障害者雇用は合理的配慮の運用で決まる!現場が回る仕組みと企業事例

障害者雇用は合理的配慮の運用で決まる!現場が回る仕組みと企業事例

障害者雇用に取り組む企業は増えていますが、「採用したものの定着しない」「現場の負担が大きい」といった悩みは後を絶ちません。その原因は、障害のある本人の能力や意欲ではなく、企業側の運用設計にあるケースがほとんどです。
特に重要なのが、障害のある人が、他の人と同じように学び、働くことができるようにするための「現実的で過度な負担にならない調整」、いわゆる合理的配慮(※1)を「用意したかどうか」ではなく、「どのように運用しているか」という視点が重要です。配慮が属人化し、相談体制が曖昧なままでは、どれほど善意があっても雇用は長続きしません。
本記事では、現場が疲弊せず、定着につながる障害者雇用の仕組みをわかりやすく解説しています。「何から手をつければいいかわからない」「今のやり方に不安がある」という担当者こそ、ぜひ参考にしてください。

※1.合理的配慮は障害者差別解消法により、2024年4月1日から事業者による障害のある人への提供が義務化されました。
参考:政府広報オンライン|事業者による障害のある人への「合理的配慮の提供」が義務化

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「うまくいかない障害者雇用」で起きがちな3つのズレ

障害者雇用が定着しない背景には、本人の能力や意欲ではなく、企業側の設計ミスが潜んでいるケースが少なくありません。特に多くの現場で共通して見られるのが、次の3つのズレです。

配慮が「善意」や「属人性」に依存している

最も多いズレが、合理的配慮を個々の担当者の気遣いや努力に任せてしまうケースです。上司や同僚が自主的に配慮している間は問題が表面化しませんが、人事異動や配置換えが起きた瞬間、環境が一変します。

「前はできていたのに、急に働きづらくなった」
「誰に相談すればいいのかわからない」

配慮の内容や判断基準が共有されていないため、上記のような不安が生じ、結果として離職につながります。

合理的配慮は“気づいた人が対応するもの”ではありません。会社として用意し、継続的に更新する仕組みがなければ、長期定着は難しくなります。

相談窓口が曖昧で、支援が分散している

次に多いのが、相談体制のズレです。上司、人事、産業保健スタッフ、外部支援機関など、関係者が多いにもかかわらず、役割分担が整理されていないケースが目立ちます。

その結果、以下のように本人に負担が集中します。

  • 上司には業務の相談、人事には配慮の相談
  • どちらに言うべきかわからず我慢する
  • 同じ内容を複数人に何度も説明する

相談先が多いこと自体は悪くありません。問題は「誰が最初に受け止め、どうつなぐのか」が決まっていない点です。相談窓口を一本化し、必要に応じて専門職や外部支援につなぐ流れを整えることで、トラブルの芽を早期に摘めます。

定着支援が「問題が起きてから」になっている

三つ目のズレは、定着支援が後手に回ることです。欠勤やミス、対人トラブルが表面化してから初めて対応を検討する企業は少なくありません。

しかし、離職の兆候はその前段階で現れます。

  • 疲労の蓄積
  • 業務スピードの低下
  • 報連相の減少
  • 表情や態度の変化

これらを定期的な面談や日常のチェックで拾えるかどうかが、定着率を大きく左右します。

定着支援は「問題対応」ではなく「予防運用」が前提です。あらかじめ面談頻度や確認項目を決め、必要に応じてジョブコーチや支援機関と連携する仕組みを持つ企業ほど、安定した雇用を実現しています。

合理的配慮は“用意する”より“回す”

合理的配慮というと「何を用意すればよいのか」「どこまで対応すべきか」といった静的な準備物としてとらえられがちです。しかし、厚生労働省の合理的配慮指針では、合理的配慮は一度決めて終わるものではなく、個別の事情に応じて調整し続けるものだと明確に示されています。

  • 障害者と事業主との相互理解の中で提供される性質のもの
  • 話し合いを通じて、複数の選択肢の中から実施可能な措置を選ぶ
  • 障害の状態や職場環境の変化に応じて、適宜 確認・見直しを行う

指針では上記の通り整理されています。

つまり、合理的配慮の本質は「完璧な配慮を最初から用意すること」ではありません。
申出→話合い→試行→見直しというプロセスを、継続的に回せる体制を持つことが重要です。

