大人の10人に1人が一生に一度はかかると言われる「うつ病」。誰でもかかる可能性のある病気ですが、「自分はうつ病とは無縁」と重症化するまで放置しがちです。
多くの場合、周りの人も「少し疲れがたまってるのかな?」と思う程度で、まさか心の病にかかっているとは想像もしていません。
しかし、うつ病の人はサインを発しています。本人の意識にかかわらず、「話し方」「行動」「表情」「体調」などにうつ病の特徴が現れているのです。
そこで今回は、うつ病の人とその予備軍、職場の人や家族も見逃してはならないうつ病のサインを5つまとめてご紹介します。
必ずうつ病だと判断できる基準ではありませんが、以前と比べて明らかに変わったと思える特徴が分かれば、メンタルクリニックなどを受診するきっかけになるでしょう。
うつ病の人の「話し方」に表れる特徴
まずうつ病のサインとしては、話し方や言葉の違いが挙げられます。会話や言葉を司っているのは脳の前頭葉という部分ですが、うつ病や躁うつ病の人は前頭葉の血流が低下しているという研究結果があります。
近赤外線を利用して脳の血流変化を測定する「光トポグラフィー」という検査において、健常者とうつ病患者などで血流に違いがあることが分かっています。
最近はフェイスブックの投稿内容を解析し、うつ病の傾向を見極めるといった研究も行われているほどですので、うつ病のサインは話し方や使われる言葉に表れるのは間違いないと言えます。
ただ、「こんなことを言い始めたら必ずうつ病」という明確な基準はありません。一般的には以下のような話し方はうつ病の疑いありとされています。
- 単極性障害の話し方や言葉の特徴
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- 声が小さくなり口数が減る
- 質問に対する返答が遅い
- 会話のキャッチボールがそっけない
- 話した内容をしっかり理解していない
- ネガティブな内容の話が多い
- 「私は」と1人称の話が多い
- 独り言が多くなる
- 双極性障害の話し方や言葉の特徴
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- 早口になる
- 声が大きい
- 口数が多い
- 人の話より自分の話が優先
- いつまでも話し続ける
- 初対面の人に突然声をかける
- 大したことではないのに大笑いする
普段の何気ない行動の陰にもうつ病のサインが隠れていることが多いものです。これはハーバード大学とバーモント大学の研究チームが行ったものですが、Instagram(インスタグラム)に投稿された膨大な写真を分析した結果、うつ病の人の写真は、青く、灰色になり、暗くなる傾向があると報告しています。
【出典】arXiv Instagram photos reveal predictive markers of depression
グラフの赤いバー(左側)が健康な人、青いバー(右側)が気分の落ち込んだ人です。気分の落ち込んでいる人は、インスタグラムのフィルター機能を使用する頻度が低く、フィルターを使ったとしてもInkwell(モノクロ)というフィルターを好む傾向があることがわかります。
ところで、うつ病には気分が落ち込む「単極性障害(抑うつ)」と、気分の落ち込みと高揚を交互に繰り返す「双極性障害(躁うつ)」の2種類があります。単極性と双極性では治療法も異なりますので、それぞれの症状と表れ方を理解しておきましょう。
- 単極性障害(抑うつ状態)の行動の特徴
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- 食べる量が少ない、または過食である
- 趣味や楽しみに興味を示さない
- 決断が遅い、または決断できない
- 動作が遅くぎこちない
- 集中力がない
- 理由もなく泣く
- だらしなくなる
- 作業の効率が悪くなった
- ミスが増えた
- 遅刻や欠勤が増えた
- 同僚を避けるようになった
- 業務中の居眠りが多い
- 以前より飲酒量が増える
- 家事や育児を放棄することがある
- 双極性障害(躁状態)の行動の特徴
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- 落ち着きがない
- イライラしがち
- 派手な服を着るようになった
- 目的もなく突然外出する
- 怒りっぽくなった
- 大それたことを言いがち
- お金を派手に使う。多額の借金をする
なお、躁(そう)状態と抑うつ状態の表れ方には以下の4パターンがあります。
