「世の中の社長はみな発達障害者」と言われる根拠はあるのか

「世の中の社長はみな発達障害者」と言われる根拠はあるのか

「うちの会社の社長はワガママだ…」
「取引先の会社はトップが自分勝手で…」
「社長と話をした時に冗談が通じなかった」

社会人であれば、上記のような経験をしたことがあるか聞いたことがある人は少なくないでしょう。

今までは上記のような話題が出ても、単に「ワンマン社長」という一言で片づけられていました。しかし、現在は「もしかしたら発達障害?」という、ワンマン社長を別の視点から見る人もいます。

つまり、「社長はみな発達障害なのでは?」と考える人が増えてきているのです。

今回は、発達障害への認識として語られがちな「経営者に発達障害を持つ人が多い」という根拠を著名人のエピソードも含めて探ってみたいと思います。

社長はみな発達障害と言われる理由

「社長と呼ばれる人には発達障害が多い」

こんな話を聞いたことがある方は意外と多いかもしれません。実際は経営者や社員など、発達障害者の職業や役職のデータが存在するわけではありません。

Googleで「発達障害 社長」と検索すると上位には以下のようなタイトルの記事が並びます。

  • 発達障害の傾向は仕事で武器にもなる
  • 中小企業経営者には発達障害が多い!最悪の組み合わせとは?
  • 経営者に発達障害が多いのは本当?ウチの社長で判定してみた結果
  • 「大人の発達障害」を疑ったら試したい20のチェックリスト
  • ろみひー先生の「発達障害ADHD社長への処方箋」
  • 社員の7割以上が発達障害。「経済合理性があるからやっている」社長の思い
  • 絶対に会社を潰す「ダメ社長」3つの傾向
  • どこに勤めてもクビだったアスペルガーの女性が、年商1億円社長になるまで

これらは、気になる記事を恣意的に抜き出したものではなく、Google検索の上位に表示されたものです。

それぞれの記事内容を確認すると、やはり共通して冒頭でお伝えしたような言葉が見受けられます。

検索結果で表示されたページは、個人ブログや大手メディアのインタビューなど記事の種類は様々です。しかし、その中身が何にせよ「社長には発達障害の人が多い」と思わせるには十分な内容だと言えるでしょう。

こういった記事が多いことも「社長はみな発達障害」という根拠のない認識の広まりに影響していることは否定できません。

発達障害の症状と共通する行動

Google検索の結果が「社長はみな発達障害」という認識を広めているとは言い切れませんが、少なくとも「社長には発達障害の人が多いのか?」という、何となくボンヤリとした疑問を持つ人は少なくないのではないでしょうか。

そもそも発達障害の認知が広まったのも、そう昔のことではありません。そこで、発達障害の症状が果たして「社長はみな発達障害」と言わしめるようなものなのかを考えてみたいと思います。

まず、発達障害とはどのような障害が見てみましょう。

【発達障害とは?】

発達障害とは、いじめや虐待、ストレスなどにより発症する障害ではなく、言語や認知、コミュニケーションといった脳の発達バランスに不釣り合いがあり、生活の中で様々な困難が生じる障害です。

【主な発達障害の種類と症状】

ADHD(注意欠如多動性障害)
注意力が欠けていたり(注意欠如)落ち着きがなかったり(多動性)という症状が特徴の発達障害
ASD(自閉症スペクトラム)
他人に理解を示すことやコミュニケーションが苦手であったり、自分のこと以外に興味がない、強いこだわりを持っていたりなど、社会性に困難が見られる発達障害
SLD(限局性学習症)
文字を認識する、文章を読む、計算をするなど、限られた範囲の学習能力に著しい困難が見られる発達障害

