自由の国アメリカ。あなたはそんなイメージから「アメリカの障害者雇用や福祉は日本より進んでいるだろう」と思われてはいないでしょうか。
実はアメリカと日本の障害者雇用の法律や制度は全く異なっています。
アメリカと日本のどちらが障害者福祉で進んでいるということではなく、考え方や文化による違いが大きいのです。
この記事では、アメリカと日本の障害者雇用に関わる仕組みや障害者雇用にまつわるアメリカらしいエピソードなどをご紹介します。
日本における障害者雇用と就労支援政策
そもそも日本とアメリカの障害者雇用における施策や制度は根本から異なります。
実は日本の障害者雇用に関する制度は細かく、福祉国家として世界に誇れる部分が多いのも事実です。
日本の障害者雇用における制度や就労支援施策は、主に以下の4つが挙げられます。
障害者雇用促進法 | 障害者の平等な雇用機会を与えられるよう作られた法律 |
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障害者雇用納付金制度 | 企業が雇用した障害者の割合に応じた納付金と奨励金を定めた制度 |
障害者雇用率制度 | 企業の障害者雇用を義務化する制度 |
各種助成金の制度 | 障害者を雇用する企業の施設改修や職場実習で必要になる費用を助成する制度 |
ハローワークや障害者就業・生活支援センター | 障害者の雇用を全面的に支援する機関の創設 |
「障害者への差別は禁止」「障害者も普通に暮らせる社会にすべき」という点は、日本もアメリカも同じです。
ここまで細かく取り決めがあるのは日本ならではで、障害者雇用に関する制度や支援は決してアメリカに引けを取りません。
では、アメリカの障害者雇用はどのような政策や施策が行われているのでしょうか。
アメリカと日本の障害者雇用・就労支援政策の違い
アメリカでは日本のような雇用率や納付金といった制度はありません。
また、障害者に特化して雇用を促す法律もなく、障害者政策を推進する基本計画のようなものもないのが現状です。
アメリカに障害者雇用制度が全くないわけではありませんが、以下のような理由からかなり分かりづらい状況となっています。
・1つの法律の中で障害者雇用における差別を包括的に禁止していることで良しとしている
つまり、アメリカの障害者雇用の政策や施策は、各州で独自に行っているのです。
アメリカ合衆国として規定しているのは、「障害を持つアメリカ人法(ADA)」による障害者雇用における差別の禁止のみといっても過言ではありません。
例えば、日本では障害者雇用や福祉に関して大まかに以下のような仕組みになっています。
日本では国が障害者雇用に関する法律や制度を決め、都道府県などの各自治体や支援機関、そして民間企業が法律に基づいて障害者雇用を進めています。
対するアメリカは、各州が独立して法律や制度を制定します。アメリカという国自体が障害者雇用に関する法律や制度を決めているわけではなく、各州の権限に委ねられているのです。
ただ、各州でも独自に決めてはいけない法律もありますし、独自の通貨を発行することもできません。
障害者雇用に関しては、国が「障害を持つアメリカ人法(ADA)」により障害者のあらゆる差別を禁止するのみで、実際の障害者雇用制度などは各州で独自に作っているのです。
では「障害を持つアメリカ人法(ADA)」では、どんな差別が禁止されているのでしょうか。
障害を持つアメリカ人法(ADA)とは?
