2018年4月から「障害者雇用促進法」という法律に精神障害者も含まれることになり、ニュースやメディアの多くで話題となりました。
しかし、実はそれより前から精神障害者を積極雇用している企業が数多くあることはあまり知られていません。
この記事ではこれから精神障害者の雇用を進めていく企業に向けて、既に精神障害者が活躍する企業の成功事例3つをご紹介します。
【成功事例1】高雇用率を達成した「ダイキンサンライズ摂津」
エアコンで有名なダイキン工業株式会社の子会社に「株式会社ダイキンサンライズ摂津」があります。ダイキンサンライズ摂津は、障害者雇用を進めるために設立された特例子会社です。
ダイキンサンライズ摂津は、障害者雇用に関連するコンテスト等で何度も表彰されており、まさに「障害者雇用の手本」とも言えます。
ダイキンサンライズ摂津の従業員数163名のうち、障害者は約9割の144名です。うち最も多いのが精神障害者で、主に各種部品加工やCAD図面作成、書類の電子化などの業務を行っています。
ダイキンサンライズ摂津が障害者雇用で成功した理由として、以下の改善事例が参考になります。
- 〈改善前〉
- 健常者が管理業務を担う体制だったため、雇用した障害者に自発性がない、職場に活気がないなどの状況を作ってしまっていた。
- 〈改善後〉
- 個々の能力やキャリアで管理職になれるようにしたことで社内に一体感が生まれ、生産性の向上や活気づくりに繋がった。部長や課長に昇進した者もいる。
- 〈改善前〉
- 作業グループの中に専門の資格を持つ人が1名しかいなかったため、作業効率を高めることができなかった。
- 〈改善後〉
- 障害者も資格取得することを目標に掲げ、作業グループのリーダーが講師となってグループ全員で資格を取得した。結果、作業効率が2倍にアップした。
ダイキンサンライズ摂津では、基本的に雇用形態はフルタイム勤務を前提として「職場実習」からスタートするそうです。
総務とカウンセリングを兼務する精神保健福祉士を配置したり、精神障害に関する専門家などによる勉強会の開催、個別に相談できる体制や相談ブースを作るという工夫もしています。
ダイキングループの障害者雇用率は2.37%ですが、その数字を支えている一つがダイキンサンライズ摂津なのです。
【参考】精神障害者雇用事例集「精神障害者とともに働く」 ダイキンサンライズ摂津
【成功事例2】安定した障害者雇用を実現する「日立製作所」
日本を代表する家電メーカー「日立製作所」も、障害者雇用に積極的に取り組む企業の一つです。
障害者を多く雇用してきた会社ですが、元々、精神障害者に関してだけ雇用が進んでいなかったそうです。
そこで、2年ほどかけて情報収集や勉強会への参加を行い、2007年から精神障害者の方を実習という形で受け入れを開始し、障害者雇用のモデル事業に参画するに至りました。
そんな日立製作所も、2017年における障害者雇用率が2.66%と高い水準にあります。この高い雇用率を達成した背景には、以下のような取り組みがあります。
- 精神保健福祉士と障害者の雇用促進チームを設置
- 精神障害者雇用促進プロジェクトを立ち上げ
- 社内専用のサイトでサポーターを募り、月1回のセミナー等を開催
- 勤務時間や業務の難易度を徐々に上げるステップアップ方式でストレス耐性を強化
- 雇用実習をした障害者本人が仕事を通じて感じたことや学んだことを発表
こういった取り組みや工夫を行いながら安定した雇用を実現するため、「業務の優先順位と取り組み方を一緒に考える」「支援機関の担当も交えて当事者ミーティングを開く」「少しずつ付随業務をお願いする」といったポイントも大事にしているのだそうです。
【参考】精神障害者雇用事例集「精神障害者とともに働く」日立製作所
【成功事例3】モチベーションの維持と向上が鍵!「シダックスオフィスパートナー」
カラオケやレストラン事業を行う企業として有名な「シダックス」も障害者雇用を推進している会社です。
「シダックスオフィスパートナー」という特例子会社を設立し、主に名刺作成や書類の印刷、整理業務、倉庫管理、事務の補助作業といった事業を行っています。
特に焦点を当てている取り組みが「精神障害者の個別性に配慮しながら、キャリアアップ、働くモチベーションの維持や向上を図る」というものです。
それを実現するため、以下のような取り組みを行っています。
