
学校のチャイムが鳴ったあと、あの子はどこへ行くのだろう
午後3時。学校のチャイムが鳴って、子どもたちが校門を飛び出していく。学童保育に向かう子、習い事に走る子、公園で遊ぶ子。けれど、その流れのなかに「行き場が決まらない子」がいることを、どれだけの人が知っているでしょうか。
障害のある子どもにとって、放課後の3時間は「居場所探し」の時間になってしまうことがあります。放課後等デイサービスは定員がいっぱい。学童保育には「うちでは対応が難しい」と言われる。どちらの制度にも手が届かない子どもたちが、いま確かに存在しています。
この問題の背景には、二つの審議会が別々に動いているという構造的な課題があります。こども家庭審議会の障害児支援部会と、同じくこども家庭審議会のこどもの居場所部会。それぞれが子どもの放課後を議論しているのに、その議論がなかなか交わらない。本記事では、両部会の論点を重ね合わせながら、「制度の谷間」に立つ子どもと家族の視点から、インクルーシブな居場所に必要なものを考えます。
放課後等デイサービスの現状——増えたけれど、届いていない
放課後等デイサービスの事業所数は、この10年で大きく増えました。厚生労働省の統計によれば、2014年に約5,000か所だった事業所数は、2024年には約2万か所を超えています。数字だけ見れば「充実した」ように見えるかもしれません。
しかし、現場の声は違います。都市部では事業所が増えた一方で、質のばらつきが指摘されています。療育的なプログラムを提供する事業所もあれば、テレビを見せて時間を過ごすだけの事業所もある。第17回障害児支援部会でも、サービスの質の確保と適正な評価のあり方が議論されました。
一方、地方では事業所そのものが足りません。片道30分以上かけて送迎しなければ利用できない地域もあります。共働き家庭やひとり親家庭にとって、この送迎の負担は深刻です。ある保護者は「放課後デイの送迎時間に合わせると、パートのシフトが組めない」と話します。制度があっても、暮らしのなかで使えなければ、それは「届いていない」のと同じです。
学童保育の壁——「みんなの居場所」に入れない子
では、学童保育はどうでしょうか。こどもの居場所部会では、放課後児童クラブ(学童保育)の充実が議論されています。2023年度の利用児童数は約146万人。待機児童の解消が進む一方で、障害のある子どもの受け入れについては、依然として課題が残っています。
厚生労働省の調査では、障害のある児童を受け入れている放課後児童クラブは全体の約6割。逆に言えば、4割のクラブでは受け入れていない、あるいは受け入れ体制が整っていないということです。受け入れている場合でも、加配職員の確保が難しく、「受け入れてはいるけれど、十分な配慮ができていない」という声が支援員から上がっています。
加配職員を1名配置するための補助金は、年間約150万円〜200万円程度。しかし、実際に専門知識を持つ人材を確保するのは容易ではありません。結果として、障害のある子どもの保護者が「迷惑をかけるから」と利用を遠慮するケースも少なくないのです。
二つの部会が交わらない構造的な問題

ここで立ち止まって考えたいのは、なぜこの二つの部会の議論が交差しないのか、という点です。
障害児支援部会は、障害福祉の枠組みのなかで放課後等デイサービスを議論します。こどもの居場所部会は、児童福祉の枠組みのなかで学童保育や児童館を議論します。それぞれの制度には、それぞれの根拠法があり、それぞれの予算があり、それぞれの担当部署があります。
けれど、子どもの暮らしは一つです。放課後の3時間は、障害福祉の時間でも児童福祉の時間でもなく、ただ「その子の時間」です。制度の縦割りが、子どもの居場所に「谷間」をつくっている。この構造そのものを問い直す必要があります。
実際、両部会の委員名簿を見ると、重複するメンバーはごくわずかです。議事録を読み比べても、互いの議論を参照している箇所はほとんど見当たりません。制度設計の段階で「交差点」がつくられていないのです。
先行する自治体の試み——「ごちゃまぜ」の放課後
一方で、現場レベルでは新しい動きも生まれています。
富山県の「富山型デイサービス」は、高齢者も障害者も子どもも一緒に過ごす共生型の居場所として知られていますが、この考え方を放課後の子どもの居場所に応用する自治体が出てきています。学童保育と放課後等デイサービスを同じ建物内で運営し、活動の一部を合同で行う取り組みです。
こうした「ごちゃまぜ」の場では、障害のある子もない子も、同じ空間で遊び、時にぶつかり、時に助け合います。ある支援員は「最初は不安だったけれど、子ども同士が自然に関係をつくっていく姿に驚いた」と語ります。制度の枠を超えた現場の知恵が、子どもたちの居場所を広げているのです。
ただし、こうした取り組みには課題もあります。放課後等デイサービスと学童保育では報酬体系が異なるため、合同運営の場合の費用按分が複雑になります。また、職員の資格要件も異なるため、人員配置の調整が必要です。制度横断的な運営を可能にするガイドラインの整備が求められています。
当事者家族の声を「仕組み」にする
制度の谷間を埋めるために、最も大切なのは当事者家族の声です。
こどもの居場所部会では、子どもの意見聴取の方法について議論が進んでいます。しかし、障害のある子どもの声を聴くには、特別な配慮が必要です。言葉でのコミュニケーションが難しい子どもには、絵カードや写真を使った意思表示の方法があります。行動観察から「この子はこの場所が好きなんだ」と読み取ることも、立派な「意見聴取」です。
保護者の声も重要です。ある母親はこう話してくれました。「放課後デイに通えない日は、私が仕事を休むしかない。選択肢がもう一つあるだけで、暮らしはずいぶん変わるのに」。この「もう一つの選択肢」をつくることが、制度に求められていることではないでしょうか。
両部会に対して、定期的な合同ヒアリングの場を設けること。当事者家族が「障害児支援の話」と「子どもの居場所の話」を別々にしなくて済む仕組みをつくること。小さな工夫ですが、制度の谷間を埋める第一歩になるはずです。
放課後の3時間が変われば、家族の一日が変わる
放課後の3時間は、たった3時間です。でも、その3時間に居場所があるかないかで、子どもの放課後は「楽しい時間」にも「不安な時間」にもなります。保護者にとっては、働けるかどうか、息を抜けるかどうかを左右する3時間です。
障害児支援部会とこどもの居場所部会。この二つの議論が交わる場所に、きっと「あの子の居場所」があります。制度は子どもの暮らしに合わせて動くべきであって、子どもが制度に合わせて暮らすのではない。そんな当たり前のことを、もう一度確認したいと思うのです。
次の審議会で、二つの部会の委員が同じテーブルにつく日が来ることを、願っています。その日が、放課後の谷間が少し浅くなる日になるかもしれません。
参照元(出典)
- 第17回 こども家庭審議会 障害児支援部会(令和7年12月8日開催)(wam.go.jp)
- 第154回 社会保障審議会障害者部会・第18回 こども家庭審議会障害児支援部会 合同会議(令和8年1月19日開催)(wam.go.jp)
- 第21回 こども家庭審議会 こどもの居場所部会(令和8年2月17日開催)(wam.go.jp)
- 第6回 児童厚生施設及び放課後児童クラブに関する専門委員会(令和8年2月27日開催)(wam.go.jp)
- こどもの居場所部会|こども家庭庁(cfa.go.jp)
執筆者プロフィール

児童福祉、発達障害、自閉スペクトラム症(ASD)など、子どもを取り巻く社会課題について執筆を行う。保護者や教育関係者にも伝わりやすい表現を心掛け、一人ひとりの子どもの成長と権利を尊重する視点から情報発信を続けている。