少子高齢化が進む日本では、介護業界が抱える人手不足や重労働の負担が深刻な社会問題となっています。これに伴い、従来の介護の在り方を変える「介護テクノロジー」が注目を集めています。介護ロボットやICT機器など、最先端の技術を活用することで、介護現場の効率化や従業員の負担軽減が期待されています。
本記事では、介護テクノロジーの概要から具体的な導入事例、そしてその可能性と課題について詳しく解説します。新しい技術がどのように福祉の未来を支えていくのか、一緒に探っていきましょう。
介護テクノロジーとは?定義を解説
介護テクノロジーとは、高齢者や介護を必要とする人々の生活を支え、介護サービスを提供する側の負担を軽減するために活用される技術やツールを指します。この分野では、ロボティクスや人工知能(AI)、IoT(モノのインターネット)、情報通信技術(ICT)などが駆使されており、介護の質の向上と効率化を目指しています。たとえば、移動支援ロボットや見守りセンサーといった直接支援のほか、データを活用した健康モニタリングや記録業務の自動化による間接支援も含まれます。
介護テクノロジーは、利用者が安心して快適に暮らせる環境を提供しつつ、介護者の身体的・心理的負担を減らし、高齢化社会の課題解決に寄与する革新的な取り組みとして注目されています。
この記事では、特に従業員の負担削減に大きな貢献できる可能性を秘めている介護ロボットに重点を置いて解説していきます。
介護ロボットとは
介護ロボットとは、介護が必要不可欠な方の自立支援や介護側の身体的および精神的負担の軽減を目的としたロボット機器をいいます。
2025年問題である団塊の世代が後期高齢者になることで、現役世代の高齢者を支える負担は加速していく見込みです。
全体の労働人口の減少によって、介護労働者の人手不足は深刻な問題となっています。
このような背景があることから、介護者と要介護者の双方のニーズに沿ったロボットを普及させるべく、開発・導入に向けてさまざまな取り組みが検討されています。
介護ロボットの種類
介護ロボットは、利用者や介護者のニーズに応じてさまざまな種類が存在します。それぞれのロボットは特定の目的に特化しており、介護現場の状況や利用者の状態によって活用方法が異なります。ここでは、主に「介護支援型」「自立支援型」「コミュニケーション型・セキュリティ型」の3つのタイプに分類し、それぞれの特徴や役割について解説します。
感覚過敏への配慮
感覚過敏は、発達障害者にとって大きなストレス要因となることがあります。職場の騒音や照明が過度に刺激的である場合、集中力が低下し、業務に支障をきたすことがあります。これを防ぐためには、職場環境を調整し、発達障害者が快適に働けるよう配慮することが求められます。
1.介護支援型
介護支援型は移乗や入浴、排泄など、介護者の身体に負担のかかる業務を支援するためのロボットです。
高齢者を支える動作が多いため、必然的に足腰に負担がかかり、無理な姿勢による身体的負担の軽減もできます。また、予想の鋭め斜めの行動を起こされても、介護ロボットなら介護者の心理的負担の軽減にも役立ちます。
介護される側も、介護ロボットであれば変に気を遣ったり遠慮したりする心配もありません。安心して身体を委ねることができるメリットがあるため、介護者に対して申し訳なさや不安を感じる必要がありません。
2.自立支援型
自立支援型は歩行や食事など日常生活における動作をサポートし、要介護者が自立した生活を送れるように支援するロボットです。
膝に装着するタイプを用いると、膝の痛みによって歩行が困難で臆病になっていた方でも歩行時の膝への負担を抑えることができて歩きやすくなるでしょう。
自力では難しいと感じていたことも、自信が持てるようになり自立した生活を目標にモチベーションが高められます。
できることが増えれば高齢者自身の自信にもつながり、心理的な負担も軽減できポジティブな気持ちになれるはずです。
3.コミュニケーション型・セキュリティ型
コミュニケーション型は会話のみの目的ではありません。歌やダンスなどアクティブな機能が備わっていたり、要介護者の動きを検知して声掛けを行ったりと種類によっていろいろな機能が搭載されています。
セキュリティ型は見守りを行い要介護者の様子に異変があれば、検知して介護者にお知らせしてくれる機能などが備わっています。高齢者の転倒予防や認知症の方の徘徊予防に大いに役立ちます。
介護テクノロジーの活用事例一覧
介護テクノロジーは、要介護者の生活支援や介護者の負担軽減を目的に、多岐にわたる分野で活用されています。特に介護ロボットは、日常生活でのサポートが求められるさまざまなシーンで導入が進んでおり、介護現場の効率化や安全性向上に寄与しています。
ここでは、介護ロボットが活用される6つの重点分野について、それぞれの特徴や役割を具体的に紹介します。
1.移乗支援
移乗支援ロボットには。装着型と非装着型の2種類があります。
このロボットの導入は要介護者をベッドから車椅子の移動、ベッドからストレッチャーに移す身体的な負担をサポートする分野です。
このロボットが普及することで、介護業界の「力仕事」というイメージを払拭できる可能性が考えられます。
2.排泄支援
排泄支援ロボットは排泄に関わる全ての動作をサポートします。
この排泄支援はトイレまでの誘導、衣類の着脱、トイレの環境改善なども含みます。
排泄のサポートは、介護の仕事の中でも非常に心的負担と身体的負担の割合を占めることになります。介護業務の負担を軽減することは、仕事環境の改善に繋がると考えられます。
3.見守り支援
高齢者は施設でも自宅でも深夜徘徊の問題に頭を抱えます。
見守り支援のロボットを導入すると、この問題の改善のいとぐちが見つかるかもしれません。
センサーや外部通信機能を使って、要介護者の異変を検知する分野になります。
