「精神障害者を雇用したらどんな仕事を任せるべきか?」
このように障害者雇用を考える企業側の疑問に対し、障害者を持つ当事者たちは以下のような不安を抱えています。
「病気や障害を理由に不採用にされるのでは……」
「精神障害でも自分に合う仕事はあるのだろうか……」
事務職や技術職、営業職など様々な職種がある中で、精神障害者にどんな仕事が向いているかは難しい問題です。
「障害者雇用なら事務補助が良い」と言われることもありますが、障害の種類や程度によって個人差が大きいため、簡単には決められません。
そこでデータや実例を基に、精神障害者に「事務職」「技術職」「営業職」のどれが向いているかを考察し、障害者と企業の両者に有用な情報をお伝えします。
精神障害者に合う仕事内容は?症状別の代表的職種
「精神障害者は事務職・技術職・営業職に向いている?」という疑問に対し、一概にYes/Noでは答えられません。
精神障害と言っても種類や症状は様々ですが、いくつかの障害別の症状と一般的に向いていると言われる職種をご覧ください。
- 【うつ病・双極性障害】
- 症状:精神・身体的なストレスなどにより不眠、食欲低下、気分の落ち込み、躁状態などの症状が出る
適職:軽作業や倉庫などのバックヤード、工場のライン作業など人との接触が少ない仕事が向いているとされる - 【統合失調症】
- 症状:五感からの情報を脳でまとめられず、幻覚や幻聴、意欲や記憶力の低下などが起こる
適職:事務補助や農業、清掃など自分のペースで行える仕事が向いているとされる - 【発達障害】
- 症状:脳発達の偏りにより注意力欠陥や衝動的な行動、低いコミュニケーション力、学習能力の偏りなどがある
適職:デザイナーやライター業など特化した能力を活かせる仕事や提案型の販売職などが向いているとされる - 【パニック障害】
- 症状:脳ホルモンなどが原因で突然パニック状態に陥り、次のパニックを過剰に不安に感じるなど
適職:統合失調症と同じくマイペースに続けられる仕事が向いているとされる
精神障害者が事務職・技術職・営業職のどれに向いているかと考えるより、障害があっても続けられる仕事内容かが重要です。
精神障害者に向いているのは、本人の性格や障害の特性に合っている仕事というのが一つの答えになります。
精神障害者が最も多く雇用されている職種は?
実際に精神障害者が働きたいと考える職種はデータから読み取れます。
以下のグラフは、厚生労働省が発表している平成30年度障害者雇用実態調査結果の資料にある「障害別で就労している職種の割合」です。
精神障害者で多く就労している職種は「サービス」「事務」「販売」となっており、発達障害者は「販売」「事務」「専門・技術職」が多くなっています。
今回のテーマである「事務職vs技術職vs営業職」という観点で考えると、精神障害者に共通して人気の職種は「事務職」であるのが分かります。
興味深いのは「サービス」「専門・技術」「販売」の職種で精神障害者と発達障害者の割合に大きな差がある点ですが、理由は以下のように解釈できます。
- 【サービス職】
- 精神障害者:一定のペースで業務が行えるなら可能
発達障害者:電話や接客などコミュニケーション面で困難が多いため向いていない - 【専門・技術職】
- 精神障害者:複数の情報や作業行うマルチタスクが苦手なため向いていない
発達障害者:集中力の高さや能力の偏りによって高い技術力を発揮できる可能性がある - 【販売職】
- 精神障害者:気分が不安定なためコンスタントに売り上げを積んでいくことが難しい
発達障害者:ADHDの場合、その行動力を活かしたセールストークの多い販売職が向いている
まとめると、精神障害者はマニュアルに沿った仕事ができる事務職やサービス職が向いており、発達障害者は専門的な知識を要したり行動力が試される技術職や営業職が向いている傾向があると言えるでしょう。
参考までに、障害別の年収を以下の記事にて解説していますので是非ご参照ください。
事務職は未経験だけど働きたい…精神障害者の本音
精神障害者たちは、各職種についてどう感じているのでしょうか。
まずはナレッジコミュニティサイト「OK WAVE」にあった質問をご紹介します。
- 【精神障害者には事務職は不可能ですか?】
- 現在バイトで倉庫内作業をしていて、事務職に転職したい者ですが、いつも書類選考で落とされてしまい、なぜ書類選考で落とされるのかわかりません。
転職回数は7回ぐらいしており、いままで軽作業系をメインに仕事をしてきて、事務職については全くの未経験ですが、簿記や情報処理の資格を持っており、PCスキルについては問題ないのです。
