「就労に向けてがんばっている。今あるスキルと、これからつけなければならないスキルを知りたい」
「一生懸命働いているけれどうまくいかないことも多い。改善が必要なのはどこなのだろう」
そのような疑問に答えるのが、「就労支援のためのチェックリスト」です。この記事では、高齢・障害・求職者雇用支援機構|障害者職業総合センター発行の「就労支援のためのチェックリスト活用の手引き(外部サイト)」を元に、以下のことを解説します。
-
- 就労支援のためのチェックリストとは?
- チェックリストの目的と対象者
- チェックリストの活用の仕方
就労支援に携わる方や当事者の方にお読みいただくことで、安定した就労に役立ちます。チェックリスト活用の注意点についても解説しておりますので、ぜひ最後までお読みください。
「就労支援のためのチェックリスト」について
独立行政法人である高齢・障害・求職者雇用支援機構|障害者職業総合センター では、障害者の雇用促進のためにさまざまな研究をすすめています。2009年に厚生労働省の依頼を受けて開発されたのが、以下の2種類のチェックリストです。
①「就労支援のための訓練生用チェックリスト」
②「就労支援のための従業員用チェックリスト」
これらは、教育、訓練、福祉等の機関や事業所が連携しながら就労支援を円滑に行うことを目的とし、関係者が共通して使用できるチェックリストです。より詳しく知りたい方は活用の手引き(外部サイト)を参照してください。ここでは、①②それぞれのチェックリストについて、目的や対象者を解説します。
1.就労支援のための訓練生用チェックリスト―目的と対象者―
就労支援のための訓練生用チェックリストは、就労前の教育・訓練場面において活用されるものです。
このチェックリストを使って一定期間対象者を観察することで、就労に向けた具体的な課題と効果的な支援がわかります。
こちらのチェックリストの対象者としては、以下のような方を想定しています。
-
- 特別支援教育機関の生徒
- 職業訓練機関の訓練生
- 就労移行支援事業者・福祉機関の利用者
就労をめざしてトレーニングしている段階の方ということになります。
2.就労支援のための従業員用チェックリスト―目的と対象者―
就労支援のための従業員用チェックリストは、就労後の雇用管理・人材育成場面において活用されるものです。前述の「就労支援のための訓練生チェックリスト」と同じように、一定期間対象者を観察するために使用されます。このチェックリストを使うことで、就労を続けるにあたっての具体的な課題がわかり、効果的な指導につなげることができます。
こちらのチェックリストの対象者は、「事業所で就労する障害のある方」となります。
-
- 一般企業・特例子会社
- 就労継続支援A型事業所
- 就労継続支援B型事業所
など、すべての事業所を含み、業種や職種、事業規模は問いません。
チェックリストを活用することによって得られるメリット
これらのチェックリストを活用すると、就労支援においてどのようなメリットが得られるのでしょうか。
具体的には次の4点が挙げられます。
-
- 対象者の特性や特徴、見落としがちなところを短時間で客観的に把握できる
- 関係者が対象者の就労支援情報を共有でき、包括的な支援につながる
- 対象者の課題が明確になり、より適切な支援や指導の手助けとなる
- 継続的な使用により、改善の様子や支援の効果等がわかる
ひとつずつみていきましょう。
1.対象者の特性や特徴、見落としがちなところを短時間で客観的に把握できる
就労支援の段階において、対象者に対する評価が主観的・一面的になってしまうことがあります。また、支援者も人間ですから、対象者との相性やその日の体調などに評価が左右される可能性も否定できません。チェックリストにはあらかじめ評価項目が設定されているので、客観的に把握することが可能です。一つ一つ評価していくことで、必要な項目をもれなくチェックしていくことができます。
2.関係者が対象者の就労支援情報を共有でき、包括的な支援につながる
就労支援の現場では、さまざまな立場の支援者が一人の対象者に関わります。チェックリストの結果を共有することで、関係者が同じ視点で対象者の現状や課題を把握することができます。チェックリストの結果を元に支援者各々の立場から話し合うことで、包括的な支援につながるというメリットがあります。
3.対象者の課題が明確になり、より適切な支援や指導の手助けとなる
