「障害のことを会社に伝えずに就職したいが、大丈夫だろうか」
「障害をオープンにして就職した場合、どんなデメリットがあるのだろう」
就職を考えている場合、障害を開示するかどうかは大きな問題です。
この記事では、就労にお悩みの障害者の方に向けて、以下のことを解説します。
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- オープン就労とクローズ就労の違い
- オープン就労のメリット・デメリット
- クローズ就労のメリット・デメリット
それぞれのメリット・デメリットを徹底的に比較していきます。
あなたに合った就労を見つける手がかりにしてくださいね。
オープン就労・クローズ就労とは?
そもそも、オープン就労・クローズ就労とは何でしょうか。
ごく簡単に言うと、
クローズ就労…障害を秘密にして就職し、働く
と定義づけることができます。
これだけでは少し分かりづらいですね。もう少し詳しく見ていきましょう。
1.オープン就労
前述のとおり、オープン就労とは、障害があることを公開した(オープンにした)働き方です。
公開するタイミングは就職活動の時点からです。つまり、「障害者として」就職し、働くということになります。
プライベートなことや伝えたくないことまでオープンにする必要はありませんが、基本的には上司・同僚など一緒に働くすべての人に自分の障害を開示します。
オープン就労をする場合、働く場は大きく分けて2つあります。
1つ目が、いわゆる「 障害者枠」での就労です。
これは企業や公的機関などが、「障害者が働く」こと前提で求人を行うものです。この「障害者枠」で応募し採用されるためには、「障害者手帳」を持っていることが必須となります。
障害者手帳についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
障害者手帳のメリットとデメリットを徹底比較!申請方法は?
オープン就労で働くもう1つの場は、いわゆる普通の企業・公的機関です。「一般枠」と呼ばれることもあります。
採用時に「障害がある」ことを伝えつつ、健常者と同じように就労することになります。こちらの場合は、障害者手帳は必須ではありません。
2.クローズ就労
クローズ就労とは、「障害があることを明らかにしないで働くこと」です。
こちらは、基本的に障害者枠での就労はあり得ません。
健常者と同じ「一般枠」での求人に応募するということになります。
その際、「自分には障害がある」ということを履歴書に書いたり、口頭で伝えたりせずに選考に臨みます。
また採用されてからも、自らの障害のことは職場に伝えずに健常者として働くという形です。
オープン就労のメリット・デメリット
障害を明らかにして働く、オープン就労。
当然のことながら、メリットとデメリットの両面があります。
メリット・デメリットをまとめると、以下の表のようになります。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
合理的配慮を受けられる | 求人数や職種の選択肢が少ない | |
ありのままの自分で働ける | 給与水準が低い | |
支援機関と就職先の連携したサポートが受けられる | キャリアアップが望みにくい |
詳しく見ていきましょう。
1.オープン就労のメリット
オープン就労のメリットは3点あります。
2.居心地の悪さや罪悪感を感じず働ける
3.支援機関と就職先の連携したサポートが受けられる
メリット1 合理的配慮を受けられる
勤務先に障害を明らかにすることで、あなたに必要な「合理的配慮」を受けやすくなります。
合理的配慮とは、障害のある人が感じる困難さを軽減するための配慮のことです。
一人ひとりに合わせた支援や環境の調整などが挙げられます。
具体的には、以下のような事柄で配慮を受けている方が多いです。
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- 業務内容…特性や適性、能力に合った業務の割当て
- 配属先…職場環境や通勤時間、通勤距離などへの配慮
- 勤務日・時間…勤務日の調整や勤務時間短縮などの配慮
- 通院・服薬…通院に対しての配慮、服薬の時間や場所の確保
職場によっては、障害や特性に応じたわかりやすいマニュアルを作成してもらえる場合もあります。
加えて、たとえ仕事上の失敗があったとしても、障害を秘密にしている場合より「リカバリーがききやすい」といえます。
失敗の原因があなたの障害特性から来ているものだった場合、原因を特定し対応することができるからです。
「失敗したのはやる気がないからだ」「怠けているからだ」という解釈をされることなく、「なぜこの業務がうまくいかなかったのだろう」「どんな支援があれば、スムーズに業務をこなせるだろう」という観点で業務改善を進めていけます。
