長時間労働・夜勤がなぜうつ病を引き起こすのか~サーカディアンリズム(体内時計)の乱れから考察する~

長時間労働・夜勤がなぜうつ病を引き起こすのか~サーカディアンリズム(体内時計)の乱れから考察する~

長時間労働や夜勤明けの帰り道。言いようのない不安や孤独感に襲われたことはありませんか。
「疲れているだけ」と見過ごしがちですが、実はその背景には「サーカディアンリズム(体内時計)」が影響しています。
最新の研究では、このリズムの乱れが睡眠不足だけでなく、うつ病の発症リスクに直結することが明らかになってきました。
本記事では、今注目されている「サーカディアンリズム」について詳しく解説します。その上で、過酷なシフトや長時間労働の中でも心を守り、リズムを整えるための具体的な戦略をご提案します。
あなたが健やかな心を取り戻すためのヒントを一緒に探っていきましょう。

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サーカディアンリズム(体内時計)とは何か?

「長時間労働や夜勤が続くと体がだるい」
この感覚は、単なる睡眠不足から起こるわけではありません。
私たちの体の中で、数十万年かけて刻まれてきた「生命のリズム」が悲鳴をあげている証拠なのです。
ここでは、その正体であるサーカディアンリズムについて詳しく解説していきます。

私たちの体に備わる「24時間のコントローラー」

サーカディアンリズムとは、地球の自転にともなう昼夜の変化に合わせ、約24時間周期で生物学的プロセスを調節するしくみのことです。
私たちの脳の視床下部にある「視交叉上核(しこうさじょうかく)」という部位が、体内のメインの時計として機能しています。
この部分が、体温の変動や血圧・心拍数、ホルモン分泌などの全身の機能をコントロールしています。

・体温の変動:日中に上昇し、深夜に低下する
・血圧・心拍数:活動に合わせて調整される
・ホルモン分泌:覚醒を促す「コルチゾール」と、眠りを誘う「メラトニン」が分泌される

「光」と「ホルモン」の絶妙なバランス

サーカディアンリズムを維持するためのスイッチは「」です。

朝の光

朝、網膜が光を感知すると、脳に「1日が始まった」という信号が送られます。これにより、夜に分泌される睡眠ホルモン「メラトニン」が抑制され、代わりに活動するための「コルチゾール」が分泌されます。

夜の闇

暗くなると、脳からメラトニンが分泌され、体温を下げて深い眠りへと誘います。

長時間労働や夜勤は、この「光のスイッチ」を無理やり逆転させる行為です。
脳が「今は昼か夜か」を判断できなくなり、ホルモンバランスが崩壊することで、自律神経の乱れやメンタルの不安定さを引き起こすのです。

サーカディアンリズムと「うつ病リスク」との深い関係

サーカディアンリズムの乱れは、精神医学の分野でも「うつ病の発症因子」として重要視されています。

「時計遺伝子」の異常

近年の研究では、体内時計を司る「時計遺伝子」の働きが乱れると、気分を安定させる神経伝達物質(セロトニンなど)の受容感度が低下することがわかっています。

セロトニンの枯渇

日中に光を浴びない生活が続くと、セロトニンの合成が不足します。

セロトニンはメラトニンの原料でもあるため、「昼に元気が出ない→夜に眠れない」という負のループができてしまいます。
ちなみにある研究では、長時間労働や夜勤に従事する人は、日勤のみの人と比べてうつ病のリスクが約33%、不安障害のリスクが有意に高いことが報告されています。
睡眠不足そのものよりも「生物学的なリズムの不一致」が脳にストレスを与え続けているためと考えられています。

(「交代制勤務とうつ病のリスク:系統的レビューおよびメタ分析」L.Torquati,et al. American Journal of Epidemiology (2019)より)

なぜサーカディアンリズムが「うつ病」に直結するのか?

夜勤や長時間労働による不調は、単なる「眠気」だけではありません。
脳内では、私たちが自覚している以上に深刻な「化学反応のズレ」が起きています。
ここでは、サーカディアンリズムの乱れが精神状態を悪化させる3つの理由を解説します。

「社会的時差ぼけ(ソーシャル・ジェットラグ)」の蓄積

私たちは、体内のリズムと社会生活のリズムが一致しているときにもっともパフォーマンスを発揮します。
しかし、夜勤生活は体内リズムと社会生活のリズムを大きく引き離してしまいます。
これを「社会的時差ぼけ」と呼びます。
海外旅行での時差ぼけは数日で解消されますが、シフト制の場合、リズムが整いかけるたびに次の夜勤がやってくるため、脳は「常に時差ぼけ状態」のままです。
この状態が慢性的なストレスになります。
慢性的なストレスが脳の疲労を高め、感情の制御をつかさどる「前頭葉」の機能を低下させます。
そのため、うつ状態を引き起こしやすくなるのです。

