障害者の就労の場の一つに、就労継続支援A型事業所があります。これは障害福祉サービスの一つであり、一般企業に近い労働の機会や、就労に関する知識や能力の向上に必要な訓練などの支援を提供します。この記事では、A型事業所の役割、特徴、利用方法、B型事業所との違いについて解説していきます。
A型事業所の概要
まず、就労継続支援A型について、障害者自立支援法の施行規則では「雇用契約の締結等による就労及び生産活動の機会の提供、その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の必要な支援」と定められています。これに基づいた支援を行う事業所がA型事業所です。令和5年12月時点では、事業所数は4,575となっており、88,967名が利用しています。
対象者
障害者総合支援法の施行規則に定められているA型事業所の利用対象者は、以下の通りです。
- 通常の事業所に雇用されることが困難な障害者であって雇用契約に基づく就労が可能であるもの
- 通常の事業所に雇用されている障害者であって、以下の理由で事業所での就労に必要な知識及び能力の向上のための支援を一時的に必要とするもの
1. 通常の事業所に新たに雇用された後に労働時間を延長しようとする場合
2. 休職から復職しようとする場合
また、65歳に達する前5年間に障害福祉サービスの支給決定を受けていて、65歳にとなる前日までに就労継続支援A型の支給決定を受けていた場合、引き続き利用することが可能ともされています。詳しくはお住まいの自治体の窓口にお問い合わせください。
利用者負担
就労継続支援A型も、障害福祉サービスの一つであるため、一月あたりの利用料が発生します。その上限額は、障害者総合支援法の施行令に基づき、世帯の収入ごとに以下の区分に定められています。
区分 | 世帯の収入状況 | 負担上限月額 |
---|---|---|
生活保護 | 生活保護受給世帯 | 0円(利用負担なし) |
低所得 | 市町村民税非課税世帯(注1) | 0円(利用負担なし) |
一般1 | 市町村民税課税世帯(所得割16万円(注2)未満) ※入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者は、市町村民税課税世帯の場合、一般2となります |
9,300円 |
一般2 | 上記以外 | 37,200円 |
(注1)3人世帯で障害者基礎年金1級受給の場合、収入が概ね300万円以下の世帯が対象となります。
(注2)所得割とは「(総所得‐所得控除)×税率‐税額控除」で算出します。「課税・非課税証明書」「特別徴収税の通知書」「納税通知書」などの書類で確認できます。また、収入が概ね670万円以下の世帯が対象になります。
このほか、食事が提供される事業所では、上記の利用料金とは別に食事費用がかかることがあります。また、自宅からの通勤に際し、鉄道やバスなどの公共交通機関の利用により交通費が生じることが考えられます。交通費の支給または送迎を行っている事業所である場合、それらの活用も考えてみましょう。
賃金
A型事業所では雇用契約に基づく就労であり、労働関係の法律や規則が適用されるため、最低賃金も保障されます。厚生労働省によると令和4年度の平均賃金は、月額では83,551円、時間額では947円となっております。この金額は日本全体の平均を表しているため、事業所によって実態が変わりますが、少なくとも現在お住まいの地域の最低賃金は順守されます。なお、令和4年度の都道府県別の月額平均賃金では、東京都が最も高く、103,286円となっており、青森県が最も低く、74,085円となっております。
作業内容
A型事業所では、多岐にわたる業務が行なわれ、その作業内容も事業所によって様々です。その具体的な内容の一部を以下に記載します。
- 清掃作業
- 調理補助
- 接客
- チラシ、広報誌等のポスティング
- 機械部品の組み立て
- 梱包作業
- PC入力
- オークション出品
- 自社製品の製作・販売
以上の中には企業や自治体などからの委託による業務もあり、普通の会社とほぼ変わらない作業が行われているため、通常の事業所に移行する際の備えになります。また、B型事業所と共同で行われる仕事もあります。
A型事業所利用までの流れ
先述の通り、障害福祉サービスの一つであるため、利用までの大まかな流れを以下に示します。
- 自治体の福祉窓口で利用について相談
- 事業所を見学・体験する
