生活の中で出会った人に対し、「この子、私以外の人と話しているところを見たことがないけど大丈夫かな」「仕事ができないのに態度が大きい人がいて、やりづらい」「飲み会で自分のことばかり話す人と隣の席になって疲れてしまった」と感じることはないでしょうか。
こうした状態が続くと、周りの人だけでなく困った行動を取っている本人の生きづらさにも繋がります。何度指導や注意をしても改善されない場合は、「パーソナリティ障害」という状態にあることが考えられます。パーソナリティ障害は複数のタイプがあり、他の精神障害や発達障害と併発していることもありますが、病院での治療や公的な支援を受けることのできる障害です。
この記事では、パーソナリティ障害の特徴や周囲の人がどう接したら良いかなどを解説していきます。
パーソナリティ障害とは
パーソナリティ障害とは、行動や考え方が平均的な人から見て著しく偏っている影響で、本人が苦しんだり社会生活に障害が出ている状態を指します。
アメリカ精神医学会ではパーソナリティ障害を10種類(妄想性・統合失調質・統合失調型・境界性・自己愛性・反社会性・演技性・依存性・強迫性・回避性)の特徴に分類しています。どれかひとつだけの特徴ではなく、2つ以上の特性が合併している、別の精神疾患を併発していることもあります。
治療には本人の気づきと周囲や専門機関の支援、長い時間が必要になります。本人が治療に積極的でない場合は、家族だけで受診することも可能な障害です。
<h3>1.パーソナリティに違いがあるのは当たり前、でも…
パーソナリティとは、人がそれぞれ持っている考え方や行動、社会への態度のパターンを総合したものです。同じ家庭内でも、まったく同じ環境で育った人が夫婦になるわけではありませんし、外で交流する人が違えばそれだけ受ける影響も違います。本来、パーソナリティは人によって違って当たり前といえるもので、目立つ人がいたとしても社会生活に馴染んでいれば「少し変わった人」程度の認識に落ち着きます。
しかし、これらの違いが常識的な範囲を飛び越え、極端な言動や行動を取る場合があります。周囲の人との軋轢が生じ、本人が生きづらさを感じている時は「違い」ではなく「障害」となります。
2.原因は解明されていない部分が多い
パーソナリティ障害の原因は研究途上にあり、はっきりと断定することは難しいのが現状です。考えられる原因として、遺伝・体質に起因するもの、養育環境や学校生活などの社会的要因、脳・神経機能に起因するものなどが挙げられています。
先にも述べたように、パーソナリティは人それぞれ違いがあって当たり前のものです。同じ出来事でも違う人が経験すれば受ける影響が異なるため、「この出来事はパーソナリティ障害の原因と断定できる」といったパターン化は難しいといえます。しかし、発症の原因として思い当たる出来事があれば、主治医やカウンセラーに話してみると良いでしょう。
人格障害という呼称は過去のもの
パーソナリティ障害はかつて、人格障害と呼ばれていました。しかし、その人の「人間性が悪い」といった誤解を呼ぶ可能性があることなどから、現在の呼称に変わっています。
パーソナリティ障害の特徴と対応
パーソナリティ障害は本人が障害に気づかず他責傾向を示す、性格との区別が難しいなどの理由で受診に結びつきにくい場合があります。しかし、本人が障害を自覚し、治療の意思を持つことが改善の一歩となるため、周囲からのアプローチが欠かせません。今回は、アメリカ精神医学会の10分類の中から自己愛性・強迫性・回避性の特徴をピックアップし、対応の例を紹介します。
1.自己愛性パーソナリティ障害の特徴と接し方の例
自己愛性パーソナリティ障害では、「過度に賞賛を求める」「他人を見下し、利用する」「自分が特別な存在だと思い込む」などの傾向が見られます。期待した評価がされないと怒りを感じ、時に周囲に暴力的になったりもしますが、これらの根底にあるのは強い劣等感です。傷つくことに敏感なこの特性に対しては、「自分は特別な存在でなくても良い」、つまりは等身大の自己像を本人が受け入れられるようなアプローチが必要になります。
接し方としては、評価するかしないかという軸ではなく、共感の態度をもって見守ることがポイントになります。特に家族やパートナーなど近しい人に激しい感情をぶつけることもありますが、適切な距離を保ちつつ冷静に対応することが大切です。
2.強迫性パーソナリティ障害の特徴と接し方の例
