障害者雇用は企業としての義務であり、法定雇用率を達成できない場合は納付金を納める必要があります。
しかし、事前知識や準備を何もしないまま障害者を雇用しても、「すぐに退職してしまう」「症状を悪化させる」「社内のモチベーションや生産性を下げてしまう」といった結果になりかねません。
そもそも障害者を採用するにあたって、何か特別なことをする必要はあるのでしょうか。そして障害者雇用で失敗しないためにはどうしたら良いのでしょうか。
今回は、そんな障害者雇用における採用方法や失敗しないための手順、相談窓口について解説いたします。
障害者を雇用するまでの5つのステップ
障害者を雇用するといっても、それが初めての企業側は疑問や不安が多いかと思います。
主なところで言えば、「そもそも人材をどう募集すべきか」「面接で気をつけるべき点は何か」「採用後、離職させない為にどういった配慮が必要か」などを考えていかなければなりません。
最初に障害者を雇用する具体的な流れを見てみましょう。
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2. 配属先と仕事内容を決める
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3. 雇用形態や賃金、雇用方法を決めつつ、社内周知と研修を行う
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4. ハローワーク等を通じて求人活動を始める
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5. 雇用した障害者が継続して就労できるよう支援する
まずは大枠として上記のような流れになることを把握し、あとは各セクションの内容を専門機関と相談しながら詰めていく形になります。
ただ、専門機関への相談を踏まえて障害者を雇用するにしても、採否を決めるにあたって何を基準にすべきかは経験者でなければわからないことです。
そこで、障害者雇用の採否でどういったことに気をつけるべきかをご説明します。
採否を決める具体的なポイント
障害者を雇用するといっても健常者と違う基準を設定する必要はなく、基本的にはどの企業でも行っている職業適性を基にした選考基準で採否を決めれば差し支えありません。
一般的な流れで面接を行い、「自社の戦力になりそうか」「本人の意欲はどうか」「持っているスキルはどうか」といった具体的なところを確認しながら採否を決めます。
障害者雇用という面で採否を決めるポイントが違うことはありませんが、雇用する企業側も障害者をサポートとする役割がありますので、以下のようなことは確認したほうがよいでしょう。
- 【健康管理】
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- 自分自身で障害を理解し、出来る出来ないの区別、適宜サポートの依頼ができるか
- 障害による疾患や症状について、自己管理や対処ができるか
- 【日常生活技能】
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- 規則正しい生活習慣と身辺処理ができるか
- 挨拶や報告・連絡・相談ができるか
- ミスをした場合の謝罪ができるか
- 周囲と協調性を保てるか
- 【基本的労働習慣】
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- 通勤は問題ないか
- 安定して仕事に取り組めるか
- ビジネスマナーや社内規則を守れるか
上記を障害者雇用の現場に限らず「職業準備性」と言いますが、「障害の度合いや種類について」をメインにしてしまうと差別にあたるため、「働いてもらいたいが障害へのサポートをどうすべきか」ということを前提として考えると良いでしょう。
初めての採用…こんな時どうする?