なぜ事務職に就きたいのか言うと、細かい作業を根気よくやれて、小さなミスでも見落とさずに細かい作業をコツコツ正確に行っていくのが得意ので、私にはこの仕事は向いていると思い志望したからです。
(中略)
そんな場合でも、精神障害者だというだけで、事務職は難しいのでしょうか?- 【ベストアンサー】
- 私は精神障害2級ですが、(中略)精神障害者だから不採用ということはないと思います。
採否を決める要因ですが、面接を受けた印象では多分、一番大きいのは経験だと思います。
(中略)
一口に事務職と言っても多岐に渡ります。比較的入りやすいのは入れ替わりの激しいテレホンオペレーターなどでしょうか。まずは入りやすそうな分野を当たってみられてはいかがでしょうか。【引用】OK WAVE
最初にお伝えした通り、事務職と言っても様々な職種があるため一概に言えないとの回答でした。
確かに精神障害者でも資格や経験を活かせる職種なら、それが最も向いている仕事なのかもしれません。
続いてはYahoo!知恵袋に投稿された、発達障害者が障害者雇用で事務職に就職したケースの相談です。
- 【事務職で障害者雇用で入社し数ヶ月ですが仕事がありません】
- (中略)毎日1〜2時間はない状態です。発達障害者で電話応対が苦手なため、電話には出なくてよいと配慮していただいており、仕事内容は書類作成、ファイリング、郵便物作成、データ入力です。ちなみに他に障害者の方はおらず障害者雇用は私が初めてだそうです。
主治医は仕事がないのは会社の責任、と言いますが、体調不良で休みがちなので仕事が任せられないとか、Excelなども最低限の知識しかないため作業効率が悪いとか、私にも落ち度はあります。
(中略)
これらのことを心がけて今はじっと耐えていればいいのでしょうか?- 【ベストアンサー】
- (中略)障がい者の人を迎え入れて、部下についてもらったことがあります。(中略)ご記載の内容に似た状況が発生しまして、どうしても手待ち時間を発生させてしまうことがありました。
原因はその方の能力・・・ではなくて、職場にまとまった量の業務がなかったからです。
(中略)
こちらも、できれば一日を仕事で埋めてあげたいと思いつつ、心苦しくてですね・・・。で、強く申し上げたいのは、そうした状況はあなたがどうこうという話では一切なく、職場の状況上致し方ないことなので、あなたが気を病む必要は一切ありません。
(中略)
とにかく卑屈にならずに、そういう職場もあるんだ、位のお考えで、日々を健康的に過ごされることを祈っています。【引用】Yahoo!知恵袋
障害の症状を理由に一部の業務はしなくて良いという配慮はよく耳にしますが、その配慮により雇用された障害者の仕事が少なくなるのも事実です。
その点は会社側も申し訳なく思っていることがよく分かる事例と言えるでしょう。
障害者枠?一般枠?希望職種に就職するポイント
ここまで精神障害者にとって向いている仕事は、事務職、技術職、営業職のうちどれかを考えてきました。
結論として「障害」と「職種」という大きな括りで考えるのではなく、本人の意思と障害の特性を勘案し、両者で相談して業務を振っていくのが望ましい形です。
ただ、「やりたい仕事があるなら、障害者枠ではなく一般枠で応募すればよいのでは?」と思われる方も多いでしょう。
確かに履歴書に障害の有無を書く必要はなく、法律上の義務もありません。
実際の経験者による「障害者枠で応募して落とされた!」という話もありますので、一般枠での就職も一つの手段なのは事実です。
もし障害を伏せて就職活動に臨むなら、以下の事柄を忘れてはいけません。
- 障害の症状が仕事に支障をきたさないことが前提
- トラブルを起こす可能性があるなら障害者枠で就職するのが無難
- 会社は従業員に健康診断を受けさせる法的義務があり、既往歴がバレる可能性はゼロではない
一般的に会社が健康診断の結果を積極的に見ることはありませんが、検診結果によっては通院を強く勧奨されるケースもあります。
保険証を会社に見せる場面も無いとは言い切れませんので、障害を伏せても絶対にバレない保証は無いと考えましょう。
企業は障害を理由に雇用の是非を決めてはいけないという法律があり、同時に障害を伏せて入社したことで起きたトラブルや裁判例もあります。
希望の職種に就職するために大事なのは、障害者本人が自分のできる事や経験などのアピールポイントを見極めること。
「私が入社したらこんなことができます!」と自信を持って言えるポイントをしっかり担当者に伝えられれば、向き不向きにかかわらず希望の職種に就職できる可能性も出てくるでしょう。
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