施設や自宅に関わらず、赤外線カメラによって夜間の様子も確認できるため、介護者側の深夜勤務における見回り負担が軽減されます。
4.入浴支援
入浴支援は入浴に関わる動作の全ての分野をサポートします。
浴室は足腰に踏ん張りが利かない高齢者にとって、転倒のリスクが大きい場所になります。
入浴サポートは入浴前後どちらも目が離せません。入浴支援ロボットの導入は、介護者の心的負担も身体的負担も軽減されると考えられます。
5.服薬支援
服薬支援はあらかじめ薬を飲む時間を設定しておくと、服薬時間がくると画面と音声で知らせてくれます。薬剤師が薬をセットするので、安心して服用できます。また、一度取り出したら、次の服薬の時間まで取り出せないので誤飲や誤薬の防止にも繋がります。服薬履歴もデータ管理できるメリットがあります。
介護テクノロジーを導入するメリット
介護テクノロジーの導入は、介護現場に多くの利点をもたらします。特に介護ロボットの活用は、介護スタッフの負担軽減や業務の効率化、さらに要介護者に安心感を提供するなど、介護の質を全体的に向上させる可能性があります。
ここでは、介護業界における主なメリットを「スタッフの負担軽減」「介護業務の効率化」「要介護者の負担軽減」の観点から具体的に説明します。
1.スタッフの負担軽減
高齢者の身の回りのお世話で肉体労働のイメージが強い介護業界ですが、介護ロボットを導入すると介護者の身体的負担と心的負担が軽減されると考えられます。
高齢者は予測不能な行動を起こすこともあるため、常に気を張り詰めている緊張状態になるので疲労困憊になってしまいます。
精神面の安定を図るためにも、介護ロボットの導入は介護業界で働く方達にとって大きなメリットになります。
2.介護業務の効率化
介護業務は長時間労働になることもあるため、人的資源がなかなか定着しません。
働く施設の環境によっては設備が不十分であり、その分身体的負担が大きくなります。
しかし、介護ロボットを導入することで多くのコスト削減にも貢献できます。さらに業務の短縮に繋がり、長時間労働のイメージを払拭できる可能性があります。
3.要介護者の負担軽減
介護テクノロジーの導入は、要介護者にとって心理的・身体的な負担を軽減する大きなメリットがあります。介護者に対して「迷惑をかけているのでは」という遠慮や罪悪感を抱くことなく、安心して支援を受けられるようになるため、精神的なストレスが緩和されます。
また、移乗支援や排泄支援、入浴支援などのロボットは、スムーズな動作補助により身体的な負担を軽減し、転倒やケガのリスクも低減します。
さらに、自立支援型ロボットを活用することで、自分でできることが増えるとともに自立心が高まり、日常生活におけるモチベーションや自信を持つきっかけにもなります。このように、介護テクノロジーは単なるサポートを超え、要介護者の生活の質そのものを向上させる可能性を秘めています。
介護テクノロジー導入時に活用できる補助金
介護テクノロジーを導入する際には、さまざまな補助金制度を活用することで、初期費用の負担を軽減できます。厚生労働省が実施する「介護テクノロジー導入支援事業」では、介護ロボットやICT機器の購入費用の一部が補助され、特に中小規模の介護施設にとって導入を後押しする仕組みとなっています。
また、「地域医療介護総合確保基金(介護従事者確保分)」では、各都道府県が主体となり、介護従事者の負担軽減や業務効率化を目的に機器導入を支援しています。さらに、自治体独自の補助金制度もあり、埼玉県の「介護テクノロジー定着支援事業」のように、地域ごとに異なる内容や条件が設けられています。最新情報については各自治体や厚生労働省の公式サイトを確認するとよいでしょう。
なお、介護ロボットで対象となる補助金は移乗・移動・排泄・入浴などを支援するロボットです。
また、導入費用は設備により大きく変わりますが、一般的に1,000万円〜5,000万円です。高度な技術が必要なシステムだと高額になる傾向があります。少子高齢化で働き手が減少しているなら、介護テクノロジーを上手く利用する必要性を考えていくべきです。
まとめ
介護テクノロジーは、要介護者と介護者双方の負担を軽減し、介護現場の質と効率を向上させる革新的な取り組みです。「介護支援型」「自立支援型」「コミュニケーション型・セキュリティ型」など、多様なロボットやテクノロジーが現場で活用されており、移乗や排泄支援、見守り、入浴支援といった具体的な分野でその効果が実感されています。
導入にあたっては、身体的・心理的負担の軽減や業務効率化といったメリットが期待できるだけでなく、各種補助金制度を活用することで初期コストを抑えられる点も魅力です。厚生労働省や自治体が提供する補助金や支援制度は、介護施設や従事者の負担を軽減する有力な手段となっています。
今後も進化を続ける介護テクノロジーを取り入れることで、介護現場が抱える課題の解決や、高齢者のより快適な生活の実現に貢献できるでしょう。
【出典・参考文献一覧】
フランスベッド「介護ロボットが出来ることとは?種類やメリット・デメリット、現状の課題と今後の展望を解説」
介護のコミミ「【2024年最新】介護ロボットの導入事例10選!課題や種類、メリットも解説」
執筆者プロフィール
「人と社会をつなぐ言葉を届ける」をテーマに、福祉や社会課題、生活に役立つ情報を発信しています。大学院での研究活動を通じて身に付けた論理的思考力と、営業や接客業で培ったコミュニケーション力を武器に、分かりやすく、読者の心に響く記事を心がけています。また、福祉や地域社会の課題に関心があり、特に「日常の中で気づきにくい大切なこと」をテーマに記事を執筆しています。少しでも読者の皆さまの役に立ち、明日をより良くする一歩をお手伝いできたら幸いです。
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