全国の就労支援事業所のユニークな取り組み〜長野県〜

全国の就労支援事業所のユニークな取り組み〜長野県〜

長野県内には、障がいや難病のある方々が自分らしく働き、社会参加を実現するための重要な拠点として、数多くの就労継続支援事業所が存在します。本記事では、長野県内の就労継続支援A型事業所における特徴的な取り組みを、具体的な事業所を紹介しながら解説していきます。

エア・ウォーター・スマイル:洗濯業務や清掃業務で地域課題解決と利用者成長を両立するモデル

エア・ウォーター・スマイル株式会社は、地域課題の解決と障がい者の就労支援・成長を両立させることを目指し、多様な事業を展開するエア・ウォーターグループによって設立された就労継続支援A型事業所です。
参照:エア・ウォーター・スマイル

高齢者施設支援と農福連携による多様な業務

同事業所は、長野県松本市を拠点に2022年1月より運営を開始しました。主な業務として、慢性的な人手不足が課題となっている地域の高齢者施設から、入居者の洗濯業務や施設内の清掃業務を受託しています。これにより、介護職員の負担軽減や介護サービスの質向上に貢献しています。さらに、エア・ウォーターグループ内の農園で収穫されたトマトの袋詰め、計量、出荷作業といった農福連携の取り組みも行っており、利用者に多様な就労機会を提供しています。

利用者との密なコミュニケーションと成長支援

「ここで働くすべての人々が『笑顔』になれるように」という想いが込められた社名の通り、利用者が安心して働ける環境づくりに注力しており、その日の悩みや疑問をその日のうちに解決できるよう、終業前に毎日相談時間を設け、利用者との面談を行っています。働くことが久しぶりで不安を抱える方や、質問することに苦手意識を持つ方もいるため、細やかな配慮を欠かさず、すぐに聞ける雰囲気づくりを心掛けています。管理者兼サービス管理責任者の織田氏は、「会話の表面上だけでなく、見えない部分での支援が広がればいい」と語り、利用者の可能性を引き出す支援を目指しています。

指導員登用制度によるキャリアパスの提示

利用者の成長を促し、一般就労への意欲を高める取り組みとして、「指導員職員登用制度」を設けている点が大きな特徴です。継続雇用6か月以上、出勤率9割以上、一つの仕事を指導できるレベル、という基準を満たした利用者は、指導員への登用を目指すことができます。現在、実習中の利用者(中原さん)は、洗濯業務の責任者を務めながら、他の利用者への指示出しや指導、業務マニュアルの作成にも取り組んでいます。中原さんは、「自分の障がいも念頭に置きながら、どうすれば伝わるか、理解できるかを考え、作業をスムーズに進める方法を模索している」と語り、自身の経験を活かして利用者に寄り添える指導員を目指しています。この制度は、利用者がステップアップできる具体的な道筋を示し、働く意欲と目標を持つことを支援しています。

株式会社アルビスファーム信州なかの:県・市との協定に基づく農福連携

株式会社アルビスファーム信州なかのは、富山県に本社を置くアルビス株式会社が運営する就労継続支援A型事業所で、長野県中野市において農業分野での障がい者就労を推進しています。地域の資源を活用し、行政との強固な連携のもとで事業を展開している点が特徴です。
参考:株式会社アルビスファーム信州なかの

地域資源を活用した農産物の生産・加工

平成29年(2017年)9月に事業を開始し、中野市内の農地等を活用して農産物の生産や加工を行っています。地域の農業資源を活かし、利用者に多様な作業を提供することで、農業スキルや知識の習得を支援しています。

行政との連携による安定した事業基盤

ポイントは、事業開始にあたり、長野県知事の立ち会いのもと、中野市およびアルビス株式会社が相互協力に関する協定を締結している点です。この協定により、行政と企業が連携して障がい者就労を支援する体制が構築され、安定した事業運営の基盤となっています。地域社会全体で障がい者就労を支える先進的なモデルケースといえます。

