放課後、友だちと公園で遊ぶ。児童館でボードゲームをする。子ども食堂でごはんを食べる。——そんな「当たり前の午後」が、障害のある子どもたちにとっては当たり前ではないことがあります。
いま、こども家庭庁を中心に「こどもの居場所づくり」が政策課題として大きく動いています。2023年12月に閣議決定された「こどもの居場所づくりに関する指針」は、すべての子どもを対象にうたっています。けれど、「すべて」という言葉の中に、障害のある子どもたちの暮らしがどこまで具体的に想定されているのか。その問いを、制度の構造と現場の声の両面から考えてみたいと思います。
「こどもの居場所部会」は何を議論してきたか
こども家庭庁が設置した「こどもの居場所部会」は、子どもが安心して過ごせる場所のあり方を調査・審議する場です。放課後の過ごし方、遊びのプログラム、地域の受け皿づくりなど、幅広いテーマが扱われてきました。
2023年に取りまとめられた指針では、「多様な子どもの存在を前提とした居場所づくり」という理念が盛り込まれました。これ自体は大切な一歩です。ただ、部会の議事録を読んでいくと、障害のある子どもに関する具体的な議論は限られていることに気づきます。
たとえば、令和7〜8年度にかけての部会では「若者の居場所づくりに向けた論点整理」が議題に上がっていますが、ここでいう「若者」に障害のある若者がどう含まれるのかは、資料上からは明確に読み取れません。議論の場に障害当事者や家族の委員がどれだけ参画しているかも、重要なチェックポイントです。
「すべての子ども」と書かれているから大丈夫、ではないのです。名前を呼ばれない存在は、制度設計の段階で見えなくなってしまうことがある。これは福祉の現場で何度も繰り返されてきた構造的な課題です。
放課後等デイサービスは「居場所」を担えているか
障害のある子どもたちの放課後の受け皿として最も広く知られているのが、放課後等デイサービスです。2012年の児童福祉法改正で制度化されて以降、事業所数は急増し、厚生労働省の統計によれば全国で約1万9,000事業所(2024年時点)、利用児童数は約30万人に達しています。
この数字だけを見れば、「居場所はある」と思えるかもしれません。しかし、現場の風景はもう少し複雑です。
まず、地域格差の問題があります。都市部では事業所が集中する一方、地方では選択肢が極端に限られる地域もあります。片道30分以上かけて送迎しなければ利用できない家庭も珍しくありません。
次に、「質」の問題です。放課後等デイサービスの中には、テレビを見せているだけ、という指摘がかつてからあり、2024年度の報酬改定では質の評価に踏み込んだ見直しが行われました。総合支援型と特定プログラム特化型への類型化が進み、事業所には専門性がより求められるようになっています。ただ、報酬単価の見直しに伴い、経営が厳しくなる小規模事業所も出てきており、結果として地域の居場所が減るリスクも指摘されています。
そしてもうひとつ、見落とされがちな視点があります。放課後等デイサービスは「障害児だけの場所」であるということです。もちろん、専門的な支援が必要な子どもにとって、安心できる環境は不可欠です。でも同時に、「障害のない子どもたちと一緒に過ごす午後」が選択肢にないとしたら、それは本当に「居場所がある」と言えるのでしょうか。
障害者基本計画が描く「共生」と、居場所政策のあいだ
2023年3月に閣議決定された第5次障害者基本計画では、「障害の有無にかかわらず、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現」が基本理念として掲げられています。教育分野ではインクルーシブ教育の推進がうたわれ、地域生活の充実も重点項目に入っています。
しかし、この計画と「こどもの居場所づくりに関する指針」のあいだに、どれだけ実質的な連携があるのかは心もとない状況です。こども家庭庁と厚生労働省(障害福祉)の所管が分かれていることもあり、「居場所」と「障害児支援」が別々の文脈で語られがちです。
子どもの暮らしは、省庁の縦割りとは関係なくつながっています。朝は学校、午後は放課後、夕方は地域。その一日の流れの中で、障害のある子どもが「ここにいていいんだ」と感じられる場所がどれだけあるか。制度の設計者には、子どもの一日を丸ごと想像してほしいと思うのです。
北欧の事例から——「一緒にいること」を当たり前にする仕組み

海外に目を向けると、北欧諸国のアプローチは示唆に富んでいます。
スウェーデンでは、就学前から障害のある子どもとない子どもが同じ保育施設で過ごすことが原則です。放課後の余暇活動(fritids)でも、障害のある子どもが参加できるよう、自治体が追加の人員配置や環境整備の費用を負担します。「特別な場所を作る」のではなく、「普通の場所を誰でも使えるようにする」という発想です。
