特養で働くための施設選び 〜地域密着型特養と従来型特養の特徴比較〜

特養で働くための施設選び 〜地域密着型特養と従来型特養の特徴比較〜

これから介護の仕事を始めようと考えている人が最初に思い浮かべるのは、「特養」でしょう。しかし、「特養ってどんな雰囲気なのか」や、「地域密着型特養と従来型特養にはどんな違いがあるのか」といった点について、分からない人も多いのではないでしょうか。
この記事では、地域密着型特養と従来型特養の特徴やそれぞれのメリット・デメリットについて紹介し、働く上でどちらの施設がどんな人に向いているのかをお伝えします。

特養とは

特養とは「特別養護老人ホーム」の略称です。特養は、入浴や排泄、食事の介助など日常生活の支援や健康管理を行う施設で、原則として要介護3~5の人が入所できます。

現在、特養には2種類あります。

  • 地域密着型特養
  • 従来型特養

それぞれについて、次で詳しく説明します。

地域密着型特養とは

地域密着型特養は比較的新しいタイプの特養です。入居者のプライバシー保護を重視しており、基本的に居室は全て個室です。10室を1単位としてユニットと呼び、各ユニットには共同生活室(リビング)が設けられています。地域密着型特養には、最大29人が入居することができ、例えば10室・10室・9室という構成が一般的です。
また、地域密着型特養の多くは、小規模多機能型居宅介護(訪問・通い・泊まり)を併設していることが多いです。小規模多機能型居宅介護の利用者を含めても、施設の規模は40人程度が一般的で、入居者や利用者、職員が顔なじみになりやすいというメリットがあります。

従来型特養とは

従来型特養は、比較的古いタイプの施設に多く見られます。多くの施設は「多床室」と呼ばれる4人部屋の構造をとっており、病院の大部屋のようなイメージです。従来型特養の入居者数は70人から80人程度と、地域密着型特養に比べて多くの入居者が生活しています。
また、従来型特養は、広大な敷地に平屋建ての施設もあれば、5階建てのマンションのような構造を持つ施設もあります。

地域密着型特養のメリット

地域密着型特養のメリットとして、以下の点が挙げられます。

  • 1人1人の入居者に向き合える
  • 少人数なので、他ユニットの入居者の状態を把握しやすい

1人1人の入居者に向き合える

最初のメリットは、「1人1人の入居者に向き合えること」です。前述したように、地域密着型特養は1ユニット10人、施設全体でも最大29人という小規模な施設です。そのため、入居者一人ひとりに対してじっくり向き合うことができます。
特養では、介護職員が複数の入居者を「担当」し(以下、居室担当者)、担当入居者の日々の状態を把握します。居室担当者は、担当する入居者の情報を定期的に他職種と共有し、入居者のご家族にも状況を伝える役割を担っています。必要に応じて、保湿剤などの要望を家族に伝えるのも、居室担当者の仕事です。
日々の様子やご家族からの要望を伝えるためには、担当する入居者の日常的な変化に気づくことが重要です。たとえば、「○○さん、最近食事量が減ったな」「入浴後に肌が乾燥してきた」といった細かな変化を察知しやすいのも、地域密着型特養ならではのメリットと言えるでしょう。

少人数なので、他ユニットの入居者の状態を把握しやすい

2つ目のメリットは、「少人数なので、他ユニットの入居者の状態を把握しやすいこと」です。特に夜勤の場合、自分の担当ユニットだけでなく、他ユニットの状況にも気を配る必要があります。なぜなら、「夜間は急変や不穏の対応が必要になることが多く、少ない人数で対応しなければならない」からです。

夜間の緊急時に素早く対応するためには、常に入居者の状態を把握しておくことが求められます。地域密着型特養は小規模な施設であるため、入浴介助のヘルプや他ユニットの入居者の状態も容易に把握できるという点が、大きな利点です。

地域密着型特養のデメリット

地域密着型特養のデメリットとして、以下の点が挙げられます。

  • ユニットを1人で回さなければいけないので、負担が大きい
  • 医療的ケアが必要な入居者を対応できないことがある

それぞれについて、次で詳しく説明します。

ユニットを1人で回さなければいけないので、負担が大きい

最初のデメリットは、「ユニットを1人で回さなければいけないので、負担が大きいこと」です。地域密着型特養は1ユニット10人もしくは9人の入居者を1人の介護職員が担当するため、非常に負担が大きくなります。たとえば、1時間で8人のオムツ交換を行わなければならないことや、食事介助の際にはフロアの見守りをしながら、居室で寝たきりの入居者の食事介助を行うこともあります。
他の職員と協力できれば良いのですが、自分のユニットで手一杯になると、なかなか応援を頼むことができないのが実情です。このような状況では、負担がかなり大きくなるため、身体的・精神的なストレスも増える可能性があります。