障害者雇用の流れと採否のポイントさえ分かれば、すぐにでも障害者雇用を進められそうな気がしますが、いざ求人活動を始めてみると不安に思う点が出てくるはずです。
そこで、企業側が主に不安に思うことについて、どう考えるべきかをいくつかご紹介します。
どんな業務をしてもらうべきか
障害が理由で出来ない作業はありますが、専門知識や技術がなくとも「郵便物や書類の仕分け」「破棄すべき書類をまとめる」「社内の書類の受渡し」などの事務作業は出来るはずですし、現場補助として「設備点検や未使用の道具の片付け」「製品のチェック」といった意外と時間が取られがちな作業をしてもらうこともできます。
無理に既存社員と同じ業務を行ってもらう必要はなく、社内全体の生産性向上のための仕事を切り出す「ワークシェアリング」を行えば、差し支えないでしょう。
社内設備はそのままでも大丈夫か
障害といっても様々ですが、肢体不自由な方を雇用する場合はバリアフリー化を積極的に考えたほうが良いでしょう。
また精神障害者の場合、人とのコミュニケーションや人が多く出入りしたり、行き来する部署が苦手というケースもありますので、症状や障害の程度によって別の作業室や小休憩室などを設けたほうが良い場合もあります。
怪我や事故、症状の悪化が心配
職場環境は、雇用する障害者によって変えていかなければなりません。
身体に障害を持つ方を雇用するのであれば、作業させる機器などに安全装置やカバーなどを付ける必要がありますし、通路に置かれた物の撤去も必要です。
精神障害者の雇用なら施設や設備の改善は必要ないかもしれませんが、既存社員の認識を変える必要があります。
生産性を保つためには採用する側が障害を許容する姿勢を持ち、社員全体の障害に対する理解・サポートが必要不可欠です。
先ほどご説明した別の作業部屋を設けるべきなのか、労働時間を短くすべきか、作業内容を単純なものにすべきかなど、個々の疾病に合わせて労働環境を変化させるべきという認識を持ったほうが良いでしょう。
社内の理解が深まるか心配
いざ障害者を雇用するとしても、採用担当者や雇用後にサポートする現場の担当者だけが障害を理解していれば足りるわけではありません。
同じ職場で働くのですから、全社員が障害者雇用への関心や理解を深めるための周知・研修・定期的な啓発活動などが必要となります。
障害者を雇用するからと焦る必要はなく、まずは障害者雇用の義務や納付金、自社の障害者雇用の状況を把握し、全社員に伝えることから始めましょう。
その上で、専門機関によるサポートを受けつつ、社内研修の実施やマニュアル作成、職場実習により徐々に受け入れを行うというペースで社内の理解を深めるようにするとよいでしょう。
不安があるなら地域障害者職業センターで相談
障害には固有の特性があるため、いざ障害者の雇用に取り組むことになっても、その過程で新たな疑問や不安が生まれる可能性は高く、不測の事態が起こることもあるでしょう。
そのため、障害者を雇用する企業は、無理に自社努力だけで進めていこうとするのではなく、ハローワークを始めとした専門機関へ目的に応じた相談とサポートを依頼することをおすすめします。具体的には以下のような機関があります。
障害者雇用への総合的な相談窓口
- 地域障害者職業センター
- http://www.jeed.or.jp/location/chiiki/index.html
事業主の総合的な障害者雇用に関する、管理、相談、支援、助言を行っている。
求人や職業紹介の相談
- 各地域にあるハローワーク
- https://www.mhlw.go.jp/kyujin/hwmap.html
障害者と企業のマッチングはもちろん、企業の相談窓口や採用後のフォローまで総合的なサポートを行っている。
労働条件等に関する具体的な相談
- 中央障害者雇用情報センター
- http://www.jeed.or.jp/disability/employer/employer05.html
労働条件や賃金、会社の方針などについて相談ができる。
専門サポーターの検索サービス
- 障害者雇用支援人材ネットワークシステム
- http://shienjinzai.jeed.or.jp/index.html
職務・社内環境・能力開発・合理的配慮・福利厚生・健康管理・特例子会社の設立・障害の種類別など、それぞれの目的に特化した専門家を探して相談できる。
上記にご紹介した機関は、あくまで目的や相談内容が明確な場合におすすめの機関ですが、もし何から始めるべきか、何が分からないかも分からないという場合は、地域障害者職業センターへ相談することから始めると良いでしょう。
まとめ
障害者雇用への理解や関心が深い国と言えば、福祉先進国の「スウェーデン」が挙げられます。
スウェーデンでは主に「サムハル」という大企業が障害者雇用を牽引しており、今では福祉大国とまで言われるようになっています。
企業だけでなく、国全体が障害者雇用を当然のように受け入れているため、サポート体制はもちろん、各企業で働く従業員も障害に対して寛容であり、個々人が障害者への配慮を怠りません。
日本の障害者雇用についても、まずは企業で働く社員全体、そして国民への周知、理解を深めることをこれまで以上に推進していく必要があります。
その為には、今回ご紹介したような企業側が積極的に受け入れ体制を整えていくことが、国全体の障害者雇用への理解を深めていくキッカケになるのではないでしょうか。
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