会社内での精神障害者への接し方と合理的配慮

会社内での精神障害者への接し方と合理的配慮


初めての障害者雇用となると、企業にとっては「どう接するべきか」「特別な対応が必要なのか」といった疑問があり、不安要素の一つではないでしょうか。

確かに障害の種類等により対応は必要ですが、あくまで障害者も一個人であることを忘れてはいけません。障害だけにスポットを当てて考えるのではなく、個人の特性などに合わせた「合理的配慮」が必要となります。

この記事では、会社内での障害者との接し方を理解するために「障害者雇用における合理的配慮とは何か」ということを解説いたします。

精神障害者の雇用における合理的配慮とは?

「合理的配慮」をごく簡単に説明すると、「障害のある人が、障害のない人と同じ人権、自由を得られるよう、障害者が暮らしにくくなる事象、事案などを取り除いていこう」という意味合いです。

これは単に誰かが掲げた目標ではなく、全国民に課せられた義務です。具体的に法律でも定められていますので、実際の法令も見てみましょう。

〈障害者基本法 第4条2項〉
社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによって前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない。

【出典】e-gov「障害者基本法」

〈障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律 第5条〉
行政機関等及び事業者は、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備に努めなければならない。

【出典】e-gov「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」

これら2つの法令とも「合理的な配慮」という言葉が出てきます。それに対し、障害者に関連するもう一つの別の法律「障害者の雇用の促進等に関する法律(以下「障害者雇用促進法」)」では、合理的な配慮という言葉が一切出てきていません。

ただ、上記2つの基本的理念とも言える法令がある上、厚生労働省では障害者雇用促進法の第36条関連を「合理的配慮」と位置づける指針を策定し、2016年に施行しています。よって、障害者を雇用する云々という以前に障害者への合理的な配慮を行うということは、国民としての基本となるものなのです。

合理的配慮が必要な場面と具体的な接し方

「合理的配慮」と言われても、具体的なイメージは湧きづらいかと思います。そこで「どんな場面で合理的な配慮が必要となるか」、そして「具体的にどのような配慮や接し方が適切か」ということについて、一般的な例をご紹介したいと思います。

【募集と採用面談等での合理的配慮】
・視覚障害のある人でも募集要項が分かるように点字や音声での提供を行った
・聴覚障害のある人との面談を筆談で行った
・面談で保護者や支援機関のサポート者の同席を認めた
・採用試験の時間を通常よりも長くした
・他社員の出入りしない部屋で面談を行った
【採用後の合理的配慮】
・業務の相談や指示を出す担当者を定めた
・文字拡大や音声出力が簡単にできるシステムを導入した
・職場環境のバリアフリー化や危険箇所のチェックを行った
・図解や分かりやすい言葉が書かれた業務マニュアルを作成した
・体調に配慮して業務量や勤務時間を調整した

障害者を雇用するにあたっては障害そのものに個別性があることも珍しくなく、「合理的配慮とはこういうことだ」と一括りに決められるものではありません。雇用する障害者や場面に合わせた柔軟かつ合理的なコミュニケーションや接し方、そして就労環境を作っていくということが大事な考え方となります。

合理的配慮における過重な負担の判断基準とは?

合理的配慮を前提とした障害者雇用を進めていくことは、企業としての責務であり、社会的責任をまっとうするためには当然のこととも言えます。

しかし、必ずしも全企業が障害者雇用を行えるわけではなく、企業規模や経営状態などから実現が難しい場合もあるでしょう。その点は国も共通した認識を持っており、障害者雇用促進法の第36の2においても以下のように定めています。

〈障害者雇用促進法の第36の2〉
事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者と障害者でない者との均等な機会の確保の支障となっている事情を改善するため、労働者の募集及び採用に当たり障害者からの申出により当該障害者の障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならない。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない。

