近年、障害者雇用の対象として発達障害をもつ人を雇用する企業が増えています。しかし、いざ仕事を教えようとすると、教え方がわからず戸惑ってしまうのではないでしょうか。せっかく同僚になったのですから、できるだけわかりやすく仕事を教えて、よい人間関係を築きたいですよね。
発達障害をもつ人に仕事を教える際には、本人の性格や人間性だけではなく、障害の特性への理解も大切です。
今回は発達障害のひとつであるADHD(注意欠如・多動症)の人に向けた仕事の教え方を紹介いたします。相手に合った教え方を心がけて、効率よく仕事を覚えてもらいましょう。
ADHD(注意欠如・多動症)とは
ADHD(注意欠如・多動症)とは、主に「不注意」「多動性」「衝動性」の3つの症状が特徴の発達障害です。
症状のあらわれ方は人によって異なり「不注意優勢タイプ」「多動性・衝動性優勢タイプ」「混合タイプ」に分類されます。
仕事を教える前に、ADHDの特性を理解した上でコミュニケーションをとっていきましょう。
1.不注意優勢タイプの特性
不注意が強く見られるADHDの人には、下記のような特徴があります。
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- 集中するのが苦手でミスが多い
- 集中しすぎて疲れてしまう
- 優先順位を考えるのが苦手
- 無くしものや忘れものが多い
- 整理整頓が苦手
仕事を教えている時も「なんでこんなミスをするんだろう」と思う場面もあるかもしれません。しかし、ADHDである本人も悩んでいる症状です。
ただ注意するだけでは、ストレスをかけてしまいます。一緒に対策を考えてあげましょう。
2.多動性・衝動性優勢タイプの特性
多動性・衝動性が強く見られるADHDの人には、下記の特徴が現れる場合があります。
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- ソワソワとして落ち着かない
- おしゃべりで話し出すと止まらない
- 思ったことをそのまま口にしてしまう
仕事を教えている時に相手がソワソワしていると、不真面目な態度に見えてしまうかもしれません。
しかし、それこそが多動性・衝動性が強い人の特性です。戸惑うかもしれませんが、特性だと理解して一緒に解決策を見つけましょう。
3.不注意と多動性・衝動性が混合したタイプの特性
不注意による症状と多動性・衝動性による症状が混在してみられるタイプです。人によって症状や程度が異なるため、ADHDの特性とは気づきにくいかもしれません。
相手に合わせた教え方をするためにも、ADHDにはどのような特性があるのか理解してあげましょう。
仕事に影響しやすいADHDの特性
個人差はありますが、ADHDの人は集中するのが苦手だったり、なかなか仕事を覚えられなかったりする傾向があります。
ここでは、仕事に影響しやすいADHDの特性を紹介していきます。
1.集中力が持続しにくい
ADHDの人は集中力に障害がある場合が多く、雑音などの刺激によって集中が途切れてしまいがちです。仕事の説明をしている時に「ちゃんと聞いているのかな?」と思った人もいるのではないでしょうか。
集中できないのはADHDの特性であり、やる気の問題ではありません。作業ごとに区切って教え、復習や休憩の時間をつくるなど、集中しやすい環境をつくってあげましょう。
2.スケジュール管理が苦手で予定を忘れてしまう
ADHDの人はスケジュール管理が苦手な場合が多く、予定を忘れてしまうことがあります。また、仕事の優先順位を考えるのも苦手で、納期に遅れてしまいがちなのもADHDの特徴です。大事な予定や納期が迫っている仕事がある場合は、早めに声をかけて確認してあげましょう。一緒にアラームを設定してあげるなどの工夫があると、納期遅れや予定忘れを事前に防げます。
3.忘れものやなくしものが多い
忘れものやなくしものが多いのもADHDの特徴です。また、整理整頓が苦手な人も多く、机の上が散らかりがちな傾向があります。大切な書類を必要な時に取り出せない場合もあるため、わかりやすく保管できる工夫をしましょう。たとえば、書類ごとにしまう場所を決めたり、引き出しにラベルを貼ったりすると書類などの管理がしやすくなります。保管場所を一緒に決めて、棚や引き出しなどのラベルを貼るなどの工夫をしてみましょう。
