「せっかく障害のある方を雇用しても長続きせず、すぐ辞めてしまう」
「慣れてきたかと思った頃に辞めてしまい、また一から採用しなければならない」
障害者雇用の現場の管理職や担当者の中には、上記のような悩みを抱えている方がいるのではないでしょうか。
この記事では、厚生労働省の調査「平成30年版厚生労働白書」や「平成 30 年度障害者雇用実態調査結果」を元に、障害者雇用を「長続き」させる3つのコツについて解説していきます。
担当者が一人で大変さを抱え込まないための方法もお伝えしますので、ぜひ最後までお読みください。
障害者雇用の離職率
「長続きしない」「すぐに辞めてしまう」と言われがちな障害者雇用ですが、実際の離職率はどうなのでしょうか。
厚生労働省の調査によれば、障害者の平均勤続年数は以下のようになっています。
(引用:厚生労働省「平成30年版厚生労働白書」)
平均として、身体障害者の方は10年前後、知的障害の方は8年前後、そして精神障害の方は5年前後の勤続年数となっています。
こちらはあくまで「平均」です。数十年単位で長く働き続ける方がいる一方、入社後数ヶ月で離職してしまう人もかなり多いということがうかがえます。
また障害種別ごとに見ると、一般企業への就職後の定着状況は以下のとおりです。
(引用:厚生労働省「平成30年版厚生労働白書」)
精神障害の方は半数以上、知的障害の方では4割、身体障害の方も3割以上が、1年経たずして離職してしまうということになります。
この調査と同年に行われた調査によれば、日本全体の離職率は14.6%です。
(参考:厚生労働省「平成 30 年雇用動向調査結果の概況」)
全体と比べると、残念ながら障害者雇用の離職率はかなり高いといえるでしょう。
障害者の離職率については、こちらの記事にも詳しく解説されています。
【職種別】発達障害者の離職率と離職率を下げる方法
障害者が「辞めない」ための3つのコツ
ここまで、障害をもつ方の離職率について見てきました。
では、障害者雇用の現場で障害をもつ方が「辞めない」「続けられる」状態をめざすにはどうしたら良いのでしょうか。
そのためのコツは3つあります。
2.コミュニケーションを適度にとる
3.支援機関をうまく活用する
一つずつ詳しく解説します。
1.障害の特性理解と、個々に応じた支援をする
一口に「障害者」といっても、特性は人の数だけあります。
本人とじっくり向き合いながら探っていくことが必要ですが、これまで障害者を受け入れた経験のない現場や慣れない担当者の場合、特性を理解するのには時間がかかるかもしれません。
そこでヒントになるのが「障害種別」や「診断名」です。
「障害種別」には以下のものがあります。
-
- 身体障害
- 知的障害
- 精神障害
- 発達障害
働く方が、どの種別に当てはまるのかを知っておくようにしましょう。
身体障害をもつ方の場合は、「体の動き」に関する支援や配慮が必要です。
-
- 車いすが通りにくいところはないか
- 通路やトイレなどのスペースは十分か
- 段差や危険なところはないか
健常な人には何ということのない段差も、身体障害をもつ方にとっては大きなハードルとなる場合があります。
受け入れ前に環境を整えておくことはもちろん大事ですが、完璧をめざすのは難しいもの。
実際に勤務が始まってから、
「危険だと感じるところはありませんか」
と本人にヒアリングし、安全な労働環境に向けて改善していくつもりで取り組むと良いでしょう。
知的障害者をもつ方の場合は、読み書きや言葉でのやり取り、仕事の内容を理解することなどに困難さがある場合が多く見られます。
-
- 情報をシンプルに、本人が受け取りやすい形で伝える
- 本人の理解度を確かめながら、ゆっくり伝える
- 一度に多くのことを体得させようとしない
といったことを心がけましょう。
中には、「こんなこともできないのか」と言われることを恐れ、「分かりません」「できません」が言いづらい方もいます。返事をしたりうなずいたりしている場合でも、実際にどれくらい指示や注意を理解しているかを確認することが大事です。
「今伝えたことを復唱してみてください」と指示したり、「では、何から始めますか?」と聞いたりして、本人の理解度を確かめながら業務を進めましょう。
「分かりません」「質問したいのですが……」が言いやすい環境づくりも大事です。
適切に質問をしてくれた時にはそのことをほめ、「質問するのは良いことなのだ」と伝えていきましょう。
精神障害をもつ方の場合は、気持ちや体調のコントロールが難しい場合が多いです。感情のアップダウンが大きく、心身共に気圧や気候の影響を受けやすい方も見られます。
また認知面でも特性があり、ちょっとした注意を重く受け止めすぎて落ち込んだり、言われたことを曲解してしまったりすることがあります。
いわゆる「0か100か」という考え方をもち、非常に調子が良いときと激しく落ち込んでしまう時のギャップが大きい場合もあります。
前述したように、調査結果から見ると最も定着率が低いのが精神障害者です。小さな失敗やトラブルがきっかけで出社できなくなり、そのまま辞めてしまうケースも多く見られます。
本人の心身の安定を第一に考えながら、丁寧にコミュニケーションをとっていくよう心がけましょう。
発達障害をもつ方の場合は、特定のものごとに対する「過集中」や反対に気が散りやすいといった特性が見られます。
また整理整頓を苦手とする人も多いのが特徴です。タイマーを使ったり、業務内容に配慮したりすると仕事がスムーズに進む場合があるので、試してみてください。視覚優位の人が多い傾向があるので、伝えたいことは絵や文字で伝えるのがおすすめです。マニュアルを作りいつでも参照できるようにするのも有効です。
また、「診断名」も本人を理解するためのヒントとなります。
上記発達障害の特性と重複しますが、たとえば「ADHD(注意欠如・多動症)」の診断がついている方には、以下のような特性があるかもしれません。
-
- 特定の物事に注意や集中を持続させることが難しい
- あるいは過集中(集中しすぎる状態)になってしまう
- 物事を順序立てて考えることが難しい
