管理職のうつ病リスクと予防法~中間管理職が抱えるストレスへの対処

管理職のうつ病リスクと予防法~中間管理職が抱えるストレスへの対処

組織の中核を担う中間管理職は、現代の職場において最もメンタルヘルス不調に陥りやすいポジションとなっています。ストレスを感じている中間管理職の割合は非常に高く、特に上位者との人間関係や過剰な業務負担が深刻な問題となっているのが実情です。
厚生労働省が公表する精神障害の労災補償に関する統計では、法人・団体の管理職における精神障害での労災認定が職種分類の中で一定数を占めており、管理職層のメンタルヘルスケアが早急に対応すべき課題です。本記事では、中間管理職特有のストレス構造と、その背景にある要因についてわかりやすく解説します。

うつ病の人に向いている職種、向いていない職種とは?

「うつ病」「適応障害」「解離性障害」の原因、症状、治療法など

中間管理職がうつ病を発症しやすい理由

組織の要となる中間管理職ですが、その立ち位置が特殊であるがゆえに、メンタルヘルスに大きな負荷がかかりやすい構造となっています。

上司と部下の板挟みによる心理的負担

日本産業カウンセラー協会に寄せられる相談では、性別では男性からの相談が女性の倍以上となっており、年齢層では管理職世代にあたる層からの相談が最多です。ストレス要因を見ると、上位者との関係性が最大の悩みとして挙げられ、「意思疎通の難しさ」「指示の一貫性のなさ」「業務実態への理解不足」といった内容が目立ちます。
現場の実情を把握していない上層部からの要求に応えながら、同時に成果も求められるという状況に、多くの管理職が疲弊しています。経営層からは目標数値の達成や効率化の推進を迫られる一方、チームメンバーからは労働環境の改善や時間外労働の削減を期待されるという、相反する要求の狭間で苦しんでいるのが実態です。

仕事量の増加とマネジメント業務の負担

管理職がメンタル不調に陥る大きな要因として、業務量の著しい増加が挙げられます。プレイヤーとしての自身の担当業務を抱えながら、チームマネジメントも同時に行わなければならず、結果として業務負荷が膨れ上がるのです。業務過多がストレス要因の上位に位置しており、「マネジメント優先で本来業務が進まない」「会議に時間を取られて実務が滞る」という声が多く聞かれます。
部下の予期せぬ休職や退職を経験した管理職は半数を超えており、その背景として精神面の問題が大半を占めています。チームメンバーのメンタルケアという新たな責務が加わったことで、管理職自身の心理的負担も一層重くなっているのが現状です。
働き方改革の推進によってチームメンバーの労働時間は短縮される傾向にある一方、「改革で部下の負担は軽減されても、管理職の仕事は減らない」という不満の声も上がっており、制度設計と現場実態のギャップが管理職を圧迫しているといえるでしょう。

昇進直後の「昇進うつ」リスク

管理職のメンタルヘルスリスクとして警戒すべきなのが、ポジション昇格直後の期間です。昇格は本来喜ばしい出来事ですが、新しい役割への適応がうまくいかない場合、精神的な不調を来すリスクが高まります。新たな職務への不適応、周囲からの過度な期待、昇格したからには結果を残さねばというプレッシャーなどが重なると、危険性が増すでしょう。

管理職のストレスが組織に与える影響

中間管理職のメンタルヘルス不調は個人の問題にとどまらず、組織全体に深刻な影響を及ぼします。

判断力の低下と業務効率への悪影響

中間管理職のストレスは個人の業務効率低下だけでなく、チーム全体の生産性を大きく下げ、会社の成長を妨げてしまう可能性があります。管理職がストレスを抱えると、まず判断力や集中力が低下し、適切な指示出しや進捗管理ができなくなることが指摘されています。
管理職のストレスを示す具体的な兆候としては、判断や決定が遅れる、ミスや報告漏れが増える、会議での発言が減る、メールの返信が遅れる、勤務時間が長くなる、休暇の取得が減るといった行動の変化が挙げられています。これらの兆候が現れた場合、早期に対処することがポイントです。

法的リスクと安全配慮義務違反

企業や管理監督者が適切に対応しなかった場合、安全配慮義務違反として法的責任を問われるリスクがあります。労働契約法第5条では、使用者は労働者の生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとすると定められているのが特徴です。
管理職のメンタルヘルス対策を怠ることで、訴訟リスクや企業イメージの低下、優秀な人材の流出など、企業にとって大きな損失につながる可能性があります。特に中間管理職は会社組織の中でも重要な役割を担うことが多く、うつ病を発症してしまうと会社全体の業務に支障が出ることも少なくありません。
企業の人手不足が深刻化している現在、中間管理職のみならず社員の離職を防ぐのは企業の最重要課題になりつつあるといえるでしょう。

企業が実施すべき管理職向けメンタルヘルス対策

中間管理職のメンタルヘルスを守るためには、企業側の組織的な取り組みが不可欠です。

4つのケアによるストレスケア体制の構築

メンタルヘルス対策の土台として、管理職を含めた全ての従業員のストレスケア体制を整えることが重要です。厚生労働省が掲げる「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、企業のメンタルヘルスケア対策として4つのケアが挙げられています。

