発達障害者の就労における現状と課題、問題点

発達障害者の就労における現状と課題、問題点

数十年前までは、日本においても「発達障害者」への知識や理解がまだ乏しく、教育はおろか、彼らの就労に対する支援は困難な状況でした。しかし、現在では発達障害の種類や対応の仕方が分かってきたことで、多くの発達障害者が社会で活躍するようになってきています。

この記事では、就労している発達障害者を取り巻く現状や課題・問題点について、解説します。

発達障害とはどういう精神疾患?

発達障害は、脳の機能不全や機能障害が原因だと言われている精神疾患です。発達障害は大きく分けて、ADHD(注意欠陥性多動性障害)や学習障害、自閉症スペクトラム障害に分類されます。以下に、これらの障害について、簡単にご説明しましょう。

1. ADHD(注意欠陥性多動性障害)

ADHDは、落ち着きがなく、たたみこむような言葉や行動が目立ったり、長時間物事に集中したりすることができない障害のことを言います。

また、注意力が散漫なことが多く、幼少期はそれが原因で、道を歩きながら転び、ケガをしやすいなどというケースも存在します。さらに、順番を待ったり、物事を秩序立てて考えたりすることも苦手だとされることがあります。

発症率は、学童期(5歳頃~12歳頃)においては、3~7%というデータが示されており、男性の方の割合が多いと発表されています。

2. SLD(限局性学習障害)

SLDは、知的能力は問題ないにもかかわらず、書くことや読むこと、計算することなどの特定の学習能力に支障がある障害です。そのため、ある分野の学習を習得することができなかったり、遅かったりする特徴があります。有病率はさまざまな結果報告によって多少の違いはあるものの、2~10%と言われています。

3. ASD(自閉症スペクトラム障害)

ASDは、広汎性発達障害の総称で自閉症やアスペルガー障害、他の広汎性発達障害が含まれます。この3つに共通していることは、周りの空気を読むことが難しく、対人関係やコミュニケーションを上手に取ることが苦手だという点です。また、夢中になった物事があると、時間を忘れてのめりこむことも多いという特徴があります。

以上が発達障害の特徴ですが、発達障害は個人差も大きいため、同じ種類の発達障害でもまったく同じということは少ないとされています。さらに、異なる発達障害を併せ持っている可能性も低くありません。そのため、障害の特徴はもちろん、個人に合わせた支援が必要となるのです。

発達障害者の就労の現状について

日本における発達障害者は、小学生から成人までを想定すると、約800万人いると言われています。また障害の程度も人それぞれのため、障害を持っていない人と同じ勤務体系で働いている場合も少なくありません。

しかし、少なからず発達障害が原因で問題が生じることも多いため、様々なサポートが必要になるのも事実です。そこで、2005年に国は発達障害支援法を制定し、発達障害者の就労支援に関しても力を入れるようになりました。

発達障害者に対する就労支援の内容とは?

発達障害者支援法により、発達障害者もさまざまな働き方が可能となっています。その中のひとつとして、障害者トライアル雇用制度というものがあります。

これは、個人に適した日数や時間で原則3ヶ月試しに働いてみることで、雇用者との理解を深め、結果的には継続して就労することを目指す就労の仕方です。障害者トライアル雇用を採用している企業があれば、ハローワークに相談することで申し込むことができます。

一方、突然就労するのは難しいという方には、地域の障害者職業センターが職業リハビリテーションを行っています。職業リハビリテーションとは、発達障害者の能力や特性に合わせた職業訓練を行い、その技術を活かせる職場に就職できるようにサポートする方法です。

また、発達障害者にとって就労は、ゴールのひとつにすぎません。就職が決まってからも仕事の相談や悩みはつきものですよね。就職後の不安などを聞いてもらいたいと希望する方は、ジョブコーチ支援を利用することもできます。

この支援は、主に発達障害者が就職した職場にジョブコーチを派遣し、彼らの仕事に関する助言や指導を行い、発達障害者が職場に定着できるようにサポートする制度です。

今後、より求められる発達障害者の就労の課題と問題点

昔と比べて、現代では発達障害者への理解が浸透してきました。しかしながら、まだ発達障害者を雇用したことがない企業も多いとされています。なぜなら、そのような企業は、発達障害における知識が欠けているケースがめずらしくないからです。

今後、発達障害者の就労を進めるためには、発達障害の特徴を理解したうえで、「なぜ発達障害者を雇用するのか」「雇用すれば、どのような支援体制を整えるのか」などという具体的な会社の方針を、整えて行くことが大切となります。

また、発達障害者を理解するには、企業の上層部だけが意識するだけではいけません。一緒に働く現場の職員にも、どのように彼らをサポートしていくのか、配置はどうするのかなどを考える機会を与えることが重要です。さらに、トラブル発生時の対処法や窓口をあらかじめ用意しておくことも、効果的だと言えます。

特に、トラブル発生時の対処法は、企業側で考えているものだけでは不十分なものも多く出てくることでしょう。そのためには、地域の病院や医師・医療専門スタッフなどを把握しておき、専門職が在籍する機関と常日頃から連携しておくことが必要不可欠となります。

【参考】
発達障害者の就労支援の現状と課題[特集:職域における発達障害者への対応と支援] 梅永雄二(早稲田大学教育・総合科学学術院教授)
発達障害者の就労支援 厚生労働省
みんなのメンタルヘルス 発達障害 厚生労働省

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