「対象者の仕事ぶりでうまくいかないことがあるが、原因がわからず対処できない」
「対象者の意欲や就労への思いは受け止めているものの、どう支援してよいかわからない」
いずれも就労支援の現場でよく聞かれる悩みです。チェックリストを使って評価することで、「何が課題なのか」「困っていることの背景は何にあるのか」がわかりやすくなります。課題が明確になることは、適切な支援や指導につながります。
4.継続的な使用により、改善の様子や支援の効果等がわかる
場当たり的な評価や支援では対象者の成長や支援の効果が把握できず、継続的な支援にはつながりません。チェックリストを継続的に使って評価の推移をみることで、対象者が課題に対してどのように取り組み、改善しているのかが分かります。現在行っている支援についても、「対象者のニーズにつながっているのか」という効果の検証ができるのです。
チェックリスト活用の実際
実際にチェックリストを活用する場合、「どのような場面で」「誰が」評価すれば良いのでしょうか。また活用において、注意すべき点は何でしょうか。ここでは活用場面と評価者、評価項目、評価の際の注意点について解説します。
1.活用場面と評価者
「就労支援のための訓練生用チェックリスト」を活用するのは、就労に向けてのトレーニングをする場面です。
具体的には以下のような場面が想定されます。
-
- 作業学習
- 校内実習
- 現場実習
- 就労に向けた日常的な訓練
訓練や職務遂行の場面はもちろん、対人関係や身だしなみなどは日常場面でもチェックすることができます。
評価するのは、教育機関や就労移行支援事業、福祉機関で作業学習や実習、訓練の担当をする教員やスタッフです。
一方「就労支援のための従業員用チェックリスト」は、以下のような場面での使用が想定されています。
-
- 職業生活全般
- 職場の対人関係
- 職務遂行の場面
評価をするのは、職場の指導者や雇用管理の責任者です。
2.チェックリストで評価できる項目
「就労支援のための訓練生用チェックリスト」では、以下の4領域を評価します。
-
- 日常生活
- 対人関係
- 作業力
- 作業への態度
「就労支援のための従業員用チェックリスト」では上記の4領域に加え、その他として、事業所の特性に応じて選択項目を適宜追加できるようになっています。
どちらのチェックリストでも、4領域の中には細かな項目が定められています。
「従業員用チェックリスト」から例を挙げると、以下のような項目があります。
-
- 正当な理由(通院、電車の遅延等)のない遅刻・早退・欠勤はない。(日常生活‐出勤状況)
- 誰とでも人間関係を上手にとれる。(対人関係‐人間関係の維持)
- 正確に作業をし、品質、水準を維持できる。(作業力‐正確性)
- 必要な時に自発的に報告・連絡・相談ができる。(作業への態度‐質問・報告・連絡・相談)
これらについて、「4できる・ある /3だいたいできる・だいたいある /2あまりできない・あまりない /1できない・ない」の4段階で評価することとなっています。
3.活用する際の注意点
就労支援のためのチェックリストは非常に有効なものですが、活用においては注意すべき点もあります。
最も気をつけたいのは、「就労の可否や就労に移行できる可能性をはかるために使用しない」ということです。評価が低かったからといって、すぐに「就労が難しい」「この職場で継続して働くことはできない」と判断すべきではありません。このチェックリストの目的はあくまで支援や指導に活かすことであり、就労できる・できないの判断や雇用継続の判断材料に使うためのものではないのです。
次に、「結果は総合的に判断すべきであり、このチェックリストの結果だけを元に判断しない」という点もおさえておきましょう。就労支援にとどまらず、障害をもつ方の支援はつねに総合的・包括的なものでなければなりません。このチェックリストの結果だけでなく、障害状況や普段の作業能力、性格、他の面接や検査結果で把握された情報と合わせて評価することを心がけましょう。
チェックリストを上手に使って職業準備性をアップしよう
就労支援のためのチェックリストは、効果的な支援や指導に役立ちます。上手に活用することで、関係する支援者が対象者の情報を共有し、より継続的・包括的な支援を行っていくことができます。
このチェックリストで評価できるような、就労に必要なスキルを「職業準備性」といいます。職業準備性について詳しく知りたい方はこちらの記事を参照してください。
執筆者プロフィール