障害者も企業もメリットの多いテレワークで障害者を雇用する方法

障害者も企業もメリットの多いテレワークで障害者を雇用する方法

新型コロナ禍で急速に広まったテレワークという労働形態。東京都内でテレワークを導入している企業(従業員30人以上)は約63%にも及ぶという調査結果が出ています(2020年5月現在)。しかし、テレワークは今に始まったことではなく、以前から通勤困難な障害者や育児・介護と仕事の両立を望む女性の働き方として注目されてきました。

そこで今回は、障害者雇用を検討している事業主のために、テレワークで障害者を雇用するメリットや導入する際に必要な準備などについてわかりやすく解説していきます。
  

勤務場所も出勤時間も自由なテレワーク

「テレワーク」は英語でteleworkと書き、tele(離れた)とwork(働く)の造語で、「会社から離れたところで働く」という意味で使われています。「リモートワーク(remotework)」という言葉もよく見聞きしますが、remoteは遠隔地という意味で、テレワークと同義語として使われています。ただリモートワークは、IT業界のシステムエンジニアやwebデザイナーなど専門的なスキルを持つ人の働き方を指すことが多いため、ここでは一般的な在宅勤務を指す「テレワーク」を使って説明します。

テレワークという労働形態は、ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を活用して自宅などで仕事をすることで、国は「労働日の全部またはその大部分について事業所への出勤を免除され、かつ自己の住所または居所において勤務すること」と定義しています。

在宅勤務者(テレワーカー)が下記の5点を満たしていれば会社と雇用関係にあると認められ、雇用保険に加入することとされています。雇用保険の被保険者になることで、事業主は各種の助成金の支給対象者となります(次項で詳述)。同じテレワーカーでも、事業主とは雇用関係になく、フリーランス(個人事業主)として委任契約または請負契約の基に在宅で働く形態もあります。これを「在宅就業」といい、「在宅勤務」とは区別しています。

在宅勤務者が雇用保険の被保険者となるための要件
1.事業主の指揮監督系統が明確であること(テレワーカーの所属する事業所と管理監督者が指定されている)
2.拘束時間などが明確に把握されていること(所定労働日と休日、始業時刻、終業時刻などが就業規則に明記されている)
3.勤務実績(勤怠など)が事業主に明確に把握されていること
4.報酬(月給、日給、時給など)が勤務した期間または時間を基に算定されていること
5.請負・委任的なものでないこと(機械、器具、原材料などの購入、賃借、保守整備、損傷、通信費光熱費などが事業主により負担されることが雇用契約書・就業規則に明記されていること。また、他の事業主の事業に従事することが禁止されていることが雇用契約書、就業規則に明記されていること)

【引用】「在宅雇用の手続き」高齢・障害・求職者雇用支援機構

テレワーク雇用を取り入れる企業のメリット

障害者をテレワーカーとして雇用する企業側のメリットとして、次のような点があげられます。

◆通勤時間や働く場所に制限がないので、これまで障害ゆえに持てる能力を発揮できずにいた人も自宅で十分発揮できるため、企業にとっても有能な人材確保が可能になる。
◆地方の親元で暮らしている障害者も都市部の企業が採用できるため人手不足が緩和される。逆に、求人の少ない地方においては雇用創出につながり、自治体からの雇用支援も期待できる。
◆通常のオフィスワークの雇用であれば職場環境の整備(バリアフリー化や設備の改造など)のために高額の費用がかかるが、テレワークの場合は大掛かりな整備の必要がないので費用が抑えられる。
◆事業主に義務付けられている「障害者雇用率」を達成しやすい。同時にCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)を果たすことにもつながる。
◆多様な働き方や業務効率改善によって生産性の向上が望める。
◆ハローワークまたは民間の職業紹介所を通して障害者をテレワーカーとして雇用すると下記のような助成金を受けられる。いずれも雇用保険の被保険者であることが受給要件。
特定求職者雇用開発助成金
高齢者や障害者など就職困難者を継続して雇用する事業主が対象。支給期間は1~3年で支給額は30万~240万円
障害者作業施設設置等助成金
障害者が働きやすいように配慮した施設または改造した作業設備を設置・整備する場合に、その費用の一部が助成される。金額は実費に3分の2を乗じた額まで
障害者介助等助成金(在宅勤務コーディネーターの配置又は委嘱助成金)
障害のあるテレワーカーを雇用する事業主が雇用管理や業務管理を担当するコーディネーターを配置または委託する際に、その費用の一部が助成される。支給額、配置の場合は障害者1人あたり月5万円(在宅勤務コーディネーター1人あたり月25万円まで)。委託の場合は障害者1人あたり1回3千円(在宅勤務コーディネーターは1人あたり年225万円まで)

助成金はこのほかにも多数あります。また、助成金の支給対象となるにはいろいろな要件がありますので、申請時に戸惑うことのないよう、事前に「高齢・障害・求職者雇用支援機構」の都道府県支部に問い合わせてください。

テレワークではどんな仕事ができる?

