「就労継続支援」のA型とB型、何が違う?——工賃月1万6千円の現実から考える

「就労継続支援」のA型とB型、何が違う?——工賃月1万6千円の現実から考える

「働いて得られる収入が、月に1万6千円」——そう聞いて、どう感じるでしょうか。

これは架空の数字ではありません。厚生労働省が毎年公表している調査によると、就労継続支援B型事業所の平均工賃は月額約1万7,031円(令和4年度)。時給に換算すると約243円です。最低賃金(2024年10月以降、全国加重平均1,055円)の4分の1にも届きません。

福祉の現場でよく耳にする「A型」「B型」という言葉。ニュースでも「就労継続支援A型事業所が閉鎖」「B型の工賃向上へ」といった見出しが並びますが、この二つの違いをきちんと説明できる人は、実はそう多くないのではないでしょうか。

今回は、障害のある方の「働く」を支える制度——就労継続支援A型・B型を取り上げます。制度の仕組みから歴史的背景、海外との比較、そして私たちが向き合うべき問いまで、じっくり紐解いていきます。

1. この制度って何?——A型とB型を噛み砕いて説明します

そもそも「就労継続支援」とは

就労継続支援は、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの一つです。一般企業への就職が現時点では難しい方に対して、働く場と支援を同時に提供する仕組みなんですね。

大きく分けてA型(雇用型)とB型(非雇用型)の二つがあります。名前は似ていますが、中身はかなり違います。

A型(雇用型)のポイント

項目 内容
雇用契約 事業所と利用者の間で雇用契約を結ぶ
最低賃金 適用される(都道府県ごとの最低賃金以上)
平均賃金 月額約8万3,551円(令和4年度・厚労省調査)
対象 一般企業での就労は難しいが、一定の支援があれば雇用契約に基づく就労が可能な方
利用期間 原則制限なし

A型では、利用者は「従業員」です。労働基準法が適用され、有給休暇も社会保険も、原則として一般の労働者と同じ権利があります。

B型(非雇用型)のポイント

項目 内容
雇用契約 結ばない
最低賃金 適用されない
平均工賃 月額約1万7,031円(令和4年度・厚労省調査)
対象 年齢や体力、障害の状態などから雇用契約に基づく就労が困難な方
利用期間 原則制限なし

B型では、利用者は法律上「労働者」ではなく、「福祉サービスの利用者」という位置づけです。そのため、受け取るお金は「給与」ではなく「工賃」と呼ばれます。

ここが非常に重要なポイントなんです。雇用契約がないから最低賃金が適用されない。つまり、時給100円台、200円台という水準が制度上「合法」になっている。この構造こそが、月1万6千円〜1万7千円という現実を生み出しています。

数字で見る規模感

令和4年度時点で、全国の就労継続支援事業所の利用者数は以下の通りです。

  • A型:約4万4千人
  • B型:約30万人以上

B型の利用者はA型の約7倍。つまり、福祉的就労の圧倒的多数がB型であり、月額1〜2万円の工賃で働いている方が大多数だということです。

2. なぜこの制度は生まれたのか——「働く権利」を求めた歴史

授産施設から就労継続支援へ

就労継続支援の前身は、「授産施設」と呼ばれる仕組みでした。1950年代から各地に設けられ、障害のある方に軽作業などの「仕事」を提供していました。しかし、その実態は「居場所の提供」に近く、工賃は極めて低い水準にとどまっていました。

転機は2006年の障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)の施行です。この法律で、従来の授産施設が再編され、就労移行支援・就労継続支援A型・B型という体系に生まれ変わりました。

背景にあったのは、次のような問題意識です。

  • 障害のある人も「保護の対象」ではなく「権利の主体」である
  • 「働きたい」という意思がある人に、段階的な選択肢を用意すべき
  • 一般就労への移行を促進する仕組みが必要

A型は「雇用契約を結べる段階の方」、B型は「まだ雇用契約は難しいが、働く活動に参加したい方」という形で、段階的なステップを設けたわけですね。

「工賃倍増計画」の挑戦と限界

2007年、厚生労働省は「工賃倍増5か年計画」を打ち出しました。B型の平均工賃を5年で倍にしようという野心的な目標です。しかし、結果はどうだったか。

当時の平均工賃は月額約1万2千円。それが2024年現在で約1万7千円。17年かけて5千円ほどの上昇にとどまっています。「倍増」にはほど遠い現実です。

なぜ工賃が上がらないのか。構造的な要因がいくつかあります。

  • 事業所の収益力の弱さ:内職的な軽作業(袋詰め、部品組立など)が中心で、単価が極めて低い
  • 利用者の多様性:週1日だけ通所する方から毎日通う方まで幅広く、生産性を一律に高めることが難しい
  • 「福祉」と「事業」の二律背反:利用者のペースを尊重しつつ売上を伸ばすという、相反する目標を同時に追う難しさ

3. 海外ではどうしているか——「保護された就労」からの脱却

ドイツ:統合企業(Integrationsunternehmen)

