「ここサポ」とは?「心のサポーター」についてやさしく解説

「ここサポ」とは?「心のサポーター」についてやさしく解説

「最近、あの人元気がないな」
職場や家庭、地域でそう感じたことはありませんか。でも、次の瞬間にこう思ってしまいます。
「声をかけて、よけいなお世話だったらどうしよう」「専門家じゃない自分に、何ができるんだろう」

気づいても声をかけられない。
そんな悩みを変えようとしているのが、厚生労働省の「心のサポーター(愛称:ここサポ)」養成事業です。ここサポになるには資格も専門知識もいりません。大切なのは、こころの不調についての基本的な知識を身につけ、相手の話に耳を傾ける姿勢です。

この記事では、ここサポとは何か、なぜ今必要とされているのかを解説していきます。

「ここサポ」とは?

ここサポ(心のサポーター)とは、メンタルヘルスや精神疾患について正しい知識と理解を持ち、地域や職場で心の不調に悩む人やその家族に、傾聴を中心とした手助けを「できる範囲で」行う人のことです。

ポイントは「できる範囲で」という点です。お医者さんになるわけでも、カウンセラーになるわけでもありません。特別な誰かになる必要はありません。今いる場所で、目の前の人の話に耳を傾ける。その一歩を踏み出せる人を増やそうという取り組みです。

心のサポーターが、全国に広がろうとしています。

ここサポが生まれた背景

ここサポは、厚生労働省が進める「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の取り組みの一環として始まりました。

この仕組みは、精神障害の有無や程度にかかわらず、誰もが住み慣れた地域で自分らしく安心して暮らせる社会を目指すものです。そのためには、医療や福祉だけでなく、地域住民同士が支え合える環境づくりが欠かせません。

そこで、身近な人の心の不調に気づき、話を聴き、必要に応じて専門機関へつなぐ「心のサポーター」を全国に広げる事業がスタートしました。ここサポは、地域共生社会を実現するための重要な取り組みとして位置づけられています。

なぜ「ここサポ」が必要なのか?

ここサポが必要とされる背景について、詳しく解説します。

こころの不調は「特別な人」の話ではない

心の不調は決して珍しいものではありません。厚生労働省の調査によれば、精神疾患を有する患者数は約615万人(入院約28.8万人、外来約586.1万人)。これは、糖尿病やがんに匹敵する規模です。実際、国は2011年にそれまでの「4大疾病」(がん・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病)に精神疾患を加え、「5大疾病」としました。

うつ病、不安障害、依存症。心の不調は、ごく一部の人に起こる特別な出来事ではなく、誰の人生にも、いつでも起こりうるものです。決して他人事ではありません。

「病院だけ」では支えきれない時代に

国は今「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム(通称:にも包括)」という方針を掲げています。名前は難しく感じますが、考え方はシンプルです。心に不調を抱えても、病院の中だけでなく、住み慣れた地域で安心して暮らし続けられる社会をつくろう、ということです。

その社会を支えるのは、専門職だけではありません。むしろ、毎日顔を合わせる家族や同僚、ご近所さん、つまり身近な人の理解とまなざしが欠かせません。心のサポーターは、その地域の支え合いの担い手として位置づけられています。

「気づいても声をかけられない」を変える

不調に気づいても、多くの人が一歩を踏み出せません。
「何と言えばいいかわからない」
「傷つけてしまうかも」
その戸惑いは、知識がないことからくる不安でもあります。

逆に言えば、ちょっとした学びがあれば、その壁は越えられます。心のサポーター養成は、「気づき」を「行動」に変えるための、社会全体のトレーニングです。

2033年度末までに100万人——事業の目標とこれまでの歩み

ここサポを広げていく取り組みには、明確な数値目標があります。2024年度からの10年間(2033年度末まで)で、100万人を養成することです。単に受講者を増やすためではなく、心の病気に対する偏見(スティグマ)を減らし、誰もが身近な人の不調に気づき、適切な支えにつなげられる社会を目指すためです。

まず2021年度(令和3年度)にモデル事業としてスタートしました。モデル事業で研修内容や講師養成の仕組みを整えたあと、2024年度から全国展開が始まりました。

運営面では厚生労働省が事業を委託し、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)の公共精神健康医療研究部が中心となって、研修内容の開発や講師(トレーナー)の養成を担っています。国が旗を振り、専門機関が中身をつくり、各自治体が地域で講座を開く。この三層構造で広がっているのが特徴です。

ここサポになるには?ー研修では何を学ぶの?内容・時間・受講方法

ここサポになるには難しい資格や専門知識は必要ありません。
心のサポーター養成研修」でメンタルヘルスの基礎や、人の悩みを聴くスキルを学びことができ、誰でもここサポになることができます。
ここサポの研修ではいったい何を学ぶのか、内容や時間、受講方法について解説します。

資格は不要!地域や職場、オンラインの研修から「ここサポ」に

「心のサポーター養成研修」は、都道府県や市区町村をはじめ、企業、官公庁、教育機関などが主催しています。対面形式のほか、オンライン形式で開催される場合もあります。
開催地域や対象者、定員、受講方法は主催者によって異なるため、お住まいの自治体や勤務先、関連団体の案内を確認してみましょう。

研修はおおむね2時間で気軽に受けられる

「養成」と聞くと身構えてしまいますが、心配いりません。研修はおおむね2時間程度です。内訳は、全国共通の共通プログラム(約1時間半)と、地域の実情に応じて選ぶ選択プログラム(約30分)で構成されています。

学ぶのは、メンタルヘルスの基礎知識と、人の悩みを「聴く」スキルです。難しい医学用語を暗記するのではなく、目の前の人にどう寄り添うかを、具体的に身につけていきます。

