【障害者支援施設 インマヌエル】利用者にとっても、働く人にとっても「ここが家」と思える施設でありたい―福祉施設インタビュー

【障害者支援施設 インマヌエル】利用者にとっても、働く人にとっても「ここが家」と思える施設でありたい―福祉施設インタビュー

『利用する人達にとってはここが家になる。気持ちいいと思える空間を作らなければならない』

社会福祉法人 婦人の園のプロジェクトとして、1982年に開設された「障害者支援施設 インマヌエル」。2022年3月には現在の富士山を望む標高700mの地に移転し、本格稼働を開始しました。
開設以来、「施設から家へ」をスローガンに、障がい者と共に生きてきたというインマヌエルさんの想いや事業内容を、理事長であり、施設長でもある髙橋頼太さんにお話を伺いました。

施設について教えていただけますか?

(髙橋)
初代理事長が大切にしていたのは、「一時的であっても、利用する人達にとってはここが家になる。だから、自分達が住んでも気持ちいいと思える空間を作りたい」ということでした。また、それだけではなく「働く人達にとってもいいと思える場所でないといけない」という想いもありました。

この想いのもと以前の建物は、正門から玄関まで100メートル程度、長い通路がある奥まった作りでした。そして、扉を開けるとエントランスの向こうに広い庭が見えるという、利用者や従業員にとって気持ちのいい空間でしたね。また、福祉施設なのでガラスなど危険なものは、なるべく減らせと言われていましたが開放的な空間を造るために議論があったようです。福祉施設としては当時、とても斬新なことだったと思います。

現在の地に移転した経緯やその時の想いを教えていただけますか?

(髙橋)
移転した経緯は、以前の施設が新東名高速道路の高速道路建設の事業用地となってしまい、移転を迫られたことです。それがなければ、移転など考えてもいませんでした。移転すると決まってからは、建物のデザインや空間に徹底的にこだわりましたね。特に、初代理事長の想いを受け継ぎ「施設であっても、家のような場所であるべき」をスローガンに掲げ「気持ちよく生活する」ということにこだわりました。

しかし、いざ取り掛かってみると当初は、「気持ちいい空間作り」とは具体的にどんなものなのか、立場によっても違いよくわからず難しかったですね。それで、いろんな方たちにお会いして、新しい施設作りを模索しました。その時に、保護者の方からある建築デザイナーさんを紹介してもらいました。そして、その方とお会いして、自分たちの想いを話したところ、私たちの想いをきちんと理解してくださり「この人なら任せて大丈夫だ」と確信したのです。

その方を中心にワークショップを何回も開催しました。そこで「自分なら将来どんな暮らしをしたいか」といったことを模索し続けました。このワークショップには、みんな(利用者)も保護者も職員も、そして地域の方にも入ってもらったりしながら、いろんな提案をいただきました。

(髙橋)
私たちの想いやデザイナーのデザインコンセプトのみならず、多くの人たちからいただいた提案の結果だと思っています。ところが、実際に具体的に設計に入ると以前の施設の時と今回では建築法が変わっているので、いろんな不都合なことが起きてくる。周囲からも心配の声が挙がったりしましたね。

たとえば、保護者からの要望で頂いた「できるだけ職員がみんな(利用者)を看やすいように作る」という要望に対応するため、真ん中に職員がいて、みんなの部屋を扇状に並べるという案を計画したのですが、そうすると見渡しが非常に良くなり、いい感じになりました。ところが、それに類する実際の建築物を探すと、なんと刑務所になってしまう。それで、やはり、管理側の目線だけではダメだなと。もっと、みんな側の目線を取り込んでいかないと、ということになり、それで「自分たちが住みやすい=みんなが住みやすい」という発想を重視するようになったのです。

それで、みんなにとってどのような空間が住みやすいのか観察すると、みんなは管理者側からすると、死角になる場所を選びそこで楽しそうに過ごしているんです。これを、自分に当てはめて考えると、確かに四六時中誰かに見られてる場所で過ごすのは気持ち悪いですよ。このように、いろんなこと、目線を考えながらコンセプトを練っていきました。

完成した施設デザインや空間はいかがですか?

(髙橋)
まず、本館には食堂があるのですが、富士山の頂上も見えて東西からは豊かな光が差し込む作りになっています。富士山を非常にきれいに眺めることができる場所だと感激しています。みんな(利用者)や運営サイドだけではなく、地域の方にも利用していただきたいぐらいです。ここは「富士山を見ながらゆっくりできる場所」なのです。こういう場所を福祉施設であっても、提供できるということを証明したような気分ですね。

具体的な居住空間としては、みんなのニーズに合わせて壁の模様が異なる約50部屋のプライベート個室がランダムに配置されています。先ほど話した「死角」を意識しながらみんなが「人の目線が気にならない」作りとなっており、矛盾するようですが一方では安全確保のためになるべく死角を作らない作りになっています。

さらに、男女合わせて6つのグループごとに小さな集落になっています。それぞれにパブリックの小サロンを、男女それぞれに畳敷きの中サロン、さらに男女共用の大サロンと食堂・中庭があるという、ゆったりと過ごせる作りになっています。

施設にあるカフェについて

(髙橋)
Café PAZLは「ここに来た人にゆっくり富士山を楽しんでもらいたい」というコンセプトのもとに設計されています。中でも、意識しているのはお子さんがいる家族。「お子さんを遊ばせながらでも、ゆっくりできる場所」にこだわっています。また、来客者に障がいがあると言われる方たちを身近に感じてもらえるきっかけになってほしい、という思いもあって施設の中に開設しています。

カフェには世界中の本格コーヒーが用意されていて、オリジナルブレンドのコーヒーを楽しむこともできます。バリスタの資格をもったスタッフさんがいて、丁寧にコーヒーを淹れてくれます。

インマヌエル祭りとはどのようなものですか?

(髙橋)
地域の方々も気軽に来園できる文化祭として、年に1度開催しています。みんな(障がい者の方)による歌の発表や作品の展示、模擬店、ボランティアの方々による演奏、バザーや抽選会などのお祭りです。

施設のみんなの日常というのは、どうしても「サービスの受け手」になってしまう。しかし、彼らにももちろん、自分たちの方から発信したいこと、提供したいことなどあるわけでして、その発表の場になればと思っています。
また、店の売り子になったり、本を作ったり、焼きそば作りの手伝いなど、当施設の利用者が働き手になれる機会なのです。みんなが働く側に回り、地域の人達をもてなすことができるいい機会だと思っています。これは、今後も継続していきます。

今後の展望について教えていただけますか?

(髙橋)
私は、みんな(障がい者の方)が私たちの社会にいてくれていることは、私たち健常者にとっても価値のあることだということをできるだけ多くの方に知ってもらいたいと思っています。福祉業界の仕事はとかく世間では避けられがちです。しかし、この業界には通常の社会では体験できない、経験できないことがたくさんあるのです。それは、みんなと触れ合うことや彼らの感性を間近で見ることだけでしか体験できない、素晴らしいものです。

彼ら彼女らにしか生み出せないものや作り出せないアートなどがたくさんある。そのことを世の中にもっと知ってもらいたい。私たちの施設がその手助けになる一つのツールになれるように、努力していきたいと思っています。

画像提供:障害者支援施設 インマヌエル

今回は施設紹介としてインマヌエル施設長、髙橋さんのインタビューをお届けしました。
なお、福祉.tvでは、現在インマヌエルさんとアートプロジェクトを進めており、こちらも続編として後日ご紹介させていただきますので、お楽しみに!

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