デンマークでは、地域のスポーツクラブや文化活動に障害のある子どもが参加する際、パーソナルアシスタント制度を活用できます。つまり、「その子が行きたい場所に支援がついていく」仕組みです。
これらの事例を日本にそのまま持ってくることはできません。自治体の財政規模も、福祉の歴史的な文脈も異なります。ただ、ひとつ学べることがあるとすれば、「障害のある子ども専用の居場所を増やす」だけでなく、「すでにある居場所のバリアを下げる」という方向性です。
日本でも、子ども食堂の中にはバリアフリー対応を進めたり、障害のある子どもの参加を歓迎する取り組みを始めているところがあります。全国に約9,000カ所以上あるとされる子ども食堂(むすびえ調査、2023年)のうち、こうした取り組みがどれだけ広がっているか。まだ体系的なデータはありませんが、小さな実践の中に、制度が追いつくべきヒントがあるように思います。
DPI日本会議が投げかける問い
DPI(障害者インターナショナル)日本会議は、「Nothing About Us Without Us(私たちのことを私たち抜きに決めないで)」を掲げ、障害者の権利擁護と政策提言を続けてきた団体です。
DPI日本会議は、こどもの居場所政策に対しても、障害のある子どもの視点を組み込むよう求めています。とりわけ重要なのは、「分けられた居場所」ではなく「共にある居場所」を求めている点です。障害のある子どもだけが集まる場所を増やすことが目的ではなく、地域の中で障害のある子もない子も自然に一緒にいられる環境こそが必要だ、という主張です。
この視点は、障害のある子どもたちだけの話ではありません。障害のない子どもたちにとっても、多様な人と一緒に過ごす経験は、社会を理解する大切な学びになります。「インクルーシブな居場所」は、すべての子どもの育ちを豊かにする可能性を持っています。
見えにくい「こぼれ落ち」に気づくために
ここまで制度や政策の話を中心に書いてきましたが、最後に少しだけ、現場で出会った風景の話をさせてください。
私が支援施設で働いていた頃、ある男の子のお母さんがこう言いました。「放課後デイは助かっています。でも、息子が『○○くんと遊びたい』って言ったとき、その○○くんがいる場所に息子が行ける仕組みがないんです」。
この言葉が、ずっと心に残っています。
制度は「障害のある子どもの居場所」を用意してくれます。でも、その子が本当に行きたい場所は、友だちがいる場所かもしれない。近所の公園かもしれない。駄菓子屋の前のベンチかもしれない。「居場所」とは、制度が指定するものではなく、その子自身が「ここがいい」と感じる場所のはずです。
こどもの居場所部会の議論が、制度の枠組みを超えて、一人ひとりの子どもの「ここにいたい」に届くものになるかどうか。それは、議論の場に誰がいるか、誰の声を聴いているかにかかっています。
これから注目したい3つのこと
最後に、今後の動きとして注目しておきたいポイントを整理します。
1. こどもの居場所部会における障害児の議論の深まり
指針の理念を具体的な施策に落とし込む段階で、障害のある子どもに関する論点がどれだけ具体化されるか。委員構成や議題設定を注視していきたいと思います。
2. 放課後等デイサービスの報酬改定後の影響
2024年度の類型化・報酬見直しが、現場にどんな変化をもたらしているか。事業所の数や質、利用者の満足度の変化を追いかけていく必要があります。
3. 地域の居場所のインクルーシブ化の実践
子ども食堂、児童館、プレーパークなど、すでにある地域の居場所が障害のある子どもにどう開かれていくか。制度の外側で生まれる小さな工夫にこそ、次の政策のヒントがあるはずです。
「居場所」という言葉は温かい響きを持っています。でも、その温かさが届いていない子どもがいるとしたら、私たちはまずそのことに気づくところから始めなければなりません。気づくことは、変えることの第一歩です。
この記事を読んでくださったあなたの近くにも、「居場所」を探している子どもがいるかもしれません。その子の姿が少しでも見えやすくなったなら、この記事を書いた意味があったと思います。
参照元(出典)
- こどもの居場所部会|こども家庭庁(cfa.go.jp)
- 第22回 こども家庭審議会 こどもの居場所部会(令和8年6月18日開催)(wam.go.jp)
- 障害者施策|政策統括官(共生・共助担当)- 内閣府(www8.cao.go.jp)
- 私たちの活動 | DPI日本会議(dpi-japan.org)
執筆者プロフィール

児童福祉、発達障害、自閉スペクトラム症(ASD)など、子どもを取り巻く社会課題について執筆を行う。保護者や教育関係者にも伝わりやすい表現を心掛け、一人ひとりの子どもの成長と権利を尊重する視点から情報発信を続けている。