障がい者雇用と地域活性化への貢献

アルビスファーム信州なかのの取り組みは、障がいのある方々に安定した雇用の場を提供するだけでなく、地域の農業振興や活性化にも貢献しています。農福連携を通じて、遊休農地の活用や新たな特産品の開発などに繋がる可能性も秘めているのです。障がい者の社会参加促進と地域経済の発展を両立させる、意義深い事業を展開しています。

北アルプスの風 がんばりやさん:高齢者施設や公衆浴場の清掃など地域密着型の多様な仕事と支援

北アルプスの風 がんばりやさんは、長野県大町市に拠点を置き、「自分のペースでOK!あなたの『働く』を応援します!」をモットーに、地域に根差した多様な仕事と、個々のペースを尊重した丁寧な支援を提供している就労継続支援A型事業所です。
参考:北アルプスの風 がんばりやさん

高齢者施設・公衆浴場清掃など地域貢献に繋がる業務

主な業務内容は、地域の高齢者施設内の清掃や、大町市から指定管理を受けている公衆浴場「上原の湯」の清掃業務です。また、連携している農園での農作業や、飲料水製造工場での機械洗浄など、地域社会への貢献を実感できる多様な仕事が用意されています。地域との繋がりを感じながら働ける点が魅力の一つです。

個々のペースを尊重した「得意を伸ばす」支援

事業所名の通り、利用者が自分のペースで無理なく働ける環境づくりを重視しています。一人ひとりの「得意」なことを見つけ、それを伸ばしていくことを目指し、一方で「苦手」なことについてはスタッフが丁寧にサポートしているのです。作業に慣れない方や不安のある方でも安心して働けるよう、個々の状況に合わせた配慮が行き届いています。就労に必要な知識やスキルを、実践を通じて着実に身につけることができるでしょう。

一般就労・定着まで見据えた連携体制

A型事業所での就労経験を通じて、一般企業への就職を目指す利用者に対しては、関連機関との連携により、就職活動のサポートや就職後の定着支援も行っています。履歴書の作成支援や面接練習はもちろん、就職後に職場で困ったことがあった場合の相談対応など、長期的な視点でのサポートを提供し、利用者の安定した社会参加を支えています。

株式会社フジすまいるファーム飯山:とうたち菜や枝豆など農業分野での先駆的取り組み

株式会社フジすまいるファーム飯山は、長野県飯山市において、農業分野を中心とした就労継続支援A型事業を展開しています。平成28年(2016年)9月1日に開所し、地域の障がい者就労支援における先駆的な役割を担っています。
参考:株式会社フジすまいるファーム飯山

飯山市における就労継続支援A型の草分け

同事業所は、飯山市における早い段階での就労継続支援A型事業所の設立事例の一つです。開所と同時に行われた入社式は、地域における新たな障がい者雇用の創出として注目を集めました。一般企業等での就労が難しい障がいのある方に対し、雇用契約に基づき、継続的に就労できる機会を提供しています。

農産物の生産・加工を通じたスキル習得

主な事業内容は、とうたち菜(野沢菜の新芽)や枝豆など、地域の特性を活かした農産物の生産や加工に関連する業務です。利用者は、農作業や食品加工の工程に携わる中で、様々な実践的なスキルを身につけることができます。農業という、自然と関わりながら身体を動かす仕事は、心身の健康維持にも繋がる可能性があります。

開所式・入社式に見る地域からの期待

開所式と入社式が同時に執り行われたことは、地域社会がこの事業所に寄せる期待の大きさを物語っています。障がいのある方々の働く場としてだけでなく、地域の農業を支える一翼としての役割も期待されていると考えられます。フジすまいるファーム飯山は、地域のニーズに応えながら、利用者の知識や能力向上のための訓練を実施しています。

まとめ

長野県内の就労継続支援A型事業所は、地域社会に根差し、障がいや難病のある方々がそれぞれの個性と能力を活かして働くための多様な機会と、きめ細やかなサポートを提供しています。農業分野での先駆的な取り組み(フジすまいるファーム飯山、アルビスファーム信州なかの)、地域課題解決と利用者の成長支援を両立するモデル(エア・ウォーター・スマイル)、地域密着型の多様な業務提供(北アルプスの風 がんばりやさん)など、各事業所が特色ある活動を展開しています。

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