
・厚生労働省の特定求職者雇用開発助成金の「特定就職困難者コース」または「発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース」の支給決定通知を受けていること - (2)障害者等を「有期雇用から正規雇用や無期雇用に転換した」場合
-
・有期雇用労働者を1週間の所定労働時間20時間以上の無期雇用に転換していること
・転換後の賃金が「転換前の賃金より5%以上昇給していること」および「転換後も継続して常に最低賃金の5%以上の額」であること
・「昇給」「賞与」「通院または病気の有給休暇」「テレワーク」のうち、2つ以上の制度を設けていること
・「転換後、6か月間の仕事の評価を行って育成方針を策定」すること
・厚生労働省の特定求職者雇用開発助成金の「特定就職困難者コース」または「発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース」の支給決定通知を受けていること
・支給対象となる企業で雇用する期間が過去3年以内の有期契約労働者であって、転換日から6か月以上の期間継続して雇用されている労働者であること
支給額
大企業が「雇入れした」場合:精神障害者130万円/精神障害者以外100万円
中小企業が「転換した」場合:精神障害者150万円/精神障害者以外120万円
大企業が「転換した」場合:精神障害者130万円/精神障害者以外100万円
注意事項
以下の助成金とは重複して受給できない可能性があるため、東京都産業労働局の障害者雇用促進担当への確認が必要になります。
- 国が支給するキャリアアップ助成金
- 国が支給する障害者雇用安定助成金の障害者職場定着支援コースのうち正規・無期転換に係る助成金
- 東京都正規雇用等安定化支援助成金
- 東京都公共訓練に係る障害者等訓練修了者雇入奨励金
- 東京都緊急就職支援事業助成金
東京都中小企業障害者雇用支援助成金
障害者雇用が進んでいない中小企業を対象に、障害者雇用の拡大と職場定着の促進を図るための助成金。国の特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コースまたは発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)の期間が終了する中小企業に、東京都が継続して助成を行います。
支給要件
- 障害者を雇用し、国の特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コースまたは発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)の支給を受け、平成34年3月30日までに助成期間が終了した後も、継続して雇用する事業主
- 特例子会社以外の中小企業であること
- 障害者が東京都内の事業所に勤務していること
- 雇用の管理を適正なものにするために相談員の巡回訪問や相談を受けること
- 障害者が就労継続支援A型事業所の利用者でないこと
- 過去5年間に重大な法令違反等がないこと
支給額
上記以外の障害者、短時間労働者:1人あたり月額3万円
注意事項
障害者を雇用する場合、施設の改造や障害者雇用を専門的にサポートするチームを設置するなど、特別な配慮ために費用がかかります。
上記はそれらを補助する目的ではありませんが、いずれにしても障害者を雇用するために費用が必要ことを考えると、これらも企業にとって欠かせない助成金と言えるでしょう。
障害者雇用を推進する東京都の取り組み
では最後に、東京都が障害者雇用を推進するために実際に行っている、助成金以外の取り組みをいくつかご紹介します。
東京障害者職業能力開発校
職業能力開発センターで訓練を受けられない身体障害者と知的障害者の職業訓練、働く障害者に資格試験の受験対策を行っています。
公益財団法人 東京しごと財団
障害者雇用の促進を目的として、障碍者雇用に向けた全般的な支援を行っている。特に企業向けに以下のような事業を展開しています。
- 障害者就業支援情報コーナー
- 中小企業向けセミナー
- 企業見学支援事業
- 障害者雇用実務講座
- 職場体験実習
- 障害者委託訓練事業
- 東京ジョブコーチ支援事業
- 職場内障害者サポーター事業
- 精神障害者雇用サポート事業
- 中小企業障害者雇用応援連携事業
- シンポジウム等
東京都障害者雇用優良企業登録事業
障害者を積極的に雇用する企業を登録し、その取り組みを公式サイトなどで紹介することで企業PRにも繋げることができる事業です。
東京都障害者雇用優良取組企業の顕彰制度
障害者雇用を行う企業の特色ある優れた取組みを募集し、優良企業を表彰します。受賞した企業の取り組みは公式サイト等で紹介されます。
職場内障害者サポーター事業
雇用される障害者の職場定着を推進する企業を募集し、「職場内障害者サポーター」を養成します。
東京しごと財団は高齢者や再就職を目指す女性なども支援している団体ですので、障害者雇用の支援内容や事業に関しては、以下のURLからご確認ください。
【参考】東京しごと財団「障害者就業支援事業」
https://www.shigotozaidan.or.jp/shkn/
まとめ
今回は障害者雇用を推進する自治体として、東京都の例をピックアップしてご紹介しました。
障害者雇用は助成金を始めとして相談窓口も複数に分かれており、高齢・障害・求職者雇用支援機構の場合でも「地域障害職業センター」といって各地域に拠点を設置していたり、今回ご紹介したような自治体で独自に設置している相談窓口等もあります。
どこへ相談するのが一番良いかはケースバイケースですので一概に言い切れませんが、手当たり次第に問い合わせするより、まずは地域に密着した支援機関に相談することをおすすめします。
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