障害者を雇用するにあたっては、健常者と障害者で分けて考えるのではなく、共存できる職場環境の構築を目指す必要があります。これは「障害者を雇用するから」ではなく、現代の企業に求められるダイバーシティを実現するためにも必要なことだからです。
しかし、障害の症状や疾病は人それぞれで、一概に「こうすべき」「こうすれば良い」という決まったルール等はありませんし、職場環境を変えるには企業側の負担が生じることも事実です。
この記事では障害者と健常者が共存できる職場を作るためのポイントや具体的にどのような事例があるかなどを解説します。会社の方針をどうすべきかイメージが湧かないという採用担当の方にも参考となる情報ですので、ぜひご一読ください。
厚生労働省が指針とする「合理的配慮」と「職場環境の作り方」
障害者と健常者が共に働く職場とするために欠かせないものに「合理的配慮」があります。合理的配慮とは、「障害者の人権と自由を確保するため、その障壁となるものを取り除いていこう」という考え方を基に、個々の障害に適応した措置を行う事です。
では、障害者雇用の現場で合理的配慮を具体的にどう行い、どのような職場環境を作っていくべきでしょうか。厚生労働省が示している「障害者雇用対策基本指針」では、障害者のための職場環境を作るため、以下のようなポイントで合理的配慮が必要だとの指針を示しています。
- 1.採用と配属
- 点字や手話、音声の活用と採用面談の時間の延長など
- 2.教育訓練の実施
- 職場環境に慣れるまでの時間を十分に儲けたり、障害者職業能力開発校などの訓練を活用するなど
- 3.処遇
- 短時間労働者が所定時間の労働を希望した場合は、事業主は能力等に応じた適正な待遇を行うように努めるなど、障害者の業務状況に併せた処遇を行う
- 4.安全・健康の確保
- 職場内や周辺の施設、設備の点検と整備、そして健康診断等の障害に併せた健康管理を実施する
- 5.職場定着の推進
- 障害者雇用の担当者の選任や、相談、指導のための相談員の設置、障害者就業・生活支援センターと連携した支援、ジョブコーチの活用や職場内でチームを設置するなど
- 6.障害及び障害者についての職場全体での理解の促進
- ダイバーシティや障害者雇用など、職場内の啓発活動を通じて社内の理解を深める
- 7.障害者の人権の擁護、障害者差別禁止及び合理的配慮の提供
- 合理的配慮の提供で問題が発生して自主解決が難しい場合、都道府県労働局の紛争解決のための援助や障害者雇用調停会議による調停を活用する
【参考】合理的配慮指針 – 厚生労働省
厚生労働省の示した指針では、採用面談の段階から合理的配慮が必要としており、採用後の教育はもちろん、障害者の安全面や健康面への配慮、継続した雇用などが実現できるように努める必要があります。障害者雇用を検討する際の基本的指針でもありますので、これを機に一通り把握しておきましょう。
職場環境作りを行うための助成金
前章で障害者を雇用する際の合理的配慮をご紹介しましたが、それらを実現するには、施設や設備の改造、障害者雇用の促進や啓発活動を行う担当の選任、障害に併せた機器やシステムの導入が必要となります。
ただ、全ての企業において合理的配慮が必須という訳ではなく、先ほどの合理的配慮指針や障害者雇用促進法においても「過重な負担となるようであれば必ずしも合理的配慮の実施は必要ない」とされています。とはいえ、障害者の雇用は企業の義務であり、可能な限り推進していかなければなりません。
そこで活用を検討したいのが「助成金」です。どんな助成金があるかを知ることで、具体的な職場環境作りもイメージしやすくなるかもしれませんので、合理的配慮に関する助成金をご紹介します。
障害者作業施設設置等助成金
障害者の雇用や継続雇用を行う事業主が、障害者が作業しやすいよう配慮されたトイレ・スロープなどの設置や整備をするための助成金です。
- 〈助成金上限〉
- 障害者1人に付き最大450万円
- 〈期間・回数〉
- 3回まで
障害者介助等助成金
障害者の雇用や継続雇用を目的とする事業主が、障害の種類等に応じた雇用管理を行うために必要な費用の助成金です。
- 〈助成金上限〉
- 職場介助者の費用:配置/月15万円 委嘱/1回1万円(年間150万円まで)
- 職場介助者の継続費用:配置継続/月13万円 委嘱継続/1回9千円(年間22~135万円まで) ※業務内容による
- 手話通訳・要約筆記等担当者の委嘱費用:1回6千円(年間28.8万円まで)
- 障害者相談窓口担当者の配置:月額8万円(1人)
- 〈期間・回数〉
- 職場介助者の配置、委嘱:10年
- 職場介助者の配置、委嘱の継続:5年
- 手話通訳・要約筆記等担当者の委嘱:10年
- 障害者相談窓口担当者の配置:月1回
障害者雇用安定助成金(一部抜粋)
職場への適応や定着という課題を抱える障害者に対し、ジョブコーチ(職場適応援助者)による支援や雇用形態の見直しなどの工夫を実施する場合の助成金です。
