障害者雇用において、定着率が低かったり適した仕事がなかったりといった悩みを抱えている企業も多いでしょう。長く働いてもらうためには、障害の有無にかかわらず仕事にやりがいを感じられることが重要です。
しかし、障害者に合う仕事が、既存の業務の中では見つからないケースもあります。そういった場合に有効なのが、障害者の強みや特性に合わせた「カスタマイズ就業」です。
この記事では、カスタマイズ就業のやり方や効果について解説しますので、ぜひ障害者雇用の参考にしてみてください。
障害者に合わせるカスタマイズ就業
カスタマイズ就業とは、障害者の特性に配慮しつつ、能力を生かせるように仕事内容を調整することです。障害者が苦手を避け、強みを生かして働ける環境であれば、仕事に対するやりがいを感じられるでしょう。
企業においては、企画部が営業部の仕事をしないように、部署ごとで業務は分かれています。同じ部署内でも一人ひとりの仕事内容は違うでしょう。カスタマイズ就業では、既存の業務だけでなく、もっと細かく個人に合った仕事を考えます。
そのため、ニッチな部分に特化した、新たな仕事を作り出すことも可能です。部署ごとで行っていた備品管理や紙資料の印刷・製本、管理などを、障害者が社内全体を取りまとめて専任で行うのもよいでしょう。
カスタマイズ就業で見込める効果
障害者に合わせて仕事をカスタマイズできれば、当人が「きちんと仕事をしている」実感を持て自己肯定できます。それは定着率の向上にもつながるでしょう。
また、障害者に合う仕事がないと、場当たり的に仕事を振ってしまいがちです。とりあえず与えていた仕事ではなく、適切な仕事で会社に貢献してもらうことで、障害者と企業の双方が満足できます。カスタマイズ就業では、障害者に合わせるだけでなく、企業側にもメリットがあることが重要です。
障害者に合わせた仕事内容を模索するためには、まず、ニーズや強み、苦手といった特性を知る必要があります。障害者と企業双方のニーズを満たすために、企業が求めることも考えておきましょう。
カスタマイズ就業の種類
カスタマイズ就業のやり方には主に以下のようなものがあります。
ジョブカービング
「ジョブカービング」とは、既存の仕事から一部を切り出して新たな仕事を作り出すことです。既存の仕事を障害者が働きやすい形にカスタマイズするため、これまでとは違った仕事内容となります。
職務再構成
「職務再構成」では、既存の職務内容から障害者が対応可能な仕事を複数切り出し、新しい仕事を再構築します。いくつかの仕事を組み合わせることで、新たな1つの仕事を構築します。
職務創出
「職務創出」とは、社内でまだ対応できていないニーズから新しい仕事を作り出すことです。様々な理由で取り掛かれていなかった社内ニーズと障害者のニーズが一致するラインを探りましょう。
ジョブシェアリング
「ジョブシェアリング」とは、その名のとおり複数人で仕事をシェアすることです。お互いの強みを生かして仕事内容を分担します。テレワーク社員や時短勤務社員など、勤務時間が限られている社員と日替わりで業務を行うのもジョブシェアリングの一環です。
カスタマイズ就業を実施するための方法
カスタマイズ就業を実施するためには、何よりも障害者の特性に対する理解と知識が必要です。障害のせいで苦手とすることを理解できなければ、障害者に合わせたカスタマイズは難しいでしょう。もちろん、障害者のニーズをしっかりと聞き出す必要もあります。
社内の業務については詳しくても、障害者のニーズを読み取り、特性を理解するのは容易ではありません。その場合、障害者雇用の支援機関への相談や事例を参考にすることを検討してみましょう。
支援機関に相談する
障害者雇用には、雇用前の段階でも雇用後も様々な悩みがあります。自社だけでは解決が難しいことは積極的に支援機関に相談することをおすすめします。障害者雇用についての支援機関には、主に以下の3つがあります。
- ハローワーク
- 地域障害者職業センター
- 障害者就業・生活支援センター
ハローワークでは、障害者の希望職種やニーズ、障害特性についてのヒアリングを担当者が行っています。ハローワークを通して障害者を採用した場合は、障害に対する配慮についてアドバイスを求めてみましょう。
障害者就業・生活支援センターでは、障害者の就業と生活を総合的に支援しており、企業に対する相談や支援も行っています。
地域障害者職業センターでは、障害者の就労に関して全般的に支援しています。その一環として、企業に対するアドバイスも行います。
また、障害者を雇用してからの悩みについては、ジョブコーチによる支援がおすすめです。
ジョブコーチでは、障害者の職場適応に関する具体的なアドバイスを行います。障害者と企業の双方にアドバイスやサポートを行うため、カスタマイズ就業も実施しやすいでしょう。ジョブコーチには以下の3種類があります。
- 地域障害者職業センターに所属する配置型
- 社会福祉法人などに所属する訪問型
- 企業に雇用される企業在籍型
また、ジョブコーチ養成研修を受け、社員が企業在籍型ジョブコーチになることも可能です。その場合は助成金制度がありますので、今後の障害者雇用を考えるなら検討してみましょう。
事例を参考にする
カスタマイズ就業をゼロから考えるのは簡単ではありません。まずは、他の企業の取り組みや事例を参考にしてみましょう。
日本国内での事例は「障害者雇用事例リファレンスサービス」が参考になります。業種や従業員人数、障害の種類によって絞り込んで、実際の取り組みやその効果を確認できます。
どんなことに取り組んだのか、それによって障害者や企業にどんな変化があったのか、事例を参考にすると、自社ができる取り組みも見えてくるでしょう。
同様に「カスタマイズ就業マニュアル」も参考になります。アメリカの事例が基になっているため、単純に参考にするのは難しいかもしれませんが、カスタマイズ就業でどのように新たな仕事を作り出すかのヒントにはなるでしょう。もちろん、カスタマイズ就業についての知識も深まります。
カスタマイズ就業で定着率が改善できる
カスタマイズ就業で障害者の仕事に対する満足度を高めることは、定着率の改善にもつながります。そのためには、障害者の特性に合わせ、どのように仕事内容をカスタマイズするかが重要です。
障害者がニッチなニーズを満たしてくれることで、社員一人ひとりの負担も軽減でき、それぞれがコアな業務や担当業務に集中できるようになるでしょう。
障害者雇用を通して、企業と障害者がWin-Winの関係であるためには、カスタマイズ就業の考え方が欠かせません。大幅な職務変更でなくても構いませんので、まずはできることからカスタマイズ就業を始めてみましょう。
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