働き方改革における障害者の在宅勤務とは?国が推進する取り組みを紹介

働き方改革における障害者の在宅勤務とは?国が推進する取り組みを紹介

今では当たり前のように耳にするようになった「働き方改革」。そもそも働き方改革とは個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で選択できるようにするための改革です。

日本は今、人口減少や企業の人手不足における働き手の確保、そして子育て世帯の主婦の就業機会の環境を整えなければならない喫緊の課題を抱えています。そのため働くニーズに則した環境づくりが必要です。

そんな働き方改革で重要なカギと見られているのが「障害者の在宅勤務」。既に国は障害者の在宅勤務に関する取り組みを始めています。

障害者の在宅勤務に対して国がどんな取り組みを行い、どう推進していこうとしているのか具体的に解説します。

働き方改革における「障害者の在宅勤務」とは?

在宅勤務とは、事業所へ出勤せずに自分の住む家で勤務する就労形態のことです。昨今、障害者雇用率が急激に上がっているのはご存知の方も多いでしょう。在宅勤務を含めた障害者雇用は働き方改革を実現する重要なカギとされています。

事実、国が策定した働き方改革実行計画では障害者の就労が示されており、働き方改革の実現において障害者雇用がいかに重要と見られているかが分かります。

【働き方改革実行計画の抜粋】
・障害者の就労
・高齢者の就業促進
・外国人材の受入れ
・女性・若者の活躍しやすい環境整備
・非正規雇用の処遇改善
・賃金引上げと労働生産性向上
・長時間労働の是正
など

また、厚生労働省ではかねてから障害者雇用のあり方について話し合われてきました。特に働き方改革における障害者雇用では多様な希望や特性等に対応した働き方の選択肢の拡大が重要だとされており、具体的に3つの取り組みが示されています。

・週労働20時間未満の障害者雇用に対する支援措置の創設
・自宅や就労施設等での障害者の就業機会の確保
・希望する障害者のテレワークの推進

働き方改革の一環として障害者雇用が挙げられており、更に障害者雇用を促進する取り組みとして自宅での就業やテレワークといった「障害者の在宅勤務」が掲げられているのです。

障害者の在宅勤務を推進する働き方改革の事業・制度

厚生労働省では働き方改革における障害者の在宅勤務を推進する制度を創設し、障害者の在宅勤務を促進する具体的な事業を行っています。

在宅就業障害者支援制度

在宅勤務をする障害者に仕事を発注する企業に対し、障害者雇用納付金制度による「特例調整金」「特例報奨金」を支給する制度。在宅勤務を支援する団体を介して仕事を発注しても特例調整金や特例報奨金の支給対象です。

特例調整金や特例報奨金の具体的な額は、以下の式で算出されます。

特例調整金 =(発注額 ÷ 35万円)× 2万1,000円
特例報奨金 =(発注額 ÷ 35万円)× 1万7,000円

※()内の計算は小数点以下切り捨て

在宅就業障害者支援制度は、常時雇用労働者が100人超で法定雇用率を達成している企業を対象として、特例調整金や特例報奨金が支払われる制度となっています。

在宅勤務導入コンサルテーション事業

在宅勤務導入コンサルテーション事業は、厚生労働省が障害者のテレワーク(在宅勤務)促進のための総合支援事業の一つで、民間企業に委託しています。

具体的な支援内容は以下の4つとなります。

・テレワークを導入したい企業の開拓や導入支援
・テレワークの導入を検討する企業へのコンサルティング
・テレワークを導入している企業への相談援助
・障害者のテレワークに関するマニュアル作成
・障害者の在宅勤務導入に関するセミナーやPR

厚生労働省は障害者雇用の促進にテレワークの推進が必要不可欠と考えているため、障害者テレワークの環境・制度面の整備を目的として「障害者テレワーク導入のための総合支援事業」と銘打った総合的な支援事業を開始しました。

在宅勤務ノウハウ蓄積モデル事業

厚生労働省が行う障害者テレワーク導入のための総合支援事業には、もう一つ「在宅勤務ノウハウ蓄積モデル事業」というものがあります。

在宅勤務ノウハウ蓄積モデル事業は、最終的に在宅雇用の障害者が働きやすい環境やサポート体制を構築する目的の支援事業です。

具体的な事業内容には以下のようなものがあります。

・企業のテレワーク導入に関する社内研修の実施
・テレワークを導入する企業の視察
・障害者のテレワークを導入している企業からの情報収集
・在宅勤務導入コンサルテーション事業を行う企業によるコンサルティング

