「こどもの意見を聞く」は義務になった——こども基本法と意見表明権をやさしく解説

「こどもの意見を聞く」は義務になった——こども基本法と意見表明権をやさしく解説

はじめに——「あなたの話を聞かせて」が法律になった日

2023年4月1日、ひとつの法律が動き出しました。こども基本法です。

この法律の核心はとてもシンプルです。「こどもの意見を聞き、それを社会に反映させること」を、国や自治体の義務にしたこと。

でも、ちょっと立ち止まって考えてみてください。「意見を聞く」って、具体的にはどういうことなのでしょう? 言葉で話せる子だけが対象なのでしょうか? 障害のある子どもたちは、どうやって自分の声を届ければいいのでしょう?

本記事では、こども基本法の中心にある「意見表明権」という考え方を噛み砕いて解説しながら、障害のある子どもたちの参画をどう保障するか、北欧の事例とも比較して考えていきます。

1. この制度って何?——こども基本法と「意見表明権」

こども基本法の全体像

こ432ども基本法は、日本で初めてこどもの権利を包括的に定めた基本法です。これまで児童福祉法や児童虐待防止法など個別の法律はありましたが、「こどもの権利そのもの」を正面から掲げる法律はありませんでした。

この法律が掲げる基本理念は、大きく4つに整理できます。

  • 生きる権利・育つ権利の保障
  • 差別の禁止(障害、国籍、家庭環境などによる差別をしない)
  • こどもの最善の利益を第一に考えること
  • こどもの意見の尊重(意見表明権)

この4つ目、「意見表明権」こそが今回のテーマです。

意見表明権とは

意見表明権とは、「自分に関わることについて、自分の意見を述べる権利」のことです。こども基本法第3条第3号では、こどもが「自己に直接関係する全ての事項に関して意見を表明する機会」を確保されるべきだと定めています。

ここで大切なのは、「意見を聞く」とは単にアンケートを配ることではないという点です。法律は国や自治体に対して、こどもが意見を形成し、表明し、それが施策に反映されるという一連のプロセスを整えることを求めています。

また、2023年4月に発足したこども家庭庁が司令塔となり、こども家庭審議会やこども・若者参画委員会といった場が設けられました。こども大綱(2023年12月閣議決定)では、「こども・若者の意見を政策に反映する仕組みの充実」が重点施策として明記されています。2024年度のこども家庭庁関連予算は約4.8兆円規模に上りますが、そのうち「こどもの意見反映推進事業」には約3億円が計上され、全国の自治体がモデル事業に取り組み始めています。

2. なぜこの制度は生まれたのか——「聞いてもらえなかった」歴史

国連・子どもの権利条約と日本の30年

意見表明権の出発点は、1989年に国連で採択された子どもの権利条約(CRC)第12条です。日本は1994年にこの条約を批准しましたが、国内法の整備は大きく遅れました。

国連子どもの権利委員会は、日本に対して繰り返し勧告を出しています。2019年の第4回・第5回統合所見では、「こどもの意見が制度的に聴取される仕組みが不十分」と指摘されました。こども基本法は、こうした国際的な批判に応える形で約30年越しに誕生した法律なのです。

障害のある子どもたちの「見えない声」

さらに深刻なのは、障害のある子どもたちの声が長い間「聞こえないもの」として扱われてきたことです。

障害者権利条約(CRPD)第7条は、障害のある子どもが他の子どもと平等に意見を表明する権利を持つと定めています。日本は2014年にこの条約を批准しましたが、2022年の国連障害者権利委員会による対日審査(総括所見)では、「障害児の意見表明を支援する具体的な仕組みが不足している」と厳しく指摘されました。

つまり、こども基本法の意見表明権は、「すべてのこども」を対象としているはずなのに、障害のある子どもたちがそこに実質的にアクセスできるかどうかは、まだ別の問題として残っているのです。

3. 海外ではどうしているか——北欧の「聞く技術」に学ぶ

スウェーデン:法律+専門職+ツールの三位一体

スウェーデンでは、1993年の「子どもオンブズマン法」以来、こどもの意見聴取が制度として根付いています。注目すべきは、障害のある子どもの参画を「特別扱い」ではなく「当然のこと」として設計している点です。

具体的には、自治体が意見聴取の場を設ける際に、以下のような仕組みが用意されています。

  • 専門ファシリテーターの配置:こどもの発達段階やコミュニケーション特性に合わせて対話を支援する専門職がいる
  • AAC(拡大代替コミュニケーション)の標準装備:絵カード、シンボルボード、タブレット端末による意思表示ツールが会場に常備される
  • 事前準備の時間の確保:意見聴取の前に、テーマを分かりやすく説明する「プレ・セッション」が行われる

