精神障害者の離職率は、他の障害と比べて高いのをご存知でしょうか。
障害者雇用率の算定に精神障害者が含まれるようになってから日も浅く、精神障害者の雇用は企業にとってまだまだ多くの課題が残っています。
「企業がやれることは限られてるのでは?」
「そもそも何に配慮したらいいか分からない…」
そんな企業の担当者様のために、精神障害者の離職率を下げるためのチェックポイントを10の項目に分け、具体的なデータも交えて解説します。
【Point1】面接時の本人とのすり合わせ
障害者との面接時には「本人とのすり合わせ」ができているかが最初のポイントです。
面接の際にできれば、ハローワークや各種支援機関の職員が同席していると尚良いでしょう。
事実「障害者の就業状況等に関する調査研究」という資料によると、ハローワーク職員の動向有無で定着率に差があることが分かっています。
精神障害者の面接で確認すべき事項は以下の通りです。
- コミュニケーションで配慮すべき内容
- (プライバシーに配慮しながら)障害の症状や体調について
- 主に必要な支援を含めた本人の希望
- 通勤手段や通勤経路
- 日常生活における技能に問題はないか
更に詳しい内容は以下記事でも解説しています。
【Point2】職場実習や職場訓練の実施
精神障害者の面接方法により離職率が違うとお伝えしましたが、実は雇用前の「職場実習や職場訓練の有無」でも離職率が変わることが分かっています。
職場訓練や職場実習は本番前のリハーサル効果もあるため、働く本人のプレッシャーを軽減できます。
また、企業側も「障害の特性や業務遂行能力の把握」「助成金の支給」などのメリットがあり、具体的な方法は高齢・障害・求職者雇用支援機構やハローワークで相談できます。
詳しくは、高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職場実習支援事業のホームページにて確認できます。
【Point3】体調確認を毎日行う
精神障害者の面接時に確認すべき事項として可能な範囲で障害の症状や体調について確認するとお伝えしましたが、面接時に確認するだけでなく、雇用後も「毎日体調を確認」するようにしましょう。
医師ではありませんので、以下のような大まかな確認で問題ありません。
- 体調が優れないのに無理して出勤していないか
- 通勤途中で具合が悪くなっていないか
- 業務中の様子はどうか
- etc…
体調の確認が日課になると、体調の悪くなるタイミングや対処方法が見えてくるようになります。
正式な雇用後に適切な対応ができれば離職率を下げる効果が見込めますので、体調確認は必ず毎日行いましょう。
【Point4】業務日報による報告
体調確認と同時に日課にしていただきたいのが「業務日報」です。業務日報は企業側と就労する障害者本人の双方にメリットがあります。
企業 | 作業進捗と併せて本人にしか分からない事情や困っていることなどに早い段階で気づける |
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本人 | 作業内容や気分の変化などを書くことで得意不得意や気持ちの整理などができる |
実は体調管理と業務日報の両方を簡単に記録できる「SPIS」というツールがあります。以下記事でご紹介していますので、是非ご検討ください。
【Point5】面談を定期的に行う
体調の確認や業務日報と併せて「定期的な面談」も精神障害者の離職率の低下に寄与します。
業務日報だけでは伝えきれないことや会社として伝えるべき点を対面で話すことで、双方の認識にズレが無いか確認できるメリットがあります。
- 人間関係や業務上で困っていることはないか
- 業務日報で気になった点などを確認してみる
- その他、作業進捗や改善すべき点を話し合う
- etc…
定期的な面談は障害者を雇用していない会社でも行っていますので、何も特別なことではありません。
障害に配慮した定期的な面談ができていると、問題点の洗い出しや意欲と作業効率のアップといった良い効果が見込めます。
【Point6】支援機関との連携による職場定着支援
精神障害者の雇用が初めての企業であれば、いずれ会社のサポートだけでは対応しきれない部分が出てくることもあります。
職場実習から面談までは就労支援施設やハローワークがサポートしてくれますが、雇用後は別の機関による支援が必要です。
そこで各地域の障害者就労支援機関が行う「職場定着支援」を活用しましょう。
職場定着支援とは、就職した障害者が長く勤められるように多方面からのサポートを行うサービスで、主に「地域障害者職業センター」「障害者就業・生活支援センター」「就労移行・継続支援事業所」などが行っています。
最初に精神障害者の定着率データをご覧いただきましたが、実はもう一つ「就労後の定着支援の有無」による定着率データがあります。
このデータによると、職場定着支援の有無でなんと定着率の差が20%以上もあるのです。
職場定着支援では就労する障害者本人だけでなく事業者からの相談も受け付けています。各地域により窓口が違いますので、ご利用の際は地域障害者職業センターのホームページから各地域の機関へご相談ください。
【Point7】業務の分かりやすさ
精神障害者の離職率を下げるために忘れがちなのが「業務の分かりやすさ」です。
職種により業務フローは異なりますが、雇用した障害者に担当してもらう業務は作業工程や手順書などを用意したほうが良いでしょう。
作業が明確になるため就労する精神障害者が混乱することを防ぎ、業務の効率化も望めます。
業務が分かりやすければイレギュラーの際にも相談しやすくなり、本人が必要以上に悩むこともなくなるでしょう。
【Point8】社内での理解を深める
障害者雇用は、採用担当者と就労する障害者本人だけではなく「社内理解」も重要です。
採用後は担当者だけが配慮するのではなく、担当者以外のサポートも必要になります。
事前の周知や障害者雇用に関する研修を行っていれば、いざ精神障害者を雇用した後、周囲のバックアップにより離職率を下げる効果が見込めます。
研修や周知はプライバシーに配慮する必要がありますので、各地域のハローワークや障害者就業・生活支援センター、地域障害者職業センターなどで研修の実施を相談してみてください。
【Point9】能力に応じた評価や昇進
精神障害者を雇用後、本人も特に問題なく就労を続けていても、モチベーションは徐々に下がることが想定されます。
モチベーションを維持するためには、やはり本人の能力に応じた「評価制度」や「昇進制度」は検討しておきたいところです。
厚生労働省が平成25年に公表した「障害者雇用実態調査」のデータをご覧ください。
【参考】厚生労働省 障害者雇用実態調査
どれも精神障害者の離職率を下げるのに重要な項目ですが、障害者が職場で改善すべきと感じている項目は、「能力に応じた評価、昇進・昇格」が最も多くなっています。
それだけ「働く意欲が高い」という表れとも言えるのではないでしょうか。
特に障害者雇用ではパートや契約社員というケースが多いため、正社員登用なども検討しておくと離職の防止につながるかもしれません。
【Point10】本人の障害に対する理解
ここまでは、全て企業側の努力として精神障害者の離職率を下げるための方法でした。
しかし、いくら企業だけが努力しても、働く障害者本人が自分の障害の特性を理解していないと、周りもどうサポートすべきか分からず、企業の努力も無駄になりかねません。
就労支援施設を通じて就職した場合は自分の障害を理解するためのプログラムを実施している場合もありますが、直接障害者枠の募集に応募してきた人が必ずしも就労支援施設を利用しているとは限りません。
その場合、本人との面談を実施して双方の障害への理解を深める話し合いが必要になるでしょう。
面談の方法は企業独自の方法ではなく、地域の就労支援施設などに相談することをおすすめします。
併せて、今回解説した日頃の体調確認や業務日報、定期的な面談も障害の理解を深めるのに重要です。
ぜひ今回ご紹介した精神障害者の離職率を下げる10のポイントを実践し、障害者雇用に活かしていただければ幸いです。
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