- 受給者証を受け取り、通所する
1.自治体の福祉窓口で利用について相談
サービスを利用するには、お住まいの自治体の窓口に相談・申請する必要があります。利用したいサービスや主治医に関することなどについて記入した申請書のほか、マイナンバーが分かる書類や障害者手帳など、身元確認書類が必要です。
その後、利用するうえでの方針を明確にする「サービス等利用計画書」の作成を窓口求められることがあります。基本的に地域の相談支援事業所に依頼して作成しますが、相談支援事業所が身近な地域にないなどの場合には、ご自身や第三者によって作成するセルフプランを提出できることもあります。
2.事業所を見学・体験する
利用したい事業所が決まれば、まず見学、体験を申し込みましょう。実際に見て事業所の雰囲気を知ることで、自分に合っているか確かめましょう。また、先述の通り、就労継続支援A型は雇用契約に基づく就労です。そのため、利用したいのであれば一般の企業と同様に面接を受けましょう。面接の後、採用となればその事業所を利用できます。
3.受給者証を受け取り、通所する
A型事業所も含めた、自立訓練や就労定着支援など障害福祉サービスの利用に必ず必要となるのが「受給者証」です。「受給者証」とは、正式には「障害福祉サービス利用受給者証」といい、障害者総合支援法に基づき、サービス支給が決定した障害者に交付されるものです。障害者手帳とは異なるものなのでご注意ください。この受給者証を自治体の窓口で受け取り、これを事業所に提示し雇用契約を結ぶことで、通所開始となります。
以上、利用までの大まかな流れを説明しましたが、その順番や方法について、実際にこの通りになるとは限りません。詳しくはお近くの窓口や利用予定の事業所にお尋ねください。
B型事業所との違い
ここまでA型事業所について説明しましたが、就労継続支援にはB型も存在します。両者の違いについて最後に説明します。
対象者について、厚生労働省によると以下のようになっています。
A型 | B型 |
---|---|
通常の事業所に雇用される事が困難であって雇用契約に基づく就労が可能な障害者 | 一般企業等の雇用に結びつかない者や、一定年齢に達している者などであって、就労の機会等を通じ、生産活動にかかる知識及び能力の向上や維持が期待される障害者 |
企業等や就労継続支援事業(A型)での就労経験がある者であって、年齢や体力の面で雇用されることが困難となった者 | |
50歳に達している者または障害基礎年金1級受給者 | |
上記2つに該当しない者であって、就労移行支援事業者によるアセスメントにより、就労面に係る課題等の把握が行われている者 | |
通常の事業所に雇用されている障害者であって主務省令で定める事由により当該事業所での就労に必要な知識及び能力の向上のための支援を一 時的に必要とする障害者 |
そして、大きな特徴として、雇用契約の有無という違いがあります。先ほども説明したように、A型事業所では雇用契約に基づく就労であり、最低賃金など、労働関係の法律や規則が適用されるなど、一般企業に近い環境で仕事をします。
一方、B型事業所も、通所によって就労や生産活動の機会を提供しますが、雇用契約を結ばない形での利用となります。給料についても「工賃」として得ることができますが、最低賃金が保障されないため、A型事業所よりも低くなります。参考までに、令和4年度時点で、A型事業所の賃金が、全国平均で時間額947円となっているのに対し、B型事業所の工賃は、全国平均で時間額243円となっております。
以上、A型とB型の大まかな違いを比較しましたが、一般企業に近い労働環境であっても、それが必ずしも合っているとは限りません。障害特性や生活様式などを考慮し、必要に応じて相談もしたうえでどちらの事業所にするか検討してください。
【出典】
厚生労働省(2023)『令和4年度工賃(賃金)の実績について』
厚生労働省(2024)『障害者の就労支援対策の状況』
厚生労働省(2024)『障害者の利用者負担』
全国社会福祉協議会(2024)「利用の手続き」『障害者総合支援法のサービス利用説明パンフレット』12-13
デジタル庁(2024)『障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律施行規則(平成十八年厚生労働省令第十九号)』
執筆者プロフィール

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