上記3つの障害の中でもSLDは、明らかに人より苦手な分野があることが自分自身や第三者から見ても明らかなため、発達障害だと気付かれやすいと言えます。

問題はADHDとASDです。うっかり忘れ物をしたり、動揺して落ち着きが無くなったりすることは誰にでもありますが、ADHDが原因の可能性も考えられます。

また、他人に興味が無かったり、人とのコミュニケーションが苦手だったりする人がいても何ら不思議ではありませんが、これもASDの可能性が疑われます。

ADHDとASDは、単に性格の問題と認識されて発達障害だと気づかれにくいことから、社会生活の中でトラブルとなることが多いのです。

「社長が自分の都合ばっかり優先して困る…」
「もの忘れは多いし落ち着きないし、あの人は社長の器じゃないよ…」
「ちょっとした思いつきをすぐ何でも社員に振るのやめて欲しいよな…」

こういった社長に対する陰口悪口はどの会社でもあることですが、逆に「あの社長は行動力がある」「この社長のこだわりがすごい」といった称賛の言葉を耳にすることも当然あります。

しかし、その裏には発達障害者だと認識されないことにより、本人にしか分からない苦しみが隠されている可能性もあるのです。

実際にあった発達障害と疑われるエピソード

ここで先ほどご紹介したGoogle検索の最上位にあった「発達障害の傾向は仕事で武器にもなる」という記事の内容をご紹介します。

記事でインタビューを受けているのは、日本マイクロソフト元社長であり、現在は実業家の成毛眞氏です。自身もADHDの傾向があると認識しているとのことですが、大変興味深いエピソードが語られています。

マイクロソフト社長時代に付き合っていたIT経営者たちはみんな疑わしい人ばかりです

ビル・ゲイツとメールのやり取りをした際『こんな仕事、うちの会社では犬でもできるよ』と、ジョークを言ったら『お前の会社は犬が働いているのか!?』と本気で驚かれたことがあります

シリコンバレーのIT関係者はすごく優秀でしたが変わり者だらけで、恐らくまともな会社に就職できなかったからやむを得ず起業した側面があったんでしょう

私も、注意力散漫で集中して受験勉強ができず、第1志望の大学には落ちています

【引用】月間SPA 発達障害の傾向は仕事で武器にもなる/当事者、日本マイクロソフト元社長・成毛眞氏は語る

成毛氏は大手企業や望まれる仕事をこなすことにこだわらず、いっそ自分の特性に理解を示すベンチャーや外資系に就職したほうが良いと語っています。

同時に「自分は変わっていると認めること」が、「発達障害者が自分に合う仕事を見つけるコツ」であるとも述べています。

成毛氏はこのエピソードを決してネガティブに捉えているわけではありません。発達障害により物事が上手くいかず苦悩する人が多い反面、発達障害だからこそ成功している人もいると思わせてくれる、良い事例であると言えるでしょう。

発達障害を認知する事が求められる時代

こうして考えてみると、「社長はみな発達障害という確固たる証拠はない」ものの、発達障害に関する書籍がヒットしたり、自身が発達障害であるとカミングアウトする著名人が増えたことは、発達障害の認知度が高まっている一因であるのは間違いないでしょう。

ただ、世の中が一種のブームのように発達障害を話題にする裏で、発達障害を持つ本人たちの苦悩が絶えることはないという事実を忘れてはいけません。

では、今の社会に求められていることは何でしょうか。

発達障害が認知されることは決して悪いことではありませんが、発達障害者がみな成毛氏が語るような天才ではないのです。

発達障害であることを理由に、本人に過度な期待が寄せられる事態は避けなければいけません。

「発達障害とは何か?」を誤解なく認知すること、そしてそれを個性と認めて理解を示すことが、社会全体が果たす発達障害者への基本的な配慮と言えます。

まとめ

「社長はみな発達障害」という浅はかな認識が広まっているのは否定できません。発達障害の存在とその症状が認知されるのは歓迎すべきことですが、一部で「社長はみな発達障害」という誤解も広まっているのです。

今は必ずしも学歴が重宝される時代ではなく、実力が求められる時代です。かと言って、仕事のできる人がちょっとしたミスをする度に「発達障害ではないか?」と疑念を持つような社会は望ましいとは言えません。

大切なのは、発達障害を一つの個性として認める社会全体の姿勢だと言えるのではないでしょうか。

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