発達障害に事務職は不向き?営業職や技術職との違い

発達障害に事務職は不向き?営業職や技術職との違い

発達障害に限らず、障害者雇用の現場において事務職の雇用は最も多い状況です。発達障害の人に向いている仕事を考えた時、真っ先に「事務職」を思い付く方は多いのではないでしょうか。

本来、事務職は1つの作業だけでなく業務の範囲が多岐にわたるため、発達障害の人にあまり向いているとは言えません。

ここでは発達障害者に事務職が向いていない理由と営業職や技術職と比べてどうかという点も併せて解説いたします。

発達障害に事務職は向いてないと言われる理由

一般的に発達障害の人には事務職は不向きだと言われています。理由は事務職の「業務内容」です。事務職といっても職種によって業務内容は多種多様ですが、共通している業務も多くあります。

【事務職の主な業務内容】
・データ入力
・労務や経理などの庶務
・電話や来客対応
・請求書や見積書などの発送
・その他書類整理
etc

専門性が必要ないものなら、一つ一つの業務はさほど難しくないでしょう。問題は、ほとんどの事務職が「単一の業務を黙々とこなす職種は少ない」という点。例えば事務職の仕事では、以下のようなシーンがよくあります。

「一つの業務に集中しつつ同僚や先輩社員が進める業務の進行具合を見て、臨機応変に別の作業も進める」

事務職の現場では「仕事をしながら周りの様子を見て、別の業務に着手する」ということがよく起こります。マルチタスクの仕事や臨機応変な対応を求められるのが事務職なのです。そんな事務職に対して発達障害の特性や症状がマッチするか、発達障害の主な特性や症状を見てみましょう。

【発達障害の主な特性や症状】
・忘れっぽかったり物を無くしたりする
・常にソワソワしたり周りが気になって集中できない
・複数の作業を同時進行するマルチタスクが苦手
・あうんの呼吸や「あれ」「それ」が理解できない
・場の空気や相手の気持ちを読み取れない
・他のことに興味が薄く、自分な好きなものに没頭する
・計算や書字読字などのいずれか特定の技能が極端に苦手

事務職は単純作業が多いものの、実は周りとの連携が大事な仕事。当然、数字や文字の間違いがあってはいけませんので集中力や記憶力も求められる仕事です。対する発達障害は、集中力に欠けたり周りの空気や状況を読めないといった特性があります。周りの状況を見ながら複数の業務を同時に行う事務職は、発達障害の人には向いていないのです。

発達障害に営業職は向く?向かない?

事務職に対し、営業職は発達障害の人に向いているでしょうか。発達障害と営業職の相性については二通りの意見があります。

・行動力に溢れ活動的であるため、オフィスワークより営業職のほうが向いている
・複数の仕事をこなさなければならず、忘れっぽさがあるため営業職には向かない

意見が分かれるのは発達障害の症状と営業職の種類に違いがあるためです。営業職といっても、とにかく数をこなす飛び込み営業もあれば、決まったエリアを回るルート営業など様々です。

また、発達障害もADHDやASD、SLDなどの種類により症状は違います。「他人に興味がない」という傾向が強い人もいれば、「知らない人でも積極的に話しかけられる社交性のある人」もいます。しかしながら、営業職の業務内容や求められるスキルを考えると、安易に営業職が向いているとは言い切れません。

【営業職の主な業務内容】
・アポイント取り
・電話や訪問による営業活動
・訪問活動やプレゼンテーション
・見積書や提案書の作成
・受注後のアフターフォロー
etc
【営業職に必要な主なスキル】
・積極性や行動力
・スケジュール管理
・コミュニケーション力
・ITスキル 
etc

営業職はマーケティングから始めて見込み客の開拓などを行います。その上でアポイントを取って顧客のもとを訪問し、仕事やサービスを受注したら今度はアフターフォローまで行わなければなりません。

営業職はマルチタスクの仕事であることがほとんど。発達障害の人に営業職が向いているかどうかは、「営業職の種類と発達障害の症状や特性との相性次第」というのが結論になります。

なお、発達障害の種類に関して以下の記事で詳しく解説しています。それぞれに適した職種を紹介していますので、併せてご覧ください。

広汎性発達障害(PDD)でも就職できる?向き不向きの仕事は?

ADHDに向いている仕事は?事務職、営業職、技術職を比較

発達障害なら技術職・専門職が向いている?実際の雇用事例

さて、実はもっとも向いていると言われているのが「技術職」や「専門職」です。理由は発達障害の人に多い「自分の好きなことには高い集中力を発揮する」という特性があるためです。

では、具体的に技術職や専門職にどんな仕事があるか、国が定めている日本標準職業分類から抜粋してご紹介します。

【専門職や技術職の具体的な職種例】
・研究者
・電気、電子、電気通信技術者
・機械技術者
・測量技術者
・システム設計者
・記者、編集者
・彫刻家
・画家、書家
・工芸美術家
・デザイナー
・写真家、映像撮影者
・俳優
・演芸家

上記のような仕事は黙々と作業に取り組む工程が多く、環境さえ合えば高い成果を上げるというケースも少なくありません。自分の得意を発揮しつつ周りのことを気にせず没頭しやすいため、発達障害の人に向いていると言われているのです。

もちろん技術職や専門職にも様々な職種があるため、一概に断言できることではありません。しかし、発達障害の人が技術職や専門職で就職し、大きく活躍しているケースがあるのも事実です。

【株式会社十勝毎日新聞社の雇用事例】
広汎性発達障害のある人が、過去の記事をデジタル化する部門にて紙面のデータ入力と写真の加工作業などを担当。作業遂行スピードや正確さで優れており、「全国障害者技能競技大会(アビリンピック北海道大会)」のパソコンデータ入力部門で最優秀賞を2度受賞した。集中力を持続することが難しい特性があるため、クラシック音楽をかけつつ休憩を小まめに取ることで業務の制度やスピードを維持できた。

【参考】高齢・障害・求職者雇用支援機構-障害者雇用があまり進んでいない業種における雇用事例

発達障害の人でも安心して働くために大事なのは、「集中して仕事ができる職場環境」や「障害の特性に合わせた指示出しなどの工夫」です。就労環境と障害の特性さえマッチすれば、発達障害の人だからこその高い能力に期待できると言っても過言ではありません。

発達障害者の就職先で最も多い職種と向き不向きの考え方

最初に発達障害の人には事務職は向かないとお話ししましたが、実際のところ発達障害の人で事務職に就職している人は多くいます。求人募集でもっとも多いのが事務職であり、同時に就職支援施設から斡旋される就職先が事務職というケースも多いためです。事実、厚生労働省が公表する障害者雇用実態調査において、発達障害者の就職数は事務職が2番目に多くなっています。

【出典】厚生労働省-平成30年度障害者雇用実態調査

このグラフを見て「販売職は営業の要素が強いから発達障害者の就職数は少ないはずでは?」と思われた方も多いのではないでしょうか。

実は販売職は顧客対応さえマニュアル化していれば、発達障害者でも十分対応可能な職種です。そのため、発達障害者の就職数がもっとも多い職種になっています。一方で得意分野を活かせる専門職や技術職などの他の職種における就職数は多くありません。

人の命に関わる医療関係や車の運転を必要とする仕事もあるため、発達障害にとって向き不向きを考える事は重要です。発達障害者がどんな仕事に就職するか考えるにあたり、まず大事なのは自分の得意不得意を明確にすること。その上で詳しい業務内容や障害への配慮がある会社かどうかを確認できれば、きっと発達障害者が活躍できる仕事を見つけられるでしょう。

執筆者プロフィール

TOPへ