メリット2 ありのままの自分で働ける
あなたにとって、障害特性は個性の一部だといえるのではないでしょうか。
障害を隠さず働くことで、「自分らしくいられる」「ありのままの自分で働ける」と感じる方が多いです。
障害をオープンにしていない場合、「弱みを見せてはいけない」「失敗してはいけない」と必要以上に緊張してしまう場合もあります。
しかし、障害のことを周囲にきちんと伝えておけば、
「今日は口数が少ないけれど、気圧のせいで調子が悪いのかもしれない」
「机まわりが雑然としているけれど、ADHDの特性だろう。片づけるためのアドバイスをしてあげよう」
など、あなたの障害特性を考慮に入れた上であなたと向き合ってくれる方が多いはずです。
「本当の自分で」「ありのままに」働けることで、気が楽になる方が多いのではないでしょうか。
メリット3 支援機関と就職先の連携したサポートが受けられる
障害をオープンにして就労する場合、さまざまな連携機関が間に入ってくれることが多いです。
特に頼りになるサービスが「就労定着支援」です。
就労移行支援等の利用を経て一般就労へ移行した障害者で、就労に伴う環境変化により生活面の課題が生じている方が対象となります。
受けられるサービスの内容は次のとおりです。
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- 企業や関係機関等との連絡調整
- それに伴う課題解決に向けて必要となる支援を検討
- 障害者本人との相談を通じて生活面の課題の把握と対応の検討
- 生活リズム、家計や体調の管理などに関する課題解決に向けて、必要な連絡調整や指導・助言等の支援
サービスを受ける場所は、企業・障害者本人の自宅等(支援者が訪問)、事業所(障害者が訪問)などです。
(参考:厚生労働省「就労定着支援に係る報酬・基準について」)
職場での課題と生活面の課題、両方にアプローチしながら、働き続けるための支援をしてくれます。
ただし、こちらの「就労定着支援」を受けるには一般就労する際に「就労移行支援等」を利用していなければなりません。
ハローワーク等を利用して就職していたり、高校や特別支援学校を卒業後すぐに就職していたりする場合は別のサービスを受けることになります。
以下のような施設・事業所でも就労定着のためのサポートを受けることができますので、問い合わせてみましょう。
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- ハローワーク
- 地域障害者職業センター
- 都道府県支部高齢・障害者業務課(東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課)
- 障害者職業能力開発校
- 障害者就業・生活支援センター
- 就労移行支援事業所(福祉機関)
いずれにしても、これら就労定着のための支援はすべて、「障害をオープンにしているからこそ」受けられるサポートです。
2.オープン就労のデメリット
では、オープン就労で働くことのデメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
以下の3点が挙げられます。
2.給与水準が低い
3.キャリアアップが望みにくい
デメリット1 求人数や職種の選択肢が少ない
前項で、オープン就労には「障害者枠での就労」と「一般枠での就労」があることをお伝えしました。
障害者雇用の場合、一般就労枠と比べると求人件数が少なく、仕事の内容や種類も限られる傾向があります。
また一般就労の場合も、「障害がある」と伝えると、障害に配慮した業務内容を割り振られることがあります。
配慮の上でのことですが、その仕事は必ずしもあなたがやりたい仕事ではないかもしれません。
「本当はもっとできるのに」「もっと難しい仕事に挑戦したいのに」というジレンマを抱えながら働く可能性がある、ということをおさえておきましょう。
デメリット2 給与水準が低い
障害者雇用の場合、一般雇用と比べると給与が低い傾向があります。
(参考:障害者雇用の給与水準を徹底調査!高い?安い?年収の相場を解説 | 福祉.tv NEWS )
一般雇用の場合、「障害がある」ことを伝えた途端に給与が下がる、などということは「差別」です。
同じ条件で働く以上、同じ水準の給与を支払うべきであり、障害の有無によって健常者と給与に差がつくようなことがあってはなりません。
ただ、障害を開示することで以下のような労働条件での採用となった場合は、その条件が給与に反映される可能性があります。
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- 契約社員や非常勤などの非正規雇用で採用される
