知的障害者の就労支援!雇用に役立つ支援機関や制度をまるっと解説

知的障害者の就労支援!雇用に役立つ支援機関や制度をまるっと解説

 

知的障害者が働くことは、社会がより豊かになり、そして本人が自信を持ち、自立して生きるためにとても重要です。日本では、障害者雇用促進法に基づいて、企業の障害者雇用率(労働者に対する障害者の割合)を2.3%から、令和8年度には2.7%に引き上げることが決まっています。そのため、雇用管理に対する相談援助の助成金や、障害者雇用支援制度の強化が予定されています。
しかし、障害者雇用支援の具体的な内容や機関については、あまり知られていないのが現状です。この記事では、知的障害者の就労の現状や、どのような支援機関があるのか、どのような支援制度があるのかについてわかりやすく解説します。
これから紹介する支援機関や制度を知ることで、あなた自身や身近な人の働くチャンスを広げてくださいね。
参考:令和5年度からの障害者雇用率の設定等について

知的障害者とは?

知的障害者とは一部の学習や理解、問題解決などの思考能力に遅れがある人のことを指します。ただし、すべての能力が遅れているわけではありません。人によって特性や能力はさまざまです。
ここでは、知的障害の概要と雇用における知的障害の区分について解説します。

1.知的障害者の概要

知的障害者とは、社会的なスキルや日常生活の知識やスキルに遅れがある人のことです。
ただし、すべての能力が遅れているわけではなく、「話し言葉は理解できるが、文章の読み書きや理解するが苦手」という人もいれば、「言葉による指示を理解するのが苦手で、視覚的な指示の方が理解しやすい」という人もいます。
障害の程度や適正、意欲、興味などは人それぞれであり、知能指数だけで仕事の能力を判断するのは避けるべきでしょう。

2.雇用における知的障害者の区分

知的障害者と一言でいっても、それぞれが持つ能力や障害の程度は人さまざまです。日本では、地方自治体から発行される療育手帳によって、知的障害者の確認と障害の程度を判別しています。
手帳の等級は、A(重度)、B1(中度)B2(軽度)の用に区分している自治体が多いです。療育手帳Aと地域障害者職業センターで重度知的障害と判定された場合、重度障害者の扱いとなります。障害者雇用率において、1人を2人として算定します。
また、週所定労働時間が20時間以上30時間未満の場合は、短時間労働者となり、重度障害者の場合は1人、それ以外の場合は0.5人として算定します。
参考:特定短時間労働者の雇用率算定について

障害者の雇用の実態は?

障害者の雇用の実態はどのようになっているのでしょうか。ここでは、障害者の雇用率と知的障害者の平均賃金を解説します。

1.障害者の雇用率

厚生労働省の「令和4年度障害者雇用実態調査」によると、令和4年6月の時点で、雇用障害者数は61万3958人となり、前年に比べて1万6,172人増加しました。(対前年比2,7%増)これで19年連続で過去最高となっています。
知的障害者の雇用数は14万6,426人(対前年比率4.1%増)となり、うち新規雇用数は1万3,188人で雇用率は大きく伸びています。しかし、雇用率は上がっているものの、民間企業のうち、法定雇用率を達成している企業の数は、48.3%と、半分に満たない状況となっています。産業別の雇用状況をみると製造業が25.9%と最も多く雇用されています。次いで、卸売業・小売業が14.8%、医療・福祉が、14.7%となっています。
参考:令和4年 障害者雇用状況の集計結果:厚生労働省

2.知的障害者の賃金の状況

厚生労働省の「平成30年度障害者雇用実態調査結果」によると、知的障害者の1カ月の平均賃金は11万7,000円となっています。所定労働時間別にみると、通常(30時間以上)の人が13万7,000円、20時間以上30時間未満の人が8万2,000円、20時間未満の人が5万1,000円となっています。
なお、賃金の支払形態は、月給制が19.9%、日給制が6.0%、時給制が73.8%、その他が0.2%となっています。

参考:平成 30 年度障害者雇用実態調査結果

知的障害者と事業主の橋渡し!支援機関を紹介

知的障害者との雇用に関して、本人と企業を繋ぐための支援機関があります。雇用の際や雇用してからの職場定着を目指して、支援機関を上手に利用することが大切です。
ここでは、5種類の支援機関を紹介します。

1.ハローワーク

ハローワークは、仕事の職業相談・職業紹介などを行う機関で、厚生労働省が運営しています。「障害者専門窓口」があるため、障害についての雇用を専門に扱う担当者が、仕事に関する情報を提供してくれたり、就職に関する相談に応じたりしてくれます。
療育手帳がなくても相談を受けることは可能ですが、持っている場合は相談の際に持参しましょう。自分の障がいの状態を、より明確に担当者に伝えることができます。就職活動のサポートとして、求人の紹介だけでなく、就職活動の進め方や応募書類の添削なども実施してくれるため、就職活動に不安がある場合も、1度相談してみるのがいいでしょう。
また、ジョブコーチを派遣して、障害者本人や企業に対して支援や助言を行う制度もあるため、雇用された後でも職場に適応できるまで、継続して相談することが可能です。

