障害を持たない人からすると、精神障害者が退職するのを見て「根性が無い」「やる気がない」と思えるかもしれません。
しかし、精神を病んでしまう、また精神障害者が退職するのは障害や根性論ではなく、職場の労働環境が原因である事が多いのも事実です。
今回の記事では、退職する障害者の7割は労働環境が理由であると断言できるデータや事例をご紹介します。
職場環境が悪いと感じた時、果たして自分はどう行動すべきか考えるきっかけになれば幸いです。
障害者が会社を退職する理由の7割は「労働環境」
当メディアでは独自に25名の精神障害者を対象にアンケートを実施。無回答を除く22名の回答を集計したところ、約6割が職場を理由に退職していることが分かりました。
また、以下の記事でも、うつ病で休職した人の7割が職場を理由に辞めると以前ご紹介しました。
【出典】イシコメ「うつ病の休職・復帰について精神科医・心療内科医210人に聞きました」
会社が原因と言ってもすべての職場において実際に労働環境が過酷だったり、うつ病を発症するほど厳しかったりするとは言い切れません。
そもそも人は働かないと生きていけず、多くの人が一日の大半を会社で過ごすと考えれば、当然の結果とも言える部分はあります。
ただ上のグラフの調査結果が出ているのも事実。少なくとも精神障害の就労定着率を悪化させる要因が、人間関係の悪さや長時間労働といった労働環境なのは間違いないでしょう。
【アンケート調査】退職した障害者の本音
会社の労働環境が悪い、会社の方針転換が精神障害者を真っ先に退職させてしまう。
そう結論付けたところで、障害のある方が単独で状況を打開するのは非常に難しいのは言うまでもありません。
退職というリスクを回避する方法について強いて言及するなら、本人や周りの人が退職に至る原因を把握するといった事前の対策が必要と言えるのではないでしょうか。
では、労働環境や会社の方針転換などで退職した障害者が、具体的にどんな理由で退職しているのでしょうか。
当サイトにて移行支援施設を対象にアンケート調査をした結果から、労働環境や会社の方針転換等により退職した人の生の声をご覧ください。
- 【労働環境で退職した人の声】
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- ほぼ一日中、客に罵倒され人間不信になった為
- 人間関係
- 人間関係が続かない
- マネージャー、社員は自分の事を理解していたがまわりのアルバイト、パートの人がそれを理解できず、孤立したため
- システム障害で夜も土日も寝られない状態が半年以上続いた。また、社内の利害調整で対人面のストレスが強い状態が続いた
- うつ病に対する職場の理解が無く、不当に自主退職をせまられ、退職
- 統合失調症を発症し、措置入院となった。その後、会社から自主退社を促されたため
- 美容師免許が無い為、給料は上がらない。社会保険、雇用保険も無い会社で将来不安で退職
- 半年間にわたる閑職にさらされ、適応障害を発したため
- 【会社の方針転換等で退職した人の声】
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- A型作業所ですが、吸収合併され事業所の環境が一変し、もともとの職員が半数やめて雰囲気が暗くなり、自分がそれに対応できなかった為
- 作業内容が自分自身に合わなかった
- 会社の方針が突然変わってしまった
- 廃業により退職
- 事務所の閉鎖
- 全国で福祉事業所の閉鎖が相次ぎ
労働環境と言っても、施設や設備など物理的な部分もあれば、業務量や対人関係など細かく分けられます。
しかし上記の結果を見る限り、精神障害のある方にとって人間関係におけるストレスが過大であることは一目瞭然。
一方で会社の方針転換等で退職した人の理由は、ほぼ全て回避しようのない事象です。
前職を退職した障害者の声は非常に参考になりますが、上記のようなリスクを回避しようにも、どんなリスクのある会社か事前に見極めるのもまた難しい課題と言えそうです。
過重な労働環境により精神疾患を発症した事例
さて、労働環境が理由で退職する精神障害者が多いと分かったところで、さらに具体的な事例を見てみましょう。
まず日本における各産業について、厚生労働省が公表している労働時間に関する調査結果があります。
【出典】厚生労働省 労働統計要覧
運輸業や建設業は以前より労働時間が長い業種として知られていますが、それは上のデータを見ても明らかです。
月の労働日数が20日と考えると1日8~9時間労働ですから、大したことはないと思われるでしょう。
ただ、上のグラフはあくまで労働協約、就業規則等で定められた時間を平均したデータで、業務に付随するサービス残業などは含まれていないのです。
実際、建設業における過酷な労働環境下でうつ病を発症した実例があります。
- 【建設業に勤める31歳男性の事例】
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- 作業が中心の業務ですが、元々まじめで責任感が強く、合理的に物事を考えてコツコツと仕事をするタイプ
- 公共事業の受注が大幅に減り、少ない予算で同じ業務をこなさなければならなくなった
- 複数業務を担当するようになり、相談できる上司が身近にいなくなった
- 100時間前後の残業が続き、10日前後は現場に泊まり込みで業務をこなさなければならない出張業務も
- 現場作業員から暴言を吐かれることもしばしばで、神経をすり減らしながらの作業
- 出張中は現場での慣例として仕事が終わった後に飲み会があり、断ることもできず深夜まで付き合わされた
- 現場でトラブルが発生し、ほとんど単独でその処理に追われて残業も重なった
- 夜に眠ろうとしても仕事が頭から離れなくなり、動悸が出現し眠れなくなった
- 朝に起きて仕事に行こうとすると吐き気、めまい、頭痛が出現し、会社に行けなくなった
- 内科を受診したが身体的には異常がなく、上司の勧めで精神科医を受診
【参考】厚生労働省 こころの耳
日本の労働事情において、過労死ラインは週80時間と言われています。上記の事例では100時間を超えており、精神的なダメージは相当なものだったろうと容易に想像できます。
労働環境が悪ければ精神疾患になる前に転職を
ここまで見てきて、労働環境がいかに精神障害の方に負担となっているか、そして精神障害を発症する主な要因であるということが分かりました。
「事前にリスク把握する」ことが重要と述べましたが、実際は働いてみないと分からないというのが現実でしょう。
まず精神疾患などが発症していない方であれば、まず仕事のために自分を犠牲にしすぎないよう常に意識することが重要です。
先ほどの事例のように責任感が強く、生活が仕事中心になってしまいがちな方は特に注意すべきと言えます。
では、既に精神疾患を抱えてしまっている人はどうするべきでしょうか。
まずは労働環境が自分に適さない、または症状を悪化させると気づいたら、早い段階で転職を考えたほうが良いかもしれません。
以下の記事でも解説していますが、うつ病などの原因となった職場に固執したところでメリットは少ないのです。
もちろん転職ばかり繰り返すのも良いことではありませんが、少なくとも症状を悪化させないこと、そして長く働けると感じる職場を見つけることが最優先。
体調が良くない時くらい、自分の保身を優先しても決して悪いことではないのです。
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