- 本社でサポート体制を構築しつつ全国に定着支援員を配置
- 入社年数等によるキャリアアップ人事制度の導入
- 「健康ノート」を記入してもらい、状況に応じて作業内容を変更
- 「こころの相談室」を設置し、カウンセリングを受けられる環境を整備
これらはキャリアアップやモチベーション維持だけが目的ではなく、定着雇用に繋げるための施策です。この取組によりどのような変化があったか、いくつかの事例をご紹介します。
- 〈改善前〉
- 単純作業ばかりでモチベーションが下がり、仕事と家庭を両立するために少し体調が悪いと休むことを優先してしまっていた。
- 〈改善後〉
- 単純作業だけでなく、本人の能力を生かしてチームメンバーのリーダーに選任。朝礼や業務の割り振りを行ってもらい、スタッフ面談も任せた。結果、欠勤が少なくなりチームを安定的に運営することに繋がった上、チーム内の雰囲気も良くなった。
- 〈改善前〉
- 会社の雰囲気に馴染めず、職場環境にも適応できないことで不眠や体調不良に陥っていた。また、配属先のスタッフの会話も気になって集中できず、作業効率が悪くなり自信も喪失していた。
- 〈改善後〉
- 精神的な安定を優先し、就労移行支援事業所の先輩がいる部署に配置転換させた。作業習得やスタッフへの指導も行えていたため、実習生の指導担当を任せ、今では自身を取り戻していきいきと仕事をしている。
シダックスオフィスパートナーは都内に3つの事業所を設立し、従業員数89名のうち65名が障害者とのことです。継続して就労する従業員も多く、勤続年数5年以上になる人も20名以上いると報告されています。
【参考】中小企業等における精神障害者や発達障害者の職場改善好事例集 シダックスオフィスパートナー株式会社
参考になる好事例集
精神障害者が活躍している企業の成功事例を3つご紹介しましたが、「厚生労働省」や「高齢・障害・求職者雇用支援機構」の公式サイトでは、その他にも多くの事例を確認することができます。例えば以下のようなものです。
- ■厚生労働省 精神障害者雇用事例集「精神障害者とともに働く」
- 厚生労働省が2009年から2010年にかけて行った、精神障害者雇用促進モデル事業から10の事例を確認できる
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shisaku/jirei/tomonihataraku.html - ■高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者雇用事例リファレンスサービス」
- モデル事例や合理的配慮の事例の別で検索でき、業種、障害、従業員規模などで絞り込みができる
http://www.ref.jeed.or.jp/ - ■高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者雇用の事例集」
- 各年度で「職場改善事例」として表彰された企業の取り組みを紹介している
http://www.jeed.or.jp/disability/data/handbook/ca_ls/ca_ls.html
精神障害者に限らず、障害者雇用を初めて進める企業や担当者の方にとって、具体的な取り組み事例を知ることは障害者採用の参考になるはずです。業種や障害の別で多くの事例を確認することができますので、是非活用してみてください。
まとめ
この記事では何度か「特例子会社」という言葉が出てきましたが、特例子会社とは、障害者への配慮や一定要件を満たした上で厚生労働省の認可を受け、障害者雇用を促進していくために設立する会社です。
日立製作所のように、親会社で障害者を雇用しているケースも多くありますが、特例子会社の設立することで、障害の種類や特定に合わせた作業をつくれたり、親会社の規定に縛られない条件で柔軟に雇用できるなどのメリットがあります。
特例子会社に限らず、今回ご紹介した事例で共通しているのは「サポート体制がしっかり構築されている」ことです。会社全体で障害者をサポートしつつ一緒に働くという意識を持つことが、障害者本人のキャリアアップや定着率を高めることに繋がるのではないでしょうか。
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