実務でつまずきやすいのが「この配慮で足りているのか」「一度決めた内容を変えてもいいのか」という不安です。しかし指針では、過重な負担にならない範囲であれば、より提供しやすい措置への変更も差し支えないとされています。

逆に言えば、状況が変わったにもかかわらず配慮を固定してしまう方が、合理的配慮の趣旨から外れてしまいます。

また、採用後については以下の通り、職場で支障となっている事情の確認が求められています。

  • 雇入れ時
  • 障害を把握した時点
  • 障害の状態や職場環境が変化したタイミング

これらの記載からも、合理的配慮が「一回限りの対応」ではなく、定期的に点検し、更新される前提の仕組みであることがわかります。

合理的配慮を「用意するもの」と考えると、企業側の負担感は大きくなります。一方で、「回すもの」ととらえれば、最初は小さな調整から始め、必要に応じて修正する運用が可能です。定着している企業ほど、合理的配慮を制度ではなく日常のマネジメントプロセスの一部として組み込んでいます。

視点の転換が、障害者雇用を一過性の対応から、安定した雇用へと変える分岐点です。

定着の鍵は「相談体制」と「ジョブコーチ」の使い分け

障害者雇用を定着させるうえで、多くの企業が見落としがちなのが相談体制の設計です。「何かあったら相談してください」という姿勢だけでは、実際のトラブルや不調を早期に拾い上げられません。

合理的配慮指針では、事業主に対して障害のある労働者からの相談に応じ、適切に対応するための体制整備を義務づけています。ここで重要なのは「相談できる人がいる」ことではなく、相談の流れが整理されているかどうかです。

相談体制は「窓口の一本化」が基本

定着している企業に共通するのは、相談窓口を明確に定めている点です。上司、人事、同僚、支援機関と相談先が分散すると、本人は「誰に、どこまで話せばいいのか」を判断できず、結果として相談そのものを控えてしまいます。

  • 相談に対応する担当者・部署をあらかじめ定めること
  • 外部機関に委託する場合も含め、相談窓口を周知すること

指針でも上記が求められています。
ポイントは、以下の点です。

  • 最初に受け止める窓口を一つにする
  • 内容に応じて、人事・産業保健・外部支援へつなぐ

これにより、本人の心理的負担を減らし、問題の早期発見が可能です。

ジョブコーチは「困ったとき」ではなく「設計段階」で使う

もう一つの重要な要素が、ジョブコーチ支援の活用です。ジョブコーチは、障害特性を踏まえ、職場での業務遂行や人間関係を専門的に支援する存在です。しかし現場では「問題が起きてから呼ぶ専門家」という位置づけになりがちなので注意しなければなりません。

実際には以下の予防的な関与によって、ジョブコーチの価値が発揮されます。

  • 配属初期の業務設計
  • 指示の出し方や評価方法の調整
  • 上司・同僚への助言

合理的配慮指針でも、本人の意向確認が難しい場合や円滑な配慮提供のために、就労支援機関の職員等が補佐することを認めています。企業内だけで抱え込まず、外部専門職を前提に設計することが望ましいというメッセージでもあります。

相談体制とジョブコーチは「役割が違う」

定着しないケースでは、以下のような歪みが起きがちです。

  • 上司がすべてを抱え込む
  • 人事が個別対応に疲弊する
  • ジョブコーチに丸投げする

本来の役割は次のとおりです。

  • 相談体制:日常的な不安・違和感を拾い、社内で調整する
  • ジョブコーチ:専門的視点で業務・環境・関わり方を調整する

この役割を切り分けて使い分けることで、現場の負担を抑えながら、安定した雇用を実現できます。

障害者雇用の定着は、個人の努力では続きません。相談体制とジョブコーチを前提にした仕組みづくりこそが、長く働ける職場を支える基盤です。

成功している企業事例

障害者雇用が安定している企業には、共通点があります。それは、雇用を「個別対応」ではなく、配置・育成・環境・支援をあらかじめ設計された仕組みとして運用している点です。ここでは、実務に落とし込みやすい4社の事例を紹介します。

KDDI:特例子会社×職域拡大で「配置と育成」を仕組み化

KDDIグループでは、特例子会社であるKDDIチャレンジドを中核に、障害のある社員の配置と育成を体系的に設計しています。特徴的なのは、障害特性だけで配置を決めるのではなく、健康状態・スキル・キャリア志向を複合的に見てマッチングしている点です。

