障害を持つ方とのコミュニケーション方法を紹介。効果的な3つのアプローチとは?

障害を持つ方とのコミュニケーション方法を紹介。効果的な3つのアプローチとは?


「障害のある方を採用したが、周囲がイライラ…トラブルが起きて困ってしまう」
「同僚から『障害のある社員にはもうやめてほしい』と言われ担当者が板挟みになっている」

上記はいずれも、障害者雇用の現場で「あるある」なお悩みです。この記事では、障害者を雇用している現場の担当者向けに、起こりやすいトラブルや効果的なアプローチを解説します。
担当者が孤立して悩まないためのコツもお伝えしますので、ぜひ最後までお読みください。

障害者雇用で起こりやすいトラブル

障害者雇用で起こりやすいトラブルとしては、以下の5点が挙げられます。

  • 上司や同僚とすれ違いが生じ、雰囲気が悪化する
  • 担当者がご本人と周囲の板挟みになってしまう
  • 心身の調子が悪くなり遅刻・欠勤してしまう
  • 障害に配慮した「評価」が困難
  • 仕事を続けることができなくなり、離職

一つずつ解説します。

1.上司や同僚とすれ違いが生じ、雰囲気が悪化する

障害のあるご本人は意欲をもって入社してきています。また、受け入れ側の上司や同僚もできるかぎりのことをしてあげたいと思っているはずです。
それなのに、なぜかちょっとしたことがきっかけで双方の気持ちがすれ違い、雰囲気が悪くなってしまう……。時には口論や陰口、いじめなどのトラブルに発展してしまうこともあります。
職場全体の雰囲気にも影響しますし、このあと解説する「担当者が板挟みになる」問題にもつながってしまいます。

2.担当者がご本人と周囲の板挟みになってしまう

障害のあるご本人は「周囲が理解してくれない。差別を受けている」などの不満を抱えて働いており、一方上司や同僚からは「コミュニケーションがとりづらい」「障害を理由に怠けているのではないか」という苦情が出てしまう。
……そんなトラブルが起こる場合があります。

その結果担当者が板挟みの状態に追い込まれることも珍しくありません。

担当者としては、障害のある・なしに関わらず気持ちよく働いてほしいと願っているはずです。
それなのにうまくいかないと悲しいですよね。

  • 事業主がひとつの部署や特定の担当者に対応を「丸投げ」している
  • 障害のある方と健常な方の相互理解が進んでいない

以上のような原因から、このようなことが起きてしまう場合が多いです。

3.心身の調子が悪くなり遅刻・欠勤してしまう

障害をもっている方は心身共に繊細である場合が多く、健常者なら乗り越えられるような疲れや不調でも休んでしまうことがあります。中には自分のキャパシティを超えてがんばりすぎてしまい、心が折れてそれっきり出勤できなくなるケースもあります。
連絡の上での遅刻・欠勤であればまだ良いのですが、状態が悪化すると無断での遅刻・欠勤が増えてきます。周囲も大いに迷惑をこうむりますし、ご本人も次第に職場にいづらくなってしまいます。
その結果、短期での離職につながる場合が多いので注意が必要です。

4.障害に配慮した「評価」が困難

健常者の社員であっても、昇進や昇給につながる「評価」は難しいもの。障害がある方ならなおさらです。障害や特性に配慮せず評価すればご本人に「厳しすぎる」「差別だ」と受け取られてしまいます。
しかし逆に評価を甘くすれば周囲の理解が得られにくく、「障害を理由にえこひいきしている」などと考える人も出てくるかもしれません。
障害者雇用の場合、障害者のための人事評価制度を別途用意することが推奨されます。そうすることで、障害のある方に配慮しながら正当に評価できるからです。
しかし実際には、独自の人事評価制度をつくるまでは至っていない企業が多いでしょう。「既存の人事評価制度に手を入れる余裕がない」「障害者の実態に合わせた人事評価制度をつくることが難しい」などがその理由です。

5.仕事を続けることができなくなり、離職

障害者雇用の現場では「離職率の高さ」が問題になっています。これまで見てきたようなトラブルが続くと、障害のある方は働き続けることが難しくなり、離職につながってしまいます。
会社としては一から採用のやり直しになり、これまでかけた採用や研修のコストが無駄になってしまいます。現場の社員も、せっかくいろいろ教えて慣れてきた方が辞めてしまうことで、また新しい人を受け入れ教育しなおさなければなりません。ご本人にとってもいわゆる「職歴に傷がついた」状態になってしまうためダメージが大きいのです。
このように、短期離職は誰にとってもマイナスだといえます。

障害者雇用を成功させるために効果的な3つのアプローチ

ここまで、障害者雇用に見られがちなトラブルを見てきました。現場で働く人々にとっては、いずれもストレスがかかるトラブルです。
しかし対策がないわけではありません。
効果的なアプローチは以下の3点です。

