「障害者」になれない難病患者の孤独。縦割りを超えて、一人の暮らしを支える地図を

「障害者」になれない難病患者の孤独。縦割りを超えて、一人の暮らしを支える地図を

ある女性の朝から始まる話

都内に暮らす30代の女性・Aさん(仮名)は、全身の筋力が徐々に低下する希少疾患を抱えている。指定難病の認定を受け、医療費助成の対象にはなった。しかし、身体障害者手帳の等級には該当しない。「動けなくなる日が増えているのに、制度の上では”障害者”ではない」。Aさんのような人は、日本に何万人いるのだろうか。

指定難病検討委員会では疾病の追加や見直しが粛々と進み、障害者部会では障害福祉サービスの対象範囲が議論される。どちらも厚生科学審議会・社会保障審議会という国の審議会の下に置かれた会議体だ。しかし、この国の審議会では、今日も難病や障害の支援が話し合われています。けれど、その議論が『同じ一人の暮らし』を、別々の窓口から切り分けて眺めているとしたら。その隙間にこぼれ落ちてしまう声はないでしょうか。制度の境界線上に立たされた難病当事者の声を起点に、縦割りの構造を解きほぐしてみたい。

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指定難病制度の現在地——341疾病、しかし「認定」されても届かない支援

2024年2月6日に開催された第63回指定難病検討委員会では、既存の指定難病の要件該当性の確認とともに、新たな疾病の追加に関するパブリックコメントの結果が報告された。現在、指定難病は341疾病。患者数は約100万人とされ、医療費助成の対象となることで経済的負担の軽減が図られている。

しかし、指定難病の認定はあくまで「医療」の枠組みの話だ。認定されれば医療費の自己負担上限が設定されるが、日常生活を支えるホームヘルプや移動支援といった「福祉サービス」は、別の制度——障害者総合支援法の対象にならなければ利用できない。そして障害者総合支援法の対象となるには、原則として身体障害者手帳・精神障害者保健福祉手帳・療育手帳のいずれかを持っているか、あるいは政令で定められた「難病等」に該当する必要がある。

ここに最初の「谷間」が生まれる。指定難病341疾病のうち、障害者総合支援法の対象となる難病は366疾病(令和6年4月時点)と数の上では広いが、両制度の対象疾病リストは完全には一致しない。さらに、対象疾病に含まれていても、「一定の障害の状態」にあることが要件とされるため、症状が変動する難病では「調子のいい日」に認定調査を受けると、実態より軽く判定されてしまうケースが後を絶たない。

障害者部会の議論——「計画」は立てるが「谷間」は埋まらない

一方、社会保障審議会の障害者部会では、障害福祉計画・障害児福祉計画に関する基本指針の見直しが進められている。令和8年度以降のサービス提供体制について、数値目標の設定や地域間格差の是正が議題に上がっている。

この部会の議論は、すでに障害福祉サービスの「中」にいる人たちを対象としたものだ。サービスの質をどう上げるか、人材をどう確保するか、報酬をどう設定するか。いずれも重要なテーマだが、そもそも制度の「入口」に立てていない難病当事者の存在は、議論の射程に入りにくい。

障害者部会の委員からは、難病患者の障害支援区分認定における課題について発言が出ることもある。しかし、それが指定難病検討委員会の議論とリアルタイムで共有される仕組みは、現時点では存在しない。二つの会議は、それぞれのスケジュールで、それぞれの論点を粛々と処理している。

小児慢性特定疾病——「子ども」から「大人」への移行でもう一つの壁

難病と障害の谷間は、大人だけの問題ではない。小児慢性特定疾病対策部会では、子ども時代に医療費助成を受けていた患者が成人後にどのような支援につながるかが、繰り返し課題として指摘されている。

小児慢性特定疾病の対象は約800疾病、登録患者数は約11万人(令和4年度)。18歳(場合により20歳)を超えると小児慢性の対象から外れるが、その疾病が指定難病に含まれていなければ、医療費助成の「空白期間」が生じる。さらに、成人後の生活支援や就労支援への接続も自動的には行われない。

「子どもの頃は病院と学校が連携してくれた。でも大人になった途端、自分で全部やらなければならなくなった」。ある先天性疾患の当事者が語った言葉だ。小児科から内科への転科、医療費助成制度の切り替え、障害福祉サービスの申請——これらをすべて本人や家族が個別に手続きしなければならない今の仕組みでは、本人の努力だけではどうにもならない『空白』が生まれてしまいます。一人の人生をトータルで支えるための、制度のアップデートが求められています。

「同じ人」を見るために何が必要か

問題の根本は、「疾病」を管轄する仕組みと「障害」を管轄する仕組みが、それぞれ独立した法的根拠・審議体制・予算枠を持っていることにある。指定難病は難病法(難病の患者に対する医療等に関する法律)、障害福祉サービスは障害者総合支援法。所管はいずれも厚生労働省だが、担当部局が異なり、審議会も別々だ。

では、どうすれば「同じ人」の暮らしを一つの視野で捉えられるのか。いくつかの方向性を提示したい。

第一に、合同ヒアリングの制度化。指定難病検討委員会が新たな疾病を追加する際、その疾病の患者が障害福祉サービスの対象となっているかどうかを同時に確認し、必要に応じて障害者部会に情報提供する仕組みがあれば、谷間の発見が早まる。現状では、患者団体が個別に両方の会議に働きかけるしかなく、リソースの限られた希少疾患の団体にとっては大きな負担だ。

第二に、障害支援区分認定における「症状変動」の評価手法の見直し。難病の多くは症状が日によって大きく変動する。現在の認定調査は基本的に「調査日」のスナップショットで判定されるが、一定期間の生活日誌や主治医意見書をより重視する方式への転換が求められる。

第三に、小児から成人への移行支援の「ワンストップ窓口」の設置。自治体レベルで、小児慢性特定疾病の患者が18歳を迎える前に、医療・福祉・就労の各制度への接続を一括して相談できる窓口を設けることは、すでにいくつかの自治体で試行されている。これを全国的な仕組みとして制度化することが急務だ。

制度の地図を描き直す

日本の社会保障制度は、長い歴史の中で「疾病」「障害」「高齢」「貧困」といったカテゴリーごとに発展してきた。それぞれの制度が専門性を深めてきたことには大きな意義がある。しかし、人の暮らしはカテゴリーで区切
れない。難病を抱えながら障害福祉サービスを必要とし、やがて高齢期を迎える——そんな一人の人生を、制度の地図はまだうまく描けていない。

指定難病検討委員会の次回会合では、さらなる疾病の見直しが予定されている。障害者部会では、次期障害福祉計画の策定に向けた議論が本格化する。この制度は、人を支えるためにあります。いつの日か、二つの会議が同じテーブルを囲み、『あの人の暮らしをどう支えるか』を語り合う。そんな当たり前の景色が、谷間に立つ人たちの朝を、少しずつ明るく照らしていくと信じています。制度の谷間に立つ人たちの朝が、少しでも穏やかなものになるように。

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