- 注意がそれやすく、視界に仕事と関係のないものがあるとそちらに意識が向いてしまう
- 体を常に動かしていたり歩きまわったりと、落ち着きなく見える
- じっと待つことや座って話を聞き続けることが難しい
また「ASD(自閉スペクトラム症)」の診断が下りている方の場合は、以下のような特性が考えられます。
-
- 「空気を読む」ことが難しく、相手の表情や口ぶり、声色から感情を読み取れない
- 特定のものごとへのこだわりが強い
- 決まったルーティンや手順を崩すことに対して抵抗がある
- 自分の思いや感情を伝えることが難しい
ここまで、障害種別や診断名によって多く見られる特性や配慮についてお伝えしました。
しかし、矛盾するようですが、種別や診断名だけで「この方は身体障害者だから」「ADHDだから」とステレオタイプで見てしまうのは危険なことです。
診断名がそのまま個性を表現するわけではありません。
また、さまざまな特性を重複してもっている方も多く見られます。
たとえば身体障害者の中にも、コミュニケーションに困難さを抱える方がいます。同じく、メンタルケアにニーズがある発達障害者も多く存在します。
反対に、知的障害を抱えていても仕事の現場ではすぐれた理解力を発揮して活躍するなど、診断名から想像される困難さをあまりもっていない方もいます。
目の前の本人を日頃からよく観察し、
-
- 何が得意で強みなのか
- 苦手なことは何か
- どういう支援をすればその苦手さが小さくなるのか
といった点を考えていくことが大事です。
2.コミュニケーションを適度にとる
障害者本人をよく見て特性をとらえ、適切な支援を考えるためには、「コミュニケーション」がとても大事です。定期的なミーティングや面談の場を設け、働く上で困っていること、疑問点や戸惑っていることを聞き取るようにしましょう。
普段からコミュニケーションをとっておくと、「質問できず分からないまま進めてしまい、業務を正しく行えない」「体調が悪くても言い出せず悪化させてしまう」といったことが防げます。
また、日頃から以下のようなことを知る努力も大事です。
-
- 好きなこと
- その時ハマっていること
- 苦手なことや嫌いなこと
- 心身の調子が悪いときのサイン
これらのことを知っておけば、日頃の会話がはずんだり、本人の疲労や悩みのサインに気づきやすくなるというメリットがあります。
ただし気をつけたいのが、コミュニケーションはあくまで「適度に」とることが大事ということ。障害をもつ方の多くは、コミュニケーションそのものに課題を抱えています。雑談や慣れない人との会話にストレスを感じる方や「職場ではできるだけ黙々と作業したい」というタイプの方もおり、そのような方に話しかけすぎるのは逆効果です。
反対に、おしゃべりが好きなあまり「会話のやめ時が分からない」「テンションが上がり、1人でしゃべりすぎてしまう」という方もいます。そのような方の場合は、勤務に集中することと会話を楽しむことの切り分けができるよう、時間や場所を明確に示すようにしましょう。
大切なのは、「お互いを理解したい」という気持ちです。すぐに打ち解けられなくても大丈夫。あせらずその方の「人間関係のツボ」を探っていくようにしましょう。
3.支援機関をうまく活用する
ここまでお読みいただいた方の中には、
「特性の理解や適度なコミュニケーションは難しそうだ」
「どのような配慮・支援をすればいいのか分からず不安を感じる」
という方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、障害者雇用のノウハウが蓄積されていない職場では、「辞めない」障害者雇用をめざすのは難しいものです。
そこで大切になってくるのが、関係する支援機関との連携です。
(引用:厚生労働省「平成30年版厚生労働白書」)
上記のデータは、就職後の支援機関の「定着支援」の有無によって、障害者の職場定着状況が大きく変わることを示しています。就労定着支援とは障害者総合支援法に定められた「障害福祉サービス」のひとつですが、幅広い視野で「定着のための支援」ととらえると、あらゆるサポートが考えられます。
そこで頼りになるのが、さまざまな支援機関です。
具体的には以下のような機関が挙げられます。
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- ハローワーク
- 地域障害者職業センター
- 都道府県支部高齢・障害者業務課(東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課)
- 障害者職業能力開発校
- 障害者就業・生活支援センター
- 就労移行支援事業所(福祉機関)
以上の機関では、障害者本人に対しての支援のほか、職場に対しての助言やサポートを提供しています。
「ハローワークとは連携しているけれど、他の機関はあまり知らなかった」という方も多いかもしれませんが、関係機関と連携しないのは非常にもったいないことです。
「障害者の離職をできるだけ防ぎたい」と考えている方は、各自治体にある上記の機関に問い合わせてみましょう。
上手なサポートと連携で、「辞めない」障害者雇用をめざそう
障害者雇用の離職率はまだまだ高く、「辞めてしまう」障害者が多いことは事実です。
しかし、適切なサポートや関係機関との連携で、状況は変えていけるものだと考えましょう。
2.コミュニケーションを適度にとる
3.支援機関をうまく活用する
以上を心がけることで、障害をもつ方が働きやすい環境をつくり、離職を防ぐことができます。
それだけではありません。障害をもつ人が働きやすい場は、健常者にとっても心地よく働ける場だといえるのです。
誰もが安心して働ける環境が実現すると、労働者全体の満足度が上がります。
その結果、職場全体の離職率を下げることにもつながるでしょう。
担当者が一人で抱え込むことなく、上手に連携をとりながら障害をもつ方をサポートしていきましょう。
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