精神障害者の得意・不得意な仕事を症状別に解説

精神障害者の得意・不得意な仕事を症状別に解説

「障害者を雇用するにあたっては個別性に配慮しなければならない」

これは誰かがボランティア精神で発言したものではなく、障害者が安心して暮らせる社会の実現、そして安定した雇用の確保に必要なものとして、厚生労働省の合理的配慮指針でも示されている概念です。

つまり、障害者を雇用するのであれば、様々なシーン、個別の事情、障害の種類や症状などによって、柔軟な対応と配慮が求められるのです。

この記事では障害ごとの業務や職種の得意不得意や実際にあった精神障害者の方の職場改善事例をご紹介します。

精神障害の症状を知る

障害者雇用促進法という法律では身体障害、知的障害、精神障害で分けた条文も見受けられますが、精神障害だけでも様々な種類があります。例えば以下のようなものです。

【統合失調症】
心と身体が一致しなくなり、幻聴や幻覚といった陽性症状と、思考の低下や感情・意欲の希薄化という陰性反応が現れます。主な治療法には薬物療法、心理療法などがあります。
【うつ病】
気分や食欲の低下、不眠、何事も興味が湧かないなどの状態が続きます。主な治療法には薬物療法、環境改善、カウンセリングなどがあります。
【双極性障害(躁うつ病)】
気分の高揚(躁)と気分が低下(うつ)を繰り返す病気です。以前は躁うつ病と呼ばれていましたが、現在では双極性障害と呼ばれます。主な治療法には薬物療法、環境改善、カウンセリングなどがあります。
【てんかん】
脳内細胞の急な刺激により突然意識を失ったり、体の硬直、痙攣といった発作を繰り返す。脳のキズなどによる「症候性てんかん」と、原因不明の「特発性てんかん」に分かれます。主な治療法には薬物療法(一過性で終わることもあり長期的な通院や診断が必要)が用いれらます。
【発達障害】
脳の発達が他の人と違うために自閉症、学習障害、注意欠如多動性障害などを引き起こします。生まれつきの脳機能障害であり、他の精神疾患と分けられます。

上記は一例ですが、精神障害はその判断方法が難しいところもあり、「DSM」という世界共通の診断基準を用います。精神障害だけでもこのような様々な症状があるため、精神障害者を雇用する際は障害ごとの多様な配慮が必要になります。

症状別の得意な仕事

精神障害は肢体の不自由さとは違い、精神状態が仕事に影響を及ぼしますので、症状や疾病に応じて労働時間や業務量、ストレスの程度などを加味した仕事を考える必要があります。精神障害者の雇用を検討する際は、以下のような症状別で仕事を切り出せるか検討してみるのも良いでしょう。

【統合失調症・うつ病・双極性障害(躁うつ病)】
一度に行う複数の作業が苦手とされており、幻聴や妄想による独り言、無感情になるという症状もあることから、基本的にはマイペースに進められたり集団行動を必要としない仕事の方が良いとされています。

また、統合失調症の1つとして”うつ”の症状が出ることもありますので、うつ病の場合もやはりノルマの無いのんびりした仕事やバックヤード業務などに向いていると言えるでしょう。具体的には以下のような仕事です。

  • 軽作業
  • バックヤード業務
  • 事務
  • 経理
  • SE
  • 農業
  • 清掃業
  • etc…
【てんかん】
運動や高度な判断が求められる仕事でも問題ありませんが、急な発作が起こるため、一旦ストップできる仕事が向いています。また、光や音に反応して発作が起こることもあるため、一人で行える作業や静かな業務も良いでしょう。
  • 事務
  • SE
  • Webデザイナー
  • ピッキングや仕分け
  • 清掃
  • クラウドソーシング
  • 介護関係
  • etc…
【発達障害】
コミュニケーションや協調性の点で難があることが多く、よく確認せずに衝動的な行動をしてしまうこともあるため人と関わりすぎない職業が向いています。逆に一つのことに強くこだわるという特性もあったりするため、研究や高度な判断が求められるものの対応が可能と言われています。
  • プログラマー
  • 執筆、校正、校閲
  • デザイナー
  • 芸術家
  • CADオペレーター
  • etc…