医療的ケアが必要な入居者を対応できないことがある

2つ目のデメリットは、「医療的ケアが必要な入居者に対応できないことがある」という点です。医療的ケアとは、例えば胃瘻や経管栄養などを指します。地域密着型特養では、看護師が1人しかいないことが多く、医療的ケアが必要な方を受け入れられない場合があります。そのため、そういった入居者はお断りされるか、より大きな施設(従来型特養など)に移されることが多いです。
介護職員にとって、医療的ケアが必要な入居者の対応は、貴重な経験となります。実務者研修や介護福祉士資格の取得に向けて、医療的ケアの実技が求められることもありますが、地域密着型特養ではそのような機会が限られています。スキルアップを目指す介護職員にとっては、物足りなく感じることもあるかもしれません。

従来型特養のメリット

従来型特養のメリットとして、以下の点が挙げられます。

  • 職員数が多いので、応援を呼べる
  • 様々な既往歴のある入居者と関わることができる

それぞれについて、次で詳しく説明します。

職員数が多いので、応援を呼べる

最初のメリットは、「職員数が多いので、応援を呼べること」です。
前述したように、従来型特養は入居者数が多く、それに伴い職員数も地域密着型特養に比べて多くなります。したがって、食事介助や急変時の対応など、1人で対応するのが困難な場合でも、他のフロアから応援を呼ぶことができるのが大きな利点です。このような協力体制があることで、業務の負担が軽減され、安心して勤務することができます。

様々な既往歴のある入居者と関わることができる

2つ目のメリットは、「様々な既往歴のある入居者と関わることができること」です。従来型特養には、看護師や機能訓練指導員(リハビリ職)が在籍していることが多く、胃瘻や経管栄養などの医療的ケアが必要な入居者と関わる機会が増えます。こうした施設では、様々な既往歴を持つ入居者に対応するため、介護職員のスキルアップがしやすくなります。
さらに、施設によっては介護職員が喀痰吸引の研修を受ける機会が提供されることもあります。喀痰吸引は、一度資格を取得すると転職後もそのスキルを活かすことができるため、スキルアップを目指している人には特におすすめです。

従来型特養のデメリット

従来型特養のデメリットとして、以下の点が挙げられます。

  • 入居者の状態を把握しきれない
  • 職員や他職種との連携が難しいときがある

それぞれについて、次で詳しく説明します。

入居者の状態を把握しきれない

最初のデメリットは、「入居者の状態を把握しきれないこと」です。従来型特養は入居者数が多いため、日々の細かな状態を把握することが難しくなります。私自身も従来型特養で勤務していた経験があり、別フロアのヘルプや夜勤が多く、日中の状態を把握するのはなかなか難しいと感じていました。
また、従来型特養では効率が重視されるため、スピードが求められます。特に入浴介助では、1日に20人程度を入浴させなければならないため、効率よく進めることが重要です。その結果、従来型特養では「早くできる人が仕事ができる人」という風潮が根付いていることがあり、仕事が遅い人は他の職員から陰口や悪口の対象になりがちです。このような文化が、職員同士の関係に影響を与えることがあります。

職員や他職種との連携が難しいときがある

2つ目のデメリットは、「職員や他職種との連携が難しいときがあること」です。従来型特養では職員数が多いため、普段関わらない人が出てきます。また、職員同士のコミュニケーションが不足しがちで、特に看護師やリハビリ職との情報共有がスムーズにできないことがよくあります。こうした連携の不足が、業務に支障をきたす場合もあります。

まとめ

2つの特養について紹介しました。どちらの働き方が自分に合うか、迷っている方もいるかもしれません。
結論として、「利用者1人1人と向き合いたいのであれば地域密着型特養、様々な経験を積みたいのであれば従来型特養」を選ぶのが良いかと思います。
私自身、どちらも経験しましたが、従来型特養ではスピードが求められるため、正直ついていけませんでした。一方、地域密着型特養では、業務の効率化も求められつつ、夜勤などで入居者一人ひとりのことを考えたり、日々のケアでちょっとした変化に気づくことができたため、私には地域密着型の方が合っていました。
どちらの施設も見学して、自分に合う環境を選ぶことをおすすめします。

参考:改訂版プロの調査員が教える介護事業所・施設の選び方が本当にわかる本

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