障害者を雇用しなかった場合のペナルティは?免除の特例等はある?

障害者を雇用しなかった場合のペナルティは?免除の特例等はある?


従業員が45.5人以上(令和3年3月1日より43.5人)の企業は、必ず1人以上の障害者を雇用しなければいけない事をご存知でしょうか。

これは「障害者の雇用の促進等に関する法律(以下、「障害者雇用促進法」)」で定められた一般事業主の義務であり、障害者を雇用せずにいると、行政指導を始めとした様々なペナルティが課せられます。

ただし、一般的に「ペナルティ」と見なされているものでも、実はその制度の目的を知ると、決して罰則として設けられたのではないという事も分かります。

では、障害者を雇用しなかった場合のペナルティは具体的にどのようなものなのでしょうか。具体的な内容と制度の仕組みや目的などを詳しく解説していきます。

障害者を雇用しない場合の5つのペナルティ

障害者を雇用しない場合、主に以下のようなペナルティが課せられます。

  • 障害者雇用納付金
  • 障害者雇用計画の命令、勧告、特別指導
  • 追徴金、延滞金
  • 滞納処分(差し押さえ)
  • 企業名の公表

まず、障害者雇用促進法の43条において、一定の雇用率以上の障害者を雇用しなければならないと定められています。

この一定の雇用率を「障害者雇用率」と言い、現在の民間企業に課せられている法定雇用率「2.2%」を達成するために、企業は45.5人(令和3年3月1日より43.5人)につき1人以上の障害者を雇用する義務があるという事です。

障害者雇用率が達成できていない場合、常用雇用者が100人を超えている企業は、雇用すべき障害者1人あたり「5万円の障害者雇用納付金」の支払いが必要になります。

社員が100人未満の企業でも、障害者雇用率が未達成と判明すれば、「今後2年間における雇入れ計画の作成」を命じられます。その後も進捗が悪い場合は適正な実施の勧告や特別指導が行われ、最終的に改善が見られない場合、厚生労働省より企業名が公表されることになります。

ペナルティを課せられるまでの流れ

何かとペナルティの厳しい障害者雇用ですが、障害者雇用納付金を支払っていなければ、本来支払うべき納付金に10%の追徴金が課せられ、延滞すれば年14.5%の延滞金、そして最終的に支払いがされない場合は滞納処分として財産の差し押さえという事態になります。

ただ、障害者雇用率が達成できなかったとしても、前述までのペナルティが一度に課せられることはありません。ペナルティは「納付金関連」と「障害者雇用率達成指導」で分けられ、それぞれは以下のような流れとなります。

「障害者雇用納付金」ペナルティの流れ
  1. 納付金の納付
  2. 納付されない場合、追徴金(10%)が発生
  3. 納付金を延滞した場合の延滞金(14.5%)
  4. 滞納処分
「障害者雇用率達成指導」ペナルティの流れ
  1. 雇用状況報告(毎年6月1日の状況)
  2. 雇入れ計画作成命令
  3. 雇入れ計画の適正な実施勧告
  4. 特別指導
  5. 企業名の公表

つまり、納付金を納めていても雇用率が未達成のままであれば、障害者雇用率達成指導により企業名が公表されることもありますし、それとは別に納付金やそれに対する追徴金や延滞金を支払うリスクもあるということです。

国にはペナルティがないのは不公平?

ここまで、企業が障害者雇用率を達成できていない場合のペナルティについて解説しました。実はこの障害者雇用率というのは、企業だけでなく行政側にも課せられている義務です。

法定雇用率は国と地方自治体で2.5%、都道府県の教育委員会で2.4%と決まっていますが、国や地方自治体の2.5%を逆算すると40人に1人の障害者を雇用しなければいけないことになります。

国や地方自治体などが障害者雇用率を達成できない場合、企業同様ペナルティが何かあるのか気になるところですが、国や地方自治体が障害者雇用率を未達成でもペナルティにあたるものはありません。

これに対し、あまりにも不公平ではないかという声が数多く上がっていますが、実はこれには制度自体の考え方があります。それを明確に説明している、2018年11月20日の国会での答弁をご覧ください。

日本維新の会 東徹議員
「障害者雇用の納付金制度は、国や公共機関が対象になっていないが、なぜ国などが入っていないのか」
厚生労働省 土屋職業安定局長
「納付金制度の目的は、障害者雇用の経済的負担を調整するというもの。多く雇用する会社は負担が多く、雇用が少ない事業者は負担も少ないというアンバランスを調整し、事業主の間で公正な競争を促すための制度である。よって、同じ制度を国に適用するということは、納付金の負担を税金に頼るということになるため、結果的に納付義務を国民に転嫁することになるのは好ましくない」

【参考】第80回労働政策審議会障害者雇用分科会

政府の見解ももちろん理解できますが、もし障害者雇用のために年間で国民1人あたり1000円だけでも課税できたとしたら、障害者雇用に充てられる税収としては大きな金額になります。

そう考えると、国や公共機関に対しても何らかのペナルティを課すことが障害者雇用の促進に繋がるのではないか、とも考えられます。

今後、障害者雇用がどう進んでいくのかによって、国や地方自治体にもペナルティが検討される事になるのかも知れません。

障害者雇用納付金はペナルティではなく「社会的連帯責任」

障害者雇用納付金は本来「ペナルティ」という類のものではありません。企業が障害者を雇用するとなると、社内設備や施設の改修、障害者を安定して雇用するための啓発活動や措置、アドバイザーやサポーターの外注など様々な負担が生じます。

すると、先ほどの国会答弁にもありましたが、障害者を多く雇用すれば負担が重く、少なく雇用すれば負担が少ないというアンバランスが生じます。

そこで障害者雇用納付金制度を作り、障害者雇用の進んでいない企業から納付金を多く徴収し、障害者を多く雇用する企業には助成金や調整金という形で還付する「社会的連帯責任」のような仕組みにしたのです。

言い換えれば、「互助的な役割を担う」のが障害者納付金制度とも言えますが、納付金を払えば障害者雇用が免除されるわけではないのは、企業の義務はあくまで障害者を雇用することだからです。

2017年4月~2018年3月までの12か月間のうち、常時雇用の労働者数が200人以下の期間が8か月以上あった事業主は、障害者雇用納付金が1人あたり4万円に減額されるという特例はありますが、まるで八方塞がりのような制度に感じるかもしれません。

ともあれ、障害者を雇用すれば様々な助成金や報奨金を受け取れますので、納付回避より積極的に障害者雇用を進めたほうがメリットは多いと言えるのではないでしょうか。

まとめ

障害者雇用は国内の全企業に課せられている義務です。2018年4月以降は45.5人に1人となっていますが、2021年3月末までには43.5人に1人と引き上げられる予定で、その後も段階的に法定雇用率はアップしていくだろうと考えられます。

国も企業側の負担を考慮しながら法定雇用率を決めていますし、まだ未整備といえる制度の改変は継続して議論されています。障害者を雇用することでの負担よりも、いざペナルティを受けた時のほうが負担は重くなります。

障害者の採用が進んでいない企業は今からでも準備を始めて、2021年3月の法定雇用率アップに向けた社内体制を考えてみてはいかがでしょうか。

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