症状別の不得意な仕事

得意な仕事のご紹介の際に一部解説していますが、やはり症状によって「不得意」や「避けるべき仕事」というものがあります。こちらも症状別に職種の具体例を挙げてみましょう。

【統合失調症・うつ病・双極性障害(躁うつ病)】
・臨機応変に対応する必要がある職種(コールセンターなど)
・次々と作業が任される仕事(工場のライン作業など)
・人の感情に関わる仕事(営業・販売職や冠婚葬祭関連)
【てんかん】
・機械操作や運転が必要な作業(建設現場や運転手など)
・火や刃物などの危険物を扱う作業(理容師や料理関係)
【発達障害】
・複数の同時作業が必要な仕事(コールセンターなど)
・コミュニケーション能力が必要な仕事(接客や営業など)
・マネージメントが必要な仕事(管理職やリーダーなど)

精神障害者の職場改善事例

症状別で得意、不得意な仕事があるということが分かりましたが、むしろ健常者でも難しいと言われている仕事ができるケースなどもありました。どちらにしても精神障害者を雇用するのであれば、それぞれの特性に合わせて業務についてもらうため、職場環境の改善や症状別の配慮が必要です。

最後に、実際にあった精神障害者の方の職場改善事例をいくつかご紹介します。この事例を見て「こういう場合はこうすれば良い」と一概に決めつけられるものではありませんが、障害別でどういった対応すべきかの参考にはなるでしょう。

日立化成電子材料九州株式会社(電子部品製造)の事例

発達障害を持つAさんは、時間管理ができず遅刻が多かった。また、明らかに空気が読めない、とめどなく話す、指示と質問に答えられないというコミュニケーションにおける困難があった。

【改善内容】
・労働時間は本人と相談しながら調整した
・他者が出入りしない部屋を用意して短時間で業務面談を行った
・比較的に簡単で反復性のある作業を担当してもらった
・無理な業務ノルマは課さず、本人のペースに合わせた業務量にした
・モチベーション維持のために、工程ごとに点数を付けるようにしてスキルアップを図った

株式会社丸久(小売店)の事例

職場でレジ担当をしているBさんは、精神障害により気分や体調が優れずに休む日が続くことがあり、責任感の強さから更に罪悪感を抱いてしまうことがあった。

【改善内容】
・店長や責任者からBさんの話を聞きつつ、無理せず休むようにと不安を和らげる提案をした
・シフト調整もこまめに調整するようにしてBさんに安心してもらうように支援した

はるやま商事株式会社(服飾)の事例

統合失調症のため気分にムラがあったり、外を出歩くのが怖い、幻聴や幻覚があるということで、Cさんは長期入院していた時期があった。

【改善内容】
・トライアル雇用を3週間行い、現場に馴染むようにした
・几帳面な性格を活かし、最初の業務はバックヤードでの清掃や整理整頓の作業を行ってもらった
・徐々に美品整理や商品の入出荷処理、検品、値付けなど行ってもらった
・勤務時間を5時間程度から少しずつ8時間勤務に増やした
・中断を指示するまでやり続けてしまうことがあるため、小まめに声がけを行なった
・店頭に出ることが少なかったためラフな格好を許可していたが、スーツを着たいと言うまでになった

【参考】障害者雇用事例リファレンスサービス

まとめ

最後にご紹介した事例では、精神障害者だからといって施設の改造や特別な設備を付けるなど何か特別な環境に変えたという事はなく、従業員の「配慮」によって精神障害者の安定雇用を実現しています。

もちろん身体障害者や視覚障害者の場合は施設自体の改造が必要になる場合がありますが、精神障害者の雇用であれば、施設や設備よりも、責任者や従業員による心配りや柔軟な対応が最も重要な配慮と言えるのではないでしょうか。

障害者本人の得意不得意もありますが、不得意を克服して得意を引き出すことも、障害者を雇用する企業側としての責務と言えるのかもしれません。

執筆者プロフィール

TOPへ