1.セルフケア

従業員が自らのストレスに早めに気づき、適切な対処ができるよう促すものです。

2.ラインケア

職場環境の把握・改善、部下のメンタル不調の早期把握、職場復帰の支援など、管理監督者が行うケアを指します。

3.事業場内産業保健スタッフなどによるケア

産業医や衛生管理者などによる支援、産業医に気軽に相談できる社内窓口の設置などが含まれます。

4.事業場外資源によるケア

メンタルヘルスケアに関する専門知識を持つ、外部機関やサービスを活用したケアとなっているのが特徴です。

これらの4つのケアを組み合わせることで、包括的なメンタルヘルス対策を実現できるといえるでしょう。

管理職向け研修と相談窓口の設置

管理職を対象に研修を行い、一人ひとりのメンタルヘルス意識を向上することも重要です。管理職は多忙な人が多く、個人で学ぶ時間を作ることは難しいため、企業として研修の機会を提供することが大切といえます。ストレスに対する正しい理解を広げるとともに、改善に向けたセルフケアなどの行動を促すことが求められます。
従業員の抱えるストレスや悩みを相談できる外部窓口の設置も重要です。例えば管理職向けのカウンセリングやコーチングを受け、第三者の専門家から助言をもらうことで、悩みが解決する可能性もあります。心の健康を維持することができれば、メンタル不調の予防につながることが期待されるでしょう。

ストレスチェック制度の活用と高ストレス者対応

ストレスチェックの結果を集計し、高ストレス者と思われる中間管理職の社員に対しては心理カウンセリングを促すことにより、うつ病予防を行うことが推奨されています。ストレスチェックを毎年行い、過去の集計結果をデータとして保存しておけば、個人の、もしくは部署ごとのストレスの大きさの推移を観察することも可能です。
ストレスチェックの結果だけでなく、メンタルタフネス度やエンゲージメント状況なども把握できるツールを活用することで、中間管理職のストレスケア・職場環境改善に役立てることができます。上手にストレスチェック制度を用いることでうつ病予防に役立てられるでしょう。
社内にメンタルヘルスの専門家がいない場合、外部の専門機関による支援を求めることも選択肢の一つです。大規模な改善が必要と判断した場合には、外部機関の助けによってうつ病予防をより効果的に行っていくことができるといえます。

上司によるラインケアと職場環境の改善

中間管理職のメンタルヘルスを守るためには、さらに上位の監督者による支援と、職場環境そのものの改善が欠かせません。

中間管理職よりも上位の監督者による支援

企業が行うべき対策の一つが、企業によるラインケアです。中間管理職よりもさらに上の監督者が個別に相談に乗ったり、健康的な生活を送ることができるようアドバイスしたりする方法となっています。もちろん適切なアドバイスを与えられるように企業による監督者への研修も必要になります。
昇進した直後の時期は特に注意が必要で、より一層周りのサポートが必要になるといえます。昇進により部下管理の仕事が増えるとともに心配事も増えるため、上司が定期的に面談を行い、業務の進捗状況や精神的な負担を確認することが大切です。
定期的な面談では、業務上の課題だけでなく、心身の状態についても気軽に話せる雰囲気づくりが求められます。上位の監督者が日常的に声をかけ、変化に気づく姿勢を持つことで、早期のサポートにつながるといえるでしょう。

労働時間管理とハラスメント防止対策

職場環境の改善として、労働時間管理やハラスメント防止対策も重要な取り組みです。働き方改革に伴い、残業に規制をかける企業も増えていますが、実際には「勤務時間内では終わらず、持ち帰りが当たり前」という現状もあるようです。名目的な労働時間削減ではなく、実質的な業務量の見直しや人員配置の適正化が求められています。
一次予防(未然防止)の段階では、ストレス原因の低減、職場環境の改善が目的となり、セルフケア/ラインケア研修、労働時間管理、ハラスメント防止対策などが主な活動として位置づけられているのが特徴です。
ハラスメント防止については、相談窓口の設置や、ハラスメントに対する企業の姿勢を明確にすることで、安心して働ける職場環境を整えることが期待されます。労働時間と職場環境の両面から改善を進めることで、中間管理職のストレス軽減につながるといえるでしょう。

まとめ

中間管理職は上司と部下の板挟みになり、仕事量の増加や成果へのプレッシャー、業務内容の変化など、複合的なストレス要因を抱えやすい立場にあります。中間管理職の8割以上がストレスを感じており、特に「上司との関係」「仕事量の多さ」「仕事内容」が主なストレス原因として挙げられています。
管理職のメンタル不調は個人の問題にとどまらず、判断力の低下やチーム全体の生産性低下など、組織全体に大きな影響を及ぼします。特に昇進直後の「昇進うつ」リスクは見逃せない課題であり、新しい役割への適応期には周囲の特別なサポートが必要です。
中間管理職は組織の要として重要な役割を担う貴重な人材です。企業側が率先してメンタルヘルス対策を行うことで、管理職のうつ病発症リスクを低減し、組織全体の健康と生産性を高めることが期待されます。管理職自身のセルフケアと、企業による組織的な支援の両輪で、持続可能な職場環境を実現していくことが大切といえるでしょう。

参考:first call|中間管理職が抱えるストレスとは?主な原因と解決策を徹底解説アドバンテッジジャーナル|管理職のメンタル不調を防ぐには?企業が取り組むべき対策一般社団法人日本産業カウンセラー協会|職場のメンタルヘルス対策完全ガイド|企業の安全配慮義務と対応プロフェッショナルバンク|中間管理職がうつ病を発症しやすい理由と企業ができる4つの対策

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