現場では、1チームあたり5〜7名程度の体制を基本とし、リーダーが日常的に業務面・生活面の双方をフォローします。ジョブコーチや精神保健福祉士が常勤し、専門的な視点から配置や業務内容の調整を支えています。評価制度や賃金体系も明確に示されており「どこまで成長すれば、次の役割に進めるのか」が見える形で設計されているのが特徴的です。

このように、配置・育成・評価を分断せず、一つの流れとして管理する仕組みが、長期定着と職域拡大を支えています。

日本郵政グループ:特例子会社を活用して実習〜採用〜定着をつなぐ

日本郵政グループでは、特例子会社「ゆうせいチャレンジド」を軸に、実習から採用、定着までを一続きのプロセスとして設計しています。特徴は、採用前の段階から職場との相互理解を重視している点です。

就業実習を通じて、本人の適性や課題を確認し、現場側も受け入れ体制を整えたうえで採用につなげます。採用後は、現場コーチが日常的に関わり、必要に応じて就労支援機関や家族とも連携します。

このように、雇用の入口と出口を分断せず「実習→配置→定着」を一本の線でつないでいる点が、安定した雇用につながっているのが特徴的です。特例子会社を単なる受け皿にせず、人材育成と定着のハブとして機能させている点が、日本郵政グループの強みです。

パナソニック:重度障害も見据えた「環境整備」をグループ運用に落とす

パナソニックグループでは、障害者雇用をDEIおよび人的資本経営の一環として位置づけ、グループ横断で環境整備を進めています。特徴的なのは、重度障害のある社員も含めた雇用を前提に、環境整備を個別対応に留めていない点です。

例えば、聴覚障害への情報保障として音声認識アプリをグループ全体で一括導入し、マニュアルや研修コンテンツも整備しています。「障がいに関するワークサポート相談室」を設置し、本人だけでなく上司や同僚も相談できる体制を整えているのも重要な点です。

特例子会社では、車いす利用者の体型に合わせた部材配置や作業机の工夫など、現場レベルの改善を継続的に実施しています。これらの取り組みを点ではなく面で展開することで、誰もが働き続けやすい環境を実現しています。

JR東日本:外部機関連携を前提に支援ネットワークを先に作る

JR東日本では、特例子会社であるJR東日本グリーンパートナーズを通じて、外部機関との連携を前提にした支援ネットワークを構築しています。特徴は、社内だけで支援を完結させようとしない点です。

就労支援機関や行政と定期的に情報交換を行い、月1回の面談や支援会議を通じて、本人の状況を多角的に把握します。現場指導員についても、職業生活相談員資格の取得や研修参加を推奨し、支える側の専門性向上に力を入れているのは大事なポイントです。

業務内容は反復性と正確性を重視しつつ、体調や特性に応じた調整を行います。支援を「場当たり的な対応」にせず、外部資源を含めたネットワークとして設計している点が、長期定着を可能にしています。

まとめ

障害者雇用が定着するかどうかは、制度を整えたか、採用人数を満たしたかでは決まりません。鍵となるのは、合理的配慮や相談、支援をどのように運用しているかという点です。

多くの現場で見られるつまずきは、配慮が担当者の善意に依存していたり、相談先が曖昧だったり、問題が起きてから対応する後追い型の支援に偏っている点にあります。これでは、本人だけでなく現場の負担も増え、結果として雇用が続きません。

一方、定着している企業は、合理的配慮を「一度決めて終わり」にせず、状況に応じて見直し続けています。また、日常的な不安を受け止める相談体制と、専門的に業務や環境を調整するジョブコーチの役割を切り分け、支援を仕組みとして機能させています。配置・育成・環境整備・外部連携を個別対応に留めず、組織全体で運用している点も共通しています。

KDDI、日本郵政グループ、パナソニック、JR東日本の事例が示すように、障害者雇用は特別な取り組みではなく、人材マネジメントの延長線上にあります。重要なのは、完璧な配慮を最初から用意することではなく、小さく試し、調整し、回し続ける姿勢です。

合理的配慮を「用意するもの」から「回すもの」へととらえ直すことで、障害者雇用は一過性の対応ではなく、現場が無理なく続けられる取り組みへと変わっていきます。

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