土台にある「メンタルヘルス・ファーストエイド」という考え方

共通プログラムの土台になっているのが、「メンタルヘルス・ファーストエイド(MHFA)」という国際的に知られた考え方です。日本語にすると「こころの応急手当」です。応急手当といっても、治療ではありません。けがをした人に救急処置をするように、心の不調に気づいたときの「最初のかかわり方」を学ぶ枠組みになっています。

専門的な治療をするのではなく「気づき、声をかけ、話を聴き、必要なら専門の窓口につなぐ」。この一連の流れを、誰もが実践できる形に落とし込んでいるのがポイントです。

研修を修了すると「心のサポーター認定証」が発行されます

研修を修了した人には、「心のサポーター認定証」が発行されます。認定証は公的な資格や免許ではありませんが、心のサポーター養成研修を修了し、メンタルヘルスや精神疾患についての基礎知識、身近な人に寄り添うための傾聴の方法を学んだことを示すものです。

主催する自治体・団体によっては、認定証に加えて缶バッジやピンバッジなどが配布される場合があります。配布の有無や内容は、開催団体の案内を確認しましょう。

心のサポーター指導者養成研修の講師(指導者)になるには?

「ここサポ」の養成研修を受講すると「自分も講師になれるの?」と気になる方もいるかもしれません。

サポーターとして研修を受けるには、資格も専門知識もいりませんが、心のサポーター養成研修の講師(トレーナー)になるには、「心のサポーター指導者養成研修」を修了する必要があります。
「心のサポーター指導者養成研修」を受けられるのは、次のいずれかに当てはまる人です。

  • 医師、保健師、看護師、精神保健福祉士、公認心理師など、精神保健に携わる国家資格を持つ専門職
  • メンタルヘルス・ファーストエイド(MHFA)など、こころの応急手当に関する研修をすでに受講している人

心のサポーター指導者養成研修の内容

指導者養成研修は、共通研修(オンライン・120分)を受けたあと、オンデマンドで選択研修の動画を視聴し、確認テストに合格する、という流れです。共通研修では、次のような内容を学びます。

  • 心のサポーター養成事業とは
  • 養成研修の進め方(研修のコツ)
  • スティグマ(偏見)低減のための4つのポイント
  • 心のサポーターの「4ステップ」の伝え方
  • グループワークの進め方

指導者が心のサポーター養成研修ですること

指導者(講師)は、実際の心のサポーター養成研修で何をするのでしょうか。ここサポの公式サイトでは、講師として行うことが、大きく3つに整理されています。

  • 心のサポーター養成研修(120分)の内容を、わかりやすく伝える
  • ロールプレイなどを通じて、受講者の学びをサポートする
  • 受講者を勇気づけ、その学びを応援する

指導者の役割は、一方的に知識を教えることだけではありません。受講者が安心して学び、「自分にもできそうだ」と感じられるように後押しすることも大切です。

心のサポーター養成研修を受講しただけで、誰でもすぐに講師になれるわけではありません。一定の資格や研修歴を持つ人が指導者養成研修を受講し、必要な知識や研修の進め方を身につける仕組みとなっています。

こうした仕組みによって研修の質を保ちながら、地域で心のサポーターを育て、活動を支える人材の輪を広げていくことが期待されています。

ここサポに「できること」と「できないこと」

ここサポが「できること」と「できないこと」についての理解は、とても大切なところです。期待が大きいぶん、役割を正しく理解しておきたいためです。

できることは、日常の中での支えです。

  • 相手の変化に気づく
  • 否定せずに話を聴く(傾聴)
  • 「ひとりじゃないよ」と伝える
  • 必要なときに医療機関や相談窓口といった専門の支援へ橋渡しをする

一方で、できないこと(求められていないこと)もはっきりしています。ここサポは、診断や治療をする人ではありません。カウンセラーや精神科医の代わりでもありません。自分一人で抱え込んで「解決してあげよう」とする必要はないのです。

むしろ、「自分だけで何とかしようとしない」ことこそが、適切なかかわり方です。ここサポの役割は、専門職にバトンをつなぐ最初の一歩を、地域に無数につくることにあります。

あなたがここサポになると何が変わる?意義と活かし方

最後に、あなたがここサポになると何が変わるのでしょうか。

家庭では、家族の小さな変化に気づき、責めるのではなく寄り添えるようになります。
職場では、同僚の「いつもと違う」を見過ごさず、追い詰める前に声をかけられます。
地域では、孤立しがちな人の、最初の「つながり」になれることも大事なポイントです。

何より、学んだ本人の心も少し軽くなります。「もし自分が不調になっても、聴いてくれる人がいる社会なんだ」と思えるためです。それは、支える側にとっても安心になります。100万人の心のサポーターが目指すのは、一部の専門家に頼り切るのではなく、誰もが少しずつ支え合える社会、いわゆる地域共生社会の実現です。

まとめ

ここサポは、特別な誰かのための制度ではありません。こころの不調が誰にでも起こりうる時代に「気づいたら、聴く」という当たり前を社会に増やしていく取り組みです。資格もいらない、たった2時間の学びが、隣にいる誰かの朝を少しだけ明るくするかもしれません。

興味を持った方は、お住まいの自治体や勤務先で開催される養成講座を確認してみてください。受講すると、修了証や資格がもらえるわけではありません。しかし「どう声をかければいいかわからない」という不安は「まず話を聴いてみよう」という自信に変わります。それこそが、ここサポの大きな価値です。

 

参考:ここサポ厚生労働省|精神保健医療福祉の現状等についてこころの情報サイト
精神障害にも対応した地域包括ケアシステム(にも包括)
厚生労働省|メンタルヘルス・ファーストエイドとは

執筆者プロフィール

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