超売り手市場に変わりつつある障害者雇用市場

超売り手市場に変わりつつある障害者雇用市場

御社の障害者雇用は順調に進んでいますでしょうか?

平成25年に障害者雇用促進法が改正され、同法の法定雇用率制度により民間企業は常用労働者数の2.2%以上の障害者を雇用する義務があります。

民間企業の障害者平均雇用率は法定雇用率に達しておらず、さらなる障害者雇用の促進が必要不可欠となっています。

そんな中、現在の障害者雇用は「超売り手市場」に変わりつつあります。「何から始めればいいか分からない」「採用したいが希望者が集まらない」とお悩みの企業も多いはず。

そこで今回は、最新の障害者雇用市場も踏まえて、今後の障害者雇用の正しい進め方について解説していきます。

障害者雇用の市場規模が拡大し続ける理由

民間企業の障害者雇用数は約53万4,770人(重度障害者のダブルカウントを含む)と15年連続過去最高を更新し、実雇用率も7年連続過去最高の2.05%と増加の一途をたどっています。

「平成28年生活のしづらさなどに関する調査」によると、雇用ターゲットとなる年齢層の障害者は「身体障害者101万3,000人」「知的障害者58万人」「精神障害者57万6,000人」の合計216万9,000人です。

※身体障害者・知的障害者:18歳~64歳、精神障害者:20歳~64歳未満

年齢別-身体障害者手帳所持者数
年齢別-療育手帳所持者数
年齢別-精神障害者保健福祉手帳所持者数

【出典】厚生労働省 平成28年生活のしづらさなどに関する調査

一方、平成30年障害者雇用状況の集計結果をみると、民間企業の合計雇用者数は43万7,532人(ダブルカウントを含まない実数)。実に障害者全体の2割程度しか民間企業での雇用が進んでいないことが分かります。

民間企業における雇用状況

【出典】厚生労働省 平成30年 障害者雇用状況の集計結果

民間企業の法定雇用率は「1.5%→1.8%→2.0%→2.2%」と増加を続けており、令和3年4月までの間に2.3%まで引き上げられます。それに対し、法定雇用率制度を導入している諸外国をみると、「オーストラリア4%」「ドイツ5%」「フランス6%」となっています。

制度の違い等もあるため単純比較はできませんが、日本に比べて障害者雇用率の高い国が多いことから、日本の障害者雇用率も今後さらに引き上げられることが予想されます。

注意!障害者雇用を進めるリスクとデメリット

障害者の職場定着率は決して高いとは言えない状況です。特に障害者雇用でメインターゲット層になると考えられる精神障害者の職場定着率は、就業から1年後には49.3%になるというデータもあります。

障害者の職場定着率

【出典】厚生労働省 障害者雇用の現状等

法令順守やCSRの観点で考えれば、障害者雇用が社会的要請として強まっていくことは必至です。

それに対し、企業が求める即戦力で軽度(配慮の負担が少ない)の身体障害者は引く手あまたです。障害者人材の採用は今後ますます難しくなっていく事でしょう。

各企業は精神障害者の採用を含め、これまで以上に広く門戸を開いて積極的に採用に取り組んでいく必要があります。

しかし障害者雇用においては「雇用/採用、適応、活躍、配慮」に特別な準備が必要になるため、単に障害者を雇用さえすれば万事解決というわけにはいきません。

  • 施設・設備・インフラ等の物理的な職場環境整備
  • 支援者の育成を含めた社内の受け入れ部署における障害者理解の促進
  • 障害者雇用のための職務分析、仕事の切り出し、職務再設計

障害者雇用が企業の義務だとしても慈善事業ではありませんので、上記のような配慮が企業にとって負担になる事には違いありません。

雇用にあたって事前準備や配慮すべきポイントを押さえなければ、せっかくの採用活動も無駄になってしまう可能性があります。

障害者を雇用する企業や社会に求められる意識と姿勢

では、障害者人材獲得の競争が激化し、採用と定着のための準備を効率よく行うためのポイントとは一体何でしょうか。

企業が障害者を雇用する上で求められる姿勢と意識について、具体的に見ていきましょう。

社内の受け入れ態勢を整える

社内の受け入れ態勢を整えるためには、「法で定められているからではなく、会社のために障害者を雇用する」という方針をトップダウンで打ち出すことが有効です。

法定雇用率(2.2%)達成企業が半数以下を占める中、雇用率5.28%を誇る株式会社ファーストリテイリングが運営するユニクロでは、「1店舗1名以上」の障害者の勤務という目標をトップダウンで掲げ、ほぼ達成しています。

更に、障害があるスタッフと共に働くことで、既存スタッフもきめ細かな心配りの大切さを学び、接客サービスの向上に繋がるという本業へのプラス効果も実感しているとのことです。

また、実際に障害者を受け入れる現場の社員教育も重要です。社員の障害に対する知識不足や偏見があると、障害者定着の支障になるのはもちろん、無用なトラブルへの発展も考えられます。

社内研修や社内報による周知などを通じて、障害者と共に働く企業風土の醸成に取り組みましょう。

【出典】株式会社ファーストリテイリング 多様性の尊重

1人1人を知り、配慮事項について話し合う

障害者雇用促進法の改正により、雇用する障害者が他の社員と同様に力を発揮できるよう「合理的配慮の提供」が義務化されました。

つまり、職場環境を「障害がある社員と話し合って決める」ということです。

同じ障害でも必要な配慮は個々で異なりますので、「できる事とできない事」「強みと弱み」は障害の種別毎で一括りにできないのです。

障害者雇用を進める企業は「この人は○○障害だから」という決めつけを排除し、一人の社員として向き合う姿勢が求められます。どうすれば最大限の力を発揮できるかを考え、話し合っていく社内風土が必要です。

障害者雇用の様々な事例を知る

ここまで挙げたのは最低限のポイントであり、障害者雇用に関しては各企業で実に様々な視点で取り組みが進められています。業種や企業規模によっても効果的な取り組みは異なるでしょう。

高齢・障害・求職者雇用支援機構では、障害者雇用のモデル事例や合理的配慮事例について合計3,000以上の事例が紹介されています。大変参考になりますので、具体的な事例を知ることから始めてみても良いでしょう。

【参考】高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者雇用事例リファレンスサービス

障害者雇用市場において障害者の能力と人材は貴重な経営資源

障害者雇用は法律で定められた企業の義務です。しかし、「義務だから仕方なく雇用する」という姿勢では、超売り手市場化しつつある障害者採用は困難なばかりか、何より費用や時間、労力の浪費と言っても過言ではないでしょう。

環境・社会・企業統治に配慮した企業に投資する「ESG投資」においては、企業の「社会的意義」が注目されています。

グローバル化・多様化する中でますますダイバーシティの推進が必要とされる今、障害者雇用は企業価値の向上に大きく貢献しうる存在なのです。

また、「人手不足関連倒産」が過去最多を記録し、深刻な労働力不足が浮き彫りとなっている現状でも、民間企業で働いている障害者は全体の約2割に過ぎません。

少しの工夫と配慮、そして理解があれば、戦力になり得る障害者がまだまだ数多く埋もれているのです。

今こそ、ビジネス目線で前向きに障害者雇用について考えてみる絶好の機会と言えるのではないでしょうか。

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