障害を持つアメリカ人法(ADA)とは、障害者に対する差別を禁止し障害者が他の人と同じ生活を送る機会を保証する法律の事で、正式には「障害を理由とする差別に対する明確かつ包括的な禁止を確立する法律」が本来の名称です。同法では具体的に以下のような障害者差別を禁止しています。
- 雇用における差別の禁止
- 公共機関における差別の禁止
- 民間や団体が運営する施設等における差別の禁止
- 通信サービスにおける差別の禁止
1については、週の労働時間が20時間以上かつ15人以上の従業員を雇用する事業者に対して、「求人」「採用」「昇進」「解雇」「給与」「職業訓練」「その他規定や条件」といった雇用上の差別を禁じる条文です。
意識的に行われる差別だけでなく、結果として差別になることに関しても禁止しています。
例えば、面接試験等が身体の障害により不利な状況になるようなら、文字の拡大印刷や点字等による配慮が必要であり、会社内の設備も障害者がスムーズに利用できるようにしなさいということです。
2~4については、駅や電車、商業施設、各サービス、電話等の通信サービスを障害者も利用できるようにしなさいと定めている条文です。
逆に言えば、「障害者も利用できるようになっていなければ差別と見なされる」とも言い換えられます。
日本でも「合理的配慮」という言葉で上記のような施策が行われている場面はありますが、アメリカでは「合理的配慮が行われていなければ差別」と見なされる事が日本との決定的な違いと言えるでしょう。
考え方?文化?アメリカと日本の違い
アメリカの就労支援について調べた結果、障害を持つアメリカ人法で雇用に関する権利が保障されていることが分かりました。
しかし、雇用の確保とは別に必要な「就労支援」についてはなかなか情報が見つかりません。
それは「州やその他自治体により支援事業は多種多様に存在する」ことが主な理由です。
アメリカらしさと言えるかもしれませんが、そもそもアメリカでは「障害者雇用」という概念が一般的ではありません。
障害を持つ人でも、自分の持つ能力やスキル、やりたいことを自ら考え、それに適した企業で普通に面接を受けるのが日常的に当たり前のように行われています。
アメリカでも就労支援を主とした事業が全くないわけではありませんが、日本のように国と自治体が一体となって、就労支援を全面的にサポートすること自体が稀なのです。
よって、アメリカと日本の障害者雇用を比較すること自体あまり意味を持たない事かもしれませんが、違いを理解しておくために敢えてアメリカと日本の就労支援に明確な違いを持たせて分けると以下のようになります。
- 【日本】
- ・法律で障害者の雇用や差別の禁止、その他細かな制度などが定められている
・法律や自治体の支援に至るまで、障害者をサポートする機関が公的に用意されている
・障害者手帳の保有者なら障害者枠での就職が可能 - 【アメリカ】
- ・法律で障害者の差別を厳しく禁じている
・独自に支援事業を行う自治体や民間企業はあるが、障害者は自分で考えて就職活動を行う
・「働かないなら福祉、働くなら一般人」といった明確な切り分けがされている
国も文化も違いますので、上記2つのどちらが良いと考えるかは人それぞれなのは言うまでもありません。
実際アメリカでは、「働かないなら福祉、働くなら一般人」といった明確な切り分けがされており、働き始めると福祉サービスが受けづらいと言われています。
「障害者が普通に暮らす社会の実現」を意味するノーマライゼーションの考え方を前提とすると、障害者雇用を促進するアプローチの違いで「どちらが良い」とするより、障害者にとってどちらの文化が暮らしやすく、働きやすい社会なのかという方が重要なのではないでしょうか。
アメリカと日本の障害者の意見交換会のエピソード
アメリカと日本の障害者雇用と就労支援の違いを比べてみましたが、1つ面白いエピソードがあります。
「アメリカで就労している日米の身体障害者の意見交換会に出席したことがある。そこで、企業に雇用されたきっかけについて話し合われたが、アメリカの障害者は、企業に対して自分の能力や企業貢献についてアピールした結果だと報告した。一方、わが国(日本)から参加した障害者は、一流企業に就職できたのは職業安定所の斡旋によるものだと述べて周囲を慌てさせた。」
このエピソードこそ、アメリカと日本の障害者雇用、そして文化そのものの違いをリアルに表していると言えるでしょう。
アメリカらしいと言えるかもしれませんが、そもそもアメリカでは「障害者雇用」という概念が一般的ではありません。
障害者の差別が厳しく禁じられているため、障害者は自分の持つ能力やスキル、やりたいことを自ら考え、それに適した企業で普通に面接を受けるということが当たり前のように行われているのです。
もちろんアメリカでも就労支援を主とした事業が全くないわけではありません。ただ日本のように国と自治体が一体となって就労支援を全面的にサポートすること自体が稀と言っても良いでしょう。
そう考えると日本の障害者雇用や就労支援政策は、ある意味アメリカより充実している、あるいは進んでいると言えるのかもしれません。
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