「広汎性発達障害に向いてる仕事はある?」
「就職しても仕事ができないのではないだろうか?」
これらは広汎性発達障害のある当事者や障害者雇用を検討する企業にとって重要な問題です。
確かに広汎性発達障害者の方で「就職はできたが、仕事が上手くいかず辞めてしまった」という話をよく聞きますが、なぜ広汎性発達障害の人は就職が難しいのでしょうか。
アメリカの精神医学会が発行するDSM-5では、自閉症スペクトラム障害(ASD)に広汎性発達障害(PDD:pervasive developmental disorders)が統合されていますが、世界保健機関(WHO)が発行するIDC-10では、広汎性発達障害が定義されているため、日本でも使われています。
この記事では広汎性発達障害の就職における困難や向き不向きの仕事を解説します。
広汎性発達障害の就職が難しいと言われる理由
広汎性発達障害のある人の就職が難しいと言われるのは、仕事において重要なスキルが低くトラブルの引き金となるケースが多いためと考えられます。広汎性発達障害の主な特徴は3つです。
- 【コミュニケーションの困難】
- 相手の感情を読み取ったり適切な言葉やジェスチャーが使えなかったりする
- 【対人関係の困難】
- 社会生活における様々なルールや暗黙の了解が理解できない
- 【社会適応の困難】
- 物事に対する興味関心に極端な偏りがあり柔軟な対応が難しい
例えば、定型のフローが決まった事務作業などは、黙々と仕事を続けて高い能力を発揮します。
逆に臨機応変な対応が求められるサービス業などでは、その場の空気や適切な判断ができずにお客様を怒らせてしまったりすることがあるのも事実です。
至極簡単に言ってしまうと、広汎性発達障害はマイルール通りに事を進めることは得意な反面、「気が気ない人」「自分勝手な人」と見られてしまいがちなのです。
広汎性発達障害者の就職でよくある事例
「いくら障害と言っても、仕事のルールや業務フローを最初に教えれば問題ないのでは?」と思われるかもしれません。
当然、仕事をする前は誰でも仕事のルールや業務フローの説明を受けます。しかし広汎性発達障害の場合、いざ業務を始めると頭で理解していることができないのです。
先ほど広汎性発達障害の仕事の例を少しご紹介しましたが、もう少し具体的な例を見てみましょう。
- 【事例1】
- 子供の頃からマイペースな性格だったAさん。勉強はできる子でしたが、特徴的な話し方が受け入れられずいつも一人ぼっちでした。社会に出れば状況も変わるかと思われましたが、やはりマイルールへのこだわりが強いため他の人より仕事が遅く、上司から叱責を受けることも多々。また悪意はないものの、場の空気が読めずに取引先の人に失礼なことを言ってしまうこともありました。次第に会社に行くのも辛くなり、ついには二次障害であるうつ病を発症するに至ってしまいました。
- 【事例2】
- プログラマーとしてIT企業に入社したBさん。作業は早い方ではありませんが、クオリティの高い仕事が評判。そのため早々に昇進して数名の部下を持つことになりました。しかし労務や業務管理といった上司として必要な仕事がままならず、時には自分の仕事を優先して部下の失敗を見過ごしてしまうこともありました。更にクライアントの納期に間に合わず、会社に損害を与える結果に…。最終的にBさんは転勤を命じられ、それまでとは全く違う事務作業の部署へ配属となってしまいました。
上記のような事例は、広汎性発達障害の就職で非常によくあるケースです。もしかすると「似たような人がいるかも……」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
広汎性発達障害に向き不向きの仕事
マルチタスクや取引先との折衝が必要な業務は苦手なのが広汎性発達障害です。
そのため広汎性発達障害は、「営業職」「接客業」「コールセンタースタッフ」などの臨機応変な判断が必要な仕事は向かないと言われています。
では逆に、広汎性発達障害に向いている仕事とは何でしょうか。あくまで一例ですが、よく言われる主な職種をご紹介します。
- 【広汎性発達障害に向いた仕事】
- ・プログラマー
・デザイナー
・大学や企業の研究員
・作家、画家
・工芸家
・会計関連
・電気設備の保守点検
・工場のライン作業
・清掃業務
など…
最初に広汎性発達障害の特徴を大まかに3つご紹介しましたが、仕事の場面での具体的な特徴を見ると向き不向きの仕事が見えてきます。
- 【コミュニケーションの困難】
- ・相手の冗談が理解できず「失礼なことを言われた」と怒り出す
・相手が理解できるかどうかに関係なく独自の話し方や難しい言葉で話す - 【社会適応の困難】
- ・一つの仕事は黙々とこなすが複数の仕事や同時進行の仕事が極端に苦手
・業務で作成する物の完成度にこだわりすぎてしまい納期に間に合わない - 【対人関係の困難】
- ・身だしなみに無頓着だったり周りが不快に思うほど不衛生だったりしても気にしない
・社内や取引先でさほど親しくないのに軽々しい言動で接してしまう
広汎性発達障害は一つのことに没頭する傾向にあり、円滑なコミュニケーションや対人関係を築くのが困難です。そのため、周りの環境に左右されない職種が望ましいとされています。
「広汎性発達障害は仕事ができない」の誤解
「広汎性発達障害は仕事ができない。よって就職も難しい。」
そんな一般認識も実は誤解があります。広汎性発達障害は仕事ができないのではなく、仕事の得意不得意が人よりハッキリしているだけなのです。
よって広汎性発達障害の就職においては、本人の努力だけでなく、障害者雇用を考える企業側の理解があってこそだと考えましょう。
では最後に、広汎性発達障害の就職や仕事でよくある事例に対してどんな対応が考えられるか一例をご紹介します。
- 【複数の仕事に対して臨機応変に対応できず優先順位を理解できない】
- 本人に優先順位や業務フローを任せるのではなく、予め仕事の段取りを決めて随時進捗を確認する。また業務マニュアルを作成、イレギュラーケースがあったらその都度上司に報告相談できる環境を整える。
- 【一つの仕事に集中しすぎて納期に間に合わない】
- 作業や業務の時間を決めたり、スケジュール表や業務日報などを毎日作成する。タイマーなどをセットして、時間がきたら強制的にでも休憩を取らせるような体制にする。
- 【対人関係で問題を起こしがち】
- 広汎性発達障害のある本人だけでなく、職場全体として定期的に面談の日を作る。また、広汎性発達障害のある本人が問題を起こした時は上から目線で叱責するのではなく、なぜダメなのか、どうすべきなのかなど本人が理解できるよう説明する。
- 【業務内容や部署異動があった途端ミスを連発する】
- 広汎性発達障害がある本人はもちろん、企業側も本人は何が困難で何が得意かを理解、整理する。必要に応じて業務内容の変更や配置転換を検討する。また、職場内では日頃から障害に対する理解を深める活動を行い、社内全体でのフォロー体制を整える。
広汎性発達障害のある人は業務のマッチングさえ上手くいけば、著しく秀でた能力を発揮することもあります。
本人の障害に対する理解はもちろん、会社との間で良好な関係を築くことができれば、就職や業務上の困難も大幅に軽減できるのではないでしょうか。
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