あなたは「VR」と聞いて何をイメージされるでしょうか。仮想空間の空飛ぶ体験やリアルなゲーム、アイドルに会えるといったエンターテイメントをイメージする方もいるでしょう。
今VR業界ではゲームやエンターテイメントだけでなく、就職活動における職場体験ができるツールとしても活用が始まっています。
今回はVR職場体験で何ができるのか、その概要やメリット、障害者福祉の現場でも既に活用されている事例などをご紹介します。
VR職場体験とは?VR開発事情を紹介
VR職場体験は、VRヘッドセットなどを使い、場所の移動をせずにその場で就活イベントの企業プロモーションや面接前の職場案内などの職場体験ができるサービスです。
例えば、アルバイトやパート求人情報サイト「バイトル」を運営する株式会社ディップでは、VRによる「しごと体験」や「職場体験」を実現できるサービスを提供しています。
仕事体験や職場体験のサービス自体は応募率向上と離職率低下を目的として以前から提供されていましたが、サービス利用者の声や需要の高まりを受けてディップ社は共同開発にてVR職場体験を始めたのです。
そんなVR職場体験の主な立役者となっているのが株式会社ジョリーグッドです。ジョリーグッド社は、これまでに様々な業界でVRサービスの共同開発とサービスの提供を行っています。例えば、VRによる医療研修システムや製鉄所のVR職場体験、飲食店のVR職場体験といったサービスです。職種は違うものの、VR職場体験を開発するきっかけになった理由はほぼ共通しています。
【参考】VRで「しごと体験」・「職場見学」を実現! VR×AI人材ソリューション「Guru Job VR」4月10日(火)より提供開始 | プレスリリース | ディップ株式会社
VR職場体験がもたらすメリット
では、開発に至ったきっかけとも言えるVR職場体験のメリットについてご紹介します。VR職場体験を導入する主なメリットは以下の通りです。
- ≪VR職場体験のメリット≫
-
- 就業後のイメージが明確になり、求人に対する応募のミスマッチを防げる
- 会社案内や職場の雰囲気などの説明が担当者により違うということが無くなる
- 就業前の研修に導入することで人件費などのコスト削減ができる
- 遠方の人でも職場体験に参加することが可能になる
求職者が地方に住んでいる人だったり、職場の雰囲気などの言葉では伝えきれない部分が可視化されるのはVRの大きなメリットと言えます。実はジョリーグッド社は、障害者の就労支援で活用できるVRサービスも既に提供を開始しています。
ソーシャルスキルトレーニングにも活用されるVR職場体験
では、障害者向けのVRサービスとは具体的にどのようなものなのでしょうか。ジョリーグッド社が提供するのは、発達障害者向けのソーシャルスキルトレーニングVR「emou(エモウ)」です。
「emou」は、学校や職場での様々な場面をVRで再現し、必要になる対人スキルを学ぶことができるサービスです。emouのサービス内容は以下の2つに分かれています。
- 学齢期向け
- 7~18歳を対象にした学校などにおける支援プログラム
- 就労移行期向け
- 16歳以上を対象にした就職の前に行う支援プログラム
ソーシャルスキルトレーニングとは、生活の中で起こる場面をロールプレイングにより再現し、どの場面でどんな対応が適切か学ぶプログラムです。しかし、トレーニングを行う支援者の力量やプログラム内容の違いにより、トレーニング後の効果にばらつきがあるのが課題とされてきました。
それを解消するのが「ソーシャルスキルトレーニングVR」です。VRですから同じ場面を繰り返し見ることができ、ソーシャルスキルトレーニングのブレを無くすことを実現しています。
また、emouにはロールプレイングでは再現しづらい「その場の雰囲気」や「人との距離感」という微妙な場面が48本収録されています。その中には「面接」や「仕事中の対応」などの職場体験に近い内容も含まれており、今後は就労支援ツールとしてだけでなく、障害者向けのVR職場体験サービスとしての活用にも期待できそうです。
VR職場体験を導入する日本企業
では、就労移行支援としてVR職場体験を導入している事例はないのでしょうか。調べたところ、群馬県高崎市にある就労移行支援事業所「ワークフォー」がVR職場体験を導入していることがわかりました。
ワークフォーではオフィスのような無機質な空間で利用者を緊張させないよう内装を工夫し、企業と提携して実際の業務を施設内で再現する訓練を行っています。施設を安心して利用してもらうため、ワークフォーが行う工夫の一つが「VR職場体験」です。
就職活動の中でのミスマッチは障害者の就職における一つの課題であり、実際、障害者は職場に復帰しても離職してしまうことが少なくありません。VRにより事前に職場体験ができれば、離職率の改善につながるでしょう。ワークフォーの斎藤統括長は上毛新聞社のインタビューに対し「VRを使ったリアルな体験は、画期的な方法だと思います」と話し、その効果に期待を寄せています。
一部の調査機関では、医療分野で使われるVR市場の規模は2021年に153億円、2026年には342億円にまで成長すると予測しています。今後本記事でご紹介したような福祉や医療、就職といった場面でのVRの活用はますます進んでいくことが予測されます。福祉の現場におけるIT化は周回遅れであるとも言われますが、VR職場体験はそんな障害者福祉における一つの光明となるのかもしれません。
【参考】work for 高崎事業所
執筆者プロフィール