強迫性パーソナリティ障害は「〇〇であるべきだ」という考えが強すぎるがゆえに、計画などにこだわって仕事が遅れる、他人に支配的になるなどの傾向が見られます。周囲の環境にマッチすれば「仕事のできる人」などと評価されることもありますが、当の本人は自身のこだわりの強さに疲れてしまっている場合も。本人がこだわっている行動を軌道修正するというよりは、「もうひとつの考えや方法」を提案するというアプローチが大切になります。
この特性の傾向として、感情表現が苦手というものがあります。融通のきかなさなどの傾向も重なり冷たい性格のように感じることもありますが、本人なりに意味を持たせて行動していることを理解してあげることが重要です。
3.回避性パーソナリティ障害の特徴と接し方の例
回避性パーソナリティ障害はその言葉の通り、社会への参加を回避する傾向が見られます。これらの原因には「極端に自信がない」状態があり、他人の評価を極端に恐れています。元来の内気な気質から始まっていることもありますが、活発な人でも挫折経験などから失敗を恐れるようになり、発症することがある障害です。
この特性に対しては、本人の意向を尊重しながらやりたいことを実行に移していくことで、成功体験を自信に代えていくことが有効といわれています。
見守る周囲の人もしっかり自分を守りましょう
これら3つ以外の特性においても、パーソナリティ障害を持つ本人を支える周囲の人がまずはしっかり自分を守ることが大切になってきます。発症した家族やパートナーの支援がつらいと感じた時は、思い切って外泊する、ひとりであるいは友人など家族以外の人と外出するなどリフレッシュする時間を作りましょう。職場などでパーソナリティ障害を抱える同僚の対応をしている場合は、つらい気持ちをきちんと上司や同僚に伝えるなどして身の振り方を相談してみるのも良いでしょう。
暴力や暴言などの加害が発生している場合は、DVやハラスメントの専門窓口へ迷わず相談し対応しましょう。
パーソナリティ障害が受けられる支援や窓口
パーソナリティ障害は精神科・心療内科での診察になりますが、治療は長期間に渡り、時に振り出しに戻ったように感じることもあります。治療にあたり利用できる支援制度を紹介します。
1.自立支援医療
自立支援医療とは、精神疾患により長期間の通院が必要な人に対し、医療費の負担軽減を行う制度です。制度を利用するには所得状況や通院状況など一定の条件はありますが、支援が決定した際に交付される受給者証を病院に持参すると、医療費の負担を1割に軽減できます。
2.精神保健福祉センター
精神保健福祉センターは全国各地に設置されており、医療アクセスや社会復帰への支援など業務内容は多岐に渡ります。電話やメールでの相談を受け付けている場合もあるため、家族や周囲の人について「もしかしたらそうかも?」と感じた時はまず相談してみると良いでしょう。
3.精神障害者保健福祉手帳
パーソナリティ障害も精神障害保健福祉手帳の交付を受けられます。厚生労働省が発表している項目の中では「その他の精神障害」に分類されるため、必要に応じて申請を検討してみましょう。
まとめー身近だからこそ気にかけたいー
パーソナリティ障害は「その人の性格」と判断し見過ごしてしまうと、重篤なトラブルに発展するおそれがあります。また、患者が加害者になってしまう場合もあるため、おかしいな?と思ったら話しやすい人から情報を伝えてみるなど、複数人で見守る工夫も必要です。
大切な人やあなた自身を守るためにも、パーソナリティ障害についてさらに調べてみてはいかがでしょうか。
【参考文献】
林直樹監修『ウルトラ図解 パーソナリティ障害(法研, 2018)』
齋藤英二監修『「心の病気」が」きちんとわかる本 症状・対処法・受診(西東社, 2019)』
土田治「パーソナリティ障害とは(2024年4月5日閲覧)」
厚生労働省「精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について(2024年4月5日閲覧)」
同「職場における自殺の予防と対応(2024年4月5日閲覧)」
執筆者プロフィール
「明日役に立つかもしれない」をモットーに活動しているライター。社会的養護・児童福祉を中心に、実生活で役に立つ制度や法整備について独自に調査を続けている。執筆可能な領域は福祉のほか、歴史(西欧近現代史)や言語学習などがある。