テレワークはインターネットを介したICTを駆使して仕事をすることです。直接対面でのやり取りを必要とする業務(接客業、営業職、医療・介護職、公務員等)や、大型の機械設備を必要とする製造業などはテレワーク化することが不可能ですが、それ以外の業務はほとんど支障なく行うことができます。

実際に障害のある人が多く取り組んでいるのは下記のような業務です。

◆IT関連のエンジニア・デザイナー
◆ホームページ作成・更新
◆プログラミング
◆インターネットでの情報検索・集計
◆DTP・イラスト作成
◆編集・原稿作成
◆翻訳
◆データ入力
◆データ集計・分析
◆伝票・書類作成
◆取扱い説明書の作成
◆製品のデザイン画作成
◆事務職(一般・経理・総務・営業・貿易事務など)
◆CAD(キャド)による図面作成
◆住宅の間取り図作成など

 

テレワーク雇用を導入するにあたって取り組むことは?

次にテレワークの社員を雇用するにあたって事業主が取り組むべきことについて見ていきましょう。まず、テレワークがスムーズに実施できるように環境を整えることからスタートします。

1. テレワーク環境を整える

オフィスワークの社員を募集するときと同じように担当してもらう業務を決め、どのような人材が必要なのか採用基準を明確にしておきます。在宅勤務といっても日々の報告や仕事の打ち合わせなどが必要ですから、電話やメールなどによって意思疎通を図れるコミュニケーション能力も採用基準の1つとなるでしょう。

また、労働基準法や最低賃金法などに反することのないよう、テレワーカー用の就業規則やルールを作ります。在宅勤務でも会社で働いている社員に不公平感を抱かれることのないよう、きちんとルールを作って共有しておくことが大切です。なお、既存の就業規則を改定したり、テレワーカーに対する特別の規則を定めたりした場合は、就業規則の変更届を労働基準監督署に提出する必要があります。

2. 業務に必要な機器をそろえる

パソコンやスマホなどはテレワーカーの私物を使うのはセキュリティの面から好ましくありません。外部からの攻撃を受ける恐れのあるソフトが入っていたり、家族に重要な情報が洩れる心配があるからです。業務に必要な機器は会社が購入して、テレワーカーから借用料として月々一定額を徴収する方法が安心です。通信費や光熱費、消耗品、機器の修理費なども会社負担が一般的です。

3. 初めはトライアル雇用で適性を見る

テレワーカーの面接は、通勤可能エリア内の応募者は通常の面接行い、遠隔地の応募者はオンライン面接を行うケースが多く見られます。面接では、本人の一般教養やスキル、仕事に対する意欲、担当業務とのマッチングなど基本的なことをよく見て判断します。また、障害者を雇用する場合は、事業主に「合理的な配慮の提供」が義務づけられていますから、在宅勤務をするうえでどのような配慮が必要か、本人からよく聞いて対応することが求められます。

採用が決まったら、厚生労働省がすすめている「トライアル雇用制度」の障害者トライアルコースを利用するといいでしょう。これは、「正規雇用としての適性を見極めることを目的に原則3か月のトライアル(試用)期間を設ける」ことで、一定要件を満たせば「トライアル雇用助成金」を受給することができます。テレワーカーにとっても、実際に働きながら自分に適している仕事かどうか判断することができるので、ミスマッチングが生じるのを防ぐことができます。

事業主が利用できるテレワーク雇用に関する相談窓口

最後に、テレワーク雇用を検討している事業主が相談できる機関を紹介しておきしょう。

■在宅就業支援団体
https://www.challenge.jeed.or.jp/shien/job_grp.html
仕事を発注する事業主と在宅勤務者(テレワーカー)との間に立って支援を行う団体で、厚生労働大臣に申請し、登録を受けています。障害者に対する支援だけでなく、事業主のテレワーク導入に関する相談にも応じています。

■その他の在宅就業を支援する団体
https://www.challenge.jeed.or.jp/shien/job_grp2.html
厚生労働省の登録は受けていませんが、社会福祉法人やNPO法人が運営する障害者の在宅勤務を支援する団体があります。これも全国各地に設置されていますから、最寄りの団体を利用するといいでしょう。

【参考】
独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構「在宅勤務障害者雇用管理マニュアル」
厚生労働省「障害者テレワーク事例集」
日経X TECH

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