- 〈助成金上限〉
- 柔軟な時間管理・休暇取得:6~8万円(年間) ※企業規模による
- 短時間労働者の勤務時間延長:15~54万円(年間) ※企業規模や障害の種類による
- 正規・無期転換:33~120万円(年間) ※企業規模や障害の種類による
- 職場支援員の配置:1.5~4万円(年間)
- 社内理解の促進:2~12万円(1回)
- 〈期間・回数〉
- 柔軟な時間管理・休暇取得:1年
- 短時間労働者の勤務時間延長:1年
- 正規・無期転換:1年
- 職場支援員の配置:2年
- 社内理解の促進:1年
上記の他にも「重度障害者等通勤対策助成金」という住宅手当や自転車の購入、駐車場の賃貸などの費用の助成金などがあります。
合理的配慮の実現が過重な負担となるかどうかは、生産性への影響や費用負担の程度、企業規模などにより総合的に判断されますが、それらに加えて上記の助成金を活用しても過重な負担に該当するのかという前提で考えていく必要があります。
職場環境作りで相談できる窓口
もし障害者雇用が初めてであれば、独自に障害者雇用を進めていくのではなく、専門機関への相談やアドバイスを受けることをおすすめします。
専門機関と連携することで、スムーズに障害者雇用を進められるだけでなく、企業と社員そして障害者との間での相互理解を深めることにも繋がります。
障害者雇用について総合的に相談するなら、「地域障害者職業センター」がおすすめです。採用前の段階から雇用後の悩みまで幅広い相談や支援が受けられますので、障害者雇用の現場では最初に頼りにしたい機関です。
【参考】地域障害者職業センター
http://www.jeed.or.jp/disability/employer/employer01.html
また「中央障害者雇用情報センター」では、特例子会社を経営した経験や支援機器の資格をもったコーディネーターが、障害者雇用の方針、就業規則や賃金、その他必要になる機器などについての相談を受け付けています。障害者雇用の理解を深めるDVDの無料レンタルも行っており、専門家のサポートが必要な時に頼りにしたい機関です。
【参考】中央障害者雇用情報センター
http://www.jeed.or.jp/disability/employer/employer05.html
精神障害者の職場環境を改善した事例
最後に、実際に障害者を雇用するにあたり、職場環境を改善した事例をピックアップしてご紹介します。障害にも種類があるため、ここでは主に精神障害をお持ちの方が雇用されたケースでの職場環境改善事例になります。
- 〈サービス業界〉
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・対象者の負担を軽減するために短時間の面接を行った
・希望の勤務地を聞き、通勤負担が少ない場所を提案した
・業務指導や体調管理は現場の責任者だけでなく、人事などにも連絡がいく体制を整備している
・通院が必要なため、優先的に休めるようにしている - 〈機器製造・販売業〉
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・面接で緊張をほぐすため、リラックスできる部屋で会話を引き出す姿勢で臨んだ
・在宅勤務のため、朝礼と終礼をTV会議で行っている
・体調を聞くのはプレッシャーになる場合があるため、会話の中で判断している - 〈運輸・物流業〉
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・マニュアルではなく、口頭での説明と手本を見せて作業方法を覚えてもらっている
・事務所や工場内の好きな場所で休憩を取れるようにしている
・業務の習熟度や本人の希望で労働時間を増やすことを可能にしている
・本人の了解のうえ、障害の内容と配慮すべき事項を現場に説明している
これらはあくまで一例ですが、障害者雇用の現場では、業種や企業規模などにより様々な合理的配慮が行われています。今回参考にした「障害者雇用事例リファレンスサービス」では、障害の種類や業種別などで多くの事例を見ることができますので、障害者を雇用するにあたっての参考にしてみてはいかがでしょうか。
まとめ
障害者と健常者の従業員が共存できる職場環境を作るには、まず事業主と障害者との双方の話し合いや認識の一致が必要です。これは合理的配慮指針でも示されており、事業主の負担が大きすぎる場合も、その旨を障害者に説明する必要があります。
その上で障害者を雇用する上での知識や職場全体の理解を深め、助成金を有効活用しながら障害者を雇用すれば、合理的配慮のなされた障害者雇用を実現できるでしょう。障害者雇用における配慮が企業側の独りよがりにならないように、関係機関への支援の申し出や障害者との話し合いは積極的に行うことが大切です。
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