2.障害者就業・生活支援センター

障害者就業・生活センターは、就労面だけでなく、生活面も含めた支援を行う機関となります。都道府県知事が指定する一般社団法人や財団法人、社会福祉法人などが運営しています。
就労面では、就職準備訓練として、履歴書の書き方や面接練習、ビジネスマナーなどの就職スキルを身につける訓練が行われています。その他、職場実習のあっせんや雇用管理などもしてもらうことが可能です。また、職場定着支援として、就労先の企業に就業担当員が訪問し、仕事に定着できるよう継続して支援も行います。
生活面では、生活習慣の形成や健康管理などのアドバイスのほか、金銭管理、年金の申請、福祉サービスの利用助言、関係機関との連絡調整など、生活面のさまざまな助言や支援を
行っています。
無料で利用できることに加えて、ハローワークや地域障害者職業センタ―などとの連携もしているため、仕事面以外でも、何か困った時や不安に思った時には、相談できる機関です。

2.地域障害者職業センター

地域障害者職業センターとは、障害者職業カウンセラーが配置され、障害者に対して職業評価や職業指導、職業準備支援、ジョブコーチによる支援など専門的なリハビリテーションが提供されている施設です。独立行政法人高齢・障害者・求職者雇用支援機構が運営しており、各都道府県に最低1か所以上設置することが義務付けられています。
職業評価や職業指導の際には、就職の希望を聞いた上で、職業能力などを分析し、就労して職場に適応するために必要な支援内容や方法などに応じた「職業リハビリテーション計画」が作られます。その計画に基づいて、必要な指導や支援が行われます。
専門的な職業訓練を受けることのできる機関と言えるでしょう。

3.就労移行支援事業所

一般就労などへの移行に向けて、就労移行支援事業所内での作業や、企業における実習、適正にあった職場探し、就労後の職場定着のための支援を行います。地方自治体から指定を受けて、サービスを提供しており、全国には約3,300カ所以上の支援事業所があるため、比較的通所しやすいのも特徴の1つです。
利用期限は原則2年以内と決められています。また、利用するには、受給者証が必要となります。希望の就労移行支援事業所が決まったら、お住まいの市町村で受給者証の申請手続きを行いましょう。

4.障害者職業能力開発校

一般の職業訓練校で職業訓練を受けることが難しい障害者に対し、それぞれの障害の状態に応じて、科目やカリキュラムに特別の配慮を加えて職業訓練を実施しています。国立13校、都道府県立6校あり、合わせて全国で19校設置されています。
訓練科目の例として、調理・清掃サービス、オフィスワーク、ビジネスアプリ開発、パン作り、総合事務などがあります。訓練科目は、それぞれの学校によって異なるため、興味がある場合は、電話やWebサイトで確認するとよいでしょう。
高い専門性を学びたい場合は、活用を検討してみましょう。

知的障害者の雇用に活用できる支援制度とは?

障害者雇用の経験が少ない企業は、障害者に関する知識や経験に乏しいことから、障害者雇用に躊躇する場合もあるでしょう。また、障害者の側も、「どのような職種が向いているのか」「仕事に耐えられるか」などの不安を抱える場合があります。
ここでは、そんな障害者と企業の不安を解消するための制度である「障害者トライアル雇用事業」と「ジョブコーチ支援」について解説します。

1.障害者トライアル雇用事業

障害者トライアル雇用事業とは、障害者を短期の試行雇用という形で雇うことができる制度です。企業の障害者雇用のきっかけを作ることが目的です。トライアル雇用期間は、原則として3ヶ月です。ハローワーク等の職業紹介により、企業と対象となる障害者の間で雇用契約を締結します。助成金として、トライアル雇用を実施した企業に対して、雇用者1人につき月に4万円の助成金が支給されます。障害者への接し方に戸惑ったり、どのような仕事を担当させればよいか分からなかったりする企業側に取っても、お試し期間として雇えることで、障害者雇用に踏み出せるきっかけになるでしょう。
また、さまざまな不安を持つ障害者にとっても、安心して職場環境に慣れる時間を確保できるのは、大きなメリットです。

2.ジョブコーチ支援

企業に雇われた障害者が円滑に職場に適応することができるよう、ジョブコーチが企業に出向き、職場内の様々な支援を行う制度があります。「作業手順をなかなか覚えられない」「質問や報告を適切に行う方法がわからない」といった仕事に課題がある場合、ジョブコーチが課題に応じた支援を行います。
また、企業側にも、仕事内容の伝わりやすい提示方法や適切な声かけなどの助言を行うこともあります。地域職業センターに所属する配置型ジョブコーチと、社会法人などに所属している訪問型ジョブコーチが各地域に配置されています。標準的な支援期間は2~4か月程度です。支援頻度を減らしていき、最終的には、企業側にサポート体制を作ることを目的としています。

ここまで、知的障害者の就労の現状や、どのような支援機関があるのか、どのような支援制度があるのかについてわかりやすく解説してきました。
上手に支援機関を利用して、あなた自身や身近な人の働くチャンスを広げてくださいね。

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