従来のうつ病(メランコリー型)と非定型うつ病(新型うつ病)の違いとは?

従来のうつ病(メランコリー型)と非定型うつ病(新型うつ病)の違いとは?


うつ病は幅広い世代にわたって発症する精神疾患です。中高年のうつ病がクローズアップされていますが、うつ病の発症頻度が高いのは20代といわれます。

ただ、若年層と中高年層では取り巻く環境が異なるように発症要因や症状の現れ方にも違いが見られます。若年層に多い症状にはうつ病とは思えない行動パターンを示すものがあり、それを「非定型うつ病(新型うつ病)」と呼んでいます。

ここでは、従来のうつ病(メランコリー型うつ病)と非定型うつ病(新型うつ病)の違い、それぞれの発症要因や治療法についてわかりやすく解説していきます。

うつ病は現代人の誰もがかかりやすい心の病

対人関係の悩みや仕事上の心配事があるときは気分が落ち込んで、憂うつな気分になります。これは一時的なうつ状態で、通常は時間の経過とともに回復するものです。

しかし、いつまでも落ち込んだままで、以下の症状のうちのいくつかが現れて2週間以上続く場合は「うつ病(depression)」が疑われます。

抑うつ症状 意欲・気力がわいてこない、わけもなく悲しい、ため息が多くなるなど
抑制症状 何も楽しめない、何にも興味がもてない、喜怒哀楽の感情も乏しくなるなど
日内変動 朝は起きられないほど気分が落ち込み、午後から夕方にかけて楽になる
食欲不振 食欲がない、何を食べても味がしないなど
睡眠障害 疲れていて眠いのに眠れない、眠っても早朝に目覚める
性欲減退 男女を問わず性欲が乏しくなる
不安・焦燥感 将来のことや健康のことなどを考えると落ち着いていられず、むやみに動き回ったりする
自責感・罪悪感 物事を悲観的・否定的にとらえ、「自分はダメな人間だ」と自分を責める
自殺念慮・自殺企図 自責感が強まり、死にたいと思うようになる

うつ病は、性格や心理的ストレス、身体的ストレスなどさまざまな要因が絡み合って、ある時点から急激に社会適応力が低下するもので、ストレス社会に生きる現代人はだれでもかかる可能性があります。

厚生労働省が3年ごとに実施している「患者調査」の2019年版結果によると、気分障害(うつ病・躁うつ病)は2011年が95万8千人、2014年が111万6千人、2017年が127万6千人と増加する一方です。

うつ病は、社会や家庭での責任が重くのしかかる中高年の男性がかかりやすいというイメージが強いですが、初回の好発年齢は20~25歳です。20代は将来のことについて悩んだり、人と比べて焦燥感を抱いたりしてうつ状態になる人が少なくありません。

しかし、若い世代のうつ病には抑うつ症状を中心とする定型的なうつ病(メランコリー型うつ病)とは異なるタイプが多くみられるようになり、このタイプを「非定型うつ病(Atypical depression)」と呼んでいます。次項からこの非定型うつ病の特徴や治療法について見ていきましょう。

非定型うつ病(新型うつ病)は10代後半~30代女性に増えている

「新型うつ病」「現代型うつ病」とも呼ばれる非定型うつ病(新型うつ病)は、18歳ごろから30代前半にかけて発症しやすく、圧倒的に女性に多く見られます。非定型うつ病(新型うつ病)も「気分の落ち込み」が基底にありますが、次のような症状が大きな特徴です。

  • 気分が落ち込んでいても楽しいイベントには喜んで参加するなど、気分変調が激しい
  • 食欲旺盛になり、いくら食べても満足できない過食症の状態になる。特に甘いものを好む
  • 1日10時間以上も眠っているような過眠の状態になることがある
  • 朝方は元気があり、夕方にかけて調子が悪くなる
  • 不安・抑うつ発作を起こし、リストカットやオーバードーズ(過量服薬)などの自傷行為に走ることがある
  • 他罰的(他人が悪い、社会が悪いと他者に不満を持つ)で、自分が一番という自負心を持つ傾向がある

以上が定型うつ病と対照的な症状ですが、非定型うつ病(新型うつ病)特有の症状として下記の2点があります。

  • 倦怠感が強く、手足が鉛のように重く感じる(鉛様の麻痺)
  • 他人の言動(顔色)がひどく気になる

症状だけ見ると周囲の人には「わがまま」「甘え」「仮病」などと思われがちですが、非定型うつ病(新型うつ病)とはそういう病気であることを理解する必要があります。

非定型うつ病(新型うつ病)になりやすい性格

中高年世代のうつ病は過重労働や環境の変化などによるストレスが関わって発症することが多いのに対し、若い世代は下記のような成育環境や本人のパーソナリティが影響し、20歳前後から症状となって発現すると考えられています。