  • ご本人について「知る」
  • ご本人の特性に合った「合理的配慮」
  • 担当者が孤立しない「他部署・他機関との連携」

いずれも大切なポイントです。詳しく見ていきましょう。

1.ご本人について「知る」

何といっても大切なのが、ご本人の障害を理解することです。そのためには、こまめな面談がおすすめです。
採用後すぐの面談では以下のことを聞きましょう。

  • ご本人の障害への自覚や配慮してほしいこと
  • 調子が悪くなりやすい時期(気圧、季節、特定の時期など)
  • 得意なことや苦手なこと

本格的に働き始めてからも、健常者よりも高い頻度で面談の機会をもつようにします。職場によっては、「毎週月曜日」「毎朝9時から」など定期的に面談(ミーティング)を入れているところもあります。ご本人の様子を聞くだけでなく、その日・その週の業務内容を伝えたり注意事項を確認したりもできるので、一石二鳥です。
面談では…

  • 周囲に感謝していること、配慮してもらえて嬉しかったこと
  • 働いていて戸惑う場面や困っていること
  • 上司や同僚にしてほしいこと、やめてほしいこと
  • 心身の調子

などを尋ねるようにします。
面談では話しやすい雰囲気を心がけ、ご本人の答えに違和感があっても頭ごなしに否定しないようにします。もちろん、「すべてご本人の言いなりになる」ということではありません。思いを十分に聞き取った上で、会社としてできることとできないことを明確に伝えるようにしましょう。できないことや難しいことがあれば、「どうすればできるのか」という視点をもってスモールステップで取り組むよう促します。
面談後に大切なのは「情報の共有」です。話の内容や配慮してほしいこと、体調の変化などはご本人の了承を得てできるかぎり現場に共有しましょう。周囲の理解が深まり、スムーズなコミュニケーションにつながります。

2.ご本人の特性に合った「合理的配慮」

障害者雇用促進法第2条第1号によって、障害のある方には「合理的配慮」をすることが義務付けられています。
(参考:厚生労働省「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律の概要」)

この「合理的配慮」を上手に行うことによって、障害者雇用で起こりがちなトラブルを未然に防ぐことができます。「合理的配慮」とは、「障害のある人が職場で働くにあたって、支障となることを改善するために必要な措置をとること」。
具体的な事例はこちらの内閣府のサイトに分かりやすく示されています。
内閣府「合理的配慮等具体例データ集

上記の資料から、精神障害の方への合理的配慮を例に見てみましょう。

【精神障害者に対する合理的配慮の提供の例】

  • 細かく決まった時間や多人数の集団で行動することが難しいときには、時間やルールなどの柔軟な運用を行うようにする
  • 曖昧な情報や一度に複数の情報を伝えると対応できないときには、具体的な内容や優先順位を示すようにする
  • 情緒不安定になりそうなときには、別室などの落ち着ける場所で休めるようにする

これらの事柄を業務に応用すれば、障害のある方が落ち着いて仕事に取り組む環境を作れます。安定した障害者雇用をめざすのであれば、おすすめは職場独自のマニュアルや人事評価制度を作ることです。
障害の種別や程度に応じて配慮することや評価の仕方をまとめておきましょう。実際の事例を見ながら少しずつ改訂を繰り返していけば、職場にぴったりのマニュアルや人事評価制度が出来上がっていきます。
内閣府の資料では、具体的な「提供事例集」も閲覧することができます。配慮の仕方に困ったときは非常に参考になりますよ。
内閣府「障害者差別解消法 【合理的配慮の提供等事例集】

3.担当者が孤立しない「他部署・他機関との連携」

気を使うことの多い、障害者雇用。担当者が孤独になり追い詰められてしまっては元も子もありません。
担当者が孤立しないためには「連携」を大切にしましょう。具体的には他部署との連携と他機関との連携です。
他部署との連携では、人事部・総務部などとの情報共有に努めましょう。健常者と何もかも同じにするのではなく、障害者雇用としての人事制度や事務手続きの方法を共同でつくっていくようにします。
他機関との連携では、多様な視点から障害者雇用成功のヒントを得ることができます。具体的な連携先としておすすめなのは「障害者就業・生活支援センター」です。
「障害者就業・生活支援センター」は、就業支援全般に対応しています。就業及びそれに伴う日常生活上の支援を必要とする障害のある方に対し、センター窓口での相談や職場・家庭訪問等を実施します。こちらでは「職場適応支援」といって、事業所に対しての支援も行っています。
「この方に合った合理的配慮は?」「どんなサポート体制を組めば継続して働ける?」などを知りたい際に相談すると、有益なアドバイスが得られます。
(参考:厚生労働省「障害者就業・生活支援センター事業について」

加えて、障害者ご本人が応募する際に支援してくれた機関(就労継続支援事業所、就労移行支援事業所、特別支援学校など)と継続的につながり、アフターフォローをしてもらうことも非常におすすめです。
いずれにしても管理職に「丸投げ」させない工夫、体制づくりを行うことで、担当者が孤立してしまうのを防ぎましょう。

まとめ―効果的なアプローチでトラブルを防ごう

障害者雇用は、「採用して終わり」ではありません。むしろ、採用後の対応次第で仕事のクオリティや職場の雰囲気、障害のある方の離職率などが大きく変わってきます。
トラブルを防ぐためには、担当者が1人で抱え込まないことが重要。ご本人についての知識や理解を深めることや合理的配慮を心がけることに加え、他部署・他機関との連携を心がけるようにしましょう。

執筆者プロフィール

TOPへ