- 通院などのために時短を取得して働く
障害をオープンにしたことによって配慮を受けられる反面、給与は安くなってしまうということになります。
デメリット3 キャリアアップが望みにくい
障害をオープンにして働く場合、さまざまな面で配慮や支援を受けることができます。
しかし同時に、キャリアアップにつながりにくいという面もあります。
業務内容が固定化されがちなことや、自分の能力から見て簡単すぎるといった点が気になる方もいるかもしれません。
「今は体調も安定しており、もっと働ける」
「現在の業務内容は能力的に物足りなさを感じる」
以上のような場合は、「余裕が出てきたので、さらにステップアップした仕事に取り組みたい」と上司に相談してみるのも良いでしょう。
クローズ就労のメリット・デメリット
では次に、クローズ就労のメリット・デメリットについて見ていきましょう。
クローズ就労とは「障害を明らかにせず働くこと」でしたね。
メリットとデメリットを表にまとめると次のようになります。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
求人数や求人職種が多い | 合理的配慮が受けられない | |
給与水準が高い傾向がある | 罪悪感や不安感を感じやすい | |
キャリアアップが望める | キャリアアップが望みにくい |
それぞれについて詳しく解説します。
1.クローズ就労のメリット
障害を明らかにせず「健常者として」働く場合、以下のようなメリットが考えられます。
2.給与水準が高い傾向がある
3.キャリアアップが望める
メリット1 求人数や求人職種が多い
障害者枠での就労または一般枠で「障害者として」就労するオープン就労と異なり、クローズ就労では「すべての求人」から選ぶことが可能です。
幅広い職種・業種から選ぶことができますし、転職エージェントや転職サイトも一般向けのものを利用しますので、対象となる求人の数はオープン就労とは比べ物になりません。
特に、IT関係など得意な分野がある方、英語や簿記など就職に役立つ資格を取得している方にとっては、クローズ就労の方が多くの選択肢から選べるということになります。
メリット2 給与水準が高い傾向がある
給与水準は職種や業種、企業によってさまざまです。一概に「クローズ就労だから高い給与が得られる」とは言い切れません。
とはいえ、障害者枠での雇用や障害を開示しての非正規雇用と比べると、クローズ就労で高い給与水準が望めることは事実です。
一般企業での就職、フルタイムの正規社員としての就職が叶えば、生活していけるだけの収入が得られる可能性も十分にあります。
メリット3 キャリアアップが望める
クローズ就労の場合、一般に就職する健常者と同じようにキャリアプランを描いていくことが可能になります。
「一般社員として入社し、実績を積んで昇進をめざしたい」
「企業で経験を積んだのち、ゆくゆくは独立したい」
このような夢をもっている方もいるのではないでしょうか。
心身共に安定し、欠勤や遅刻をせず働くことができた場合、少しずつでもキャリアを積み上げていくことは十分に望めます。
その場合、仕事内容や職場環境が自分の特性や適性に合っていることが重要なポイントです。
「ゆくゆくはキャリアアップしていきたい」そんな願いがある場合は、
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- 長く働き続けられる労働環境か
- 職場の環境は、自分の特性に合っているか
- 自分の得意なことや勉強してきたことを活かせる仕事か
以上のような規準で職場を選ぶようにしましょう。
2.クローズ就労のデメリット
クローズ就労で考えられるデメリットは、以下の3つです。
罪悪感や不安感を感じやすい
支援機関と就職先の連携したサポートが受けづらい
デメリット1 合理的配慮が受けられない
障害のことを誰にも伝えず就職するので、上司や同僚など周囲の人は当然あなたを「健常者」と見なします。
作業のペースが遅い場合や業務内容が難しくついていけない場合に、「能力が低い」「やる気がない」「本気で取り組んでいない」などと思われてしまう可能性があります。
「説明は口頭ではなく絵や文でお願いします」
「初めて話す人とのコミュニケーションは苦手なので、慣れるまで時間がかかります」
「精神科への通院のため休ませてください」
以上のような合理的配慮を受けたくても、障害の開示なしに依頼することはとてもむずかしいといえるでしょう。
「業務内容や労働環境の面でちょっとした配慮さえしてもらえれば、もっとより良く働けるのに」……そんなもどかしさを抱えながら働くことになってしまうかもしれません。
デメリット2 罪悪感や不安感を感じやすい
