障害者運動の中で生まれたスローガン「Nothing About Us Without Us(私たち抜きに、私たちのことを決めないで)」—当事者の声が社会を変える、合言葉の物語

障害者運動の中で生まれたスローガン「Nothing About Us Without Us(私たち抜きに、私たちのことを決めないで)」—当事者の声が社会を変える、合言葉の物語

この言葉(理念)って何?——「私たち抜きに私たちのことを決めないで」

Nothing About Us Without Us」——日本語では「私たち抜きに私たちのことを決めないで」と訳されるこの言葉は、障害者運動の中で生まれた最も有名なスローガンの一つです。
この言葉が広く知られるようになったのは、2006年に国連で採択された障害者権利条約の策定過程でした。

条約の起草には、世界中の障害当事者団体が参加し、「自分たちのことは自分たちが決める」という原則を条約の中に刻み込みました。条約の前文には「障害者が、政策及び計画の意思決定過程に積極的に関与する機会を有すべきである」と明記されています。

しかし、この理念は条約の条文に書かれただけで実現するものではありません。実際の政策決定の場——審議会、検討会、政策委員会——に当事者がどれだけ参画し、その声がどれだけ反映されているのか。それが問われているのです。

なぜこの理念は生まれたのか——「客体」から「主体」への転換

障害者政策の歴史を振り返ると、長い間、障害のある人は「支援される客体」として扱われてきました。政策は医師、福祉専門職、行政官が決め、当事者は「受け手」に過ぎなかったのです。

この構図に異議を唱えたのが、1960年代にアメリカで始まった自立生活運動(IndependentLivingMovement)です。カリフォルニア大学バークレー校の障害学生たちが、「自分たちの生活は自分たちで決める」と主張し、当事者主体の支援センター(自立生活センター=CIL)を設立しました。この運動は世界中に広がり、日本でも1986年に最初の自立生活センターが設立されています。

「NothingAboutUsWithoutUs」という言葉自体は、南アフリカの障害者活動家マイケル・マスーサが1993年に出版した同名の著書で広めたとされています。この言葉は、障害者運動だけでなく、あらゆるマイノリティの権利運動において「当事者参画」の象徴として引用されるようになりました。

日本の現在地——障害者政策委員会の実態

日本で障害者政策における当事者参画の中核を担うのが、内閣府に設置された「障害者政策委員会」です。この委員会は、障害者基本計画の策定・推進に関する調査審議を行い、計画の実施状況を監視する役割を持っています。

2025年1月に開催された第87回障害者政策委員会では、第5次障害者基本計画(2023年度〜2027年度)の実施状況が審議されました。この委員会の委員30名のうち、障害当事者やその家族は約半数を占めています。数字だけ見れば、当事者参画は進んでいるように見えます。

いま求められているのは、その整った形の中に、いかにして「実質的な対話」を深めていくかという、よりクリエイティブな工夫です。

例えば、資料をより読みやすく、わかりやすく整えること。発言や意思表明に十分な時間を確保できるような、ゆとりある会議運営を心がけること。そして、出された意見がどのように政策に反映されたのか、その「歩みの共有」を丁寧に行うこと。

これらは単なる「配慮」ではなく、多様な視点を政策に溶け込ませ、より良い社会の仕組みを作るための大切なプロセスです。こうした一つひとつの丁寧な積み重ねが、会議室の中の議論を、私たちの暮らしに直結する「生きた言葉」へと変えていくのだと信じています。

世界で見つけた、対話を深める「グッドアイデア」

「私たち抜きに決めないで」という理念を形にするために、世界各地でもさまざまな工夫が凝らされています。

例えばアメリカでは、法案の審議において障害当事者が自ら証言に立ち、その生の声が社会を動かす大きな力となりました。連邦政府の助言機関でも、委員の多くを当事者が務めることが大切にされています。またイギリスでは、政策を決めてから意見を聞くのではなく、「決める前に一緒に考える」仕組みを大切にしています。

さらに韓国では、委員会の当事者比率をあらかじめ検討しておくなど、参画を「個人の善意」に頼らず、仕組みとして支える工夫が見られます。

これらの国々に共通しているのは、当事者の参画を特別なことではなく、「より良い仕組みを作るための不可欠なステップ」として捉えている点です。そこには、日本の私たちが明日からでも取り入れられる、たくさんのヒントが詰まっています。

私たちが考えたいこと——「参画」の先にある景色

当事者参画は、席に座ること自体がゴールではありません。大切なのは、当事者の経験や知見が新しいアイデアとして政策に溶け込み、結果として「より使いやすく、血の通ったサービス」が生まれることです。

そのために、私たちが大切にしていきたいポイントがいくつかあります。

情報のバリアをなくす工夫
手話や点字、やさしい日本語、デジタルの活用など、誰もが同じ情報を手に取れる環境を整えること。

「待つ」という優しさ
発言や意思表明に十分な時間をかけられるような、ゆとりのある進行を心がけること。

「その後」を分かち合う
出された意見がどう活かされたのか、そのプロセスを透明にし、対話の成果をみんなで共有すること。

活動を支える適切な仕組み
専門的な知見を提供してくれる委員への適切な報酬や、移動・介助へのサポートを当たり前のものにすること。

多様な視点をまぜ合わせる
身体、知的、精神、発達障害、難病など、多様な背景を持つ方々の声がバランスよく響き合う場にすること。

「Nothing About Us Without Us」は、単に会議室のテーブルに座ることだけを指す言葉ではありません。どんなテーマを話し合うか決める段階から、決まった後に「本当に良くなったか」を確かめる段階まで、すべてのプロセスに「共にいること」を求めています。

あなたの街の計画は、いま、誰がつくっていますか?
そのテーブルの隣には、当事者の方々の笑顔や声がありますか?

「私たち抜きに、私たちのことを決めないで」——この合言葉を、どこか遠い場所の話ではなく、自分たちの社会を豊かにする「種」として受け止めること。そのまなざしの変化こそが、理念を会議室の外へと広げ、誰もが自分らしくいられる明日をつくる、大きな一歩になると信じています。

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