- 双方がほぼ同間隔で出たり消えたりする
- うつ状態が長く、躁状態が短い
- 双方が急速に入れ替わる(急速交替型)
- 双方の症状が入れ乱れる(混合型)
うつ病の人の「表情」に表れる特徴
うつ病の人は常に「暗い表情」もしくは「顔の表情に変化がない」のも1つの特徴です。うつ病の原因は主に「脳の働き」というのが有力ですが、最近の研究結果によると「扁桃体」と「DLPFC(Dorsolateral prefrontal cortex、背外側前頭前野)」が原因ではないかとされています。
扁桃体は不安や悲しみ、恐怖といった感情を司る部分。DLPFCは扁桃体の働きを制御する部分です。うつ病の人はDLPFCの働きが低下しているため扁桃体が暴走し、その結果、悲しそうだったり暗かったりする顔の表情になると見られています。
【出典】一般社団法人 産業精神保健機構
人は顔の表情だけでなく、行動や会話からも他人の気持ちを読み取ろうとします。うつ病の診断においても行動や会話などを見たうえで総合的に判断しますので、顔の表情だけでうつ病かどうかわかるものではありませんが、うつ病を発症した人に見られがちな表情があるのも事実です。最近ではうつ病の人に表れる表情筋や血流による顔色などの特徴を研究している専門家もいます。
- うつ病の人によく見られる表情
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- 無表情なことが多い
- ぼんやりしている
- 話していても上の空
- 表情に覇気や元気が見えない
- 悲しげな表情が多い
- 無理やり笑っているように見える
うつ病の人の「気分や体調」に表れる特徴
以上は第三者から見たうつ病の特徴やサインです。うつ病も身体の病気と同じで本人にしか分からない気分や体調に表れるサインがあります。厚生労働省では自覚できるうつ病のサインとして次のような心身の不調を挙げています。
- うつ病の人に表れる気分の変化
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- 抑うつ気分(憂うつ、気分が重い)
- 何をしても楽しくない、興味が湧かない
- 疲れているのに眠れない、一日中眠い
- いつもよりかなり早く目覚める
- 何かにせき立てられているようで落ち着かない
- 悪いことをしたように感じて自分を責める
- 自分には価値がないと感じる
- 思考力が落ちる
- イライラする
- 死にたくなる
- うつ病の人に表れる体調の変化
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- 食欲がない
- 身体がだるい
- 疲れやすい
- 性欲がない
- 頭痛や肩こり
- 胃の不快感
- 便秘がち
- 動悸がする
- めまいがする
- 口が渇く
うつ病は心の病だから気分が落ち込んだり思考力が低下するのは納得できるけど、体調にまで症状が表れるのは意外だと感じる方もいるかもしれません。これは、ホルモンバランスの乱れや血流の悪さが関わっていると考えられています。
脳内のセロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質が正常に機能していれば感情を一定に保ち、病気にもかかりにくくなります。神経伝達物質の機能が過剰なストレスを受けたことなどによって低下すると、ホルモン分泌や血流にも影響して結果的に体に症状が現れると見られています。まさに「心と体は表裏一体」なのです。
自分のうつ症状の程度を確認したいというときは、塩野義製薬株式会社と日本イーライリリー株式会社が提供する「うつ病の症状チェックシート」が1つの参考になります。全18項目で構成された気分や体調の質問に答えると、うつ病の傾向を診断してくれるチェックシートです。
うつ病を始めとした精神障害は本人の自覚が最も重要と言われますが、今回ご紹介したような症状について、第三者が気づいてあげることも重要です。
うつ病は放置すると慢性化しやすく、慢性のうつ病になると治るのが難しくなる病気です。それを防ぐためにもうつ病のサインに気づいたら早めに専門医を受診をするようにしましょう。初診のときは家族が付き添うのが望ましいといわれています。
執筆者プロフィール
医療ライター
編集プロダクションに勤務し、主に健康書の企画・執筆・編集業務に従事。専門医や大学教授の著作に執筆協力として長年携わったのち独立。現在はフリーの医療ライターとして書籍やWeb媒体で記事を執筆中。