スウェーデン政府機関の報告(Barnombudsmannen, 2020)によれば、障害のある子どもが参加した意見聴取プロジェクトでは、参加者の約85%が「自分の意見が聞いてもらえたと感じた」と回答しています。

フィンランド:「聞く」から「一緒につくる」へ

フィンランドでは、2014年の「若者法」改正により、自治体に若者評議会(Nuorisovaltuusto)の設置が義務化されました。2020年時点で全国約310の自治体のうち9割以上が設置済みです。

フィンランドが特徴的なのは、「意見を聞く」だけでなく、「こどもと一緒に政策をつくる(共同設計=コ・デザイン)」という発想が浸透していることです。ヘルシンキ市では、障害のある若者が都市計画のワークショップに参加し、バリアフリー設計に直接関与した事例があります。

日本との違いはどこにあるか

北欧と日本の最大の違いは、「聞くためのインフラ」の厚みです。

  日本 スウェーデン フィンランド
法的根拠 こども基本法(2023年〜) 子どもオンブズマン法(1993年〜) 若者法(2006年〜、2014年改正)
専門ファシリテーター 一部自治体で試行中 自治体に常駐 若者評議会に配置
AAC等の支援ツール 整備はこれから 標準装備 必要に応じて提供
障害児の参画実績 モデル事業段階 制度として定着 共同設計の段階

日本では「こどもの意見を聞きましょう」という理念は共有されつつありますが、「どうやって聞くか」の技術と体制が追いついていないのが現状なんです。

4. 私たちが考えなくてはいけないこと

「聞いたふり」にしないために

こども基本法の施行は大きな一歩です。しかし、法律ができただけでは子どもたちの声は届きません。

2023年度にこども家庭庁が実施した「こども・若者の意見反映推進事業」のモデル自治体は約100カ所。全国に約1,700ある市区町村の6%弱に過ぎません。しかも、障害のある子どもに特化した意見聴取プログラムを持つ自治体は、さらに限られています。

制度と実践の距離を縮めるために、少なくとも以下の3つが必要だと考えます。

1. 合理的配慮の「メニュー化」:AAC、やさしい日本語、手話通訳、感覚過敏に配慮した環境設定など、意見聴取の場で提供できる合理的配慮を自治体が一覧にして公開すること

2. ファシリテーター養成の制度化:障害のある子どもの意見を引き出す専門スキルを持つ人材を、研修制度として全国に広げること。現在、一部のNPOや大学が取り組んでいますが、公的な養成課程はまだありません

3. 「聞いた後」の見える化:子どもたちの意見がどう施策に反映されたか(あるいは反映できなかった場合はその理由)をフィードバックする仕組みをつくること。これがなければ、意見聴取は「聞いたふり」になりかねません

Nothing About Us Without Us——障害児の文脈で

障害者権利条約の精神を表す有名な言葉に、「Nothing About Us Without Us(私たちのことを、私たち抜きに決めないで)」があります。この言葉は、大人の障害者だけでなく、障害のある子どもたちにもそのまま当てはまるはずです。

しかし現実には、障害児福祉計画や放課後等デイサービスの運営方針を決める場に、当事者である子ども自身が参加しているケースはほとんどありません。こども基本法が掲げる意見表明権を実質化するためには、「障害のある子どもが、自分に関わる制度の設計に参画する」という具体的な場面をひとつずつ増やしていくことが不可欠です。

読者への問いかけ

最後に、ひとつ問いかけたいことがあります。

あなたの暮らす地域で、子どもたちの声を聞く場はありますか? そこに、障害のある子どもたちは参加できていますか?

こども基本法は、制度の「入口」をつくりました。でも、その扉を実際に開けるのは、私たち一人ひとりの関心と行動なんだと思います。

もう少し知りたい方へ

こGAども家庭庁「こども基本法について」:法律の条文や基本理念、こども大綱の全文が掲載されています https://www.cfa.go.jp/policies/kodomo-kihon/

国連子どもの権利委員会「一般的意見第12号:意見を聴かれる子どもの権利」:意見表明権の国際基準を理解するための基本文書です(日本語仮訳は日本ユニセフ協会サイトで閲覧可能)

参照元(出典)

  1. 第12回 こども家庭審議会 こども・若者参画及び意見反映専門委員会(令和8年1月30日開催)(wam.go.jp)
  2. 第17回 こども家庭審議会 障害児支援部会(令和7年12月8日開催)(wam.go.jp)
  3. 第7回 こども家庭審議会(令和8年1月22日開催)(wam.go.jp)

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