【出典】障害者の雇用の促進等に関する法律

障害者を雇用することは企業側の義務ではあるものの、企業規模や個別な事情があって公的支援を受けても実現し難いという場合は、無理に合理的配慮に尽力する必要はない、つまり、企業負担が大きすぎる場合は必ずしも障害者雇用や個別配慮や改善は必須ではないということです。

ただ、この一文だけを考えてしまうと、費用負担を逃れるために「過重な負担だ」と言う企業が多く出てくる可能性があります。そこで、厚生労働省が定めた合理的配慮指針では、過重な負担にならないために考慮すべき点や判断基準を以下の6つで示しています。

【事業活動への影響の程度】
合理的配慮を行うことによる企業の生産活動や事業活動への影響
【実現困難度】
会社の立地や建物の権利関係などにより施設や設備が改善可能か
【費用・負担の程度】
合理的配慮を実現するために負担すべき費用の額
【企業の規模】
そもそもの企業規模に見合っているか
【企業の財務状況】
企業の財務状況に問題はないか
【公的支援の有無】
障害者雇用のあらゆる公的支援を受けても実現が難しいか

いずれにしろ、障害者雇用と合理的配慮により企業が破綻してしまうのでは本末転倒ですので、上記のような点が考慮されているということはもちろん、企業側も障害者を雇用することでどのくらいの負担となるかは一度整理し、把握しておいたほうが良いでしょう。

企業の合理的配慮の事例

さて、合理的配慮の基本と具体的な例などをご紹介してきましたが、実際に障害者雇用を進める企業ではどのような配慮を実施しているのでしょうか。最後に、実際の合理的配慮の実例を精神障害者の事例でピックアップしてご紹介します。

「株式会社ダイキンサンライズ摂津」の事例
・1日1回の声かけ
・報告、連絡、相談を気軽に聞く
・職場で怒鳴り声を発しない
・病気のことを把握しておく
・病院にいくときは快諾して、診察結果も把握する
・出来ないときは責めずに的確にアドバイスする
・本人と医療機関、支援機関、企業が連携する

【出典】株式会社ダイキンサンライズ摂津「合理的配慮について」
https://www.daikin.co.jp/group/dss/company/consideration.html

「高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者雇用事例リファレンスサービス」
・他の社員が出入りしない個室の会議室で面接を実施した(小売業)
・緊張していたら面接の中断を認め、本人が落ち着いてから再開している(サービス業)
・直接相談しにくい内容も相談できるよう、相談用紙と投函する箱を設置している(サービス業)
・毎日作業内容が変わることから、次にやるべき仕事、いつまでに終わらせるかなどについて、その都度指示を出している(物品賃貸業)
・通勤ラッシュを避けられる出退勤時間にしている(生活関連サービス)
・一人で休憩できるよう、従来の休憩場所以外の休憩場所を確保や休憩時間をずらしている(多数事例)
・本人と相談した上で、てんかんが起きたときの対処法を予め従業員間で共有し、対応できるようにしている(物品賃貸業)
・仕事以外でチャレンジできる場(スポーツ大会等)の参加支援を行っている(サービス業)

【出典】高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者雇用事例リファレンスサービス」
http://www.ref.jeed.or.jp/

上記はほんの一例であり、調べてみると実にたくさんの事例があります。「合理的配慮とは何をすれば良いのか」「自社の環境と似た事例はないか」そんな風に事例を探してみると、合理的配慮を行うためのヒントになるかもしれません。

まとめ

合理的配慮をもう少し深く考えてみると「障害者本人にとって適度な労働環境にするための配慮」ということでもあります。つまり、あまり過度な配慮を行ったり、配慮が不十分にならないように注意が必要です。

特に精神障害者の場合、与えられた仕事ができずに簡単な作業を命じられることで自信を無くしてしまったり、プライドが傷ついて症状がより悪化してしまうケースも多々あります。合理的配慮とは、本人、企業、支援機関で障害や症状についての情報を共有し、「やりすぎない配慮」「やっていない配慮」を除外しながら最適な配慮を目指すもので、個々人に合わせた配慮というのが本来の合理的配慮と言えるのではないでしょうか。

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