障害者を雇用するメリットは多くの記事や書籍等で解説されていますが、実際に雇用してみないと分からないケースは少なくありません。
この記事では、障害者を正社員として雇用した事例を中心に、企業の利益となった様々な事例を金銭的なものだけでなく、会社全体で見た時の障害者雇用のメリットも合わせてご紹介いたします。
障害者を雇用する7つのメリット
障害者を雇用する事業者側にとっては、「作業効率が下がりそう」「トラブルが起きそう」といったマイナスイメージが先行しがちですが、それは雇用後のマネジメント次第と言える部分が少なからずあります。
では、実際に障害者を雇用するメリットについて実例と共にご紹介します。
助成金を受けられる
まずは障害者を正社員として雇用した株式会社SBS情報システムにおける事例です。
同社では雇用支援制度等を活用して障害者雇用を進めており、支援制度や各種助成金をフル活用した障害者のキャリアップも図っています。
SBS情報システムでは、以下の助成金を活用して障害者雇用を推進しています。
- トライアル雇用助成金(月額4万円/最大3か月)
- 障害者作業施設設置等助成金(設備は最大150万円)
- 障害者介助等助成金(職場介助者の配置で最大15万円/最大10年)
- 特定求職者雇用開発助成金(最大240万円/最大3年)
※障害の種類により異なるが、本事例では助成金120万円、期間2年と考えられる
障害者雇用にあたって事業者側が行う配慮には一定の負担が求められるため、その助成金が受けられるというのは大きなメリットになります。
社風が変わり離職率が下がる
障害者を雇用することで、社内全体の離職率低下に寄与したというケースもあります。
特別養護老人ホームを運営する社会福祉法人紀伊松風苑では、障害者だけでなく外国人留学生の受け入れも行っており、マンツーマン指導や指導者同士の情報共有、マニュアルにルビを振るなど様々な工夫や配慮がされています。
その結果、組織内に多様性が生まれるという変化に加え、離職率の大幅な改善につながっているそうです。
社員に自主性が生まれる
障害者雇用を行う会社の多くで、「社員が自主的に配慮を行うようになった」「障害の有無に関係なくコミュニケーションを取るようになった」という報告を目にします。
例えば、農産物の加工を営む西九州ハートフルサービス株式会社では、障害者雇用で多い「業務の切り出し」は行わず、あえて本人ができる範囲の作業を担当してもらう方法を取っています。
その甲斐もあり、会社全体に活気が生まれ、社員らが社内行事のボーリング大会やカラオケ大会などへ積極的に参加するようになったとのことです。
人材マネジメント力の向上
障害者雇用は、直属の上司や経営者の人材マネジメントのスキル向上に寄与することもあります。
神町電子株式会社では発達障害者を正社員として雇用していますが、作業マニュアルや目標作業数表、体調管理表などを作成して障害者の安定就労に努めています。
この作業マニュアルの作成は健常者のマニュアル作りにも役立ったそうです。
このような経験を重ねるうちに、代表者は「障害者雇用に取り組むことで、部下を育てるために必要な状況に応じた接し方や対応といった、人材育成スキルを身につける契機となった」と語っています。
業務効率や業績が改善される
作業効率が悪くなりそうなイメージを払拭するのが、トピー海運株式会社の障害者雇用の事例です。
同社では、金属加工や自動車運送など様々な事業を行っていますが、自動車用ホイールの出荷業務を請け負うことになりました。
そこで障害者への配慮として、安全性と効率性を重視した新しい「梱包ライン」という作業を創設しました。
梱包ラインでは、障害者向けの作業として具体的に以下のような工夫が施されています。
- 障害者では判断しづらい複雑な作業工程の細分化と単純化
- 作業後の製品の正しい状態と異常な状態を視覚的に分かりやすい写真で掲示
- トラブルやミスの軽減のため細分化した作業工程を5~6人が分担
結果、効率が悪くなるどころか効率性の向上を実現しているそうです。
新サービスの発想が生まれる
ビルメンテナンスや公共施設の清掃などの事業を展開する株式会社美交工業では、当初、障害者雇用は難しいものとして検討していなかったとのこと。
しかし、障害者雇用促進共同組合との出会いをきっかけに障害者雇用をスタートします。
行政のバックアップの下で障害者を正社員として雇用した結果、社内に一体感が生まれ、業績も上がるという相乗効果を生み出しました。
その後、障害者雇用のノウハウを活かしてホームレス雇用に取り組み始めた結果、大阪府のハートフル企業顕彰を2年連続で受賞するという快挙を成し遂げています。
顧客満足度の向上
株式会社美交工業の障害者雇用事例では、顧客満足度の向上につながったという報告もあります。
障害者雇用を始める以前は、本社と現場が離れていることから意思疎通ができていませんでしたが、障害者雇用を始めるにあたって、経営者と現場の声をつなぐ社内体制を再整備しました。
結果、社内の雰囲気は良くなり、顧客満足度の向上にも繋がったとの話です。
障害者を雇用するデメリットは?
このように障害者雇用には様々なメリットがありますが、もちろんデメリットが全く無いわけではありません。
では、障害者を雇用するデメリットは何でしょうか。
- 障害の特性に合わせた作業の振り分けが難しい
- 社内事情による作業工程の変化の度に教育や配慮が必要になる
- 社内理解や教育に関する費用負担が大きい
- 施設や設備のバリアフリー化の費用がかかる
- 業務の切り出しの手間がかかる
- 既存社員の士気低下の懸念がある
上記は障害者雇用全般においての課題とも言えますが、デメリットを解消できるかどうかは、企業の体制をどこまで整えられるかがキーとなります。
今回ご紹介した株式会社美交工業のように、社内の体制を整備したことで業績アップと自治体から表彰というポジティブな結果を生んだ事例もあります。
障害者雇用を考えるにあたって、まずは企業側の姿勢が重要ということを理解しなければいけません。
障害者雇用のポイント
最後に、障害者を雇用することのメリットから「そもそも障害者雇用にあたって何をポイントにすればよいか」をまとめてみたいと思います。
- 雇用の際は行政等の支援を受ける
- 社内理解を深めるための施策を行う
- 障害者という先入観をなくす
- 経営者が積極的になる必要がある
- 柔軟な職務マッチングの体制を整える
- 法律上の義務だけでなく社会貢献に繋がると考える
障害者雇用の話題となると、何かと雇用率達成の義務や未達成の場合の納付金についてばかりになりがちですが、数多く報告されている障害者雇用の実例において「最初は障害者雇用を検討していなかったが、支援機関によるバックアップのおかげで、今では社内の雰囲気がよくなった」という声が数多くあります。
会社のトップである経営者が障害者雇用に取り組む強い意思を示し、会社全体で障害者を受け入れる体制を整えていくことで、最終的に障害者を正社員として雇用するメリットをもたらすと考えることが大切です。
まとめ
雇用形態が何であれ今回ご紹介したような実例がある限り、障害者を雇用することは企業にとって積極的に取り組むべき課題と言えるのではないでしょうか。
現在の日本は若年層の減少と人手不足という二重苦による会社の倒産が増えており、人手不足だから障害者雇用という発想は、障害者差別の禁止という大原則に反しているかもしれません。
しかし、障害者雇用が当たり前の社会を実現するきっかけになるかもしれないと考えると、差別の禁止や合理的配慮だけでは成し得ない、障害者雇用の更なる促進に繋がるとも言えるのではないでしょうか。
【参考】高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者雇用があまり進んでいない業種における雇用事例」
https://www.jeed.or.jp/disability/data/handbook/amarisusunndeinai.html
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