「うつ病」「適応障害」「解離性障害」の原因、症状、治療法など

「うつ病」「適応障害」「解離性障害」の原因、症状、治療法など

最近、朝起きるのがつらい、仕事で小さなミスするようになった、自分が自分でないような気がするなど、これまでにはなかった心身の変調を感じたら心の病の初期症状かもしれません。心の病も体の病気と同じで早期発見・早期治療が大切です。

ここでは現代社会で増えている心の病を取り上げ、それぞれの原因、症状、治療法について簡潔に説明しています。あてはまる症状がある場合は、ためらわずに専門医を受診するようにしましょう。

うつ病、適応障害、解離性障害はストレスが関わる心の病

うつ病や適応障害、解離性障害はストレスが密接にかかわって発症する心の病です。ストレスとは私たちが日常的に受ける外的刺激のことで、身体的ストレスと精神的ストレスに大別されます。

身体的ストレス 精神的ストレス
暑さ、寒さ、低気圧、高気圧、騒音、空気汚染、花粉、ウィルス、運動不足、睡眠不足、不規則な生活、長時間労働、病気、けがなど 人間関係(上司、近隣、家族との不和)、ライフイベント(就職、結婚、出産、昇進、離婚、定年退職、転居、大切な人との死別)、恐怖、不安、怒りなど

うつ病は主に環境の変化がストレスとなって発症する

心の病のうちでも、「成人の十人に一人が一生に一度はかかる」といわれるほどポピュラーな「うつ病」の原因と症状について見ていきましょう。

うつ病の主な原因

うつ病の引き金になりやすいのが「環境要因」といわれます。人間関係のトラブル、リストラ、大切な人との死別など、不安感や喪失感を味わうような身辺の出来事だけでなく、結婚や新居への引越、出産といった喜ばしいライフイベントも生活環境が大きく変わるため、肉体的・精神的ストレスとなってうつ病を発症することがあります。ただし、どのような環境要因が引き金となったのかを特定できず、慢性的なストレスにさらされてきた結果、発症するケースが少なくありません。

ストレス以外にも遺伝的要因や慢性的な病気によって、脳内神経伝達物質のセロトニン(気分や感情、食欲などをコントロールするホルモン)やノルアドレナリン(意欲や行動力、集中力などをコントロールするホルモン)が正常に機能していないことも要因と考えられています。

うつ病の主な症状

うつ病の中心的な症状は、「気分が落ち込み、意欲がわかない」「何をやっても楽しめない、興味をもてない」といった抑うつ気分です。こうした精神症状が2週間以上継続する状態を「うつ病」といいます。睡眠障害や食欲低下、性欲減退といった身体症状も現れます。朝は起きられないほど落ち込み、夕方にかけて楽になる「日内変動」もうつ病の初期症状で、そのため遅刻や欠勤が増え、仕事のミスも目立つようになります。

やがて、これまでのように行動できない自分を責める気持ち(自責感)が強まり、ひどくなると「自分はこの世にないほうがいい」と思い詰めて自殺を図ることがあります。この「自殺企図」がうつ病の最大の問題です。

うつ病の治療は「休養を取ること」が重要

うつ病の治療は「休養」「薬物療法」「精神療法」の3本柱が基本とされています。休養は1、2日間休むだけではなく、少なくても1か月間は必要です。

薬物療法では、脳内神経伝達物質の機能を正常にするSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬が処方されます。

精神療法では、悲観的・否定的な思考パターンを修正する「認知行動療法」や、不安や恐怖心が強い人に効果のある「森田療法」などが用いられます。精神療法で共通していることは、医師が「こうしなさい」と指示するのではなく、あくまでも患者さん自身が問題点を理解し、自ら解決法を見出していくことです。

適応障害は強いストレスを受けた時に発症する

適応障害は、「環境の変化に適応できず、心身にさまざまな症状が現れ、生活に支障をきたす状態」のことです。発症原因も症状もうつ病と似ていますが、うつ病と診断されるほど重くはありません。

適応障害の主な原因

人間関係やライフイベントなどによって強いストレスがかかる時期に発症します。うつ病の場合は、引き金となる環境要因を特定できない場合が多いのですが、適応障害はストレスになる場所や状況がはっきりわかっています。また、強いストレスを受けてから1~3か月以内に発症するという特徴もあります。

適応障害の主な症状

気分の落ち込み、意欲の低下、不安、イライラなどの精神症状に、めまい、不眠、動悸、吐き気などの身体症状が現れます。症状はストレスとなる環境に身を置いたときに現れ、そこを離れると比較的安定します。うつ病は離れても症状は変わらないので、この点もうつ病と適応障害の違いです。

適応障害の治療は「ストレスのない環境づくり」が重要

適応障害の場合は、ストレス要因を除去するための「環境調整」が基本です。たとえば、職場の異動がストレスとなって発症したという人は、前の部署に戻すことで経過によい影響をもたらすことがあります。

逆に、新しい部署で自分の役割を見出して能力を発揮する人もいます。本人の性格や発症したときの状況を顧みて、無理せずに溶け込める職場環境を整えることが最も有効な治療法です。

