障害者雇用を促進する特例子会社の設立方法

障害者雇用を促進する特例子会社の設立方法


2017年に厚生労働省が発表した「障害者雇用状況の集計結果」では、雇用障害者数が49万5795人と前年比+4.5%の2万1421人の増加となっています。

これに対し、特例子会社で雇用されている障害者数は前年比で10%以上も増加し、2万9769人となっています。

特例子会社が雇用する障害者は全体の6%ほどですが、確実に障害者雇用の促進に貢献していると言えるでしょう。

しかし、そもそも「特例子会社」について詳しく知らない、何やら難しい仕組みの会社のように思ってしまう方もいるかも知れません。

そこでこの記事では、障害者雇用における特例子会社の概要や特例子会社の設立方法について解説いたします。

そもそも「特例子会社」とは?

障害者雇用の資料や記事において「特例子会社」という言葉を目にすることがよくあります。

言葉だけ聞くと、何か特殊な会社のようにも思えますが、実はそう複雑なものではありません。

簡潔に言うと、「障害者の雇用機会と安定した就労の提供を目的として、特別な配慮を行って設立した子会社」のことを特例子会社と呼びます。

もう少し詳しくご説明しますと、まず、障害者雇用促進法の中で「企業は障害者の雇用を一定率以上にしなければならない」と規定されています。

よって現行の法律上では、企業は45.5人に1人(2019年1月時点)の割合で障害者の雇用が必要です。

障害者雇用を促進するために特例子会社を設立すれば、積極的に障害者雇用を進めることが可能になり、企業の義務である障害者雇用率の達成も容易に可能となります。

しかし、「わざわざ子会社を設立しなくても直接雇えば良いでは?」と疑問に思う方もいるでしょう。

実は、障害者を雇用するための特例子会社を設立するのには、それなりの『理由』と多くの『メリット』があるのです。

特例子会社を設立するメリット

一般的に、企業が子会社を設立するのは「税金を抑えるため」「経費算入の幅が広がる」「債務責任の切り離し」「生産性の向上」といったメリットがあります。

特例子会社を設立して障害者を雇用する場合、更に以下のようなメリットが生まれます。

・障害者に配慮した業務と職場環境作りが容易になる
・配慮された施設や設備により障害者の能力を最大限に引き出せる
・離職率が抑えられ、生産性が高まる
・個別の施設であるため、施設や設備の改修・改築がしやすい
・親会社の規定や就労条件に縛られない雇用が可能になる
・障害者雇用率の算定に含められる

例えば、現在の法定雇用率に沿って従業員46人の会社が障害者1人を雇用することになった場合、その障害者の安定した就労を実現するために施設や設備の改修を行ったり、障害者のサポート役となる担当の選定や就労状況の確認・管理といった合理的配慮が義務化されます。

しかし、その合理的配慮が企業にとって大きな負担になってしまう場合が少なくありません。

そこで、障害者向けの専用設備や就労環境の整った特例子会社を設立することで、親会社の負担を軽減し、新たな仕事を作り出す事によって親会社の仕事を外注できる受け皿とします。

その結果、障害者が働くための充実した環境、障害者ならではの作業内容や高い生産性の創出、障害者をより多く雇用することにも繋がります。

「親会社は負担を抑えて障害者雇用を進められる」「障害者は雇用の機会が増える」「政府の方針である障害者雇用が促進される」。特例子会社というのは、まさに三方良しの制度なのです。

特例子会社として認定される要件

続いて障害者の雇用を進めるために特例子会社を設立する理由や認定される条件等をご説明します。

まず、親会社が設立済みの子会社または単に子会社を新設して障害者を雇用しただけでは、その人数は法律上の障害者雇用率の算定に含めることができません。

親会社と子会社は主従関係にありますが、基本的に従業員への指示系統は切り離されていることが多く、法的にも別会社と定義されるため、既存の子会社で雇用した障害者数は、あくまで子会社のみの雇用率の算定となります。

したがって、子会社が雇用した障害者の人数を親会社の雇用率の算定にも含めるためには特例子会社としての認定を受けなくてはならず、認定の為には主に以下のような要件が必要になります。