[成育環境]
  • 両親のどちらかがうつ病に罹患している
  • 過保護な家庭環境で育てられた
  • 昼夜逆転したような生活を送っている
[本人のパーソナリティ]
  • 小さいころから物わかりのいい「よい子」だった
  • 不安を感じやすく、人前で極度に緊張する
  • プライドが高く、「恥をかきたくない」という思いが強い
  • 自己愛が強く、人から高く評価されることを期待する

不安や緊張感が強いのは、「人前で失敗してはいけない。成功させなければならない」という思いがあるからで、強い向上心の表れともいえます。

しかし、高校・大学を卒業して社会に出ると環境は一変します。これまでは大目に見られた失敗も職場では上司に叱責されたり、成果を上げても期待したような評価が得られないなど、経験したことのない挫折感を味わうことが多々あります。

その時点で自分を振り返ることができればいいのですが、「自分は悪くない。ちゃんと教えてくれなかった上司が悪い」と他者を悪者にしてしまうため、良好な人間関係を築くことができなくなり、それがストレスをため込む原因となります。

こうした精神が未発達で気分変調が激しい性格を「ディスチミア親和型」といい、非定型うつ病(新型うつ病)になりやすい典型的な性格といわれています。

非定型うつ病(新型うつ病)の治療法

非定型うつ病(新型うつ病)の治療は薬物療法と精神療法が基本。まず、不安が強い場合は抗不安薬を用いて症状を安定させ、次に定型うつ病と同様に脳内の神経伝達物資を調整するSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬を用います。

ただ、非定型うつ病(新型うつ病)には抗うつ薬の効果はあまり期待できないため、精神療法を並行して実施するのが一般的です。

精神療法には主に「認知行動療法」が用いられます。うつ病になると物事のとらえ方が否定的・悲観的になりますが、それは認知の歪みによるものと考え、別の角度から見直すことで歪みを修整し、うつ病を改善していく療法です。

認知行動療法の効果は高く、70%以上の患者に改善が見られたという報告があります。この認知行動療法は自分ひとりで行えるので、うつ病予防・再発防止に役立ちます。一般向けに紹介した本が多数出版されていますから参考にするといいでしょう。

そのほか、うつ病の治療においては生活リズムを整えることが重要になるため、睡眠、食事、運動、休息、労働の5つの習慣を見直し、本来のリズムを取り戻すよう生活指導も行います。

まとめ

ここまで見てきた定型うつ病(メランコリー型)と非定型うつ病(新型うつ病)の違いを表にまとめてみましょう。

  定型うつ病 非定型うつ病
(新型うつ病)
年代層 中高年層 若年層
うつ気分 強いうつ気分が長期間続く。ほとんどのことに対して興味・関心を失う。テレビも観ない 気分の落ち込みはあるが、楽しいことがあると一転して元気に行動できる。しかし長続きはしない
食 欲 低下し、体重減少が目立つ 増進し、過食状態になりやすい
睡 眠 入眠障害・途中覚醒が多くなる 過眠。睡眠覚醒のリズムが乱れる
日内変動 朝は極度に気分が落ち込み、夕方にかけて楽になる 昼間はふつうで夕方から夜にかけて気分の落ち込みが強くなる
倦怠感 全身倦怠感がある 強い。手足が鉛のように重く感じる
心理的特徴 自責的・自罰的 他責的・他罰的

非定型うつ病(新型うつ病)は、気分の落ち込みがずっと続くわけではなく、気分の浮き沈みが激しいのが特徴です。朝の出勤時間帯は寝たりなくて頭痛や吐き気もするため会社を休んだのに、午後からはショッピングに出かけるなどふだん通りの行動をするため、家族からも仮病と誤解されがちです。

自分でも心の病とは気づきにくいものですが、うつ病は治療開始が遅れると慢性化・難治化しやすい病気です。それを防ぐためにも、自分で変調を感じたとき、あるいは家族が変化に気づいたときは、ためらわずに精神科や心療内科を受診するようにしましょう。

【参考】
みんなのメンタルヘルス 厚生労働省
平成29年(2017) 患者調査の概要 厚生労働省

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