適応障害はうつ病に移行しやすい病気ですが、早い段階で環境調整や必要に応じて認知行動療法などを行えば、薬物療法を用いなくても症状が改善します。

解離性障害は身を守るための一種の防衛反応

解離とは、自分の中でまとまりが失われた状態といえます。私たちの意識や記憶、知覚などは一つに統合されていて、そこに自分らしさ(人格)が生まれます。

ところが、生命の危機にさらされるような恐怖体験をし、それが繰り返されると、「これは自分の身に起きていることでない」と、感情や意識を自分から切り離して苦痛から逃れようとします。この状態を「解離」といい、一種の防衛反応といわれています。

解離性障害の主な原因

大災害、事故、犯罪の目撃、幼少時に受けた身体的・心理的・性的虐待、いじめ、監禁、暴力などによる心的外傷(トラウマ)が深く関わっていると考えられています。

解離性障害の主な症状

解離性障害の症状は多彩で、ICD-10(世界保健機関の国際疾病分類第10版)では20種類以上に分類しています。ここではその一部をあげてみます。

●解離性健忘の症状
思い出すとつらい出来事の記憶が抜け落ちるものです。たとえば、子供のころ虐待を受けていたために、その期間の記憶がそっくりなくなる「限局性健忘」や、一部は覚えているが全部は思い出せない「選択性健忘」などがあります。また、自分はだれなのか、今どこにいるのか、これまで何をしてきたのかなど、自分の全生活史を忘れてしまう「全般性健忘」もあります。
●離人症性障害の症状
「自分が自分でないように感じる」「まるで自分を外から眺めているような気がする」など、自分の存在に対して現実感が失われるのが特徴です。これも、耐えられない状況が続いて感情や意識を断ち切ったために、現実感の喪失や感情の鈍麻となって現れるものとみられています。
●解離性同一性障害の症状
1人の人間に複数の人格が存在し、交代で出現するもので「多重人格障害」とも呼ばれています。交代人格は2~10人前後が多いのですが、100人以上も存在するという症例もあります。主人格と交代人格は年齢や性別、性格、食べ物の好み、行動パターンも異なります。交代人格は、苦痛から逃れるために切り離した感情や意識が成長してもう一人の人格になったような状態です。

それぞれ独立した人格のようでも主人格の一部であり、主人格が苦境に立たされたときに身代わりになるために現れるもので、それぞれが役割を担っていると考えられています。しかし、中には粗暴な人格も存在し、自分の思い通りにいかない場面では周囲とトラブルを起こしてしまうこともあります。

このほか、解離性障害には運動障害、心因性失声、心因性難聴、心因性昏迷などの症状もあります。

解離性障害の治療は「医師との信頼関係」が重要

解離性障害は、強いストレスによって自分を表現できないことが発症要因の1つになっています。そのため、安心できる治療環境を整えて医師との信頼関係を築くことが治療の第一目標となります。そのうえで精神療法やカウンセリングを行います。

●解離性健忘の治療法
本人の苦しみに医師が共感し、不安な気持ちを支え、本人に安心感と信頼感を持たせるようにします。この支持的療法だけで気持ちが安定し、治療を続けていくうちに記憶を少しずつ取り戻していくことがあります。
●離人症性障害の治療法
離人症には抑うつ症状や不安が伴うことが多いため、対症療法として抗うつ薬や不安薬が用いられます。精神療法には森田療法を取り入れることがあります。
●解離性同一性障害の治療法
複数の交代人格を一人に統制することを目的とはせず、それぞれの人格が融合するように協調性を持たせ、役割を果たせる状態になるよう助言・指導を行います。

解離性障害は一生治らない病気のように思われがちですが、ある程度の時間をかけて治療を続ければ自然に解消されていくのが一般的です。

精神科や心療内科ではこのような診察・治療が行われる

うつ病、適応障害、解離性障害が疑われるときは精神科を受診しましょう。食欲不振や吐き気、めまいなどの身体症状が強い場合は内科の領域である心療内科が適しています。

精神科や心療内科では、初診時に問診と除外診断を行います。問診では、現在の症状と発症に至るまでの経過を詳しく聞かれます。症状が重くて本人の口から説明できないような場合は、家族や上司が付き添って本人の性格や最近の様子などを伝えるのが望ましいといわれます。ただし、同席するかどうかは本人の意向に従うのが原則です。

除外診断は、うつ病などと似た症状を起こすほかの病気の有無を調べるもので、血液検査、尿検査、脳波検査、MRI、CT、光トポグラフィーなどの検査が行われます。そのほか、心理テストも必要に応じて実施されます。

診察や検査の結果とDSM-5(アメリカ精神医学会による精神障害の診断・統計マニュアル第5版)、またはICD-10に基づいて診断がなされます。

まとめ

ストレスがきっかけで起こる心の病は、ほかにもたくさんの種類があります。同じような症状でも治療法が異なるので、信頼できる医療機関で診てもらう必要があります。

初めてでどこがよいのかわからないという場合は、精神保健福祉センター(こころの健康センター)に相談するといいでしょう。センターは都道府県ごとに設置されていて、精神医療についての相談や職場復帰についての相談にも応じています。

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