ドイツには「統合企業」という仕組みがあります。従業員の25〜50%を障害のある方が占める企業で、一般市場で商品やサービスを販売しながら、障害のある従業員にも同一労働同一賃金の原則を適用します。国や州からの助成金で生産性のギャップを埋める構造です。

日本のA型に近い仕組みですが、大きな違いは一般市場での競争力を前提としている点。「福祉の枠内」ではなく「経済活動の中に福祉を組み込む」という発想です。

イタリア:社会的協同組合(Cooperativa Sociale)

イタリアでは1991年の法律で社会的協同組合が制度化されました。B型に当たる「就労統合型(タイプB)」では、組合員の30%以上を社会的に不利な立場の人(障害者、元受刑者など)が占めます。

特徴的なのは、利用者が「サービスの受け手」ではなく「組合員=経営の主体」として参加する点です。工賃ではなく、組合としての利益配分を受け取ります。

韓国:社会的企業育成法

韓国では2007年に社会的企業育成法が制定され、障害者を含む脆弱階層の雇用を目的とした社会的企業を政府が認証・支援しています。認証企業には人件費補助や税制優遇が提供され、最低賃金以上の支払いが義務づけられています。

日本の「ノウフクJAS」という新しい動き

海外の動きに触発される形で、日本でも新たな試みが始まっています。「ノウフク(農福連携)JAS規格」は、障害者が生産に携わった農産物に認証マークを付け、付加価値を高めて販売するという仕組みです。2023年に制定されたこの規格は、「福祉の作業」を「価値ある商品づくり」に変えようとする挑戦です。

ただし、認証を取得できる事業所はまだ限られており、全国の30万人以上のB型利用者の工賃を底上げするには、さらに多角的な取り組みが必要です。

4. 私たちが考えなくてはいけないこと

「働く」とは何か、という根本的な問い

B型事業所に通う方の中には、「お金のためだけに来ているわけじゃない」とおっしゃる方もいます。生活のリズムをつくること、仲間と過ごすこと、社会とつながっている実感——そうした「働くことの意味」は、工賃の額だけでは測れません。

でも、だからといって月1万7千円でいいのか。その問いから目をそらしてはいけないと思うんです。

障害年金(2級で月約6万8千円)と工賃を合わせても、月収は約8万5千円。家賃、食費、光熱費、通院費……。グループホームの利用料を差し引けば、手元に残るお金はごくわずかです。「自立した生活」という言葉が、どこか空虚に響いてしまう。

制度の「はざま」にある人たち

もう一つ見落とせないのは、A型とB型のはざまにいる方々の存在です。

近年、経営難からA型事業所が突然閉鎖し、利用者が一斉に行き場を失うケースが全国で相次いでいます。2017年には岡山県で大規模なA型事業所の閉鎖があり、約200人が職を失いました。A型の経営は、助成金に依存する構造的な脆さを抱えており、「雇用契約がある=安定」とは言い切れない現実があります。

一方で、B型から一般就労やA型へステップアップしたいと思っても、移行の支援が十分でないという声も少なくありません。B型からの一般就労への移行率は、わずか数%にとどまっています。

「Nothing About Us Without Us」の視点

障害者権利条約のスローガン、「私たちのことを、私たち抜きに決めないで(Nothing About Us Without Us)」。この言葉は、就労支援の制度設計にもそのまま当てはまります。

工賃をどうするか、事業所のあり方をどうするか——その議論の場に、当事者の声がどれだけ反映されているでしょうか。「支援する側」が良かれと思って決めた制度が、当事者の望む暮らしとズレていないか。私たち一人ひとりが、その問いを持ち続けることが大切だと思うんです。

あなたにできること

  • 近くの就労継続支援事業所が作っている製品やサービスを利用してみる(パンやお菓子、清掃サービスなど、身近にあるかもしれません)
  • 「障害者が働く」ということについて、職場や家庭で話題にしてみる
  • 自治体の障害福祉計画や工賃向上計画にパブリックコメントを出してみる

制度を変えるのは政治家や官僚だけの仕事ではありません。「知ること」「選ぶこと」「声を上げること」——その一つひとつが、制度を動かす力になります。

もう少し知りたい方へ

厚生労働省「障害者の就労支援について」:就労継続支援A型・B型の制度概要、工賃の実績データなどが掲載されています。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/service/shurou.html

独立行政法人 福祉医療機構(WAM)「工賃向上の取組み」:全国の工賃向上に関する好事例や支援策がまとめられています。 https://www.wam.go.jp/hp/guide-kouchin/

参照元(出典)

  1. ハートネット | NHK(heart-net.nhk.or.jp)
  2. 障害者が生産行程に携わった食品及び観賞用の植物の日本農林規格の一部改正案についての意見・情報の募集について(public-comment.e-gov.go.jp)
  3. 第138回 労働政策審議会障害者雇用分科会(令和8年5月27日開催予定)(wam.go.jp)

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