クローズ就労の場合、人によっては「障害を隠している」という罪悪感に苦しむ場合があります。
まじめで、周囲に対し誠実でなければならないという気持ちが強い人ほど、その傾向が強いようです。
もちろん、採用面接時に聞かれなかったことを自分から開示しなかったからといって、あなたが罪に問われるようなことはありません。
また万が一採用後に障害があることが知られたとしても、それを理由にあなたを解雇することはできません。
とはいえ、通院や服薬が必要な状態にもかかわらずそのことを隠して就職していたとすれば、分かってしまった時に不利な立場に立たされる可能性があります。
採用時に健康状態を聞かれ「問題ありません」と答えていたのならなおさらです。
また、だましているとまではいかなくても、「本当の自分を出せていない」「偽りの自分のまま働いている」ということに対する違和感、居心地の悪さを感じるという人もいます。
デメリット3 支援機関と就職先の連携したサポートが受けづらい
オープン就労のメリットでは「就労定着支援」などさまざまなサポートを受けられることをお伝えしました。
裏を返せば、障害をオープンにしない限り、あなたの障害特性に応じたサポートを受けるのは難しいといえます。
「障害をクローズにしている限り、絶対に支援が受けられない」ということではありません。
たとえば就労前に就労移行支援事業所を利用していた場合、クローズ就労後にも事業所に通ってアフターフォローを受けたり相談をしたりしている方もいます。
また自治体・地域で運営するさまざまな支援機関では、オープン就労・クローズ就労にかかわらず働く人のサポートを行っています。
つまり、「職場に知られない範囲」であれば十分にサポートを受けられるということです。
ただし、支援機関と職場との連携となると障害をクローズにした状態では難しいといえるでしょう。
あくまで「個人として」支援を受けながら、職場への適応を探る形になります。
自分が「仕事」に求めるものを見直してみよう
オープン就労・クローズ就労それぞれのメリットを比較してみましょう。
1.メリット
オープン就労 | クローズ就労 | |
---|---|---|
合理的配慮を受けられる | 求人数や求人職種が多い | |
ありのままの自分で働ける | 給与水準が高い傾向がある | |
支援機関と就職先の連携したサポートが受けられる | キャリアアップが望める |
オープン就労では障害特性に合わせた細やかなサポートを受けながら、自分らしく働けるというメリットがあります。
クローズ就労では一般の健常者と同じ条件のもと、高い給与水準やキャリアアップを目標に働くことが可能です。
では、デメリットを比較してみましょう。
2.デメリット
オープン就労 | クローズ就労 | |
---|---|---|
求人数や職種の選択肢が少ない | 合理的配慮が受けられない | |
給与水準が低い | 罪悪感や不安感を感じやすい | |
キャリアアップが望みにくい | 支援機関と就職先の連携したサポートが受けづらい |
オープン就労の場合、選択肢の少なさや給与水準の低さが気になる方が多いようです。その結果キャリアアップが望みにくいというデメリットがあります。
クローズ就労では、障害をオープンにできない環境ならではの悩みを抱えることになります。その結果就労の定着ができず、離職してしまう方も多いのです。
厚生労働省の調査によれば、クローズ就労の場合、職場定着率は3カ月で52.2%、1年で30.8%となっています。
1年働き続けられる方がわずか3割ということです。
それに対しオープン就労(一般求人・開示)では、1年後の定着率はおよそ5割。障害者求人では7割以上の定着率となっています。
(参考:厚生労働省「平成29年 障害者雇用の現状等」)
これらのことから、「自分に合った働き方をしたい」「長く働き続けることを大切にしたい」という方にはオープン就労がおすすめです。
一方「障害者枠で働くのは物足りない」「体調が安定し、能力にも自信があるので、キャリアアップに向けてどんどん挑戦していきたい」という方はクローズ就労を検討することをおすすめします。
いずれにしても、就職活動をする際には、「自分が仕事に求めているものは何だろう」ということをよく考えてみてください。
安定して楽しく働き続けることが大事なのか、新しいことや困難なことに挑戦しキャリアを積んでいきたいのか。
高い給与を得ることが大事なのか、あるいは自分に合った労働環境で快適に働く方が大事なのか。
また、自分の障害特性についてどれくらい周囲に理解してほしいのか、ということも大切な判断基準です。
これらのことをよく考えて、オープン就労とクローズ就労を選ぶようにしましょう。
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