在宅勤務ノウハウ蓄積モデル事業は、障害者のテレワークを既に導入している企業が持つノウハウを、今後テレワークの導入を検討する企業にアウトプットするための事業と考えていただければ良いでしょう。

障害者の在宅勤務による雇用事例

では障害者に在宅勤務をしてもらう企業側は、具体的にどんな業務を障害者に行ってもらえばよいのでしょうか。

障害者の在宅勤務における業務の一例として、以下のようなものがあります。

・ホームページ運営、更新、管理
・Webサイトのデザインや画像加工
・Webサイトのコーディングやプログラミング
・インターネットでの情報収集
・CADによる図面作図や住宅の間取り図作成
・伝票や書類整理、データ入力など
・取扱説明書の作成
・動画編集
・点字名刺の作成
など

厚生労働省では先ほど解説した事業の実施と共に、実際に障害者の在宅勤務を導入した事例集も公開しています。同事例集から障害者の在宅勤務を実際に導入、または導入を進めた企業を一部抜粋しましたのでご覧ください。

【株式会社ジャパンタイムズ】
在宅勤務の障害者:精神障害のある3名
業務内容:英文インデックスの入力業務、契約書のPDF化や知財管理業務の補佐
在宅勤務導入の準備:在宅勤務導入企業の視察、社内研修、トライアルの実施など
在宅勤務導入後:社員が他の業務に時間を使えるようになり、後回しになっていた業務が少なくなった
【価値住宅株式会社】
在宅勤務の障害者:精神障害者の男性
業務内容:不動産広告の間取り作成、写真の補正、ホームページへの物件情報の入力、VRコンテンツの作成、編集など
在宅勤務導入の準備:在宅勤務導入企業の視察、ツール導入とルール作成、トライアルの実施など
在宅勤務導入後:視察や面談会に参加して社員の障害者雇用に対する理解が進んだ。また障害者と働くことへのハードルが下がった
【株式会社バンダイナムコウィル】
在宅勤務の障害者:条件付きによる在宅勤務者の募集中
業務内容:未定
在宅勤務導入の準備:在宅勤務導入企業の視察、テレワークとユニバーサルマナーの社内研修、トライアルの実施など
在宅勤務導入後:在宅勤務導入企業の視察により貴重な意見を聞け、障害者のテレワークが身近になった

【参考】障害者の在宅雇用事例集

障害者の在宅勤務を雇用率に算入する方法

障害者雇用を在宅勤務やテレワークで実現しようと考える企業にとって、最も気になるのは「障害者雇用率」ではないでしょうか。

障害者の在宅勤務でも障害者雇用率の算定にはカウントできますが、在宅勤務の場合は以下のような条件が課せられます。

・在宅勤務者に対して雇用保険の被保険者資格を取得していること
・「在宅勤務者実態証明書」を作成して事業所を管轄する公共職業安定所に提出していること
・以下、在宅勤務者の要件を満たしていること
 1. 事業主の指揮監督系統が明確であること—在宅勤務者の所属事業所及び管理監督者が指定されていること
 2. 拘束時間等が明確に把握されていること—所定労働日及び休日、始業及び終業時間等が就業規則等に明示してあること
 3. 勤務実績が事業主に明確に把握されていること—各日の始業、終業時刻等—
 4. 報酬(月給・日給・時給等)が勤務した期間又は時間を基に算定されていること
 5. 請負・委任的なものでないこと-機械、器具、原材料等の購入、賃借、保守整備、損傷、通信費光熱費等が事業主により負担されることが雇用契約書、就業規則等に明示されていること。また、他の事業主の業務に従事することが禁止されていることが、雇用契約書、就業規則等に明示されていること

【引用】在宅雇用の手続き

障害者の在宅勤務は障害者自身に対するメリットだけでなく、企業側にとっても人材の確保や生産性向上、オフィスコストの削減などメリットが数多くあります。

特に障害者雇用は今や超売り手市場とまで言われていますので、通勤が難しい障害者や環境変化に適応できない障害者を在宅勤務で雇用することは、企業にとって今後大きなプラスになっていくことでしょう。

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