「幸せホルモン」セロトニンの不足と枯渇

感情の安定に欠かせない神経伝達物質「セロトニン」は、太陽の光を浴びることで合成が促進されます。
しかし、夜勤明けに日光を避けて眠り、日が沈んでから活動を始める生活では、セロトニンの合成が絶対的に不足します。セロトニンが不足すると下記の症状が出る場合があります。

・不安感の増大:小さなことで悩みやすくなる
・意欲の低下:以前楽しかったことが楽しくなくなる
・睡眠の質のさらなる低下:セロトニンは夜になると睡眠ホルモン「メラトニン」に作り替えられるため、昼間にセロトニンを作れないと、夜の眠りも浅くなるという悪循環におちいる。

深夜の「脳の脆弱性」

人間には、深夜から早朝にかけて心理的にもっとも脆弱になるという生物学的な特性があります。
サーカディアンリズムがもっとも低下する午前2時~4時ごろは、認知機能が低下し、ネガティブな思考におちいりやすい時間帯であることがわかっています。
この時間帯に一人で責任の重い仕事をしたり、トラブル対応をしたりすることは、精神的に大きなダメージとなります。
夜勤中の孤独感や緊張感は、日中のそれより何倍も強く脳に刻まれてしまうのです。

心の赤信号を見逃さないためのセルフチェック

以下のサインが2週間以上続いている場合、サーカディアンリズムの乱れが限界を超え、うつ病のリスクが高まっている可能性があります。

・疲れているのに寝付けない。または数時間で目が覚めてしまう。
・普段ならこなせる判断や作業に、異常に時間がかかる。
・喜怒哀楽が薄くなり、何を見ても心が動かない。
・まったく食欲がない、または、深夜に過食してしまう。

長時間労働・夜勤中でもできる「サーカディアンリズム」の調整方法

長時間労働や夜勤をしている人は、不健康になることが避けられないのでしょうか。
どうしたら少しでも健康的な心の状態を維持することができるでしょうか。
実は、夜勤において大切なことは、「体内時計のズレを最小限におさえること」なのです。
今日から実践できる4つの方法をご紹介します。

「光」をコントロールして脳をだます

サーカディアンリズムを整えるキーワードになるのは、「光」です。
光の浴び方を工夫するだけで、脳のスイッチを意図的に切り替えることができます。

勤務中(深夜)

可能な限り明るい光を浴びましょう。
特に青白い光(ブルーライト)は脳を覚醒させ、セロトニンの分泌を助けます。

夜勤明け(帰宅時)

太陽の光を浴びると脳が「朝だ!」と認識し、リズムがリセットされてしまいます。
帰宅時は濃いめのサングラスを着用し、脳に入る光の量を物理的に遮断しましょう。

就寝時

自宅では遮光カーテンを使い、部屋を真っ暗にします。
スマートフォンの光は脳を覚醒させてしまうため、絶対に浴びないでください。

「時間栄養学」を活用した食事のタイミング

私たちの体内時計は脳だけでなく、胃や腸などの臓器にも存在します。
これらを調整するのが「食事」です。

深夜のドカ食いを避ける

深夜に重い食事をとると、消化器系の体内時計が「昼だ」と誤認し、脳のリズムと乖離してしまいます。(これが強い疲労感の原因になります。)

深夜はスープかゼリーなどの軽食にとどめましょう。

「起きた直後の食事」を朝食にする

何時に起きても、起床後最初の食事をしっかりとることで、全身の細胞に「一日の始まり」を知らせることができます。

タンパク質を意識してとると、セロトニンの原料になります。

 「戦略的仮眠」で脳のオーバーヒートを防ぐ

長時間労働や夜勤中の仮眠によって「脳のメンテナンス」ができます。

15~20分のパワーアップ

深い眠りに入る前の短時間の仮眠は、認知機能を劇的に回復させます。

90分のサイクル

もし長い仮眠がとれる環境なら、睡眠のリズムに合わせた90分単位が理想的です。
中途半端な時間に起きると、寝ぼけが強く残り、メンタルへの負荷が高まります。

深部体温を操作し、入眠をスムーズにする

人間は、体の中心の温度(深部体温)が下がるときに眠気が訪れます。

入浴のタイミング

寝る90分ほど前にお風呂に浸かり、一度体温を上げます。
その後、体温が下がっていくタイミングで布団に入ると、昼間でも深い眠りに入りやすくなります。

首元を冷やさない

寝るときに首元が冷えると血管が収縮し、放熱が妨げられて睡眠の質が下がります。
寝室の温度管理には細心の注意を払いましょう。

なお、休日に「寝だめ」をし、平日のリズムと3時間以上ズレてしまうと、週明けのメンタル不調が加速します。休日の起床時間は、夜勤明けの就寝時間から大きく外さないのがサーカディアンリズムを維持するコツです。

まとめ

長時間労働や夜勤がなぜうつ病を引き起こすのか。
その原因と、サーカディアンリズムのズレを最小限にするための工夫についても本記事ではお話ししました。
福祉職員や医療現場の職員は不規則な勤務になりがちです。
本記事を参考にしていただき、サーカディアンリズムを大きく崩さないようにしていただけたら幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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