4.おしゃべりで話し始めると止まらない
個人差がありますが、衝動性や多動性が強い人はおしゃべりで話し始めると止まらない傾向があります。不真面目な態度にみえるかもしれませんが、障害の特性であり本人には悪気がない場合がほとんどです。しゃべりすぎているなと思ったら、仕事に話題を戻して業務を再開させるなどの工夫をしてみてください。
ADHDの人に仕事を教えるコツ
ADHDの人に仕事を教える際には、障害特性を理解した教え方をする必要があります。
ここではADHDの人に仕事を教えるコツを紹介します。
1.ミスを繰り返さないように一緒に対策を考える
ADHDの人はケアレスミスをしやすい傾向があります。ミスをしてしまった時には、ただ注意するだけでなく、一緒に原因を探して対策を考えることが大切です。
一緒に考えてあげることで、どこでミスが起きたのかがわかりやすくなり、似たようなミスを防ぐための対策をたてられます。最初から一つずつ、丁寧に振り返りをしてミスをしない方法を考えていきましょう。振り返りの内容でチェックリストを作成し、見えるところに貼っておくと効果的です。
2.復習する時間をつくる
ADHDの人は、一度にたくさんの仕事を詰め込まれるのが苦手な場合があります。作業ごとに区切って教え、メモを取る時間や復習する時間を作ってあげると仕事を覚えやすくなります。
復習する際には質問しやすいように声をかけたり、一緒にメモをつくったりして、安心して復習できる環境を整えてあげましょう。
3.適度に休憩を取る
ADHDの人に仕事を教える際には、適度に休憩時間を挟むのが効果的です。個人差がありますが、ADHDの人は集中し続けるのが苦手だったり、反対に集中しすぎて疲れてしまったりする傾向があります。適度に休憩時間を挟み、仕事を覚えやすい環境を整えてあげましょう。
4.音や視界に入る刺激を減らす
音や視覚から入る刺激で集中力が途切れやすいのもADHDの特徴です。可能であれば、余計なものが置かれておらず、雑音が少ない集中しやすい環境で仕事を教えてあげると集中して仕事に取り組めます。難しい場合は上司や同僚の理解を得て、パーテーションで視覚を遮断するなどの方法もおすすめです。
ADHDの人への接し方のポイント
ADHDの人と接する際には障害への理解が必要です。ここではADHDの人に仕事を教える際に気をつけたいポイントを紹介します。
1.ケアレスミスを強く責めない
集中するのが苦手なADHDの人は、ミスが多くなる傾向があります。
「どうしてこんな簡単なミスをしたんだ」と叱りたくなってしまう場面もあるかもしれません。しかし、ミスが多いのはADHDの特性であり、本人も深く悩んで反省しています。
大切なのはミスをしないことではなく、同じミスを繰り返さないことです。ミスの原因や改善策を話し合って、同じミスをしないように一緒に考えてあげましょう。
2.感情的にならずに声をかける
衝動性や多動性が目立つADHDの人は、一度話し始めると止まらなくなってしまう傾向があります。適度な雑談は良好な人間関係を築く上で大切ですが、あまり気になるようなら軽く声をかけて仕事に戻してあげましょう。
また、思ったことをそのまま口にしてしまうため、誤解されやすいのもADHDの特徴です。他意がないことを理解して、感情的にならずに指摘してあげましょう。
ADHDの特性を理解して教え方を工夫しよう
ADHDの人に仕事を教える時は、障害の特性を理解することが大切です。
指導経験が豊富な人ほど、ADHDの人へ仕事を教えるときに「今までの教え方が通用しない」と戸惑ってしまうかもしれません。しかし、それはあなたの指導力が低いのではなく、ADHDの特性によるものです。
ADHDの特性を理解して、その人に合った教え方をすることが大切です。相手に合った教え方を考えることは、仕事を見直し理解を深める機会にもなり、自身のスキルアップにもつながります。
参考にした記事:https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=39
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