〈親会社の要件〉
親会社が子会社の意思決定を支配している(議決権の過半数を有するなど)
〈子会社の要件〉
・親会社から役員を派遣するなど人的関係が緊密である
・雇用される障害者が5人以上で全従業員に占める割合が20%以上である(うち30%以上が重度身体障害者、知的障害者、精神障害者)
・障害者の雇用管理を適正に行うための施設や設備の改善、指導員等の配置などができている
・障害者雇用の促進と安定した雇用が確実に達成されると認められる

以上は特例子会社制度の基本的要件になりますが、中にはグループ会社の多い企業や事業協同組合という形態の企業もあるでしょう。

特例子会社制度の中には「企業グループ算定特例」や「事業協同組合等算定特例」といった特例もありますが、それぞれが細かな規定、要件で分かれているため、詳しくは以下の厚生労働省の「特例子会社制度等の概要」をご確認ください。

【参考】 特例子会社制度等の概要

特例子会社を設立するまでの流れ

では最後に、具体的に特例子会社を設立するまでの流れを解説します。

①企業:障害者雇用に関わる特例子会社設立の検討
 ↓
②ハローワーク:設立にあたっての指導・助言・説明
 ↓
③企業:特例子会社を設立するプランを作成
 ↓
④ハローワーク:設立要件の説明や助言、資料収集、既存の特例子会社の見学やセミナー提案など
 ↓
⑤企業:業務内容や労働条件、関係役員の選定、特例子会社設立準備の部署設置などを検討し、ハローワークへ連絡
 ↓
⑥ハローワーク:⑤の検討内容の連絡を受け、内容の確認
 ↓
⑦企業:社内での認証を経て、定款の作成、登記を行い、ハローワークへの連絡と就業規則や事業所設置届けの提出
 ↓
⑧ハローワーク:登記完了の連絡を経て、事業所設置届受理
 ↓
⑨企業:ハローワークへ障害者求人を申し込む
 ↓
⑩企業/ハローワーク:応募に対して面談、採用を連携して行う
 ↓
⑪企業:特例子会社認定申請書の提出
 ↓
⑫ハローワーク:特例子会社の現状審査を経て、特例子会社承認

ご覧の通り、企業とハローワークが緊密に連携して、準備・設立・承認という流れになります。

特例子会社の承認が最後になるのは、障害者雇用促進法で定められた適合要件に「子会社による障害者の雇用が促進、安定して確実に達成することができると認められること」という規定があるためです。

つまり、最後の特例子会社認定を受けるには、法で定められた障害者雇用率を達成していることが前提となります。

ただ、地域ごとのハローワークでは必ずしも認定要件に障害者雇用率の達成を必須としておらず、未達成であっても2年や3年といった一定期間内の達成計画の策定を条件に認定が受けられるケースもあります。

また、企業によっては、数か月で準備・設立・認定までを行ったという事例もあります。

設立から認定までが早いに越したことはありませんが、障害者が安心して就労できる環境を作っていくために、まずはハローワークを始めとした関係機関への相談や指導を受けながら、確実な障害者雇用率の達成を目指していきましょう。

まとめ

特例子会社の制度自体は難しいものではありません。

特例子会社の設立により障害者雇用を促進できれば、ご紹介したメリットだけでなく、社会的責任の遂行やダイバーシティの推進といった社会規範にもなり、外部からの評価を上げることにも繋がります。

ただ、最後にお伝えした通り、実際に設立するとなるとハローワークとの連携を基本として、社内での労働条件から就労規則、役員の承認を受けるなど多くの工程が必要となります。中には、「障害者雇用率を達成するためだけに利用されてしまうのではないか」という意見すら見かけます。

しかし障害者雇用促進法では、雇用の促進はもちろん「障害の特性に合わせた配慮」「雇用の安定を図る」といったことも企業の義務であるとしています。

特例子会社はその前提で設立されるものですので、雇用を求める障害者にとって、整った職場環境や安定した雇用に期待できる必要な制度と言えるのではないでしょうか。

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